うわっつらのこと


というタイトルの「ご教訓」を紹介しよう。

私はラムゼー司祭長のこの話が大好きである。彼はバラを愛していた。彼が客に、「庭に出てみませんか。私のバラを見て頂きたいのです。」というとき、それはすばらしい好意の印であった。ところが、ある日、大変美しい婦人が彼を訪れた。「庭に出てみませんか。」と彼は言った。「私のバラたちに是非あなたを見せたいのです!」これは、女性に対して捧げられた最大の賛辞である。
それにしても、なぜ、多くの女性たちは皮一重(かわひとえ)の美を求めて美容院に殺到するのだろうか。人生を美しくする魂の美にたいしてはどうしてかくも無関心なのだろうか。皮一重の美を手に入れることは、お金さえあれば、難しいことではない。しかし、そのような美は、美容院にいけばビンづめや箱づめで買うことができる。これに反して魂の美しさ、すなわちすべての生を美しくする生のの内面的なすばらしい魅力は、そう簡単に手にいれることはできない。それを手に入れるためには、克己、自己否定、努力、奮闘、祈りという代価を払わなければならない。箱づめのものを買う方がはるかに容易である。皮一重の美は人に満足を与えない。第一に、そのような美は仮面によって現実の姿を隠しているにすぎない・・。

昨年だったか、テレビのニュースで国立がんセンターで、「アピアランス支援センター」というのをつくり、がん治療中の患者の「アピアランス」を支援する業務を国家機関として開始したというのを見た。なんで、我々の貴重な税金を使って、皮一重の見かけのとり繕いを支援しなくてはいけないのか??? と思った。私も腫瘍内科医として数多くの女性が抗がん剤治療を受ける現場をよく知っている。患者が家庭でどのような姿でいるのかも家族を見て知っている。脱毛、皮膚の荒れ、皮膚の色素沈着など、トラブルは多いので、QOLが損なわれるのもわかっている。しかし、化粧ができない状態で外来を訪れる患者が「こんな顔になっちゃって・・」と涙する場面で、上のご教訓を思い出す。「ぼくはあなたの内面を見ているので全然気にならないですよ。治療をしっかり受けながら仕事もして育児もしているあなたの姿はとても美しいですよ。そういう美しさはご主人もわかっているはずですよ、ねえ」と、隣に座っているご主人に問いかけると「そうです、そのとおりだよ!!」と、患者さんとふたりで、満面の笑みを浮かべていた。その笑顔は、さらに美しく、まさに魂の輝きであった。アピアランス支援センターのような活動は、皮一重といえども大切ではあると思う。しかし、そのような支援活動は、ボルネクストとかピアとか、民間の、よっぽどセンスのいい企業(美容院、支援グッズ販売、副作用皮膚のお手入れ指導など)が、既に存在し活動し普及し、患者:医療機関:企業間で、win:win:winの関係が成り立っているではないか。だから、その活動は、そちらにまかせておけばいい。医療者は医療者として、皮一重を支援するのではなく、患者の心を支援し、サイエンスを実践するのが本来業務である。国家機関が皮一重に手を出し口をだすのは、民業圧迫でさえあり、言語道断だ。

そもそも、最近の国立がんセンターの活動を見ていると、日本国のがん医療の方向性を提言できていないのではないか。アピアランス支援だったり、がん登録手続き論の細かな話だったり、へんに上から目線でやらなくてもいいようなことをやっている。そんな上っ面なことではなく、がん地域医療、がん介護、がん診療、がん医療、がん研究、がん教育、がんビジネス、など、がんにかんして国の政策として強く提言するのが、腐っても「国立」を冠する機関の使命である。まさか「くにたち」ではないだろうし。私が所属していた時代の国立がんセンターは熱かった。Krebs-Abendという集まりがあり、そこには総長、研究所長とかの年寄りや、我々のような平職員、レジデントも参加して、国立がんセンターはどうあるべきか、を、ワインを飲みながら深夜まで語り尽くす会があった。「2228(にーにーにーはち)」と呼ばれた吉田部屋もそう。そこで語られたことが、やがて、がん医療の国策になっていったのを知っている。ところが、今はどうだ。うわっつらのこと、小役人が考えたがん医療ごっこの実践、登録だの、規則整備、研究費使途の全面公開だのといった、二次的な枝葉的な話題ばかりが、がんセンターニュースの堀田理事長の挨拶に並んでいる。昔はよかった。侍がいた。今の理事長は単なる御用聞き、という批判もある。うわっつらのことにとらわれず、本質に突き進まなければ、日本のがん医療はさらなら周回遅れを重ねるだろう。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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