座右の銘 「原因と結果の法則」


ある商業誌から「座右の銘」を書いてほしいと頼まれました。書いたのでそれをここに流用します。

座右の銘 「原因と結果の法則」

私は「管理」という言葉がどうも好きになれない。Wikipediaによれば、管理とは、「組織の目的を効果的かつ能率的に達成するために組織そのものの維持や発展を図ること」となっている。組織の効率的運営は重要な目標である。しかし、管理という言葉には、組織のメンバーを上から目線で取り締まるような意味合いが感じられるからである。

1982年から2003年まで、私は国立がんセンター中央病院に勤務(1983年から1987年は米国留学)、JCOG( Japan Clinical Oncology Group)、National Surgical Adjuvant Study (NSAS)などで、乳がんの臨床試験に積極的に取り組んでいた。GCP(臨床試験を倫理的、科学的に、計画、実施、解析するための基準)が整備されつつあった1995年頃、「臨床試験管理室」が開設されることになったのであるが、その準備段階の会議で「管理室」よりも「支援室」の方がいいのではないか、と提案したところ、「おまえみたいないい加減な人間ばかりだから管理が必要なんだ。」と、恩師、阿部薫先生から、たしなめられたことを覚えている。

翻って考えてみると、確かに、いい加減な人間、自分に与えられた任務を心得ていないような人間ばかりからなる組織ならば、外部からの、あるいはリーダーによる厳しい管理、締め付けがなければ機能しないだろう。阿部先生から、その頃に推薦された本がジェームスアレン著「原因と結果の法則」である。「正しい思い」が「正しい行動」の元となり、正しい行動の繰り返しが、「正しい習慣」となり、繰り返される一定の行動は、周囲からは「人格」と認識されるようになる。そして、その人格を慕って人々が集まり「よい環境」が形作られ、そこでまた、正しい思いが育まれる。すなわち、原因=「正しい思い」、結果=よい環境というのが、私がこの本から受け取ったメッセージである。

がん診療に携わる医療者としての半生を通じ、自分が持ち続けている原因=「正しい思い」は何だろうかと自問してみた。それは、「利他の心」である。自分のためにではなく、患者、同僚、先輩、後輩のためを思うこと、どうすれば他人が満足し、喜びを感じることができるか、と慮ることである。それが、よい行動、よい習慣、よい人格、よい環境へと連なるのである。私たちは弱いもので、ついつい、私はいやです、僕はやりたくありません、と「自己の心」が表にでてしまうもの。しかし、どんな立場に置かれていても、自分の役割、立場を客観的に見つめ、自分に与えられた任務(mission)を認識し、情熱(passion)を心の内に携え、周囲を鼓舞するためにも、元気に明るく(high tension)行動すること、そうすれば、管理されなくとも、人の集まりの中に目的意識が共有され、効果的、能率的に達成されていくという、サイクルが成立するはずである。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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