歴史は繰り返さない方がいい


ドラッグラグ、つまり海外で使える薬が日本で使えないという話がまたまた問題になっていて、これを解消するため厚労省に委員会が立ち上がったという話をニュースでやっていた。またまた、というのは、2003年にも、当時の野党だった仙石議員が日本で使えないがん治療薬があることを指摘、坂口大臣の肝いりということで「抗がん剤併用療法に関する検討会」というのができた。私もその委員会の委員をやるようにいわれてエピルビシンのFEC100、ACの60mg/m2、デカドロンの制吐剤としての適応、などが治験なしで承認されるように仕事をした。さらに乳癌に対するカルボプラチン+パクリタキセル+トラスツズマブなど、もうすこし仕事をするぞ、というときに、唐突に「この委員会は今回で打ち切りです」ということになって1年ぐらいで幕を閉じた。今思えば、あれは未承認薬に対する国民の不満が表立ってきたので、そのガス抜きのために、周回遅れの積み残し薬剤を一挙に、超法規的に承認してしまおう、という活動だったのだ。委員長は、黒川清先生だったが、なんか、一人で喋っていたような印象がある。それで、また、今度、患者団体などからの不満解消、ガス抜きのために委員会が立ちあがったのである。こんな感じで歴史は繰り返されており、なんら進歩もなく、行政の不作為が繰り返されていく。なぜ繰り返されるのか、それは、薬事行政に根本的な欠陥があるからだ。抗がん剤が特に注目されているが、他の領域の薬剤でも、承認遅れは結構あるようで、たとえば、先月承認された新しい糖尿病治療薬「シタグリプチン」は米国で承認されたのが2006年だからドラッグラグは4-5年ということになる。癌治療薬がとくに脚光を浴びるのは「癌は命にかかわる病気」ということになっていて「命を助ける夢の薬を厚労省が認めてくれない」という構図は世論に訴えやすいということのようだ。しかし、ドラッグラグで話題になってきたドキシルとかアバスチンとか、あれば治療の幅は広がるが、命を助けるというほどのパワーは残念ながらない。先進国では承認されていて世界で承認されていないのは日本と北朝鮮だけという、笑い話のようなことが癌治療薬ではよくある現実なのだ。なぜ、ドラッグラグが生じるかというと、それは、承認するプロセスが遅い、というような単純な話ではない。私が思うに、当局は審査、承認する能力もないのに、手とり足とり、ああせい、こうせいと、口を出しすぎるからいけないのだ。たとえばパクリタキセルについて。当初は3週1回投与というのが、乳癌で承認された用法であった。しかし、日本で乳癌治療に承認された1999年、既にアメリカでは週1回投与方法がいいという兆しが報告された。この方法をやってみると確かに効果は高いし副作用も少ない。それで、一気に広まる気配を示した。しかし、承認されていない用法ということで、あちこちの病院で「保険で切られた」という話が全国に広まった。しかし米国では、術後治療、再発後治療、術前治療、いずれでもパクリタキセルは週1回投与方法のほうが3週1回投与方法よりも優れているというエビデンスががんがん出てきたにも関わらず、日本では、週1回投与は、法律違反とまで言い出す体制派も現れ、挙句に週1回投与方法の治験を行うということになって、それでやっと承認されたのが2007年12月だ。だから、パクリタキセルは乳癌治療に使用OKということを承認したら、用法とか、組合せとか、エビデンスが次から次にでることについていけないのだから、とやかく言わない方がよいのではないか。がん対策基本法もできた事だし、用法、用量、併用方法などの現場的な話は癌治療の専門家にゆだね、当局は、手とり足とり余分なことは言わないようにしたらどうだろうか。最近のはなまる行政はジェムザールを単剤で乳癌治療に承認した事。よしよし、そうこなくっちゃ。大きな政府になりたいのなら大きな人間になりなさい、というわけだ。間違った歴史は繰り返さない方がいい。

