説明と同意の難しさ


AKさん、お久しぶりですね。ご無沙汰しております。NSASBC01試験は、来年、いよいよ最終解析を向えます。確かに、臨床試験に参加して頂くためには、説明することが山ほどあり、同意を頂いたあとも検査や治療の内容やスケジュールについて、説明することが、山X山あります。ですから、試験に参加されないという方には、説明量がぐっと減るので、外来の時間も短くなりますし、患者さんからみると、手のひらを返したように、と、感じるのかも知れません。ほんとうは、そのように感じさせてはいけないのですが、なかなか、若いうちは経験不足もあり、つい、こちらの都合で話を進めてしまうことがありますね。以前にもAKさんから、同様の指摘を頂いたことがありましたが、そのような経験を通じて、我々も、段々対応がうまくなり円滑になっていくように、努力しなければいけないと思っています。ご指摘、誠にありがとうございました。お元気にお過ごし下さいませ。

癌医療に求められること(最終回)


街のがん医療をめざして

年間、約100万人の日本人が死亡するが、そのうち、35万人の死亡原因はがんである。がん医療に携わる外科医はたいへん多い。しかし、外科手術の限界も見えてきた昨今、放射線治療、薬物療法、などの必要性が急速に高まり、治療体系が大きく変容しようとしている。それなのに、手術以外の治療の担い手の育成が大幅に遅れているのが現状である。がん罹患者数の増加に加え、がんに関する情報は氾濫しており、民間療法や、不適切な免疫療法、リンパ球療法など、根拠の乏しい医療行為が横行している。一方、定評のある病院の外来は、患者であふれ、朝9時に受付をすませた初診患者の診療が夜7時から始まる病院もある。国立がんセンター中央病院では、最近、手術までの待機期間をホームーページで公表しているが、手術によっては「75ヶ月待ち」という信じられない数字をあげている。厚生労働省は、がん専門医の養成と適正配置を目指した均てん化策を講じようとしているが、その成果は、現状のニーズにはとても応えられない。いま、がん医療の専門家に求められていることは、日常生活、社会生活を送りながら、外来通院で抗がん剤治療を提供すること、および、氾濫する情報のなかから患者一人一人の医療状況に応じた適切な情報を取捨選択できるような援助をすることである。医師一人、薬剤師一人、看護師三人の最小単位から、都心の診療所に解説したオンコロジーセンターも1年が過ぎ、患者のニーズには、ある程度応えられていると思う。オンコロジーセンターがめざすところは街のがん治療である。辻々の交番のようにがん治療と情報提供ができるオンコロジーセンターがあれば、患者は都会のがん専門病院に行かなくても、安心と安全のがん医療をふるさとで享受することができるだろう。オンコロジーセンター二号店、三号店を目指したい。その手始めとして、浜松オンコロジーセンターの開設に着手した。

癌医療にもとめられること(7)


EBMを重視したがん医療

 

Evidence Based Medicineは、がん医療でも極めて大切な問題解決手法を提供してくれる。目の前にいる患者に対してどのような治療を行なうことがもっともよいことか。これは、すべての医療者が日々遭遇する命題であろう。EBMの手法では、この命題をまず、PECO形式の疑問文に作りかえるところから始まる。P(patient:どのような診断、病状の患者に?)、E(exposure:どのような治療を行なった場合?)、C(comparison:どんな治療を行なった場合と比べ?)、O(outcome:結果、効果はどうなのか?)。PECO文を作ることができれば解決すべき問題点が明確にできたことになる。さらに、PECO文に解答を出すように、過去の臨床研究や、基礎研究の論文を検索すればよい。抗がん剤治療の場合、治療の効果をすぐには実感できないことが多い。たとえば、初期治療での再発抑制効果を目指した治療をするにしても、治療を受けている患者一人一人にとっては、今、受けている治療の効果があるかないか検討がつかない。ただただ、副作用に苦しむばかりの日々を送るなかで、どの程度の治療効果が、科学的に確認されているか、という情報は、治療を継続する上での励みになるだろう。医師も、検証されたその効果を根拠として、つらい治療かも知れないけれどがんばりましょう、と患者を励ますことになる。がん医療においては、科学的な根拠を尊重する姿勢はとりわけ意味のあると思う。

