サンアントニオ乳がんシンポジウムは年々、参加者数が増え新築なったHenry B. Gonnosuke Convention Centerも人で溢れかえっている。
今日の午前中はおもしろい発表がたくさんあった。朝一番の「プレナリーレクチャー」では、MDACCのニコラス・ネイビンの「がん細胞一個一個の遺伝子発現を調べると、さまざまでいろいろである。一つの乳がんでもいろいろな性格の細胞が混じっていて、しかも、転移が進むと益々、複雑になっている」ことをビジュアルにも検証した研究。すげーッ
オーラルセッション1では、HER2陽性乳がんで、術前薬物療法を行って、腫瘍が残っている患者を対象に、ハーセプチンを14回、カドサイラ(ハーセプチンに抗がん剤をくくりつけたやつ)を14回、いずれも3週毎の使用すると、カドサイラで圧倒的に遠隔転移が減る、という発表。本日、NEJMの電子版にもパブリッシュ。ディスカッションを担当したエリック・ワイナーも、これは素晴らしいデータである。HER2陽性乳がんにはアドリアマイシンも、そしてタキサンも不要であろう、とのコメントを発していた。もはや、ハーセプチン+パージェタを術前治療に使えるので、引き続き、術後にカドサイラが使用できるようになれば、脱毛のない、吐き気もない、手足も痺れない治療が出現した。救世主と言ったら言い過ぎだろうか。仏様程度にしておく。
午前中最後は、腫瘍内科医として長年の功績が認められた研究者が行う「Bill McGuire Memorial Lecture」にイギリスのローヤルマーズデン病院にイアン・スミスが選ばれた。彼もハーセプチンの臨床研究、アナストロゾールの術前治療など、かずかずの素晴らしい仕事を成し遂げてきた度量の広い先生だ。講演のなかで「外科医はもういらない」みたいなことをいった。そうだ、そうだ、と心の中で呟いていたら、となりにいたカピバラ・ホズミンが「だれかさんとおんなじこと、いってるね」と反応した。そのとおり、世の中は、よい薬が次から次に出てきて手術不要論を唱える外科医も現れている。「おじいちゃんが若い頃は、がんを治すと言って人の体を切り裂く外科医というのがいたんだよ。こわいねー、こわいねー。ずおうとひいたちみたいだね、そんな時代に生まれなくてよかったねー」とやがて来るおまごちゃんに語る日がきたようだ。