医師として新型コロナウイルスワクチン接種を担当することの意味


浜松オンコロジーセンターでも浜松市医師会の委託をうけ5月から火曜日と土曜日の午後にワクチン接種を続けています。特に問題となる副反応もなく、今日の接種も終了しました。また、大規模接種会場にも日曜日の午後に出向いて予診聴取をおこなっており、医師としての研鑽を重ねております。

浜松オンコロジーセンターでは、私が予診をとって看護師が注射していますが、人手不足のときには私が注射します。内科医といえども切った張ったは、手慣れたものですから筋肉注射ぐらいNo-Problemですが、看護師不在ではじめて私が注射した日、たまたま接種予約した方が妻の親友でしたので、妻が「今日は院長、はじめて注射するんだよ」と、余分なことを言ったためか、親友はあとで、「ものすごく痛かった」と言っていたそうです。でも、それ以降は院長の注射が好評を博しております。

大規模会場では、数人の医師が並行して予診聴取します。ベニヤ板で仕切られたブースなので隣の医師の声がよく聞こえます。緊張してかちかちの接種者に「何か心配なことありますか」と優しく話しかけたり、2回目の接種者に、これで完成ですね、おめでとう、と元気づけたりと、参考にしたくなる予診とりを学ぶことができます。

コロナウイルス感染症はまだまだ続きそうですが、ワクチン接種済みの人口の割合が増えるにつれて、だんだんと猛威はおさまってくるはずです。ワクチン接種は自分のためでもあり、家族、親友、隣人、他人・・と他の人のためでもあり、それを「集団免疫」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E5%85%8D%E7%96%AB と言います。”自分はワクチン受けたくないから”、というのはまったく見当違い、「おまえはアホか??」と言いたくなる。また、「希望者には接種します」というのもとんちんかん。もし、幼稚園のお子さんがいるお母さんだったら、この子のためにも私はワクチンを打ちたい、と思いませんか? ガス総理大臣も厚労省も変に国民に気を遣って、「希望者には全員接種します」と繰り返し言いますが、希望する、しないに関係なく、ワクチンは全ての国民に接種しなくてはいけないのです。国民の義務です。同じ事は、子宮頸がんワクチンにも言えます。社会を感染症から守るためには、社会全体が抵抗力を獲得しなくてはいけないのです。その辺りをはき違えてはいけません。「一人は万民のために、万民は一人のために」ということ、それが「集団免疫の構築に協力する」ということです。

朝礼暮改ならぬ朝礼昼改


ワクチン行政の混乱はおさまりません。先週、浜松市から外付けスキャナーが「無償」で医療機関に配布され、すぐにタブレット(NTTのdtab)に接続しバーコードをスキャナーすることができました。VRA(Vaccination Reporting System)は、ワクチン接種状況をリアルタイムに厚労省、地方自治体に連絡するネットワークシステムです。しかし、NTTのdtabでは、内蔵のスキャナーの性能が驚くほど悪く「誰がどのワクチンの何回目をいつ打ったか」を読み取ることができず、日本中の医療機関がその使用を放棄・断念してしまいました。なので、接種記録が厚労省・自治体に伝わらず 「○○県はワクチン○万本を隠し持っている」という上から目線の表現が、NHKニュースで厚労省のコメントとして報道されるといった状況でした。隠し持ってもなんの得もなく、ただただ配られた端末が不出来で性能が悪いため、報告できないに過ぎないのです。そのような悪意ある誤解の結果、厚労省は自治体に配布し医療機関で接種する「個別接種」を減らし、すべて、集団接種(大会場での接種)に切り替える方針を打ち出し、自治体への供給量を徐々に減らす方針(具体的には今月は100バイアル、来月は60バイアル、その次の月は20バイアル)を発表しました。これに対して日本医師会は「急にはしごをはずされた」と息巻いたのですが、それもそのはず、1回目を打った人は3週間目に2回目を打つので減らしされては困るし、若年者の接種、合併症のある人の接種がどんどんと増えている状況で、ワクチン必要量は増えることはあっても減ることはない、ということであります。厚労省は、「ネット予約に慣れた若者には大規模会場での接種がよく似合う。」などと勝手な事を言っていますが、大規模会場の予約は9時にアクセスしても、毎日毎日つながらず、困り果てた人々が診療所に電話してくるわけです。当院でも、朝から夜まで、休日も平日も、「ワクチン打ってくれますか?」「大規模会場の予約、全然とれないのです。」といった切実な電話がかかってきます。当方としては、申し訳ありません、ワクチンが配布されないんです・・とひたすら謝罪を繰り返す以外に対応策はありません。厚労省の突然の方針変更は、ガス総理大臣の指導力、交渉力、決断力、広報力のなさを物語っているように感じます。ガスではだめだ、スカでもだめだ、二階でも三階でももっとだめだ、と日本の政治力の乏しさが案の定、露呈した感じですね。りつみんならいいかって、それもあてになりません。昔の管(くだ、かん、すが、かす、正解はどれ?)首相がまったくだめだったようにりつみん系に活路はみ出せないような気がします。