サンアントニオケースディスカッション


今年もケースディスカッションは健在だ。司会は昨年同様ジェニーちゃん(腫瘍内科医)、パネリストにはポールゴス(腫瘍内科医、MA17などで有名)、ジョイスオショウーネッシー(腫瘍内科医、いろいろで有名)、マイケルディクソン(エジンバラの乳腺外科医だが薬物療法の発表をする)、トーマスバックホルツ(MDアンダーソンの放射線治療医)、ウォルターヨナ(キールの婦人科、ZEBRA TRIALで有名)、ウェイヤン(MDアンダーソンの画像診断医)の面々に加えて患者さんひとり。

 

今年は、プログラムにもしっかり掲載されたためか、聴取は大変多い。相変わらず音響効果の悪いBallroom Aでの開催である。

 

症例 ① 52才女性、2002年に2cmの浸潤性乳管癌(グレード2)、ER陽性、PgR 陰性、再発後の測定してHER2過剰発現あり。術後ケモはFEC→タキサンで、そのあとタモキシフェン継続していた。2005年に肝臓に12mmの転移あり、HER2 陽性だったのでハーセプチン開始しホルモン療法をアナストロゾールに変更。2年ぐらいで肝転移はCR、脳転移もなしで4年経過。さて、質問者は「この症例は治るでしょうか?」と問うた。パネリストからは、治ることを期待はしたいがわからない。アナストロゾール、ハーセプチンを継続するのがよいでしょう。ということで大体一致した。

 

私だったら肝転移が出た時点で、まず、アナストロゾールに変更しただろう。それで、効果がなければハーセプチン+化学療法を選択すると思う。タンデム試験で示されたように最初からホルモン+ハーセプチンを併用すれば腫瘍縮小効果は高く、効果持続期間は長い、ということなので、同時併用という手もあるが、どちらが効いたのかが分からなくなるから、やはり、アナストロゾールへの変更で経過を見るだろう。しかし、ER陽性、PgR陰性ということだとホルモン療法の効果の期待は低いか、すると、ハーセプチン単独で開始という手もあると思う。

 

症例 ② 27才女性

肝転移、骨転移、脳転移を伴うstage IV乳癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。抗がん剤としてアンソラサイクリン、タキサン実施てある程度病状はコントロール出来ている。局所は、皮膚変はあるが腫瘍は蝕知しない、という状況、さて、質問者は「原発病巣の手術は必要か?」と問うた。パネリストからは、局所コントロールが必要ならば手術をするがその場合には、preserve shape(形を残す)ということを考えて最小限の切除のとどめるべきであるという意見。また、ポールゴスは、ホルモン療法をしっかりとやるのがよい、ホルモン療法がunderutilizeの傾向にあるからと。また、ビスフォスフォネートを勧める意見もあった。

 

私もパネリストの意見にほぼ同感である。最近、わけのわからない外科医がほざくような、遠隔転移があっても原発病巣は切除した方がいい、という意見はでなくて、むしろ、バイアスのかかった検討結果なので、局所コントロールが必要ならば局所の切除をするのがよい、という妥当な意見であったので安心した。

 

症例 ③ 47才女性 高血圧症、肥満あり。右乳癌(T2N0M0)で乳房切除術、センチネルリンパ節生検実施したところ、isolated single cellあり。ER陽性、PgR陰性、HER2陰性。OncotypeDxでは中間リスク。TC4サイクル後タモキシフェン内服。2年後に腋窩リンパ節転移あり、腋窩廓清し10個以上陽性であった。今後、放射線治療を行い、AIに変更する予定。さて、質問者は「AIを開始する前に化学療法をやるかどうか?」と問うた。パネリストの意見は様々であったが、オショウネッシーは、ゼローダをやると。局所疾患であるので、治癒を目指した局所療法をきちっとやるのがよいという意見。放射線の照射野は、胸壁にもかけるか、腋窩だけにするか、鎖骨上はどうするか。反対側はMRIで診ておく必要があるか、ないか、というような議論が続いた。

 

私の意見は、ケモはやらない。AIに変更して経過を観察し、遠隔転移などで増悪してきたらMPA,に変更、その次にケモという選択になるだろう。局所については、胸壁に照射する意味はないようが、腋窩、鎖骨上への照射は必要だと思う。

 

