がん治療報道に思う


芸能人のがん体験がワイドショーで連日報道され、それを見た人たちが「がんが心配」「しこりがある」「ちくちくいたい」などと、外来に殺到しています。医療機関としては極限の状況の中で精一杯対応しており、結果、ほとんどの受診者は、大丈夫、心配ないですよ、何かあればいつでも来て下さいね、という対応で終わっています。有名人のブログには闘病日記が克明に書き綴られ、ワイドショーのコーナーで毎日、詳細に伝えられていています。特に取材努力はしなくていいわけですから、楽なものです。本人がブログを書く心境は、私がこのブログを書いているのと同じだろうし、芸能人だからと言って特別な思惑があるわけではないでしょう。受け取る側の一般ピープルは、冒頭のような「行列のできる診療所」状態をもたらしています。一方、がん治療を専門とする我々は、宮良通信からのコメントにもあったように、なんでそんな治療になるの?? うちでははそんな対応はしないよ、当然術前ケモだろ!、余命云々なんて論じる時期じゃないだろう!!!、など感じることは山ほどあります。また、今後抗がん剤治療が始まると、副作用のこと、脱毛だ、悪心嘔吐だ、体が日増しに弱っていくだのと、ワイドショーで「地獄の苦しみ」みたいに報道されるに決まっていて、予想される世の中のネガティブな反応には今からうんざりしています。がんの状態、治療の選択肢、治療の目的、治療をうけるに当たっての「得るもの」と「失うもの」のバランス、つまりトレードオフの考え方、などが、わかって報道するワイドショーなどはありっこありません。大根を買ってサンマを買って秋の味覚を味わいたければ、その代償として多少高かろうが、サンマ一匹300円でもお金を払うでしょう。それと同じで、がんを治したいのならば、その代償として多少の副作用は、耐えて、忍んで、乗り切って行かなければいけないものなのです。その覚悟がなければがんを克服することはできません。

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

“がん治療報道に思う” への 4 件のフィードバック

  1. 「多少の副作用は、耐えて、忍んで、乗り切って行かなければいけないものなのです。」
    どのような治療を受けるにしても癌の場合は心理的に患者本人もその家族もかなり身構えると思いますが(私も身内にがん患者がいますので)、その副作用を軽減するために夜間治療は有効な方法の一つと聞きます。
    渡辺先生の経験から夜間治療についてはどのようにお考えかお聞かせ頂けないでしょうか?
    癌のタイプ、ステージ、本人の免疫力・ホルモン数値などにも左右されるでしょうが
    本当にネットやテレビで言われているようなほどの劇的な効果が現れるものなのでしょうか?
    また日本で夜間治療を進めるに際し、フランスではすでに一般的に使われているクロノポンプの導入についてはどうお考えでしょうか?
    自宅での抗がん剤投与を可能にさせる医療機器ですが、もし日本でこの医療機器が使えるようになれば
    医療関係者で無く素人が(患者でも家族でも)機器を扱う事については懸念がありますか?
    抗がん剤の種類によっては治療液が洩れて肌に触れると大変な事になる事もありえると読んだ事があります。
    専門家からのコメントをいただけると幸いです。

  2. 「多少の副作用は、耐えて、忍んで、乗り切って行かなければいけないものなのです」
    癌を抱える家族をもって始めて抗がん剤治療の副作用について目の当たりにしました。
    ある程度の副作用は織り込み済みとしても、家族としてはできるだけ副作用を軽減できる投与方法などを試して欲しいと切実に思います。
    この「副作用軽減に効果的な投与方法」に『夜間治療・クロノテラピー』があるそうですが
    先生の長年の経験から『クロノテラピー』についてはどのようにお考えかお聞かせ願えないでしょうか。
    本当に言われるような劇的な効果が期待できるのか(私の見たのは副作用による脱毛なし、嘔吐感なし、倦怠感の軽減などです)、気になっています。

    1. クロノテラピー、久しぶりで聞きました。懐かしい響きがあります。夜間に抗がん剤を点滴すると効果もあがり副作用も軽くなる、という話は、20年近く前からありましたが、そんな虫のよい話はありません。実際、東京都中央区のもんじゃ地区にある病院で非常勤医師がそんな治療をやっていました。その医師が、夜間、当直にやってきて、そこで夜の点滴をしていました。近くに私が勤務していた国立がんセンターがあり、どんなにいい加減なやり方だったか、ということは多くの患者から聞きました。当時から眉唾で、今では忘れ去られた話だと思っていました。その医師の名前も最近はほとんど聞かなくなりました。

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