San Antonio の感想 (1)


今回で40回目となるSABCS、朝一番では40年を振り返りあんなこと、こんなこと、あったよね、Co-Chair のKent Osbornによる回顧のひとときでした。
さて、今日のGeneral Session(1)はなかなかおもしろかったです。

(1) EBCTCGによる「Dose Intensity Chemotherapy」のによるメタアナリシス
一定期間あたりの抗がん剤と投与量(通常 mg/m2/weekという単位で表す) をDose Intensityといい、これを高める方法には3つあります。〔1〕各サイクルの投与量を増やす:例えばアドリアマイシンを60mg/m2 →90mg/m2とする(JCO 2003;21:976)。〔2〕治療サイクルの間隔を縮める(3週間間隔→2週間間隔)(これはdose-dense chemotherapyと呼びます)。〔3〕同時投与を順次投与にする。術後に行われた〔1〕のタイプ12試験:対象15、512症例、〔2〕のタイプ6試験:対象11,028症例、〔3〕のタイプ6試験:対象11,028症例を対象とし再発、死亡の差を検討したメタアナリシスです。結果は、タモキシフェンなどの効果を発表した時の「あの図」でタイプ毎に表現されました。10年後の再発率は、Dose Intensive Chemotherapyで3−4%改善、10年後の死亡率は2-4%改善でした。たった数%の差ですがメタアナリシスですからp<0.00001といった具合になります。この結果をどう受け止めるか? 理解に苦しみます。つまり「有意差はあるだろうけどたった3-4%の差で意義があると言えるのだろうか」と思い、質問してみましたが「発表のとおり」ということでした。メタアナリシスは、エビデンスレベルが最も高い「信頼できる情報」とされていますが、果たしてそうなのだろうか? 24週間かかる治療が16週間で終わる、GーCSF を使用すれば安全にできるのだからいいじゃん、ということか、それとも手間とお金がかかる割には効果は乏しい、と見るか、そこの所をよく考える必要があると思います。

(2) 術後HER2陰性症例に対象する抗がん剤 vs. 抗がん剤+ハーセプチン(1年)の比較

NRG Oncologyという名でまとめられたNSABPの発表です。NSABP B31試験(HERA試験、N9831試験、BCIRG006試験と並んで2005年ごろに発表された術後ハーセプチンの効果を確認した試験)(1)では、対象症例の9.7%(174 症例)がHER2-FISH陰性かつIHC2以下、つまり陰性でしたが、これらの症例でもハーセプチン追加効果が認められました(再発相対リスク:0.4)。そこで、HER2発現の低い症例(IHC1+、2+→FISH陰性)を対象に抗がん剤(AC→weekly PaclitaxelまたはTC)単独vs. 抗がん剤+ハーセプチン1年間を比較し、Invasive Disease-free Survival(IDFS)(2)を3270症例を対象として比較しました。その結果、差はありませんでした。

結論は、HER2陰性の患者さんにはハーセプチンは使わないこと、ということで、当たり前といえば当たり前、不確かなことを確かにするのがサイエンス、ということでしょうか。立派な試験だと思いますよ。

下記の論文は必読だよ

  1. Perez EA, Reinholz MM, Hillman DW, et al. HER2 and Chromosome 17 Effect on Patient Outcome in the N9831 Adjuvant Trastuzumab Trial. J Clin Oncol 2010;28:4307-15.
  2. Hudis CA, Barlow WE, Costantino JP, et al. Proposal for Standardized Definitions for Efficacy End Points in Adjuvant Breast Cancer Trials: The STEEP System. J Clin Oncol 2007;25:2127-32.

(3)手術前後のアロマターゼ阻害剤投与による長期予後への影響と長期予後予測
(ニックネームはPOETIC試験)

イギリスからの興味深い研究結果ですが術前ホルモン療法の背景を知らないと、この試験の目的がちょっとわかりにくいかもしれません。

この試験は、ER、PgR 陽性閉経後乳がん患者4480人を対象に、ベースラインの針生検を行い、2:1の比率で術前2週間+術後2週間の計4週間アロマターゼ阻害剤(AI)を内服する群と内服しない群にランダムにわりつけます。術前後のAI有無にかかわらず、割り付け前の針生検検体と手術検体でKi67を測定しブラインド化しておきます。つまり、ベースライン針生検→ AI内服2週間→手術 → AI内服2週間 のグループと、ベースライン針生検→2週間あけて手術のグループで、 ベースライン生検と手術検体のKi67を調べます。このあと、各施設の方針に基づいて、ホルモン療法が5年間行われました。314人がTAM、3695人がAI、251人がTAMからAIに切り替え、109人がAIからTAMに切り替えです。主たる評価項目はTime to Recurrence (TTR: ランダム割り付けから、局所・領域・遠隔再発または乳がん死亡まで)で、術前後AIあり・なしで差があるかどうかを見る(ここまで読むとたった4週間AIやって差がでるのかよ、と思う)。約60ヶ月の観察の結果、差はなかった。(そりゃ、そうだろう)抄録にはここまで。知りたいのは、術前・後の短期間にKi67が低下した場合には、術後のホルモン療法が効くから続けた方がいい、とか、効かなかったら、ホルモン療法はやめて、ケモにするとか、それはどうなんだろうか?

発表された結果です。

5年時点の再発率  ベースラインKi67低値(10%未満)症例  4.9%
ベースラインKi67高値(10%以上)症例  12.1 %    (P<0.0001 )

ベースラインKi67低値 →手術検体Ki67低値の症例 4.5% (95%CI 3.1-6.6)
ベースラインKi67 高値 →手術検体Ki67低値の症例 8.9%(95%CI 7.2-11.0)
ベースラインKi67 高値 →手術検体Ki67低値の症例 19.6%(95%CI 15.9-24.1)           (P<0.01)

ベースラインKi67が2週間のホルモン療法により低下していることが手術検体で確認された場合、つまり 低→低 と高→低、は、手術後もホルモン療法を継続する意義がある、といえるのか? あるいは、手術前後の4週間だけでホルモン治療を終了してしまってもいいのか?

ベースラインKi67が高く手術後も高い症例は、ホルモン療法が効かない、としてケモに移行したほうがいいのか? しかし、そうしてしまうと、ケモが効いたか効かないか、がわからなくなりはしないか?

それだったら、ベースライン①検体採取 → ホルモン療法2週間 → ベースライン②検体採取して、低→低、あるいは高→低は、ホルモン療法を「増大傾向がないかぎり継続」、高→高の場合は、定型的抗がん剤治療を行ってから手術、というのがいいのではないか、と思います。しかし、外科医は手術しないで療法を長期間(2年、3年、5年、10年・・・)続けることは耐えられないと感じていることが多いようです。ルミナル乳がんに手術が必要か? という命題に答えをだせるような臨床試験が必要です。

もっと勉強したいお友達には下記の論文がお勧めだよ

  1. Smith IE, Dowsett M, Ebbs SR, et al. Neoadjuvant treatment of postmenopausal breast cancer with anastrozole, tamoxifen, or both in combination: the Immediate Preoperative Anastrozole, Tamoxifen, or Combined with Tamoxifen (IMPACT) multicenter double-blind randomized trial. J Clin Oncol 2005;23:5108-16
  2. Dowsett M, Smith IE, Ebbs SR, et al. Short-Term Changes in Ki-67 during Neoadjuvant Treatment of Primary Breast Cancer with Anastrozole or Tamoxifen Alone or Combined Correlate with Recurrence-Free Survival. Clin Cancer Res 2005;11:951s-8s.

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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