この世の変遷


天下の聖路加病院に労働基準監督署から「土曜日の外来診療実施は労働基準法違反」との指導がはいり、土曜外来を閉鎖することになったとのこと。それで困るのは土曜日しか病院にいけない中小企業の労働者ではなだろうか? また、深夜、急変した患者の対応をした医師は翌日休んでいい、ということで、大事なカンファレンスも平気で休む医師が多い。日本が「社会主義国家」どころか「共産主義国家」になり、医師も一労働者として、世の中の歯車として地味に生きなさいということになっている。それでもいいけど、医師はやはり専門職としてそれなりの評価と尊敬をうけており、また、自覚と責任をもって世の中の期待と信頼に応える、ということになっていたはずである。では医師法にある「応召の義務」はどうなるんだろう?

医師法第19条 「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」ということで、『患者が貧困であるという理由で、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならない』とか、『休診日であっても、急患に対する応招義務を解除されるものではない』と言うことになっているので、当直開けでも、夜間、看取りをして翌朝、病理解剖に立ち会って、遺族を送り出して、そのまま外来勤務して・・・というのが当たり前と、医師法では規定されている。 それだけ、医師の専門性を評価しているとも言える。しかし、労働基準監督署があれこれいうようになって医師も一労働者、ホワイトカラーではなくってブルーカラー、ということになれば、専門職としてのプライドを持つ必要もなく、寝食を忘れて勉学に励むなんて馬鹿なことはやめて、正当な評価としてベンツやポルシェに乗っていたのをやめて、スズキスウィフトに変えて9時5時シフトに徹底すればいいってことになる。それでも医学部に行きたいという若者がいるだろうか? それなりのプレステージの背景にはそれなりの自己鍛錬と自己犠牲があったはずだ。

聖路加病院で思い出したが山内先生が「最近の若い者は『ほうれんそう』ができないのよ」と年寄り臭いことを言っていた。ほうれんそうとは、報告・連絡・相談 のこと。つまり、若者が上司に、患者の○○さん、検査結果改善していましたなどという報告、病棟業務が長引いて勉強会欠席しますなどという連絡、遺伝子発現研究についてご相談がありますなどという相談のこと。しかし、ほうれんそうができない、なんていうのは、いまや当たり前のこと。もう、君には期待しないよ、というほど、ラインで連絡しても既読無視は当たり前。バーベキュー大会やるからきてね、出欠を教えて、といっても返事もよこさない、また、お土産を買ってきてあげても、お礼も言わない、といった、返事・報告・連絡・相談・お礼、など、とにかく人と人との関係性の潤滑油も枯渇してしまった。この世の急激な変化に、ついつい、今の若いものは、という愚痴がもれる我々、還暦世代である。

医師不足と異色の外科


21世紀のこの時代にいまだにナンバー外科を誇っている大学があると聞いてびっくりしました。第一外科は消化器一般外科、第二外科は胸部外科、とかなっていて、一般というところに乳癌外科がふくまれていて、あるいは、内分泌外科というわけのわからない分類の中で乳癌外科が細々とやっていたり、胸部のくくりで乳癌が含まれていたりして、それで、消化器医一般外科の第一外科と胸部外科の第二外科の両方でどっちもほっそぼそとしかもでたらめにさらに違う流儀で乳癌外科がおこなわれていたりということが昔はあったと聞いていましたがいまだにある、というところを先週見てきて驚いた驚いたのでした。さらに消化器一般外科のくくりのなかに肝胆膵外科とか、胸部外科のくくりとして食道外科とか心臓外科とか、外科のなかでは大学院クラスと自分たちが思い込んでいる外科医たちが、同じ医局に加えられている「外科のなかでは幼稚園クラス」と見下している乳癌外科をいじめ抜いているという噂もありました。肝胆膵では最近、移植がこれまた花形で、これにまた異色の性格の外科医がはまり込んでいて肩で風切って歩いています。その異色外科医が乳癌外科は落ちこぼれだとか、女医は邪魔、なんて公言していて、しかも学生相手にそう言っているものだから乳癌外科を志す医師がほとんど枯渇していて診療レベルが極端に低下しかねないという現状を見ました。異色でもいいけど個人の偏った感情と感覚で、医療人材のリソースに歪みを生じさせているこの現状、愛がなければいけないのに愛のない、異色外科の世界での出来事だけでは済まない問題であります。また、そんな偏ったオレは偉いというような異色の人間が「教授選最有力候補」との下馬評だから、その科に属する切れ味鋭い乳癌外科医は、悶々とした日々をすごしているそうです。異色外科医でも広い心と全体感を持って仕切らないといけないし、なによりかにより21世紀のこの時代にナンバー外科はもう、やめにしてもらうよう文部科学省に配慮してほしいのですが、文部科学省は文部科学省で天下り問題でそれどころではないようですね。世の中、あっちもこっちも「ご臨終です。」

人獣連携支援システム


長泉町にペットのがんを診療する最先端動物病院がオープンしたというニュースを見ました。血管造影、CT、MRIなど高精度大型機器により小さな命を守ります、との説明。当然、PET-CTもあります(笑うところですが・・ ^0^;)。飼い主は愛するペットにはいくらでもお金をかけます。私も例外ではありません。飼い主に義務化されている狂犬病のワクチンを打ちに行ったら動物病院は超満員。3時間待って首の付け根に注射されロビン(我が家の愛犬の名前です)はきゃんと一言。担当の先生から、こういう栄養剤もあります、セットでこんな予防注射もありますと言われると、じゃ、おねがいします、よかったね〜 ロビンちゃん、なんてまるで親ばかです。3万円の請求書にもなんの疑問もなく支払っちゃう。ペットは国民皆保険の対象外、100%自己負担です。自己といってもロビンが払うわけではありません。長泉の最先端動物病院も、親ばか飼い主がきっと殺到することでしょう。そういえば長泉には人間用のがん病院もありますが、まさか、動物と人間のがん医療の統合、なんていうことを考えていないでしょうね、山口ケンチャナヨ。