症例 ④ 56才女性 検診で石灰化で見つかった。部分切除をおこない2.8cmの乳癌、大部分はDCISだが5か所に1mm以下の浸潤がある。triple negative、腋窩リンパ節転移陰性。さて、質問者は「ケモはやるかやらないか?」と問うた。パネリストの意見は、一致してケモはやらない、というもの。オショウネッシーは、HER2 陽性のようなaggressive biologyなら、ケモ+ハーセプチンはやる、といった。

 

私の意見としては、ケモはやらない。もし、HER2陽性の場合、これは、aggressive biologyだから、というのではなく、効果の期待できる治療があるから、という理由で、ケモ+ハーセプチンをやる。微小浸潤癌の全身治療は悩ましい。

 

症例 ⑤ 64才女性 胸壁と腋窩の腫瘤で発症。調べてみると、胸壁の腫瘤は、ectopic breast tissueで、腋窩は転移である。ステージはT4 N1M0 stage IIIBということになる。組織型は小葉癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。本来の乳房には明らかな腫瘤はふれない。さて、質問者は「どのような治療がよいか?」と問うた。パネリストの意見は、TACあるいはFACweekly paclitaxelなどによる化学療法を行い、放射線照射、場合によっては、手術。局所疾患であるので、curative intentで臨むべきだ、というポールゴスの意見

 

私の意見も同じである。治療を考える際に、全体計画をたてることが大切で、基本的に、治癒をめざす治療をくみたてるのか(これをcurative intentで臨むという)、あるいは症状緩和、延命をめざすのか(これをpalliative intentで臨むという)を、しっかりと考える必要がある。多くの外科医はこのあたりの全体計画を立てるという点で弱いようだ。

 

症例⑥ 29才女性、本人はがんはない、というか発症していない。母親が51才で乳癌で死亡、BRCA はわからない。姉妹が乳癌でBRCA1変異陽性。そのため、予防的乳房切除をうけたが、乳癌はなかった。術後深部静脈血栓をおこしたり、感染をおこして右腕のリンパ浮腫になったりという状況だった。さて、質問者は問うた、「予防的卵巣摘出除術はどうするか、いつやるのがよいか?」と。パネリストの意見では、BRCA1変異陽性は、BRCA2変異陽性に比べて卵巣癌発症の頻度が高いので卵巣摘除は実施すべきだ。ガイドライン的には40才前にやるのがよいだろう。その前に妊娠出産はどうするか、卵巣摘除を行ったらホルモン補充療法をしても既に乳切してあるので問題はなかろう。

 

私の意見、このような問題はあまりつっこんで考えたことがないので、勉強になった。

 

症例⑦ 60才女性 術前化学療法、乳切後の症例。放射線照射をどこに何グレイ、どのようにかけるか、という、インド系アメリカ人の医師からの技術的質問。

 

私の意見、放射線治療の先生、よろしくお願いします。

 

症例⑧ 31才女性 右乳癌4cm大、腋窩リンパ節腫大もある。CNBER 陽性、PgR陽性、HER2陽性。妊娠7週目であることがわかったが、個人的な理由で中絶はできない。さて、質問者は問うた、「どのような治療がよいか、ケモはやってもよいか、ハーセプチンはどうするか?」と。パネリストの意見は、乳房切除術と腋窩廓清をする。センチネルリンパ節生検は、安全性が確立していない。妊娠中期になったら、ACをやる。妊娠中のタキサン、トラスツズマブの安全性は分からないので、分娩後にタキサンとトラスツズマブは行う。

 

私の意見も同じ。妊娠中のケモは、ACをひとり、実施したことがある。今後、イメンドなどがでるが、妊娠中に制吐剤の使用など、どうなんだろうか、勉強する必要があります。

 

今回はこんなところです。

「お金と医療文化」in NEJM


 
浜松オンコロジーセンターを立ちあげたときに、経営者として読んで役に立った本は「さおだけ屋はなぜ潰れないか」である。その中で「いずるを制しはいるを計る」ことが重要だ、ということを学んだ。確かに今でこそエアコンのスイッチはこまめに切るし部屋の電気も消すようになった。山王メディカルプラザに勤めていたころは銭ゲバに対する腹いせもあり夏には夜中もクーラーをキンキンにかけていたことを考えると180度の更生である。少し前にIWT大学の医局を見せてもらった時のこと。日曜日の朝だったが研究室、医局、実験室など、すべての部屋には電気がこうこうと灯りテレビもガンガンとつけっぱなし。古き良き時代を感じた。
 
