論文こきおろし


大王:この論文、どう思いますか、山田君、徹底的吟味をしてみてください。タイトル、ジャーナルは伏せておきます。

山田奈々子:はい、大王。まず、この論文があつかっているのが、HER2陽性の遠隔転移のある乳癌の患者ですね。遠隔転移のある乳癌、MBC (Metastatic Breast Cancer)といいますが、この論文では、de novo diseaseとrecurrent diseaseに分けています。

大王:そうですね。分けている、ということですが、この論文は、prospective 、つまり予め、計画して、分けているのではなく、振り返って、つまり、retrospectiveに、始めから転移のあった患者と、手術してから、遠隔転移がでて、再発した患者を比べている、ということだけど、その点をまず、考えてみてください。

山田奈々子:そもそも、de novo 患者と、recurrent患者を、こういう形で比べる事って、意味があるんでしょうか。

大王:そこそこ、意味があるっていう点だけど、もう少し言うとどういうことですか?

山田奈々子:はい、えーと、すみません、病棟から呼ばれてしまったんで・・

大王:そうね、すぐに行きなさい。私は駅伝観てまっているから。

ーーーーー

山田奈々子:すいません、戻りました。それで、えーと、de novo患者、つまり初診時に遠隔転移のあった患者と、手術なり、抗がん剤なり、ハーセプチンなりで治療したあと、遠隔転移がでた患者を比較するということですね。

大王:そうだよ、駅伝に喩えれば、スタートしてしばらくしてから足が痛くなって棄権した選手と、足が痛くて最初から走れなかった選手を比べるみたいなものだよ。

山田奈々子:えっ? その比較、よくわからないんですが・・・。

大王:言った自分もよくわからないんだけど、比べても意味のない集団を比較しているということだよ。じゃあ、視点を変えて、de novo患者で、手術した患者と、手術しなかった患者の比較、これはどう思うかね?

山田奈々子:これはわかります。選択バイアスで説明できると思います。外科医が手術したくなるぐらい薬物療法がよく効いた患者、と薬物療法をやっても手術できそうになるほど縮小できなかった患者、この2集団を比較して、「手術をしたほうがいい」という結論は導けませんね。

大王:そのとおりだ。じゃあ、この論文から何を学ぶことができる?

山田奈々子: 本来、前向き試験で検討しなければ答えのでない比較を、後ろ向き試験で比較しても、全く意味がない、時間の無駄、へもでない、ということですね。

大王:山田君、そのとおりだが、キミがそういう下品なことをいってはいけないね。

山田奈々子:すいません、つい、大王の勢いに乗せられちゃって。。。

大王:よし、今日はこれぐらいにしよう。往路は東洋大学が勝ったね、今日はこれから小涌園に行って明日の朝は8時スタートだ。じゃね。

BACKGROUND

The aim of the study was to compare the patterns of care and clinical outcomes of HER2-positive metastatic breast cancer (MBC) patients with de novo or recurrent disease who underwent first-line trastuzumab-based therapy.

PATIENTS AND METHODS

This was a multicenter retrospective cohort study including consecutive patients with HER2-positive MBC who received first-line trastuzumab-based therapy. Analyses on treatment response and effectiveness were conducted according to type of metastatic presentation (ie, de novo vs. recurrent disease). Exploratory analyses were used to evaluate whether the use of surgery of the primary tumor in the de novo cohort influenced patients’ survival.

RESULTS

From January 2000 to December 2013, 416 patients were included in the study, 113 (27.2%) presented with de novo MBC and 303 (72.8%) with recurrent disease. Compared with patients in the recurrence cohort, those in the de novo cohort had worse baseline characteristics, received more aggressive first-line treatments, and showed better survival, with an adjusted hazard ratio (HR) for progression-free survival (PFS) of 0.65 (95% confidence interval [CI], 0.43-0.97; P = .035) and for overall survival (OS) of 0.53 (95% CI, 0.30-0.95; P = .034). In the de novo cohort, the 54 patients (47.8%) who underwent surgery of the primary tumor had significantly better PFS (adjusted HR, 0.44; 95% CI, 0.26-0.72; P = .001) and OS (adjusted HR, 0.49; 95% CI, 0.26-0.93; P = .029) than those who did not undergo surgery.

CONCLUSION

Patients with de novo HER2-positive MBC showed significantly better survival outcomes than those with recurrent disease. In this population, surgery of the primary breast tumor was associated with better outcomes.

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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