癌医療に求められること(5)


グループ診療、チーム医療

 

国立がんセンター病院には、第14期レジデントとして昭和5761日からお世話になった。レジデント(住み込み研修医)の字義どおり、病院内に住み込み、昼夜の別なく入院患者の診療、外来診療の見学・補助、症例カンファレンス、英文抄読会、院内発表や地方学会での準備、など、多忙な日々を過ごした。私の指導者は阿部薫先生(国立がんセンター名誉総長、現在、横浜労災病院長)で、当時、阿部先生の診療グループは「内分泌グループ」と称しており、緩やかなグループ診療制をとっていた。グループ診療とは数名の医師が、診療方針について等しく智恵を出し会い、合議を形成しながら診療を進めていく形態である。主治医制では、主治医以外の医師は、診療方針や、治療内容の最終決定には関与しないのが普通である。「おれの患者、私の先生」という強固な人間関係を好む場合には、グループ診療制よりも、主治医制の方がいいのかも知れない。しかし、がん治療の場合、治療方法の選択については、必ずしも正解が一つとは限らない。いくつかの選択肢の中から、その時々で、最も適切と思われるものを選ぶ過程が必ずある。また、がんに伴う症状や、治療に伴う副作用を正しく把握するためには、薬学的知識や、病態生理を正しい理解が不可欠であり、複数の専門家の経験知の集結が必要である。患者からみると、グループ診療は、担当の医師がころころ代る、主治医不在という印象を持たれることがあるが、そうではなくって、複数の目で見て、複数の頭で考えることのメリットは大きいと思う。

チーム医療も、がん医療ではとりわけ重要である。内科医、外科医、放射線治療医、看護師、薬剤師、などの、専門の異なった医療職が、協調して、治療を進めるのがチーム医療だ。手術後、いつから、食事を開始するか、リハビリをどうするか、抗がん剤治療の副作用対策をどうするか、など、複数の医療職が関与することが多い。ところが、同じ疾患に対する同じ抗がん剤治療なのに、主治医によって、使用する量が違っていたり、吐き気止めの種類や、投与方法が全く異なっていたり、という話はよく耳にする。原始的な病院では、主治医毎に「○○先生用指示」というのが用意され、それぞれの医師の流儀に精通した熟練看護師が病棟を仕切っている。しかし、このような不合理は、医療過誤の温床となる。確かに抗がん剤の投与量やスケジュールの間違いで、患者が死亡した事故の報告は多い。変更を必要とするような医学的な特殊事象がないかぎり、主治医にかかわらず、同じ手順で対応し、過誤の発生するチャンスを少なくする、業務を標準化するため、最近では、クリティカルパスの導入が進められている。がん医療では、グループ診療、チーム医療をもっと導入し、風通しのよい医療を行なうべきであろう。

癌医療に求められること(3)


不適切な治療選択       

 