お子ちゃまだましのアブラキサン攪拌機(かくはんき)


「タキソール」という抗がん剤は卵巣癌,非小細胞肺癌,乳癌,胃癌,子宮体癌,再発又は遠 隔転移を有する頭頸部癌,再発又は遠隔転移を有する食道癌, 血管肉腫,進行又は再発の子宮頸癌,再発又は難治性の胚細 胞腫瘍(精巣腫瘍,卵巣腫瘍,性腺外腫瘍)など多くの種類のがんに週1回の点滴で使用されています。タキソールは水にとけにくいので「クレモフォール」という「界面活性剤(洗剤のような働きで水に溶けやすくする)」を少し混ぜてありますが、このクレモフォールがやっかいでアナフィラキシー反応(コロナワクチンの副作用として最近では小学生でも知っている副作用)が出るのが大きな欠点なのです。私も何人かの患者さんを、タキソールのアナフィラキシー反応で辛い思いをさせたことがあり、悪夢のようにその光景が浮かび上がってきます。この欠点を補うためにタキソールをアルブミンというタンパク質で包み込んだのがアブラキサンです。あんこをお餅で包んだようなものです。アブラキサンはアナフィラキシー反応はおこさないため安心、安全な優れた薬なのですが、お餅の部分同士がくっついてまとまってしまうので、薬剤師が点滴を準備するときに生理食塩水に溶かすのに時間がかかってしまいます。薬剤師は几帳面な人が多いので、じっくりじっくりと、もくもくと、こつこつと、ゆっくりゆっくりと、ていねいに、ていねいに攪拌してアブラキサンを溶かします。しかし、なかには、こんなめんどうくさいこと、やってられねーや、てやんでー、という江戸っ子のような薬剤師もいるようで、「どうにかなんねーか、こちとらいそがしいんでい、やってられねーよ・ちきしょーめ!!」と言ったか、言わないかわかりませんが、聞きつけた巨人・大鵬・卵焼き製薬が、「アブラキサン専用攪拌機」を調達し「大鵬」のロゴを入れて医療機関に配布し始めました。「なんかケーキ作るのに使えるかもしれなーい」という方向で役立つかもしれませんが、とにかく巨人・大鵬・卵焼き製薬が一生懸命やっていることは評価します。しかーし「やってることどこかちがーう。。。」という感じもします。努力は評価しますが、薬剤師のみなさんの感想も聞いてみなければいけません。しかし、わたしが訴えたいのは「もっと他にやることアルダロー、アブラキサンの週1回投与が使えないのは日本だけだろう」ということです。あれこれ、いろいろな方々の助言を聞いて、乳癌学会を通じて日本医学会に「アブラキサンの週1回投与法を認めて下さい、おねげーしますだ、お代官様」、という嘆願書を出しました。乳癌学会が終われば神野先生も気持ちを取り直して、委員会で承認してくれて、日本医学会に提出してくれるだろうと思います。

