新しい医師研修制度の夜明け前で、今のところシステム上の混乱はないようですが、よい臨床医の育成、という観点からみると、5年、10年後の様々な混乱が露見し、過疎地医療は完全に崩壊し、過疎地は「居住禁止地区」となり、地方都市の地域医療も崩壊状態となるでしょう。また、大都会でも、内科医師、外科医師が決定的に不足し、医師は? というと、眼科医(コンタクトレンズ専門)、美容形成医、皮膚科医など、マイナー、マイナーな医師だけが9時5時シフトで診療をする、という医療崩壊現象が決定的になるでしょう。ましてや、「研究」なぞ、自分には縁はないです、難しいことはわかりません、研究してもお金になりません、という風潮が益々、強まるものと懸念されます。新しい研修制度が始まると、若いうちに大学院で基礎的な研究をする、とか、若いうちに、海外留学をする、とか、「科学的マインド」を醸成するチャンスを失い、ガイドラインだけにとらわれ、自分の頭でものを考える臨床医の育成が完全にできなくなるでしょう。ガイドライン作成を推進したのは私です。国立がんセンターに勤務していたころに、厚生省の担当者から相談を受けました。当時、私は「エビデンス ベースド メディスン(EBM)」の旗振りをしていたもので、EBMを普及させるにはどうしたらいいでしょうか、行政でお手伝いできることはありますか? と言うような相談でした。そこで、提案したのは、エビデンスを作る(研究を行う)、エビデンスを伝える(ガイドラインを整備する)、エビデンスを使う(科学的な臨床医学を実践する)の、この3つのステップです。「エビデンスを作る、伝える、使う」という標語みたいのが、受けて、それで、それぞれのステップに対して、班研究が構成されていきました。私は、乳癌学会でガイドライン委員会を作り、長きに亘り、その委員長をやってきたのですが、どうも、整備されすぎたガイドラインは害悪ではないか、と最近反省しているのです。ガイドラインのおかげで、診療の標準化は進んだかもしれませんが、ガイドラインだけをみて生きる安直医師がふえてしまい、科学的マインドのかけらもないようなだめ医者に毎日遭遇しなければならない、世紀末的状況になってしまったのです。新しい医師研修制度のなかで、科学的マインドを持った医師を育てることができるのでしょうか?? そうでないとそのうち、日本人医師は日本にはいなくなり、三国人(あえて、かつての、差別用語を、赤裸々に使いましょう)医師ばかりが活躍する国になってしまうでしょう。