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サンアントニオケースディスカッション
今年もケースディスカッションは健在だ。司会は昨年同様ジェニーちゃん(腫瘍内科医)、パネリストにはポールゴス(腫瘍内科医、MA17などで有名)、ジョイスオショウーネッシー(腫瘍内科医、いろいろで有名)、マイケルディクソン(エジンバラの乳腺外科医だが薬物療法の発表をする)、トーマスバックホルツ(MDアンダーソンの放射線治療医)、ウォルターヨナ(キールの婦人科、ZEBRA TRIALで有名)、ウェイヤン(MDアンダーソンの画像診断医)の面々に加えて患者さんひとり。
今年は、プログラムにもしっかり掲載されたためか、聴取は大変多い。相変わらず音響効果の悪いBallroom Aでの開催である。
症例 ① 52才女性、2002年に2cmの浸潤性乳管癌(グレード2)、ER陽性、PgR 陰性、再発後の測定してHER2過剰発現あり。術後ケモはFEC→タキサンで、そのあとタモキシフェン継続していた。2005年に肝臓に12mmの転移あり、HER2 陽性だったのでハーセプチン開始しホルモン療法をアナストロゾールに変更。2年ぐらいで肝転移はCR、脳転移もなしで4年経過。さて、質問者は「この症例は治るでしょうか?」と問うた。パネリストからは、治ることを期待はしたいがわからない。アナストロゾール、ハーセプチンを継続するのがよいでしょう。ということで大体一致した。
私だったら肝転移が出た時点で、まず、アナストロゾールに変更しただろう。それで、効果がなければハーセプチン+化学療法を選択すると思う。タンデム試験で示されたように最初からホルモン+ハーセプチンを併用すれば腫瘍縮小効果は高く、効果持続期間は長い、ということなので、同時併用という手もあるが、どちらが効いたのかが分からなくなるから、やはり、アナストロゾールへの変更で経過を見るだろう。しかし、ER陽性、PgR陰性ということだとホルモン療法の効果の期待は低いか、すると、ハーセプチン単独で開始という手もあると思う。
症例 ② 27才女性
肝転移、骨転移、脳転移を伴うstage IV乳癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。抗がん剤としてアンソラサイクリン、タキサン実施てある程度病状はコントロール出来ている。局所は、皮膚変はあるが腫瘍は蝕知しない、という状況、さて、質問者は「原発病巣の手術は必要か?」と問うた。パネリストからは、局所コントロールが必要ならば手術をするがその場合には、preserve shape(形を残す)ということを考えて最小限の切除のとどめるべきであるという意見。また、ポールゴスは、ホルモン療法をしっかりとやるのがよい、ホルモン療法がunderutilizeの傾向にあるからと。また、ビスフォスフォネートを勧める意見もあった。
私もパネリストの意見にほぼ同感である。最近、わけのわからない外科医がほざくような、遠隔転移があっても原発病巣は切除した方がいい、という意見はでなくて、むしろ、バイアスのかかった検討結果なので、局所コントロールが必要ならば局所の切除をするのがよい、という妥当な意見であったので安心した。
症例 ③ 47才女性 高血圧症、肥満あり。右乳癌(T2N0M0)で乳房切除術、センチネルリンパ節生検実施したところ、isolated single cellあり。ER陽性、PgR陰性、HER2陰性。OncotypeDxでは中間リスク。TC4サイクル後タモキシフェン内服。2年後に腋窩リンパ節転移あり、腋窩廓清し10個以上陽性であった。今後、放射線治療を行い、AIに変更する予定。さて、質問者は「AIを開始する前に化学療法をやるかどうか?」と問うた。パネリストの意見は様々であったが、オショウネッシーは、ゼローダをやると。局所疾患であるので、治癒を目指した局所療法をきちっとやるのがよいという意見。放射線の照射野は、胸壁にもかけるか、腋窩だけにするか、鎖骨上はどうするか。反対側はMRIで診ておく必要があるか、ないか、というような議論が続いた。
