頭を冷やそう CDK4/6阻害剤


今年のASCOは全体的に運営が合理化されました。学会参加の事前登録をすると昨年までは自宅にネームプレート、チケットなどが国際〒で郵送されてきましたが今年からは、会場でphoto IDを提示して本人確認して受け取るという仕組みです。世界中からやってくる参加者全員に事前に郵送するというのはお金もかかるし手間もかかる。なので、合理的っていえば合理的だけど、担当者がもたもたもたもたと印刷して、おしゃべりしながらの作業だけに長蛇の列ができていました。セッションの質疑応答のやり方も変わりましたがそれはまた別の機会に。

さて、今日は転移乳がんの治療のoral abstractセッションがありました。全体的に低調という印象でした。

ホルモン感受性、HER2感受性、Triple Negativeの3病型にわけて、アドリアだのタキサンだの細胞毒性抗がん剤はほとんど、いや全く話題に上らず、「生物学的治療(Biological Therapy)、もっと的確(precise)治療」という方向性は評価できると思います。

ホルモン感受性乳がん

ホルモン剤(タモキシフェン、フルベストラント、アロマターゼ阻害剤)などの主役薬剤ではなく「サイクリン依存性キナーゼ4と6」を阻害する薬剤についての発表でした。

エストロゲン受容体刺激は細胞分裂周期を制御するタンパク質「サイクリンD1」に伝わり次に「サイクリン依存性キナーゼ4」と「サイクリン依存性キナーゼ6」に伝わり細胞周期のG1期(第一休止期)からS期(合成期)への移行を刺激、つまり、細胞分裂が進みます。サイクリン依存性キナーゼの働きを抑えると細胞分裂が停まりますG1 arrest:アレストとは逮捕するという意味:受験時代は「あれ、すっと逮捕する」と覚えた)。この働きをもつ薬剤が「サイクリン依存性キナーゼ阻害剤」というグループの経口薬、現在、しのぎを削って開発が進められているのが、パルボシクリブ(ファイザー)、リボシクリブ(ノバルティス)、アベマシクリブ(イーライリリー)です。アロマターゼ阻害剤もそうだったけど同種同効薬の開発は人間の本性が出るね。

MONARCH2試験
アベマシクリブの臨床第III試験で、おしりが痛いホルモン注射「フルベストラント(フェソロデックス)」+アベマシクリブ対おしりが痛い注射「フルベストラント」+プラセボの比較試験です。結果は、無増悪生存期間(つまり病気がすすまない期間、治療が続けられる期間)は伸びるけど、アベマシクリブ併用では、下痢が86%、激烈な下痢が13%の被験者に生じ、投与量を減量しなければならなかったということでした。投与量を減量しても下痢は軽減するそうですが、効果は損なわれなかったと、発表者のジョージ・スレッジは、ヴォーゲル・ニューヨークの質問に答えていました。生存期間は「まだ観察期間が短いのでわからない」ということでした。生存期間の話は次のパートで触れるとして、おしりが痛いホルモン注射「フルベストラント(フェソロデックス)」をさらに長い期間注射しなくてはならず、また、下痢でおしりの周りはただれて座るのも歩くのもつらい、しかも、生存期間はのびないだろう、といことでは、患者さんを本当に幸せにしているだろうか、と首をかしげたくなります。

 POALOMA2試験
次の演題は、三者のなかでは開発が先行しているパルボシクリブ(ファイザー)についてです。この薬剤については、大御所「デニス・スレイモン」が昨年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで、おしりは痛くないけど関節がこわばるホルモン剤飲み薬「レトロゾール(ジェネリック製剤18品目および老舗ノバルティスのフェマーラ)」+パルボシクリブ対レトロゾール+プラセボとの比較で、無増悪生存期間(つまり病気がすすまない期間、治療が続けられる期間)が伸びる、だけど生存期間は「まだ観察期間が短いのでわからない」という発表があり今回は満を持して、生存期間について発表ということで激しく期待したのですが、激しく失望しました。結果は生存期間のハザード比0.813(95%信頼区間0.429〜1.345)、P値0.42ということで常識的に考えれば「差はない」ということです。しかし、デニス・スレイモンを生涯の師と仰ぐ演者のリチャード・フィン君は「数値上(numerically)、37.5ヶ月と33.3ヶ月で4.2ヶ月の生存期間の延長は認められた」とシャーシャーと言っていました。勝俣先生が知ったら口をとがらせて怒りまくるでしょう。「生存期間が延長しないけど、無増悪生存期間は延びるということは、細胞毒性抗がん剤治療期間を短くすることができるというメリットがある」と言うような全く根拠のない、その場しのぎの説明もしていました。お若いフィン君、ファイザーの毒牙にかかってはいけないよ。増田くんにも言っておいたけど、今のうちに「研究者の正義」を学ばなければいけませんよ。

 

TREND試験

イタリアからの発表です。ホルモン剤が効かなくなった被験者を対象にして、そのまま(効かなくなった)ホルモン剤にパルボシクリブを加える群と、パルボシクリブ単剤を内服する群との腫瘍縮小効果、効果持続期間などを比較するランダム化比較試験で前の2試験が製薬企業お抱えドラッグハンター試験であるのに比べ、手作り感満載、まるでJCOG試験のような暖かみのある試験です。しかし、片群60症例づつですので結果はしょぼく癌治療学会で発表されるような内容でした。CRは共になく、PR6例と4例、24週以上のSDがホルモン継続してパルボシクリブを加える群25例対パルボシクリブ単独群31例という結果です。効かなくなったホルモンをやめてパルボシクリブだけにしてもいいよ、ということはいえるのでしょうか?

 

以上の3試験をVanderbilt大学医療センターのイングリッド・メイヤーさんがレビューをしました。彼女のまとめは:

CDK4/6阻害剤は単剤で使えますか?→たぶん使えないでしょう。

CDK4/6阻害剤とアロマターゼ阻害剤併用は生存期間を延ばすか?→もうちょっと見ないと・

私たちはCDK4/6阻害剤とアロマターゼ阻害剤を全ての患者でつかうことになるでしょうか?→そうはならないでしょう。生存期間の延長が証明されれば別だけど・・・

CDK4/6阻害剤は治療のどこかでは使用した方がいいのでしょうか?→それはその通りです。QOLもいいし、効果が伸びるし、化学療法の開始を遅らせることができるから。

ということした。一方私のまとめはというと

大山鳴動して鼠一匹とはこのことだ。いままでもタイケルブとか、アフィニトールとか、効果持続期間は延長しても生存期間が延びないという薬剤はろくでなしばかりだ。

しかし、CDK4/6阻害剤が一錠500円ぐらいで下痢もロペミンで治まるなら使ってもいいかな。でちょっと調べてみたらアメリカで承認されているパルボシクリブ(商品名:IBRANCE(イブランス)は1錠、842.38ドル、ふーん、えっ? ドル?? ということは92998.45463986円つまり1錠9300円、1ヶ月で30万円近くになる。しかもおしりの痛い注射と合わせて使ったら、お金はかかる、おしりは痛い、下痢はする、とろくなことがない。ということでこの薬は必要ないと思うけどどうだろう。何かいいことあるかなー??? 副作用のすくないケモはいくらでもあるしずっと安上がりだと思うけど・・・。三者とも米国資本だし、沢山使えばMake America Great Again!! の旗印のもと、トランプおじさんに気に入られるから一生懸命、サイエンスをビジネスにしているのでしょうか。しかし、彼も弾劾されるよだし頭を冷やして考えよう!!

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投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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