SanAntonio Breast Cancer Symposium 2017 で注目したことの一つに「FDAの視点」が明確に感じられたセッションがあったことです。火曜日のFDAのTatiana M. Prowellの教育講演と、FDA Director of Oncology Center of Excellence(がん領域のトップ)のRichard Pazdurによる「薬剤開発の過去と未来」というタイトルの受賞講演です。Tatianaの講演は、スライドあり、ネットでも音声のついた動画も提供されています。Richard Pazdurの話はスライドを使用せず、また、音声もネットで聞くことはできません。そうだろうと思って、スマホで音声を録音しておきました。その内容について、お伝えしたいと思います。
Tatiana M. Prowellの教育講演で印象に残ったことをメモしました。
(1)FDAの承認を得ることが究極の目標だなんて考えてはいけないわ 究極の目標はね、患者も医師も長く使いたくなるような良い薬の承認をえることなのよね
(2)米国民、米国の状況に適した試験が必要だけど、必ずしも米国で実施した試験でなくてはだめ、ということはないわ (日本でやってもいいのよ)
(3)臨床的に意味のある試験をやってほしいの。統計学的に有意だと言ったって臨床的な意味が乏しいような試験結果はゴメンだわ
(4)投与量についてはよくお考え遊ばせ たとえばね、フルベストラントはもっと投与量をふやせば効果もあがるでしょうし、副作用もそんなに強くならないかもね ダサチニブは投与量をへらせば、同じ効果で副作用を軽くすることができるかもね
(5)バイオマーカーを早い段階から評価するほうがいいのよ、覚えておいてね その場合、バイオマーカーの陽性的中率(Positive Predictive Value)と陰性的中率(Negative Predictive Value)についてしっかり評価しておいてね
(6) Patient Reported Outcomeが最も重要だからね、QOLとか、患者満足度などを正しい方法で評価しなくてはだめよ
Tatianaが言っていたって、皆に伝えてくれるとうれしいわ♡
Richard Pazdurの受賞講演で印象に残ったこと
1990年代の終わり頃のがんの薬と言えば、効果は乏しく副作用は激烈だったので、生存期間の延長がないかぎり役に立つ薬とは考えられなかった、だから「ふたつ以上の独立した第3相試験でOverall Survival の検証が必要」という状況だった。それが、2000年代を迎え、Overall Survival を評価することが困難になってきた。その理由は三つある。一つ目は、臨床開発の早い段階から奏効率なり、PFSなりで、かなり大きな差が認められるような薬剤がふえた。そのため、生存期間を評価することが倫理的に難しくなったこと、二つ目は、セカンド、サード・・ラインと、有効な薬剤が多くなってきて、長期間に及んで生存期間を評価することが難しくなってきたこと、三つ目は、サブセット毎、バイオマーカー毎に評価する場合、症例数が少なくなってしまい、大規模な、生存期間を評価するような臨床試験が成り立ちにくくなってきたこと、である。しかし、生存期間(OS)は、かならずセカンダリーエンドポイントして評価することが必要である。もう一つ、OSは、有効性の指標であると同時に毒性(副作用)の指標であることも忘れてはならない。長生きする、ということほど、副作用が軽いことを物語る指標はないからだ。
そうすると、PFSをみればおしまい、それでFDAが承認したから、それ以上の検討はいらない、というのではなく、OSはきちんとみなければいけないが、それが困難な時代になったことも事実である。しかし、患者にとっても医師にとっても長く使いたくなるような薬が重要であることは変わりない。
ラパチニブ(タイケルブ)や、エベロリムス(アフィニトール)は、そういった意味では、患者も医師も長く使いたい薬とは言えないような気がする。ヒット曲のでない演歌歌手のように、そのうち、忘れ去られる運命にあるのかもしれない。