はなはだしき朝令暮改の裏話


6月1日の「町の小さな診療所でのワクチン接種のものがたり」でVRS(Vaccination Reporting System:ワクチン接種報告システム)用に厚生労働省から配布されたNTTDOCOMOタブレットでのバーコード読み取り困難問題を独り言ちました。その後、使いにくさの不平不満が益々渦巻き、浜松市ではついに「バーコード読み取りはしなくていいです。ワクチンの搬送を引き受けてくれた薬剤問屋「NK薬品」が読み取り作業を代行しますから。」という通達が市長名で発出されました。えーなんでー、一生懸命工夫したのに、とか、せっかく3万円もする【Honeywell】Xenon1900 次世代ハンディ型 高性能二次元イメージャー バーコードスキャナー(ブラック) 1900GHD-2-USB読み取り装置を購入したのに、という施設からため息がもれました。えーそうなの、じゃあNK薬品がやってくれるのならやってよ、と思っていたところ、昨日、また市長名で「やっぱり各施設で読み取りしてください」という通達がファックスされてきました。この朝令暮改で混乱に輪をかけた状態ですが、何故、こんなドタバタ騒動になったのでしょうか? 想像するに「個人情報の記載された接種券をNK薬品社員がスキャンする、個人情報保護法に抵触するこの行為を浜松市が率先して行う、というのはいかがなものか」というような指摘が有識者からだされたのではないか、と思うのです。そもそも、①NTTDocomoタブレットの内臓のカメラでバーコードをスキャンするという設定が間違っていた、②使いにくい、という苦情に対して、みすぼらしいダンボール箱を配布して乗り切ろうとしたが箱の中が暗くて中にいれた接種券の数字が読み取れない、③懐中電灯、スマホなどで照らすと読み取れるが、それも時間がかかるので、結局、苦情が渦巻いたため、浜松市の場合、朝令暮改のドタバタ劇となってしまったというシナリオが考えられます。現時点での最善の解決は、厚労省ワクチン課の予算で【Honeywell】Xenon XP 1950gハンディ型 高性能二次元イメージャー スキャナーをNTT Docomoタブレットに接続できるようにアダプターをつけて全国のワクチン接種施設に配布することです。これしか方法はありません。よろしくお願い致します。

僕は東京2020+1開催賛成でーす


今日はルーチンの診療を終えCOVID19ワクチンの個別接種者数の調整についてあれこれと討議し、忘れかけていたファイルメーカープロの再学習をして、くたくたへろへろになって自宅にもどったところサッカーのワールドカップ日本代表vsU-24日本代表の試合が札幌ドームからテレビ中継されていました。3-0 でワールドカップ日本代表が勝ったのですが若者たちのハイレベルで真剣なプレーに集中し1日の疲れも吹っ飛び、活力と癒やしを得たような気分になり、僕は思いました。あ~、スポーツの良さってこれなんだなぁと。するとやっぱりぼくは東京オリンピックで水泳、陸上、カヌー、サーフィン、自転車、球技・・・などを観たいなー、東京オリンピック2020+1を開催してほしいなーと思いました。1964年の東京オリンピックの時、僕は小学校三年生。当時、浜松基地に所属していた自衛隊のブルーインパルスが毎日毎日、轟音を響かせ我が家の空に五輪を書く練習をして、はじめのうちは白い煙で5つの輪がなかなかうまくつながらなかったこと、やがて、青・黄・黒(のかわりに白)・緑・赤の5色のきれいな輪になったことを覚えています。また、我が家の前の国道一号線を聖火ランナーがあっという間に駆け抜けていったことなどを思い出します。COVID19ワクチン接種率も急速に高まりつつあり、感染率も徐々に低下しているようですから、僕はオリンピック開催、賛成なんですよねー。東京オリンピック開催は、私たちのアドレナリン分泌を刺激しきっとハイパーワクチンになるんじゃあないかなーーって思っています。

町の小さな診療所でのワクチン接種のものがたり


浜松オンコロジーセンターでもCOVID-19ワクチン接種が順調に進んでいます。

ニュース番組などで、1回目接種した人 ○○人、2回目も終了した人 ○○人と、毎日毎日変わる接種人数が正確に報道されています。

この仕組みは、厚生労働省から医療機関等に事前に配布された「VRS(Vaccination Reporting System:ワクチン接種報告システム)が役立っているからです。

接種対象者(今のところ80才以上)に市、町から郵送された「ワクチン接種券」には本人を識別するバーコードが印刷されており、それをVRSのタブレットで読み込み、接種場所、年月日を入力し、転送ボタンをクリックすると、即座に厚生労働省ワクチン課に送られます。

このタブレット、とても不出来でバーコードが読み取れない、反応が鈍い、ピントが合わないという、使いにくさがあったためか、後日、担当部署からへんちくりんなダンボール箱(縦横A4の大きさ、厚さ5cm)が送られてきました。箱の上にタブレットを置き、箱の中にワクチン接種券を入れると、タブレットのカメラの位置とバーコードの位置がぴったり合う、というものです。しかし、これも全く役立たず!! というのは、箱の中が真っ暗になるため、バーコードを読み取れない、という致命的な欠点がありました。とにかく箱の中を照らせばいいから、キャンプに持っていく懐中電灯で照らしながら読み取れば、さくさくと読み取れることがわかり、登録は順調に進みました。

ところが、昨日、市長名の入った通達が浜松保健所から送られてきて、それによるとバーコードの読み取りはしなくてもいい、ということでした。おそらくたぶんきっと間違いなく、懐中電灯で照らす、という発想のない施設では、「やっぱり使い物にならん!!」との不満が噴出したものと思います。