私の意見は、ケモはやらない。AIに変更して経過を観察し、遠隔転移などで増悪してきたらMPA,に変更、その次にケモという選択になるだろう。局所については、胸壁に照射する意味はないようが、腋窩、鎖骨上への照射は必要だと思う。
症例 ④ 56才女性 検診で石灰化で見つかった。部分切除をおこない2.8cmの乳癌、大部分はDCISだが5か所に1mm以下の浸潤がある。triple negative、腋窩リンパ節転移陰性。さて、質問者は「ケモはやるかやらないか?」と問うた。パネリストの意見は、一致してケモはやらない、というもの。オショウネッシーは、HER2 陽性のようなaggressive biologyなら、ケモ+ハーセプチンはやる、といった。
私の意見としては、ケモはやらない。もし、HER2陽性の場合、これは、aggressive biologyだから、というのではなく、効果の期待できる治療があるから、という理由で、ケモ+ハーセプチンをやる。微小浸潤癌の全身治療は悩ましい。
症例 ⑤ 64才女性 胸壁と腋窩の腫瘤で発症。調べてみると、胸壁の腫瘤は、ectopic breast tissueで、腋窩は転移である。ステージはT4 N1M0 stage IIIBということになる。組織型は小葉癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。本来の乳房には明らかな腫瘤はふれない。さて、質問者は「どのような治療がよいか?」と問うた。パネリストの意見は、TACあるいはFAC→weekly paclitaxelなどによる化学療法を行い、放射線照射、場合によっては、手術。局所疾患であるので、curative intentで臨むべきだ、というポールゴスの意見
私の意見も同じである。治療を考える際に、全体計画をたてることが大切で、基本的に、治癒をめざす治療をくみたてるのか(これをcurative intentで臨むという)、あるいは症状緩和、延命をめざすのか(これをpalliative intentで臨むという)を、しっかりと考える必要がある。多くの外科医はこのあたりの全体計画を立てるという点で弱いようだ。
症例⑥ 29才女性、本人はがんはない、というか発症していない。母親が51才で乳癌で死亡、BRCA はわからない。姉妹が乳癌でBRCA1変異陽性。そのため、予防的乳房切除をうけたが、乳癌はなかった。術後深部静脈血栓をおこしたり、感染をおこして右腕のリンパ浮腫になったりという状況だった。さて、質問者は問うた、「予防的卵巣摘出除術はどうするか、いつやるのがよいか?」と。パネリストの意見では、BRCA1変異陽性は、BRCA2変異陽性に比べて卵巣癌発症の頻度が高いので卵巣摘除は実施すべきだ。ガイドライン的には40才前にやるのがよいだろう。その前に妊娠出産はどうするか、卵巣摘除を行ったらホルモン補充療法をしても既に乳切してあるので問題はなかろう。
私の意見、このような問題はあまりつっこんで考えたことがないので、勉強になった。
症例⑦ 60才女性 術前化学療法、乳切後の症例。放射線照射をどこに何グレイ、どのようにかけるか、という、インド系アメリカ人の医師からの技術的質問。
私の意見、放射線治療の先生、よろしくお願いします。
症例⑧ 31才女性 右乳癌4cm大、腋窩リンパ節腫大もある。CNBでER 陽性、PgR陽性、HER2陽性。妊娠7週目であることがわかったが、個人的な理由で中絶はできない。さて、質問者は問うた、「どのような治療がよいか、ケモはやってもよいか、ハーセプチンはどうするか?」と。パネリストの意見は、乳房切除術と腋窩廓清をする。センチネルリンパ節生検は、安全性が確立していない。妊娠中期になったら、ACをやる。妊娠中のタキサン、トラスツズマブの安全性は分からないので、分娩後にタキサンとトラスツズマブは行う。
私の意見も同じ。妊娠中のケモは、ACをひとり、実施したことがある。今後、イメンドなどがでるが、妊娠中に制吐剤の使用など、どうなんだろうか、勉強する必要があります。
今回はこんなところです。
「お金と医療文化」in NEJM
電子カルテ(2)
ふつうの生活 -その2-
普及するはずない太陽光発電
