サンアントニオ乳がんシンポジウムも終了となり、とりあえずとり急ぎここに二つの演題についてまとめた感想と独り言をお伝えして帰国の途につきます。
(1)TIL Tumor Infiltrating Lymphocyte(腫瘍浸潤リンパ球)
乳がん組織にリンパ球の浸潤があることは、昔から病理医の目には止まっていました。最近、リンパ球浸潤の多い乳がんは予後がいいとか、様々な治療による効果の良し悪しもリンパ球浸潤の多寡と相関するという研究が多数報告されるようになりました。ザンクトガレンコンセンサスカンファレンスでも2011年から、間質のリンパ球の多寡は予後因子か?という質問がでています(1)。また、昨年には、乳がん組織中のリンパ球浸潤評価に関しての推奨が出ました(2)。今回のサンアントニオでも、イーデス・ペレーツが、術後trastuzumabの有用性を検討した報告(3)で対象となった臨床試験N9831に参加した症例のうち945症例(AC-paclitaxel:489症例、AC-paclitaxel+trastuzumab:456症例)のアーカイブマテリアルを使用して、間質のリンパ球浸潤の程度と予後を検討して報告しました。リンパ球浸潤の多い症例群(全体の10%)と少ない症例群(全体の90%)にわけて、いろいろな検討を試みてしまいました。まず、AC-paclitaxel群では、リンパ球浸潤が多い症例の10年無再発率は90.9%、少ない症例は64.3%(HR 0.22, P<0.009)と差が出ていますが、AC-paclitaxel+trastuzumab群では、リンパ球浸潤が多い症例の10年無再発率は80.0%、少ない症例は79.6%(HR 1.13, P=0.79)と差がありませんでした。なんということでしょう。次に、リンパ球浸潤が多い症例で、抗がん剤治療だけの症例と、抗がん剤+trastuzumabの症例をくらべてみました。抗がん剤だけでは、10年無再発率は90.9%、抗がん剤+trastuzumabの症例は80.0%(HR2.43, P=0.22)と,有意差はありませんが、trastuzumabをくわえると、かえって予後が悪い、という結果でした。リンパ球浸潤の少ない症例では、抗がん剤だけでは、10年無再発率は64.3%、抗がん剤+trastuzumabの症例は79.6%(HR0.49, P<0.0001)と、trastuzumabを追加することの効果がはっきりでたのであります。この現象は、多変量解析(ホルモン受容体、腫瘍径、リンパ節転移などの因子を加えて)でもかわならいという結果でありました。リンパ球ががん細胞をやっつけようとしているのに、trastuzumabが、その作用を弱めてしまうのでしょうか?
- Goldhirsch A, Wood WC, Coates AS, et al. Strategies for subtypes—dealing with the diversity of breast cancer: highlights of the St Gallen International Expert Consensus on the Primary Therapy of Early Breast Cancer 2011. Ann Oncol 2011; 22(8): 1736-47.
- Adams S, Gray RJ, Demaria S, et al. Prognostic Value of Tumor-Infiltrating Lymphocytes in Triple-Negative Breast Cancers From Two Phase III Randomized Adjuvant Breast Cancer Trials: ECOG 2197 and ECOG 1199. J Clin Oncol 2014; 32(27): 2959-66.
- Romond EH, Perez EA, Bryant J, et al. Trastuzumab plus Adjuvant Chemotherapy for Operable HER2-Positive Breast Cancer. N Engl J Med 2005; 353(16): 1673-84.
(2)65歳以上の高齢者を対象としたイバンドロネート ± カペシタビン
65才以上の高齢者では、骨粗鬆症を高率に伴うので、イバンドロネート(日本では売ってません)を術後に使い、それに、抗がん剤「カペシタビン(日本ではよく売れています)」を加える、加えない場合の、PFSを検討した試験がドイツのフォンミンクウィッツ率いるGBG(German Breast Group)により発表されました。イバンドロネートだけ群(707人)、イバンドロネート+カペシタビン(702人)が対象です。結果は、浸潤がん再発、遠隔転移を見ても両群間に差がありませんでした。つまり、65才以上の高齢者では、カペシタビンの効果は認められなかった、というネガティブデータでありました。フォンミンクウィッツは、カペシタビンが無効であった原因として、対象症例でLuminalが多く、長期間のフォローアップ結果を見ないとわからないと考えています。CG製薬のこぐまさんは、これはCG製薬がやった試験ではないからと考えています。CG製薬のかわうそさんは、これはカペシタビンの投与期間がたった12週間と短すぎるからだと考えているようです。カペシタビンの投与期間の比較試験をやるのでしょうか? やらないのでしょうか?