抗がん剤治療では、何のために、いつ、どのような治療をするのか、という治療の設計図を描くことが大切です。がんが最初に診断された時に行なう初期治療では、完全治癒のために手術、放射線治療と合わせて抗がん剤治療を行ないます。抗がん剤が大変よく効くがん、例えば、卵巣がん、乳がん、精巣がんや肺小細胞がんでは、主役は、抗がん剤であって手術や放射線治療は脇役か登場の機会がない場合もあります。白血病やリンパ腫といった血液がんの初期治療では抗がん剤だけでも完全治癒ができる場合が多く、放射線治療を合わせることはありますが手術の出番は全くありません。一方、胆道がん、腎臓がんなどでは、これぞという抗がん剤がないので、治癒を目指す、となると手術が最も確実な治療と言う事になります。では、再発後の治療はどうでしょうか。再発は、局所再発と遠隔再発に区別します。局所とは、最初にがんができた部位、乳がんなら温存した乳房、胃がんなら切ってつないだ胃のことです。局所再発なら、もう一度そこを切除すれば治癒に持ち込むことができます。遠隔再発とは、他の臓器へ転移したということです。肺がんの脳転移、食道がんの肺転移、乳がんの骨転移、などです。骨に出たがんでも、もとが乳がんならば、乳がんであって骨のがんではありません。同様に、食道から肺に転移したがんは、あくまで食道がんで肺がんとは呼びません。その理由は治療が異なるからです。治療は、もとのがんに効果のありそうな薬剤を選んで行ないます。では、遠隔再発した場合はどのような設計図を描けばいいのでしょうか。治療の目標として治癒を前面にあげることができません。えっ? 治らないんですか?? では何のための治療なんですか? 患者にとり、この質問に対する正確な回答を聞く事はとてもつらい現実かも知れません。医師もがんばって治療しましょうと、間違った励ましでその場をごまかしてしまう事があります。(次回に続く)