2018 ASCOで感じる大きな潮流


最初の二日間、ASCOの会場をあちこち覗いてみて回った。それは、「最先端のがん医療、がん研究」と「自分の立ち位置」の相対的距離を体験するためだ。「たいしたことないじゃん」なのか「このような展開はだいたいそうだと思っていた」なのか、「世界は進んでいる、日本は遅れている」なのか、「もうASCOに参加しても訳わからないから来年から来るのやめよう」なのか。この分類で見ると、「このような展開はだいたいそうだと思っていた」あたりが、今のところの今回の感想である。だいたいこんな感じだろうから、日々の診療内容、近未来の方向性は適切なんだな、と感じている。

 

オバマ前大統領が提唱した「precision medicine」という標語、具体的に導入、使用が進められている「新型遺伝子解析装置(次世代シークエンサー)」を用いたがんの遺伝子変異の解明、免疫チェックポイント阻害剤の爆発的普及、乳癌の領域では昨年のザンクトガレンカンファレンスの標語となった「エスカレーションとディ・エスカレーション」などが、あちらこちらにちりばめられている。

 

患者となる前の健康人に対する予防手段、病気が疑われる人の検査、、一人一人の患者の病気の治療、などなどを、間違いなく、的確に、正確に行うこと、これが「precision medicine」である。正確とか、的確という英語には、precisionとaccuracy という単語がある。弓道を例にとれば、(1)1カ所に弓が集まって当たっている状態、(2)広い範囲に弓がばらばらと拡がって当たっている状態、それと(3)的の真ん中からのの距離と、弓の当たっている中心がまさにドンピシャという状態、それと(4)的から外れている状態、この(1)から(4)で、(1)と(2)は、preciseか、そうでないか、(3)と(4)は、accurateか、そうでないか、ということ。なので、できれば、precise and accurate medicineというのが望ましいことだと思う。

 

聴診器で呼吸の音を聞いて、変な音がする、胸をぽんぽんとたたいて、鈍い音がする、黄緑色の粘っこい痰がでる、熱がある、息が苦しい、という兆候と症状があると、肺炎だろう、と診断した。症状が長く続くし、やせてきたし、血も吐いた、ということで結核だ、と診断、しかし抗生物質もあまりない時代(江戸末期)は、それで悲劇のヒーローとなり、惜しい人を亡くした、となっていた。

 

precision medicineは当然、こんなことはない。痰を調べて菌のDNAを検出すればすぐに原因菌がわかるし、血液検査で炎症の特異的な反応を調べ、胸部のCTやMRIをとれば、どこにどういう状態があり何が原因か、どの薬を使えばいいか、が短時間でわかる。こんな風に医学の進歩をもたらした数々の知識、技術が、ますます進歩してわれわれは病気にならず、病気になっても死ぬことは少なくなってきた。感染症がおおかた征服されてきて、まだ、原因も、治療法も完全にはできあがっていないがんに対して、正確で的確な医療を行っていこう、それには、がんの遺伝子検査、人間の遺伝子検査、がん免疫の知識が結実・開花してきた新世代免疫検査・治療が利用できるよ、と言う時代になりつつある、ということである。どの程度、達成されたのか、という観点で見てみると、まだまだ完成には程遠い。だから、製薬企業の研究者、開発担当者、医療機関の基礎研究者、臨床研究者、臨床医、などが、わんさか押し寄せている現状は、シカゴ・オヘア空港での入国審査の大混在をみれば、今年はなにか違うね、とい実感を持つ。正確・的確医療はどんどんと成長しているので、その成長、進歩を、科学雑誌ニュートン、や、日経サイエンスなどを読む感じで楽しむこともできる。また、日々、対面している私たちの患者の病状が負担の少ない治療で軽快し、治り、元通りの日々を送ることを目の当たりにするのも医師としての喜びである。実際、ハーセプチン、抗HER2療法の導入で手術はしなくても治るのではないか、というレベルに達している。正確・的確治療がどんどん進歩すれば、自分が病気にならない、なっても治る、長生きできるという時代で、100歳まで元気で働こう、の標語が現実のものになってきた。毎年ASCOで感じる大きな潮流を今年もこんな感じて実感できた。細かな話題は、あちこちのWEB サイトで、ときに正しく、ときにみみっちく、おおくは「売らんかな」の商魂に操られたプチ悪魔くんたちががめつく報じてくれると思う。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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