次の解決策としては、きっと、厚労省はダンボールの内部に豆電球と電池を配置するような「小学生の夏休みの宿題」のようなバージョン2がおくられてくるのではないか、と楽しみにしております。今日も接種が終了、「いつも来ているところでよく知っている先生や看護師さんがいてくれてとても助かります」という評判です。町の小さな診療所での個別接種のお話でした。おしまい。

母を送りて


月初に母が他界した。93才、安らかで穏やかな最期だった。兄夫婦と私たち夫婦の4人で、生前母が愛唱した賛美歌「千歳の岩よ」と「神ともにいまして」を歌い葬儀を終えた。母が亡くなる3ヶ月ぐらい前に、入所していた施設でコロナウイルスのクラスターが発生したので面会は一切できなくなった。認知機能もだいぶ低下していた頃、最後に妙子とふたりで母に面会した時のこと、私がスマホを見ながら百人一首の上の句を読むと、母は弱々しい声で下の句を全て間違いなく唱えることができた。息子として14年前に父を送りそして今月母を送った。両親の良い思い出がたくさんたくさん残っている。

生前、母は盲人のために書籍を朗読し録音するボランティア活動「かたりべの会」に参加していた。私が大学生の頃に帰省したときなど、その活動をしている浜松市図書館に車で送り迎えしたことがあった。また、医師になって郷里に戻り、浜松オンコロジーセンターを開設したころに、私が担当していた患者さんから「おかあさんの朗読をいくつも聞いていますよ。」と言われたことがあった。母の葬儀の数日後、ふと「かたりべの会」のことを思いだし、浜松市図書館に電話して、「母が他界し、母の声のテープをダビングしたいのだけど貸してもらえるでしょうか?」と尋ねた。その時は担当者不在だったが本日、かたりべの会の方から電話があり「著作権法で盲人以外に貸し出すことは禁じられているのでお貸しできません。」とのことであった。「さぞかしお寂しいことでしょう、お越し頂ければお母様の朗読テープ、数本でしたらお貸し致しましょう。」ぐらい言ってくれてもいいのにと思ったか、昨今はコンプライアンス(法令遵守)を徹底しなければいけないので、それはそれで非常に正しい対応ではある。しかし、なんとも非情で悲しい対応である。どうにかならないだろうか、この小役人的世の中よ!

悪くないね COVID19 ワクチン行政


医療従事者に対するCOVID19ワクチン接種に大方のめどがつき、次は80才(来年の3月までに80才になる、現在79才)以上の人たちへのワクチン接種プロジェクトが着々と進行しています。私どもの医療機関でも浜松市ワクチン班へのワクチン発注、接種希望者の受付および接種日調整予約作業が進んでおり、「打つワクチン」と「打たれる人」の緻密なマッチングは結構な醍醐味であります。コミナティ筋注(ファイザー製)は、-80℃で保管され(Deep Freezer)、ドライアイス充填配送箱での搬送(−79℃)(中北製薬という問屋が浜松市から搬送請負:癒着はないはず)、私どもの医療機関で受領後−25℃(Standard Freezer)で2週間まで保存可能、冷蔵庫で3時間または室温で30分で解凍、添付の生理食塩水で希釈、激しく振ると泡立つので静かに転倒混和、1バイアルから6人分なのか5人分なのかは一定していないけど、とりあえず市役所からの指示は「5人分」ということになっています。バイアル番号何番のコミナティ(筋注)を、接種券番号何番の人に何月何日何時何分に接種したという履歴は、政府と浜松市から支給されたVーSYSとVRSという2つのアプリケーションとタブレット端末を使ってきちんと厚労省と市役所とに伝わる仕組みになっています。この一連のCOVID19ワクチン行政を理解するのに大変苦労しましたが、慣れるとかなり円滑に対応できるようになり、緻密なワクチン行政は決して悪くはないと思います。しかし、室温で長期間保管できて、お一人様一バイアル使用の「インフルエンザワクチン」のような扱いができる「すぐれものワクチン」が登場すればこんなにややこしい「ワクチン行政」を運用しなくてもいいのでしょう、お金もかかるし。第一三共でも日本化薬でも武田薬品でも、日本の超一流製薬企業が進取の気性をもって「室温で安定、お一人様一バイアル型のワクチン」を開発する日を頚を長くして待っておりますよ。

