久しぶりで臨床腫瘍学会に参加した。知っている顔もほとんどなくロビーを歩いても挨拶されることはなく気が楽っちゃあ、気が楽である。ある確執から遠のいているがその前は、確か第9回だったか臨床腫瘍研究会の時代に代表世話人っていうのをやって医療者、製薬企業、行政が一同に会して本音で意見交換をするという続いてほしかったプロトタイプを定着させたのであったが。20年近くの昔話である。久しぶりの参加は虫系企業からの依頼でランチョンセミナーの司会のため。演者は、昔から知っているMarc Pegram。彼は、1990年代後半にハーセプチンと細胞毒性抗がん剤との併用で、どの薬剤が相乗効果で、どれが相加効果、そしてどれと併用すると相殺効果となるか、というのを緻密なビトロの研究で報告し、プラチナがいいとか、タキサンでもタキソテールは相乗効果だけど、タキソールは相加効果だ、といった現在でも考慮されるデータを出している。ハーセプチンと5FUは相殺効果だ、という結果だったので、ハーセプチンとゼローダの抱き合わせで売りたい虫系企業は、このデータを公にしたがらなかった。海外演者を迎えての企業スポンサーのランチョンセミナーは他学会でしばしば司会を務めている。いつもエクセレントで鼻っ柱が強い同時通訳のおばさん、ちがったお姉さん、おっとこれも違ったお嬢さんがうまいこと訳してくれるので、会場の参加者は大概、内容は理解出来ている。司会者としての私の役回りは、その場の雰囲気に合わせ、時に英語で、時に日本語で、演者をつんぼさじきにおかない(注;これは差別用語だから使ってはいかん、といわれるけれど、このニュアンスを的確に伝える表現がないのでこれを使う)よう務めている。ところが、今回は同時通訳なし、という状況であることを直前に知らされた。スライドの内容は知った話ばかりだし、Mark Pegramの英語も自然に入ってくる英語だし、同時通訳なしでも、ぼくはいいのだけどさ、聴衆はというと、約3分の1は午睡体制である。ムリもないだろうけど、どうして同時通訳がないのか、というと、英語での討論をデフォルトスタンダードとする臨床腫瘍学会の見栄っ張り体質というか、海外演者を多数呼んでいるぞ! 国際学会と言えるほどに共通言語は英語だぞ!、抄録もプログラムも英語で印刷してるんだぞ!、若い人が海外に羽ばたけるよう日頃から討論を英語でしているぞ!、ということのように感じる。しかし、多くの参加者にとっては、英語はわからないから同時通訳があったほうがいいと感じていると思う。今回もインターナショナルシンポジウムと銘打ったセッションが数多く企画されているが、質疑応答はどこも低調のようで、もっと英語会話を身につけなくては!とポジティブなドライブになるより、英語はからっきしだめだから飯食って寝てよ、という退行反応に向かっているようだ。英語によるコミュニケーションスキルは、日々の鍛錬、経験暴露と、IELTSやTOEFLEを物差しとした自己測定を積み重ねるしかないのだ。留学中のえむぬまくんなど、IELTS、七転び八落ちで九回目にやっと受かったが、とにかく、努力をしていた。学会も見栄をはって、高い金を払って海外演者を多数招聘してぎこちない見栄っ張りのインターナショナルセッションをするよりは、サイエンス、オンコロジーを徹底討論して、情報・知識・理解の共有をまず目指し、若者たちには、別途、海外体験を促進させ、留学指導を徹底させるべきだ。海外演者を招聘するならば、同時通訳をつけなくては話が伝わらないのだけど、同時通訳のお嬢様、これも大変高価な存在、と言うことも一応認識しておこう。