医者のり~くつぅ~


K市立病院外科で治療を受けている患者さんが浜松オンコロジーセンターセカンドオピニオン外来を受診された。「担当のせんせは、私は乳癌には興味ないんですというような態度なので、とても不安、家族も不安」ということで、できればこちらで診てほしいということだった。紹介状には今までの診療経過が記載されていたが、乳癌の性格を無視した、外科系てんこ盛り治療の典型で、それを読んでも、どの治療が効いていてどの治療が効いていないのかわかりにくい。時間をかけて話を聞きながら謎解きをして、次の治療は、ナベルビンの週1回点滴はどうだろうか、という提案をしたところ「月一回なら浜松まで通えるが毎週はようこられしまへんわ」とのこと、ふと思い出したのが旧知の弟子のISGR先生から「K大学の外来化学療法部門に赴任しましたのでよろしく」との挨拶状。さっそくISGR先生に電話したところ、「いちど乳腺外科の外来に紹介してください。そこからこちらにまわしてもらうように外科の先生にお願いしておきます。うちは、そういうシステムになっているので・・」、あ~、そうなんだ、そういうシステムなんだ~、ということで、そのように紹介状を書いて患者さんにわたし、「地元で腫瘍内科の先生に診てもらえるようにお願いしましょう」とお話しすると、喜んでお帰りになった。1ヶ月後、ご家族から連絡が入った。「結局、ISGR先生には、たどり着けませんでした。むなしい気持ちでいっぱいです」と。さっそくISGR先生に電話をしたがあいにく夏休みで不在、代わって電話口にでた上司という医師が、いきなり、外来化学療法とはどういうものか、腫瘍内科医の不足している現状でわれわれはいかに立派に取り組んでいるか、専門家が化学療法を実施するには、痛みの治療などまでは、手が回らないので、そういう雑用が必要な患者は、紹介元に返すシステムになっている(あ~、そうなんだ、そういうシステムなんだ~)、あなたは患者からの一方的な苦情を真に受けているようだが、記録をみると、患者は、自分の意思で元のK市立病院に戻ったとなっており、これ以上はわれわれにも責任はない・・つべこべつべこべ・・・屁理屈ごてごてごてごて・・・。一方的なのは、あんたのほうだろうが! 残念~! 阿部薫先生に教えていただいたことに、「臨床医っていうのは、基本的にはサービス業なんだから、お前がいくら立派な理屈を言ったって、患者さんが、安心しなかったら何にもならないんだぞ」というご教訓がありました。さあ、サンハイ! 「医者のり~くつぅ~」(犬の気持ちのメロディーで)。

紹介状の今・昔


紹介状を診療情報提供書という小役人言葉で呼ぶことが多くなっています。同様のことは、懇親会が情報交換会になったりなどもあります。かつて、国立がんセンターに勤務していたころ、首都圏のある市立病院に患者さんをお願いしたことがありました。そうしたら、その院長から、大学の医局の後輩である国立がんセンター病院の医長に「おまえのところの若い医者が電話もなしで紹介状一枚送りつけてきて患者を紹介してきた。」とお叱りがありました。紹介状に関しては、「ワープロで書いた紹介状一枚送りつけてきて患者を紹介してきた。」とか、「ファックスで患者を紹介してきた。」など、時代背景を感じさせるような教育的指導を頂いたこともありました。
現代は、紹介状はご機嫌伺いのご挨拶ではないので、ワープロでもファックスでも、用が足りればよかろう、ということだと思います。電話で一言、こういう患者さんをお願いしましたのでよろしくお願いします、と連絡するのもいいとは思いますが必須ではないでしょう。いずれにしても、時代と状況にマッチした礼儀のエッセンスが含まれることは必要だと思います。
最近、セカンドオピニオンで来院する患者さんの中で、宛名なし紹介状を持ってくる方が目立ちます。中には、かなり使い込んで、しわしわになったものをお持ちの患者さん、同じ文面のものを十枚以上も持っている方もいます。これは患者さんがコピーしたものか、それとも担当医が大量発行したものかわかりません。「宛名なし」や「ご担当先生御机下」というのは、癌難民を発生させる原因のひとつではないかと思います。患者さんを紹介するということは責任を持って相手先医療機関に依頼するということですから、所属、診療科、フルネームでの医師名を書く必要があると思います。また、紹介状の署名がへたくそで読めないのも困りものです。

20才台からの健康管理


街角診療所をやっていると、各種企業からの健診の依頼も来ます。ちなみに「検診」と「健診」は意味するところが違うということになっており、健診は結果の医学的解釈の説明や予防医学的観点からの生活指導までを含んでいるものをいいます。一方、検診は検査だけで、しかも、フォールズポジティブが多く、心配の種をまき散らす、S隷病院でやっているようなものを言います。検針はガスや水道の使用量のチェックのことです。
健診に来る20才台のお客さんの場合、そもそも血液検査や胸部レントゲン写真などが本当に必要かと思うぐらい異常がなく、心電図も、小学校から高校までを通じて異常を指摘されたことがない場合には、必要ないような感じです。20才台は、徹夜とか、夜更かしとか、暴飲とか、毎日コンビニ食とか、深酒とか、多少、無理をしてもホメオスターシス力が強いので肉体的には相当タフ、健診項目も大幅に削っても良いような感じ。問題は「たばこ」です。
20才台の健診受診者の8割以上は喫煙者で、しかも本数が一日40本以上という若者が多く、禁煙の意志を問うと、たばこだけはやめられなくって、とか、禁煙など考えたことはありません、とか、あまりたばこが悪い、という意識はないようです。癌の観点からみると、肺癌をはじめ、喉頭癌、咽頭癌、口腔底癌、食道癌、膵臓癌、膀胱癌、子宮頸癌といった癌がたばこ発癌です。女性の喫煙者は、肌ががさがさで、お化粧ののりが悪く、頭髪もばさばさで、目も充血していて、歯も黄ばんでいて、いかにも「ぶさいく~」という感じになります。しかも、へやに入ってきただけでたばこのにおいが充満、診療所の外でしこたまたばこをすってから来ました、という感じの人も多いです。ちなみに、かつてアスト○ゼネ○社のMRをやっていたNKGW氏は、診療所全体の空気をたばこ臭くしてしまうほどのヘビースモーカーで、とても健康関連産業に身を置く人間とは思えないほど、高性能の肺をお持ちでした。話をもとにもどすと、20歳代の人では、健診などやらなくて良いから、従業員に禁煙を徹底すること、これが職場の健康管理としては大切だと思います。街角がん診療所では、禁煙外来もやっていますが、意を決して、たばこをやめた女性は、それまで肌ががさがさで、お化粧ののりが悪く、頭髪もばさばさで、目も充血していて、歯も黄ばんでいたのが、すべすべのお肌になり、内面からの美しさが感じられるようになり、禁煙の効用を実感します。御顔の造作もかわったようにみえる場合もあります。