第15回 St.Gallen Early Breast Cancer Conferenceを読み解く


2017年4月15日(土曜日) 浜松オンコロジーフォーラム抄録

浜松オンコロジーセンター腫瘍内科 渡辺亨

1978年に第1回が開催されたSt.Gallen Early Breast Cancer Conferenceは今年15回目を終えた。今年のテーマ「Escalating and De-Escalating Treatment in EBC across Subtypes and Treatment Modalities」に示されるようにサブタイプ別、治療手段毎に拡大すべき治療と縮小すべき治療を明確に合意形成を計ることを目指した。1970年台の治療はハルステッド手術しかなくサブタイプとか全身治療とかは存在しなかった。しかし、今後、数年の間には手術は一切行われなくなり、治療と言えば薬物療法であり多遺伝子発現解析により同定された駆動遺伝子(ドライバージーン)に対応した治療により大多数の患者で完全治癒が得られるようになるだろう。今回はこの移行期真っ最中に位置しておりバリバリと音を立てて変革していく乳がん治療を正しく見据える必要があることが示された。とくに(1)従来の形態学的診断から遺伝子発現解析による機能的診断に基づくサブタイプ分類への完全移行が急がれること、(2)薬物療法は「術後」から「術前」への移行が加速していること、が目立った変革である。

参加申し込みはNPO法人がん情報局ホームページへどうぞ。

 

St.Gallen2017の最中(2)


今日の午後は薬物療法のセッションが続いております。ホルモン療法のところは、閉経後のアロマターゼ阻害剤、タモキシフェン、どれをどのように、5年、10年、15年^^^、どれぐらいの期間、つかえばよいのか、どうなのか、それを判断するのに、オンコタイプDXがいいのか、マンマプリントがいいのか、プロシグナがいいのか・・ すっきりしたデータはまだでていないのですけど、ミッチーダウセットが例によってトランスATACのデータをあれこれといじくり回したデータを提示しながら、いろいろな生存曲線を示しているうちに、これがハイリスクで、これがローリスクで、いやいや、このスライドは間違いで、こっちがこっちで、いれかえて、みたいな話になりなにがなんだか分からなくなった。話している本人も混乱しているぐらいだから、聴衆は誰ひとり理解できていないだろう。当面、AI5年でその先、AIを続けてもよし、タモキシフェンに変えてもよし、というところです。閉経前は、SOFT・TEXTトライアル以上のデータはないので、あの2つの論文をきちんと理解していけばよろしい、ということです。マシューエリスは、ルミナルAには、術前治療は細胞毒性抗がん剤ではなく、ホルモン剤を使う、と当然のごとく説明しておりました。

細胞毒性抗がん剤については、アンソラサイクリンとタキサンが必要、とくにHER2病とトリネガはで、と言う程度です。ルミナル乳がんでも、TNBCでも、HER2病でも、「若い人は予後が悪いから細胞毒性抗がん剤をしっかり使う」という考えは、都市伝説であることも、複数の演者がやっと主張するようなりました。閉経前のルミナル乳がんではホルモン療法を10年間、さらにもっと長く続けること、TNBCだから、乳房全摘、温存はしない、というのも、BRCA変異がないのなら、正しい考え方ではない、ということも、きちんと説明されていました。改めて「35才以下は抗がん剤が必要」というような考え方は間違っているということを確認しなければいけません。明日はいよいよコンセンサスカンファレンスです。このブログの読者に方には特別に、明日の質問(235も質問があります)をお教えしましょう。添付します。Masterfile_Session_St.Gallen_Panel_20170310_V3 GC

徳永祐二先生を偲ぶ


あまりに突然の訃報に現実を受け入れることができない。帰国すればまたあの笑顔に会えるような気がする。しかし現実は本当に悲しい。妙子がお通夜に参列して「故徳永祐二儀」と書かれた葬儀式場案内の写真だけをラインで送ってきた。悲しい写真だね、と返信したけど既読にならない。徳ちゃん、安らかにお休みなさい。12年間ありがとう。

St.Gallen 2017の最中


いま、会場で2日目の病理のセッションを聞いております。断端陽性の定義、浸潤がんではtouch on inkでなければよろしい、とSSO-ASTRO-ASCOコンセンサスになっている、というのは数年前から。再切除にならなければよいのであって、断端にがんは絶対に残ってはいけない、ということである。がんけんは未だにマージン5mmと言っているらしいが完全に時代遅れである。会場にはちらほらがんけん一派がいるけどこのような国際的コンセンサスを日本人の乳がんは特殊だ、で逃げ切るのだろうか。DCISではマージン2mmで十分でこれ以上取る必要はないというのも耳にタコができるほど聞いた。腫瘍内科医の耳にもたこができるものだ。

今回のテーマは、Escalating and De-Escalating Treatment、つまり、足りない治療は加え、過剰な治療は削減しよう、ということ。つまり、原発病巣のマージンも腋窩も取り過ぎはやめようぜ、必要なケモはしっかりやろうぜ、患者との情報共有はもっとふやそうぜ、というような方向で話が進んでいます。