さて今週号のNew England Journal of Medicineに「Money and the changing culture of Mediciene」という論説記事が載っていた。訳せば表題のとおり。医療の分野にもビジネスの考え方が強烈に入り込んできており、医師の医療行為、行動もすべて、市場原理、経済原則の物差しで判断されるようになっているのは、日本でもアメリカでも同じ。しかし、医師が医療を行う際、やりがいとか、達成感とか、充足感とかは、必ずしも「収入」とか「給料」とかではなく、社会から期待される医師としての専門性が発揮できたとき、とか、日頃の勉強や鍛練の成果が診断や治療に役立ったときにえられるのである。それが、この不況で医師の働きをすべて、経営効率で評価される風潮が強くなっている。浅薄な若者は「最小限の努力で最大限の収益をえよう」ということを考える。そうすると見かけ上9時5時シフトで勤務時間が限られていて楽そうに見える麻酔科や放射線科や眼科なんかを志向するものが増えて、がん医療や小児科、産科に進む若者がへってしまうのだ。我々はよく患者の治療方針や画像診断や病理診断などについて同僚や先輩に非公式に助言を求めることがある。こういうのも専門家としての責任感や向上心から自発的におこなっているのだが、ここにビジネスを持ち込んだらどうなる?「先生、今のコンサルテーションは15分ですので4500円プラス消費税になります。それでよろしかったでしょうか」なんていうことになったら、お前はアホか、と愛想を尽かされてしまうでしょう。それで、NEJMで主張しているのは、医療をビジネスの尺度だけで計ると医療の質は低下し、かえって効率が悪いよ、ビジネス対応と、やりがい対応とのバランスをうまくとらない限り、医療の劣化はさけられませんよ、ということです。激しくうなずいてしまいます。

電子カルテ(2)


電子カルテ、オーダリングシステム、診療支援システム、医事会計システム、など、病院や診療所で使用されるコンピュータを使った情報処理、管理システムは、いろいろな名称で呼ばれています。もちろん、これらは、少しづつ機能が違います。もともと、病院、診療所の会計を処理するために、レセプトコンピューター、いわゆるレセコンというのが1980年代にいろいろなメーカーのものが登場し普及しました。レセコンとは、医事会計コンピューターシステムです。
 
レセプトというのは、月毎に、その月に行われた、診察や手術や検査や薬剤処方や点滴・注射などの保険点数を集計して、医療機関から社会保険、国民健康保険の支払い基金に請求する明細書のことです。手術したのにその分の請求がもれていたり、処方した薬剤の根拠となる診断名がついていなかったり、と言うことがないように、実施した医療行為に対して過不足無く請求するためには、レセコンが役立ちます。
 
オーダリングシステムというのは、薬剤処方とか、レントゲン検査の依頼・指示とか、採血検査の指示とか、医師の指示(オーダー)をコンピューターで行うものです。これがあると、処方した内容が、薬剤部門に伝わって薬剤が処方され、医事会計部門に伝わって、会計処理につながります。つまり、医師の処方、が発生したら、それから、すべての処理がもれなく、実施されるわけです。そういう意味で、発生源入力、ということですから、医師の処方内容をレセコンに打ち直す、という二度手間が省け、しかも間違いがなくなる、というものです。オーダリングシステムは便利ですが、オーダーしたことをカルテに記載しなくてはいけないので、その点が二度手間になります。国立がんセンターでもそうでしたが、オーダリングを導入すると、必ず、医師から、仕事が増える、ただでさえ忙しい外来がますます忙しくなる、などの不満がでます。とくに、コンピューターになじんでいない団塊の世代以上の皆さんは、マウスを使うには机が狭すぎる、など、訳のわからないことを言います。確かに、二度手間になるかも知れませんが、考えようによっては、JRの指さし確認のように、もれがないよう、二重チェックができるという事も言えます。
 
