考え直そう 個人情報保護法への過剰対応


昨日の勉強会、「60才台女性、X年 Stage IIA乳癌で乳房切除術、組織型は髄様癌、アドリアマイシン+ドセタキセルによる術後治療実施、X+8年、反対側乳癌発症し・・・・・」というプレゼンテーションがありました。 最近、この手の発表が多く、聞いていていらいらして、頭にきて、つい手を挙げて質問 「60才台って、60才なのか、69才なのか、それによって推定する体力とか、臓器機能が異なってくる。何才なのかはっきり言って下さい。」「X年とはいつのことか、髄様癌は、トリプルネガティブだが予後はよいので、術後のケモはしなくてもいい、と2011年のSt.Gallen Conferenceで論じられているが・・?」

このような年令をぼかしたり、年月を伏せ字にしたりする曖昧なプレゼンテーション形式、最近の「スタンダード」になっていますがいつも聞いていてもどかしく、ひとこと言わずにはいられません。『40才台女性・・って、40才と49才では、閉経状況を考慮する際に全然違うだろう』、『X年って、ハーセプチン登場前なのか? イレッサが発売されていたのか? オプジーボが使えるようになってから?』 など、症例検討する際に不可欠な情報までもがマスクされてしまって、こんなんじゃあ話にならん!!と、はづきるーぺのように思わず書類を投げつけてしまいます。

この不適切なプレゼンテーションが行われる理由は、天下の悪法「個人情報保護法」に対する過剰反応であります。とくに2017年にこの悪法が改定されてからとくに不適切プレゼンが増えたようにと思います。発表者に「どうしてこんな「どうしてこんな曖昧なプレゼンをするのですか?」と聞いたら、「最近、皆さん、こういう風にしていますから・・」と、チコちゃんに叱られるよな答え。座長に尋ねたら「そのように決まっているようです」としか答えません。

たしかに個人情報保護法でマスクすべき情報は「特定の個人を識別できるもの」、「他の情報と簡単に照合できてそれによって特定の個人を識別できるもの」です。当然、昭和30年8月14日生まれ、静岡県浜松市新町112生まれ、男性、血液型AB型、浜松西高卒業、愛犬ロビン、とすれば、氏名がなくても個人を特定できるでしょう。しかし63才男性、19才で急性虫垂炎手術としたって、個人を特定できるものではありません。

また、医師, 薬剤師,製薬企業社員などは刑法 134 条で「これら の職にある者、過去にあった者が,正当な理由がないのに,その業 務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏 らしたときは,6 月以下の懲役又は 10 万円以下の罰 金に処する」とあります。また看護師、保健師、助産師の場合は、保健師助産師看護師法(いわゆる保助看法)に「正当な理由がなく,その業務上知り得た人の秘密を 漏らしてはならない。保健師,助産師、看護師又は准看護師 でなくなった後においても,同様とする」と定められ ており,この法律に違反した場合も刑法 134 条と同じ重さの 刑罰が規定されています。つまり、我々医療職従事者、製薬企業社員は職業に就いた時点から、個人情報を尊重することが義務づけられ、そのように修練を積んできているのです。ですから、勉強会に当たっては常識的、合理的な対応をすればいいのです。法規を正しく理解もせずに、ぼーっと生きてきて誤った過剰対応することは、角を矯めて牛を殺す ことになってしまいます。皆さん、30才台女性、○○年・・・というプレゼンはもうやめてしまおうではありませんか。反論があれば、匿名でもいいので、コメントお願いします。

以前に独り言した浜松医療センター病理カンファレンスの不自然な分断も個人情報保護法への過剰対応の結果で、情報の適切な共有ができなくなってしまいました。身勝手な外科医は15年前から続けている臨床症例検討会にも参加しなくなってしまい、その結果、時代遅れの薬物療法を続け診療レベルは低下するばかりであります、こまったものです。

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

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