今年のASCO、シカゴは真夏です。昨年は連日冷たい雨、強い風でしたが、今日はミシガン湖で泳いでる人たちもいました。いきなり番外編としたのは、今年は光る演題がない。昨年のプレナリーセッションの盛り上がりからするとしょぼい。乳がんでは、「MA17」のポール・ゴスが5年より10年、10年より15年といった感じで、ルミナル乳がんの術後のAI期間がどんどん延びるような演題を発表しそうです。ルミナルでケモが必要と言うような場合はもっと早くに再発するだろうから、するとルミナルAでホルモンで行こう、となった場合、これから15年やります、と言うよりは、まず、術前治療で1年ぐらいはやってみて効いたから、手術をしたとしてもあと14年は内服ですよ、となれば、微小転移(高野先生も使ってくれているタンポポの種の理屈)があるのだから、病気は「ここ」だけではないんですよ、気長にホルモン療法をしていきましょう、というほうがいいだろうと思います。患者のいう「ここ」とはもちろん乳房のしこり。よく言うように「乳がんは自分で触って見つけることのできる数少ないがんの1つ」ですから、自分でしこりがわかるのですが、それを患者のなかには「ここ」にがんがあることが耐えられない、と言う人が結構います。そうすると経験の少ない外科医は、では手術で取っちゃいましょう、ということになり、今後15年のホルモン療法が 効くのやら効かないのやら、雲をつかむような形にしてしまって、苦痛の長期間のホルモン療法を始めることになります。そんな状況で、「先生、今飲んでいるホルモン剤、あと10年以上続けるといわれたけど、これ、本当に効いているんですか?」と聴かれても、正直に言えば「わかりません」が答えなのです。「えっ、わからないんですか?」と詰め寄られても、それは、あなたが「ここ」を手術で取ってほしいというから、「わからなくなってしまったんでしょ。」と、喉の先まででかかったことばをぐっと、飲み込んで、頑張りましょう、というしかなくなるのです。くどいようですが、高野先生もJASMOの教育セッションで、私の作成したスライドを沢山、無断で使用してくれて、タンポポの種の理屈を説明してくれているように、それは、無断でも、挨拶なしでも、正しい考え方を伝えてくれているのだから、別に、挨拶に来い、と行っているわけではないんだよ、とにかく、「ここ」にあるのがいやなんです、という気持ちを否定するつもりではないのですが、「ここ」のかたまりだけではなく、目には見えない、タンポポの種のような微小転移が体中にひろがっているのだから、それもあわせて退治するには、15年間のホルモン療法を続ける必要があり、それが本当に必要かどうか、いまの時点では、手術よりもまず、「ここ」にあるしこりが小さくなることを確認できれば、その子分であるタンポポの種も、どこに隠れていても一網打尽ということですよ、という説明を、若い外科医も少しは理解してほしいと思うのです。