他の病院で乳がん手術を受け5年後に肺転移が診断されたYさんが娘さんと一緒に当院にやってきました。持参した紹介状には5年間ホルモン剤「タモキシフェン」を内服した、と書いてありました。ところが看護師が本人から話を聞くと、処方された薬は全く飲まずそのまま家に置いてあるというのです。娘さんも前日に聞いて驚いたそうです。内服しなかった理由を聞いても明確な答えは返ってきません。あまり問い詰めては本人も辛かろうと、なぜ、どうしてはさておき、話してくれてありがとうございます、ということにしました。紹介状に書いてあることをそのまま信じていたら、同じことの繰り返しになっていたかも知れません。もし、治療しなければ肺転移が進行し、咳が出る、息が苦しくなるといった症状が現れるだろうから、それを予防するには何らかの治療はする方がいいことを私は患者に説明しました。自宅にあるタモキシフェンはすでに有効期限を過ぎているし、別の飲み薬も飲まない可能性があるので、月に一回の注射で使うホルモン剤はどうだろうか、と説明したところ、すんなりと治療を受け入れてくれました。診療後、看護師が聞くと、説明はよくわかったので治療は続けていきたいとのことでした。次の予約日に受診してくれるかどうか、若干気になりますが、まずは一安心です。Yさんのように薬を飲みたがらないという患者は少なくありません。その理由は、何のために、何を求めて治療をするのか、ということが、患者に伝わっていないことだと思います。医師からの説明が不十分、不適切であることが大きな原因であることは間違いありません。がんの治療薬について、医師が説明し患者が理解すべき最大の要点は、「望む効果を得るためには、ある程度の副作用は受け入れざるを得ない。」ということです。買い物をするのにお金を払わなくてはいけないのと同じように、効果の代償としての副作用ということを理解してもらいたいのです。