治療の設計図 その二


遠隔臓器に再発した場合の治療目標は、症状緩和、症状予防、延命の三つです。原発病巣からこぼれ落ちたがん細胞が血液の流れにのり、他の臓器に転移し増殖していく過程は「タンポポの種が風に吹かれて遠くの土地に飛ぶように、目に見えない形で体全身に広がっていることがある。」というたとえ話でよく説明されます。乳がん患者で腰椎(腰の骨)に遠隔転移が出た場合を考えてみましょう。乳房からがん細胞が腰椎だけを目指して一直線に流れて行くと考えるのは不自然です。血液の流れに乗った乳がん細胞が全身を巡るうちに骨に定着し、増殖の早いものが最初に転移として明らかになるであり、他部位の骨や肝臓、肺といった他臓器にも転移している事を想定し治療の設計図を描かなくてはなりません。まず、全身治療として、乳がんに効果のある治療薬を選びます。「乳がんは手術で取った、今は骨のがんなのになぜ乳がん治療をするのか?」と聞かれることがありますが、骨に転移していても、もとが乳がんなので乳がんの治療を選びます。また、骨転移の進行にブレーキをかけるデノスマブの注射も必要です。腰椎転移は腰痛を伴う事があり、弱くなった骨が体重で圧迫され壊れる恐れもあります。そのため、症状緩和、症状予防のために腰椎に放射線治療を加えます。がんの転移がタンポポの種と違うのは、転移する間にがん細胞の性格、薬剤の効き具合がどんどん変化することです。全身に様々な性格を持ったがん細胞が広がった状態では、限られた種類の薬剤で一網打尽にすることができず、完全治癒はなかなか困難なのです。そのため、遠隔再発を来した患者では、延命を努力目標に設定し、症状を和らげ毎日の生活や仕事を続けながら治療をうけるという設計図を描きます。しかし、がん内科医としての三十年の経験のなかで遠隔再発後でも薬物療法で治癒した患者もいるので、必ずしもすべて設計図どおりには行かないということもあります。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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