そして、この「二度手間のカルテ記載の部分」もコンピューター化したのが電子カルテです。電子カルテは1990年代に先進的な病院では導入されました。私も、いくつかの病院の電子カルテを視察してまわりましたが、いずれも、「単なる紙芝居」でした。カルテ、すなわち診療録記載の理念が全くわかっていないのではないか、と思われるような稚拙なシステムが、使われていた病院もありました。電子カルテのことを考える際には、やはり、カルテの記載とはなんぞや、ということをよく考えないといけません。日野原重明先生が1970年代の後半にPOS(problem oriented system)を日本に導入されました。POSはいまでもそのまま、使えるカルテの記載方式ですが、これは、たんなる「書式」ではありません。患者さんの主観的な訴え、医師が診た、あるいは検査した客観的な所見、にもとづいて、医師がどのような診断をして、どのような対応が必要と考えたのか、そして、処方するなり、追加検査をするなり、様子をみるなり、どのようなアクションプランをたてたのか、という一連の思考プロセスをカルテに記載する、というものです。紙芝居カルテを作っていた鴨川の病院を先日、何年かぶりに訪れたのですが、病院全体が紙芝居になっておりました。 
 

ふつうの生活 -その2-


むくみと日焼け
 
① 体内の流れ
心臓から出て全身に運ばれる血液は動脈から毛細血管ネットワークに流れます。毛細血管ネットワークは動脈側から入った血液が静脈側から出ていき、静脈となって心臓にもどります。毛細血管ネットワークでは、血液の成分の内、血漿成分が血管外にしみ出し、組織を潤したり、栄養を運んだり、老廃物を回収したりして、リンパ管に入り、リンパ管ネットワークを経て、胸管となって心臓の近くで静脈に合流します。つまり、体の中の血液などの流れは、行きは動脈だけの一系統、帰りは静脈とリンパ管の二系統あるわけです。リンパ管ネットワークの要所要所にリンパ節があり、リンパ管を流れるゴミを濾過します。また、リンパ節はリンパ球の駐在所のような働きもあります。リンパ管を流れるゴミとは、癌細胞、細菌などです。
 
② 腋窩リンパ節郭清の意味
ハルステッド理論(古典的)では、乳がんの治療の一環として腋窩リンパ節郭清(脇の下のリンパ節を取り除くこと)が重要であると考えられていました。しかし、近代外科学では、腋窩リンパ節郭清を治療と考える外科医はいません。腋窩リンパ節郭清は検査と見なされています。何を調べる検査か、というと、肺、肝臓、骨などの遠隔臓器への転移がおきていそうか、いなさそうか、を推察する為の検査です。腋窩リンパ節転移がある、ということは、同時に血液の流れにのって、癌細胞が他の臓器へ転移している可能性もある、ということです。腋窩リンパ節転移が多い、ということは、同時に血液の流れにのって、癌細胞が他の臓器に転移している可能性が高い、ということです。したがって、腋窩リンパ節転移がある場合、多い場合は、術後の薬物療法により、遠隔転移の可能性を、低く、低くすることが大切となります。
 
③ 腋窩リンパ節郭清の代償
乳がんで腋窩リンパ節郭清をした側の腕はリンパ還流が悪いのでむくみがおきます。むくみがおきた腕では、とげを刺したり、切り傷をして、細菌感染が起きると、腕全体に炎症が波及して、腕が真っ赤に腫れて、痛くなる、熱がでる、「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という状態になることがよくあります。ですから、むくみがある腕は大切にしなくてはいけません。愛護的にあつかわなくてはいけません。けがをしないことが大切です。蚊に刺されたり、犬に咬まれたり、へびににらまれたり、かえるになめられたり、ということも避けたいわけです。日焼けをしすぎて、水ぶくれがおきるぐらいになると、そこからは、きっと細菌が入りやすくなりますから、あまり激しい日焼けは避けた方がいいでしょう。しかし、ふつうの日焼けをしてはいけない、というのは、うそ、です。
 
骨折と骨転移
骨転移があると骨折をすることがありますが、骨折があっても骨転移はおきません。骨折した部位を調べたら骨転移あった、ということはあります。骨転移、と 骨折 との因果関係が、どこかで逆転して、待合室で語られているのでしょう。
 
「乳がん術後の患者さんは、骨折すると骨転移がおこりやすくなるのでスキーに行ってはいけない」ということは、明らかに、うそ、です。
 
骨折しても癌細胞が集まってくることはあり得ません。
 
結論
がん患者だからといって「禁止事項」は何もありません。ふつーの生活をすればいいのです、ふつーの。しかし、もちろん、たばこは吸ってはいけません。ところで、ふっと思いだしたのですが、国立がんセンター中央病院の田村友秀君は肺癌が専門なのにいまだにたばこを吸っています。これでは示しがつきません! 
 
