ASCO 2018 術後HERCEPTIN投与期間は・・


イギリスのケンブリッジ大学を中心として実施したPERCEPHONE6試験は、HER2陽性乳がん患者の術後Herceptin投与期間を検討するために行われた比較試験です。何を今さら?HERA trialで12か月でよかろう、となっており、12ヶ月と6か月を比較したPHARE Trial では、予め設定した12か月投与に対する6か月投与の非劣性のハザード比境界を下回ることができなかった、つまり6か月が12か月に劣らない、ということを検証できなかったこともあり、今のところ、プラクティカルには術後のハーセプチン投与期間は12ヶ月、ということで世の中回っているという状態です。しかし、このPHARE Trialにはちょっと問題があり、当初の目標症例数は7000であったけれど(NCT00381901)、論文では、両群あわせて3400症例ぐらい。症例数が十分ではない場合、βエラーが大きい、つまり、差があったとしても検出できないということで、差が無いとは言いきれないという位置づけになります。(これをβonyari (ぼんやりエラー)と覚えることになっている)。

PERCEPHONE6 trial では、術後Herceptin12ヶ月と6ヶ月を比較し、6か月が12ヶ月に劣らないことを検証する非劣性を検証するデザインとして、「12か月投与群の4年のDFS(再発しない割合)が80%として、6か月投与でもこれを3%は下回らない(77%以下にはならない)」ならば、非劣性(劣ってない)として6ヶ月でもいいんじゃないの、ということにしようという計画で試験が準備されました。しかし、4年のDFSの差が3%以内なら非劣性という3%の根拠はどこにあるのか、だれがきめたのか、ということで、非劣性境界線の決め方が、arbitrary =勝手な、根拠の無い、身勝手な、であるという批判はいつもついて回ります。今回の発表で、実際の4年DFSは、12ヶ月群で89.8%、6ヶ月群で89.4%でした。当初の計画が80%と踏んでいたのが89.4%、まだまだ、観察期間が短いということかも知れません。あるいは、当初の計画が「読みが甘かった」のかもしれません。とにかく、89.8%と89.4%から、ハザード比を計算すると1.07、95%信頼区間は0.93−1.24、これは「1」をまたいでいるので、たしかに差があるとは言えないのですが、当初の計画で80%と77%だった以上の差だったならば、として計算した、「非劣性境界線 1.322」 を下回っているから、非劣性である、という結論が導かれています。しかし、その結論、ちょっと待った!もう少し観察してみないとわからない、というのが正直な結論だろうと思います。それで初期治療で使用する抗HER2療法の投与期間は当面12ヶ月、という意見が大勢をしめているようです。4000症例もの多数を対象とした試験を実施しても、一般臨床の形をかえることが難しい、ということで、なにやら、少しの虚しさを感じる、というのが、梅雨入り間もない浜松の深夜作業隊の偽らざる感想です。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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