新型コロナウイルス ワクチン 日本遅発について思うこと


イスラエル人の60%以上がCOVID-19ワクチンの接種をうけていますが日本人は2%以下。先陣を切ったファイザー社のワクチン「コミナティ」の供給が少しづつ安定しつつあり、他に海外5社、国内4社がワクチン開発、また既存製品の国内でのライセンス生産にもめどが立っている、とのことですが、日本では何故接種率が低いのか、ということがしばしば指摘されています。現在進行形の「政府、地方自治体、日本医師会など、国を挙げての大規模事業」により我が国の接種率は徐々に上がってくることは間違いありませんが、どうして、「先進国であるはずの日本」でワクチン接種が遅れているのか、私なりに考えて見ました。

(1)大手製薬企業の多くがユダヤ系企業であり、完成したワクチンの納入をユダヤ人の心の故郷イスラエルへ優先する。(2)日本では古くから日本人特殊論があり「欧米人と日本人では薬に対する反応が異なる。日本人は薬やワクチンに弱いので、欧米で開発された薬剤、ワクチンは副作用が出やすい」と信じられてきた。そのため(3)海外で開発されたワクチンでも、もう一度日本人で臨床試験をやり直さないといけない、あるいは海外で海外人を対象におこなった試験で得られた効果、安全性を信頼しようとしない(4)かといって、日本で独自に臨床試験をやりなおすほどの「土壌」がない。(5)なんとなく、他国で接種が進み、大丈夫そうだという感触が得られ、日本にも早く導入しなくてはいかんだろう、という世論が形成されるまで、政府は重い腰を上げない。

私はがん領域の国際共同臨床試験や、国内の治験(製薬企業が主導する臨床試験)、国内の研究者主導型の臨床試験に長年に亘り数多く関わってきた。その歴史は「日本人は抗がん剤に弱い、とか、欧米人は肉を食ってるから体力がある」などといった理不尽な迷信を信じる年配医師たちとの孤立無援の戦いでもあった。その長い歴史を経て、今や「理不尽な迷信」は完全に払拭され、若い世代の医師たちは、立派にグローバルで活躍できるだけの知力、体力、精神力、コミュニケーション力を備えている。ワクチンの領域でもコミナティのようなmRNAワクチンの開発には、基礎的研究で日本人の研究者が大きな貢献を果たしてきたので、基礎的研究力は申し分ない。しかし、その開発力を国民の健康、福祉に結びつけるような臨床研究、薬剤開発、承認審査などの段階では、ブレーキがかかっているように感じる。大部分の薬剤の承認後の一般臨床での使用経験から日本人での効果、副作用の状況は、欧米人(白人)での効果、副作用状況と全く変わらない、というのが現実である。なのであまり、日本人特殊論にこだわらず、海外で有効性、安全性が検証された薬剤はそのまま、日本での使用が承認されてもいいのではないか。今般のCOVID-19 ワクチンについても、菅首相の口から「日本人でのデータが少ないため・・」という言葉が出たことは、厚労省の日本人特殊論への時代遅れのこだわりが背景にあるのではないだろうか。

その他の理由としてはワクチンに対して、子宮頸がんワクチンの事例のように理不尽に反応する集団が存在することだ。また、ワクチン接種の目的は、個人に免疫を付与するのみならず、集団全体が抵抗力を獲得する集団免疫の構築である。しかし、マスコミ報道で、集団免疫の重要性はほとんど語られず、たいして重篤でもない副作用を過剰に報道し、国民をワクチン恐怖症に陥れる風潮は、いかがなものかと思う。

タンカー座礁から思い出すその他の座礁


スエズ運河で大型タンカーが座礁(stranded)し、運河を航行する500隻以上の船が足止めを食い、そのあおりで石油価格が高騰しています。タンカー座礁は大潮の干潮が原因だったようですが、座礁で連想したことがいくつかありました。昨年、浜名湖で妙子とふたりでレンタルモーターボートで遊んだ休日(注:一級船舶操縦士免許を取得した記念でしたが)、今切れ口近くで座礁、1時間近く動けなくなり楽しいはずの休日が険悪な雰囲気になりました。strand (座礁)は「困った状況に陥る」という意味もあり、まさにその通りだな、と思いました。一昨年、静岡の高木くんのヨットで行った伊豆合宿、下田の浮き桟橋(ポンツーン)に停泊していたヨットが干潮でセンターボードが砂地でstrandし、潮が満ちるまでの2時間かかりましたが、その間、二人で思い出話、小説「漂流」の話などなどを楽しみ、必ずしも困った状況ではない座礁もあるもんだ、と思った次第です。