 
いっか~ん!

普及するはずない太陽光発電


シャープのコマーシャルで「すべての日本の屋根に太陽光発電を、これがシャープの提案です」っていうじゃない、しかし、京都議定書が発効したにもかかわらず、太陽光発電の国からの補助金は、昨年に比べて半減、しかも、手続きの書類は、異常に細かく、非合理的で、これでは、ハードルを高く、高くして補助金をあきらめるさせるようなドライブを感じます。これでは、太陽光発電が普及するはずがない、と思います。

浜松オンコロジーセンター発展計画


  1. 祖父の代からの渡辺内科医院(EBMの原点)に腫瘍学診療を60%程度加え渡辺内科医院://浜松オンコロジーセンターとしてバージョンアップする。
  2. 腫瘍学診療は乳癌を中心にした外来薬物療法、セカンドオピニオン提供、癌万相談(がんよろずそうだん)などを行なう 。
  3. 生活習慣改善のための地域啓蒙活動を行なう(日の出クラブなど) 。
  4. 乳腺外科医との高品質な連携を図り地域の乳癌診療を高レベルに持って行く。
  5. 合併後の浜松(Greater Hamamatsu)のがん診療レベルの均填化を図る。
  6. 中部腫瘍学研究グループ(Central Oncology Group: COG)を設立し浜松発世界行のエビデンスを発信する。

 

上棟式


上棟式 

平成17年1月12日(水曜日)午後3時より渡辺内科医院・ 浜松オンコロジーセンター の上棟式を無事、執り行いました。一つの区切りとして、今後、夢の実現に向けて、益々、がんばらなくてはいけません。皆さん、よろしく御願いしますね。

癌医療に求められること(6)