シャープのコマーシャルで「すべての日本の屋根に太陽光発電を、これがシャープの提案です」っていうじゃない、しかし、京都議定書が発効したにもかかわらず、太陽光発電の国からの補助金は、昨年に比べて半減、しかも、手続きの書類は、異常に細かく、非合理的で、これでは、ハードルを高く、高くして補助金をあきらめるさせるようなドライブを感じます。これでは、太陽光発電が普及するはずがない、と思います。
浜松オンコロジーセンター発展計画
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祖父の代からの渡辺内科医院(EBMの原点)に腫瘍学診療を60%程度加え渡辺内科医院://浜松オンコロジーセンターとしてバージョンアップする。
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腫瘍学診療は乳癌を中心にした外来薬物療法、セカンドオピニオン提供、癌万相談(がんよろずそうだん)などを行なう 。
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生活習慣改善のための地域啓蒙活動を行なう(日の出クラブなど) 。
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乳腺外科医との高品質な連携を図り地域の乳癌診療を高レベルに持って行く。
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合併後の浜松(Greater Hamamatsu)のがん診療レベルの均填化を図る。
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中部腫瘍学研究グループ(Central Oncology Group: COG)を設立し浜松発世界行のエビデンスを発信する。
上棟式
癌医療に求められること(6)
グループ診療をささえるためのカンファレンス
私がレジデントとして研修を受けた頃の国立がんセンター病院内分泌グループは、乳がんを中心に、病態や治療にホルモンが関与する疾患の診断、治療を担当していた。阿部先生のほか、4名のスタッフ医師がおり、毎週火曜日の病棟回診では、この5人に私を加えた6名がナース・ステーションに集合し、約20名の入院患者一人づつについて、問題点、治療内容、今後の方針を担当医師が提示、とくに、個々の症状や徴候の背景となっている病態生理に関して、全員が共通の理解が得られるまで徹底的に議論が展開された。時には、口角泡を飛ばすような激しい議論になることもあった。印象に強く残っているのは、私が担当した38才の転移性乳がん患者、肺、肝臓、全身の骨に転移があり、寝たきりに近い状態であった。膝から下や口の周りが痺れる、という症状から始まり、次第に手もうまく動かなくなっていた。カンファレンスで、脳転移、抗がん剤の末梢神経障害、脊髄転移、ビタミン不足など、様々な鑑別診断が挙ったが、阿部先生から「カルシウム値はどうだ?」との指摘あり、測定すると低値であった。つまり「低カルシウム血症」、いわゆるテタニーの状態だったのである。骨転移を伴う乳がんでは、骨が破壊されカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウムが高い値をしめす「高カルシウム血症」がしばしば見られる。それなのに、低カルシウム血症。理由がよくわからない。おそらく、ふつうの病院では、ここまでの鑑別はたどりつくだろう。そして、点滴の中身にカルシウムを追加して補正を試みることはするだろう。しかし、このチームでは、そこからの追求がすさまじかった。「なぜ、低カルシウム血症なのか?」、「造骨性骨転移(がんが骨に転移した結果、骨が溶けるのではなく、骨のカルシウム分がむしろ増加して骨が硬くなる転移形態、前立前癌の骨転移に多いが乳癌でもときに見られる)で、骨にカルシウムが取り込まれているのではないか。」、「いやいや、健常人の血清カルシウム値の調節には様々なホルモンやビタミンが関わっているからそう簡単には乱れないものだ。」