セカンドオピニオンを求めて来院した患者の治療内容をみると、治療方法の選択が不適切と思われる場合が多い。がんの治療には大きく分けて、外科手術、放射線照射、薬物療法がある。薬物療法はさらに、抗がん剤、ホルモン剤、抗体製剤、サイトカイン製剤に分類される。外科手術、放射線照射は、がん細胞が腫瘤を形成している部位だけを対象とする治療であるので局所療法と呼ぶ。一方、薬物療法は、全身くまなく効果が及ぶため全身療法と呼ぶ。肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、卵巣がんなどの固形がんは、原発臓器で発生し、細胞分裂を繰り返し増殖し、腫瘤の直径が1-2cmになると、レントゲン写真や、体表から触ってもわかるようになる。この状態を放っておくと、他の臓器に転移するので、早めに見つけて早めに手術しましょう、というのが早期発見、早期手術の考え方である。ところが、他臓器への転移は、実はもっと早い時期、すなわち原発臓器での腫瘤形成と並行して起きている可能性がある、という考え方が乳がんなどで主流となってきた。全身にタンポポの種のように、目には見えないけれども転移が散布されている場合がある、という全身疾患の考え方である。米国では1980年代後半に、「乳がんの初期治療の一環としての抗がん剤、ホルモン剤などの全身治療の重要性」に関する注意喚起が国立がん研究所から出されている。ところが、我が国では、乳がんと診断された患者の99%は外科医師だけにより、治療方針が決定されるため、どうしても手術に重きが置かれざるを得ない。また、専門的なトレーニングを受けていない場合、抗がん剤治療に伴う適切な副作用マネージメントができないという技術的な問題もある。例えば、抗がん剤に伴う悪心・嘔吐を例にとれば、十分な副作用対策を講じた場合、つわり程度のむかむかはあっても嘔吐することはない、という患者が大部分だ。仕事の行き帰りに、抗がん剤点滴を受けている患者も多い。

初期治療の目的は、治癒をめざすことであり、そのためには副作用対策を十分に講じ、有効な治療を併用しなくてはならない。

一方、初期治療後、明らかな遠隔転移、再発病巣が出現した場合、その時点から治癒を達成することは困難な場合が多い。治療の目標は、痛みを和らげるなどの症状の緩和や、仕事や社会活動などの社会生活や、趣味や日常生活を充実させるなどの、QOL(クオリティオブライフ、生活の質)を高めることになる。その為には、なるべく副作用の少ない治療を優先させたり、症状緩和策を十分に行なうことなどが重要となる。決して、この時点で、大量の抗がん剤や、負担の大きい手術を行なうことは、患者にとって、いいことはひとつもない。

 

癌医療に求められること(2)


 広がらないセカンドオピニオン  

 

20039月の開設から1年間に、セカンドオピニオンを求めて236名の患者あるいは家族がオンコロジーセンターを訪れた。このうち、現在の担当医からの紹介状を持参した患者は全体の三分の一にあたる79名、三分の二は、担当医には告げず、あるいは担当医の了解を得ないで、受診したことになる。患者の大部分は、担当医の説明を十分に理解しており、詳細な経過を自分の言葉で説明できるので、紹介状がなくてもセカンドオピニオンを提供することはできる。しかし、抗がん剤治療であれば、使用薬剤名、投与量、などを正確に記載した担当医からの紹介状があるに超したことはない。患者の立場に立つと、担当医にセカンドオピニオンを聞きに行くので紹介状を書いてほしい、とは切り出しにくい。ある大学教授が、「セカンドオピニオンとは、現在、診療をうけている医師、病院を見限って、他の病院にいくこと」と学会ので公言していたが、これは違う。セカンドオピニオンとは、「現在受けている治療やこれからの治療を安心して受けるために担当医師以外の専門家の意見を求めること」である。今かかっている医療機関での医療内容をさらによくするためにセカンドオピニオンが機能してほしい。しかし、現状では、「俺の治療を信用できないのか」、というような意識が医師側にあり、患者側にも、「今までお世話になったのに申し訳ない」、というような意識が働いていることも否めない。セカンドオピニオンが普及定着し、紹介する側も、紹介される側も、ややこしい感情的もつれを伴わない対応ができるようになることを願う。

セカンドオピニオンが普及しない理由は他にもある。医療費である。現在の保険診療では「セカンドオピニオン」という項目はない。診療情報提供料として220-520点(診療報酬額はその10倍)が認められているが、これはあくまで、医療機関から医療機関への情報提供であって、医療機関から患者への情報提供では、初診料250270点だけである。これでは、セカンドオピニオン外来を設置する経費すら捻出できない。セカンドオピニオンは、必要不可欠な医療行為ではないので、時間とお金に余裕のある患者が私費でまかなう、という自由診療の考え方もあるが、このあたりの議論が十分になされていないようである。