乳がん術後薬物療法のセカンドオピニオンを提供した患者に対して手術の前に外科医から次のような説明がなされた、と記録がありました。「癌の治療方法として、化学療法や放射線療法、ホルモン療法が挙げられますが、根治を目的とした治療方法としては手術が最も有効とされております。術後病理学的所見によっては手術以外の治療を追加する可能性があります。」これは、次のような理由により、間違った説明だと思います。
(1) 「手術が最も有効」という点:微小転移存在の推測、およびその制御が治療の成否を決定する最も重要な要素です。手術は局所制御および、がんの性格診断と言う点では有効な手技ですが、最も有効ではありません。
(2) 「術後病理学的所見によっては」という点:このようないきあたりばったりの取り組みは昭和の時代に終わりました。現在は、まず、治療着手の前に、がんの性格診断(生物学的特徴、具体的にはホルモン感受性、HER2活動度、グレード、など)を針生検などを行って、明らかにして、全身治療(薬物療法:抗がん剤治療、ホルモン剤治療、抗HER2治療)および局所治療(手術範囲、放射線照射)のうち、どれをどのような順番で適応していくかということについて、「治療の設計図をあらかじめ策定すること」がデフォルトスタンダードとなっています。「advanced care planning」という表現がもてはやされていますが、予めの治療の計画(あらかじめのちりょうけいかく)ということですから、まさに、治療の設計図を描く、ということです。
同じようないきあたりばったり的取り組みは静岡県のある県立病院でも行われていますが、古き良い昭和の時代を彷彿とさせる、というようなノスタルジックな話ではありません。こんな取り組みは、海図を持たずに船出するようなものです(当該海域:陸奥湾、駿河湾)
TVから元女子プロレスラーが「手術後に抗癌剤治療があるので…。」のコメントにナースから「術後に化療というのが決まっているのであれば治療効果を確かめる為には術前化療→opeではないのですか」という質問。さらに外来の患者さんから(3名)も「まずは全身治療効果を確かめるのが先ではないですか」という質問。さらにさらに、患者さんの家族から「母が15年前に受けた治療と一緒!乳癌の世界は進歩していないのですか」。
副鼻腔炎から喘息を発症しシルバーウィークは休養にあて、金曜からの外来もぼちぼちと考えていたら、TVの影響は遠く沖縄まで及び80名近くの患者さんが。でも上記の質問は「たちてん」で毎月もまれ、それをクリニックで実践している私にとって、最高の治療薬でした。
それにしても県立病院は何をしているのでしょうか。もっともっとPt.first.を考えてほしい。
(初コメントでした)