、「じゃあ健常ではないとすれば、どこを調べればいいのか」、「ビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、血清アルブミンなどは調べる必要があるだろう」・・・。ということで、調べてみた結果、副甲状腺ホルモン(Parathyroid Hormone: PTH)が異常に低い、ということがわかった。PTHは、血清カルシウム値を上昇させる働きをもつホルモンだ。翌週のカンファレンスで、「低カルシウム血症の原因はPTH低値でした。」と発表したところ、「なぜPTHが低いのか?」、「いつから低くなったのか?」という話になり、「検査室に凍結保存してある過去の血清を使ってPTHを測定してみよう」ということになった。測定の結果、血清カルシウム値の低下と同じように、PTHが日を追って低下しているのがわかった。正常ではカルシウム値が低下すると、それを補正するためPTHは上昇する。どうやらPTHの分泌が悪いようだ、つまり、副甲状腺機能低下症ということになる。副甲状腺は、のどの甲状腺の裏側の四隅に張り付くようにある大豆ぐらいの大きさの内分泌腺だ。副甲状腺機能が低下する理由が、皆目検討がつかない。当時は、インターネットもない時代だったので、図書館司書のお姉さんに文献を検索してもらったが、そのような報告は全く見あたらなかった。結局、亡くなった後の病理解剖で、気管と甲状腺の間の隙間をはうように乳がん細胞が転移しており、副甲状腺が完全に破壊されていたのである。病棟カンファレンスでのこのような徹底的な討論で、ほぼ、病態の全容が解明できた。このとき、これが、内科の神髄なのだな、と感じた。とかく、がんの末期状態の患者では、どんなことがおきてもおかしくない、というような対応で、病態生理が解明されないことが多いように思う。腫瘍内科医は、まず、内科医である、というのは、こういうことなのだ。また、徹底した討論は、診療グループ内での問題解決や意志決定プロセスを熟成させ、共有化するには不可欠である。私が診療グループをまとめる立場になったときも、十分な議論を通じて、がん患者の病態生理を解明しようという姿勢を重視した。レジデント教育にはたいへん有意義だと高い評価を得た反面、そのような議論を、無意味、不毛、時間の無駄、と切り捨て、カンファレンスにも出席しない、出席しても腕を組んで居眠りをしている医師もいたが、グループ診療、チーム医療を、実践するためには、常日頃からの、担当者間の意思疎通のための徹底的な討論の積み重ねが不可欠である。
癌医療に求められること(4)
「目に見えるものは切りましたという詭弁」と「てんこ盛り治療」
遠隔転移を来した場合、外科手術はあまり役立たない。腹腔内に広く拡がった胃がんの転移病巣に対して、外科手術を敢行し「目に見えるものは全部とりました」という説明が、いかにむなしいものか、は、数年前、がん告知で話題をまいた芸能人のケースでも実証ずみであろう。確かに、胃がんは、固形がんのなかでは、比較的、抗がん剤が効きにくい。もし、上記の外科医の対応を腫瘍内科医が「無意味な手術ではないか」、とコメントしたとすると、「抗癌剤では見えるものすら消せないだろう。」というような反論が予想できる。しかし、この反論には、治療をうける側の患者の視点が完全に欠落している。内科医対外科医の対立軸ではない。患者は、意味のある治療を希望しているのである。
一方、抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法が進歩したといっても、遠隔転移を伴った状態では、若年男性の睾丸腫瘍や、分娩後の絨毛癌など、極めて感受性の高い一部の疾患以外ではなかなか治癒をさせることは難しいのが現状である。遠隔転移を来した場合、治療目的は、クオリティオブライフ(生活の質)の向上であり、延命である。しかし、遠隔転移を来した患者の治療で、しばしば遭遇するのは、効果のあると思われる治療薬剤をすべてまとめて投与する、てんこ盛り治療である。これでは、何が効いていて、何が効いていないのか、が全くわからなくなってしまう。特に転移性乳がんでは、3-4種類のホルモン剤、4-6種類の抗がん剤が有効であり、これらを如何に効果的に使用していくか、ということが、質の高い延命につながることは検証済みである。