グループ診療をささえるためのカンファレンス  

私がレジデントとして研修を受けた頃の国立がんセンター病院内分泌グループは、乳がんを中心に、病態や治療にホルモンが関与する疾患の診断、治療を担当していた。阿部先生のほか、4名のスタッフ医師がおり、毎週火曜日の病棟回診では、この5人に私を加えた6名がナース・ステーションに集合し、約20名の入院患者一人づつについて、問題点、治療内容、今後の方針を担当医師が提示、とくに、個々の症状や徴候の背景となっている病態生理に関して、全員が共通の理解が得られるまで徹底的に議論が展開された。時には、口角泡を飛ばすような激しい議論になることもあった。印象に強く残っているのは、私が担当した38才の転移性乳がん患者、肺、肝臓、全身の骨に転移があり、寝たきりに近い状態であった。膝から下や口の周りが痺れる、という症状から始まり、次第に手もうまく動かなくなっていた。カンファレンスで、脳転移、抗がん剤の末梢神経障害、脊髄転移、ビタミン不足など、様々な鑑別診断が挙ったが、阿部先生から「カルシウム値はどうだ?」との指摘あり、測定すると低値であった。つまり「低カルシウム血症」、いわゆるテタニーの状態だったのである。骨転移を伴う乳がんでは、骨が破壊されカルシウムが溶け出し、血液中のカルシウムが高い値をしめす「高カルシウム血症」がしばしば見られる。それなのに、低カルシウム血症。理由がよくわからない。おそらく、ふつうの病院では、ここまでの鑑別はたどりつくだろう。そして、点滴の中身にカルシウムを追加して補正を試みることはするだろう。しかし、このチームでは、そこからの追求がすさまじかった。「なぜ、低カルシウム血症なのか?」、「造骨性骨転移(がんが骨に転移した結果、骨が溶けるのではなく、骨のカルシウム分がむしろ増加して骨が硬くなる転移形態、前立前癌の骨転移に多いが乳癌でもときに見られる)で、骨にカルシウムが取り込まれているのではないか。」、「いやいや、健常人の血清カルシウム値の調節には様々なホルモンやビタミンが関わっているからそう簡単には乱れないものだ。」、「じゃあ健常ではないとすれば、どこを調べればいいのか」、「ビタミンD、副甲状腺ホルモン、カルシトニン、血清アルブミンなどは調べる必要があるだろう」・・・。ということで、調べてみた結果、副甲状腺ホルモン(Parathyroid Hormone: PTH)が異常に低い、ということがわかった。PTHは、血清カルシウム値を上昇させる働きをもつホルモンだ。翌週のカンファレンスで、「低カルシウム血症の原因はPTH低値でした。」と発表したところ、「なぜPTHが低いのか?」、「いつから低くなったのか?」という話になり、「検査室に凍結保存してある過去の血清を使ってPTHを測定してみよう」ということになった。測定の結果、血清カルシウム値の低下と同じように、PTHが日を追って低下しているのがわかった。正常ではカルシウム値が低下すると、それを補正するためPTHは上昇する。どうやらPTHの分泌が悪いようだ、つまり、副甲状腺機能低下症ということになる。副甲状腺は、のどの甲状腺の裏側の四隅に張り付くようにある大豆ぐらいの大きさの内分泌腺だ。副甲状腺機能が低下する理由が、皆目検討がつかない。当時は、インターネットもない時代だったので、図書館司書のお姉さんに文献を検索してもらったが、そのような報告は全く見あたらなかった。結局、亡くなった後の病理解剖で、気管と甲状腺の間の隙間をはうように乳がん細胞が転移しており、副甲状腺が完全に破壊されていたのである。病棟カンファレンスでのこのような徹底的な討論で、ほぼ、病態の全容が解明できた。このとき、これが、内科の神髄なのだな、と感じた。とかく、がんの末期状態の患者では、どんなことがおきてもおかしくない、というような対応で、病態生理が解明されないことが多いように思う。腫瘍内科医は、まず、内科医である、というのは、こういうことなのだ。また、徹底した討論は、診療グループ内での問題解決や意志決定プロセスを熟成させ、共有化するには不可欠である。私が診療グループをまとめる立場になったときも、十分な議論を通じて、がん患者の病態生理を解明しようという姿勢を重視した。レジデント教育にはたいへん有意義だと高い評価を得た反面、そのような議論を、無意味、不毛、時間の無駄、と切り捨て、カンファレンスにも出席しない、出席しても腕を組んで居眠りをしている医師もいたが、グループ診療、チーム医療を、実践するためには、常日頃からの、担当者間の意思疎通のための徹底的な討論の積み重ねが不可欠である。

癌医療に求められること(4)


「目に見えるものは切りましたという詭弁」と「てんこ盛り治療」

遠隔転移を来した場合、外科手術はあまり役立たない。腹腔内に広く拡がった胃がんの転移病巣に対して、外科手術を敢行し「目に見えるものは全部とりました」という説明が、いかにむなしいものか、は、数年前、がん告知で話題をまいた芸能人のケースでも実証ずみであろう。確かに、胃がんは、固形がんのなかでは、比較的、抗がん剤が効きにくい。もし、上記の外科医の対応を腫瘍内科医が「無意味な手術ではないか」、とコメントしたとすると、「抗癌剤では見えるものすら消せないだろう。」というような反論が予想できる。しかし、この反論には、治療をうける側の患者の視点が完全に欠落している。内科医対外科医の対立軸ではない。患者は、意味のある治療を希望しているのである。

一方、抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法が進歩したといっても、遠隔転移を伴った状態では、若年男性の睾丸腫瘍や、分娩後の絨毛癌など、極めて感受性の高い一部の疾患以外ではなかなか治癒をさせることは難しいのが現状である。遠隔転移を来した場合、治療目的は、クオリティオブライフ(生活の質)の向上であり、延命である。しかし、遠隔転移を来した患者の治療で、しばしば遭遇するのは、効果のあると思われる治療薬剤をすべてまとめて投与する、てんこ盛り治療である。これでは、何が効いていて、何が効いていないのか、が全くわからなくなってしまう。特に転移性乳がんでは、3-4種類のホルモン剤、4-6種類の抗がん剤が有効であり、これらを如何に効果的に使用していくか、ということが、質の高い延命につながることは検証済みである。