癌治療の目指すこと


がんと診断がついたときにとりかかる治療、これを初期治療(primary therapy)といいます。手術であれ、薬物療法であれ、免疫療法であれ、放射線療法であれ、その目指すことは「治癒」ですね。しかし、診断がついたときに、とてもたちの悪いがん(悪性度が高い、微小転移をともなっている)だったり、たちがよくても、だいぶ熟成してしまっていて他の臓器や周辺のリンパ節に転移があるような場合、おいそれと治癒はむずかしいのですが、1つの遺伝子異常にべったり依存しているような場合ー oncogene addiction (遺伝子依存)では、その遺伝子の働きを制御すれば進行がんでも治癒することができます。乳がんのHER2過剰発現ER陰性の場合がこれに該当します。かつては、HER過剰発現ER陰性でも、拡大手術なんていう間の抜けたことをしていましたが2000年以降の症例では、ハーセプチン、さらに2015年以降でははハーセプチン+パージェタ、さらにカドサイラなどで、完全制御が狙えるようになりました。では、HER2陰性タイプでは、遠隔転移のある場合、再発癌の場合、治療の目標には、治癒は含まれません。まず目指すは症状(痛みとか息が苦しいとか)を和らげること、また、今は症状がなくてもこれから出てくる症状を防ぐこと、そして延命です。

アバスチンにしても、イブランスにしても、他の薬剤に加えることで、症状緩和効果、症状出現予防効果はあるのでしょうけれども、延命効果はありません。臨床試験の用語でいえば、Progression Free Survivalはあるけれど、Overall survival の延長はない、というもの。このような薬剤、タイケルブもそうですけど、最初のうちは、興味もあるので、医師もたくさん処方しますが、そのうち、診ている患者さんがあまり幸せになっていないと感じ始めると、だんだん、その手の薬の処方頻度は減ってきます。まるで、新曲の出ない演歌歌手のようなもので、だんだんと忘れ去られていくのかもしれません。日々の診療で、ぐぐっと手応えがあるような場合、患者さんがこころから喜んでいるのをみた場合、「あれはいい薬だ」という認識が芽生えてくるものです。三流統計屋がいくら、PFSの延長には意味があると、と叫ばされても、やっぱり、実際に患者さんを診ている臨床医の感触というのは意外と当てになるものなのですね。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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