乳がんのprimary systemic therapy (早期全身治療)とは:


乳がんは体の表面に発生するので患者自身が「しこり」として発見すること多い疾患です。「しこり」には乳がん以外にも、液体の溜まった嚢胞(のうほう)、良性腫瘍である「乳腺線維腺腫」などがあります。

乳がんは40才〜80才が好発年齢ですが、40才未満の女性でも発症することはあります。

しこりを自分で見つけてクリニックに行くと、触診(医師が繊細な指で診察すること)して、超音波検査、マンモグラフィで調べ、悪性腫瘍(乳がん)か、良性腫瘍(線維腺腫)か、嚢胞か、をすぐに診断をつけます。

乳腺線維腺腫の場合は、針生検をして診断を確定する必要がある場合があります。乳がんかどうか、確定するためにも、針生検が必要です。

昭和の時代は、針生検をすると、がん細胞が飛び散るので、急いで手術をしなくてはいけない、と勘違いされていましたが、針生検で転移が起きることはありません。

また、乳がんの場合、急いで手術しないと転移する、と信じられていた時代もありましたが、現在では、乳がんの確定診断をつけ、グレード(悪性度=タチの悪さ)、ホルモン受容体、HER2蛋白の有無を調べるため、針生検は必須の検査です。

乳がんがしこりとして形作られるまでの間(数年)の間に、血液やリンパ液の流れに乗って、目には見えない、PET-CTなどでも検出できない微小転移とよばれる状態での転移が全身に及んでいると考えられています。

このような状態で、早期全身治療(Primary Systemic Therapy)を行うことで、胸のしこりがグングンと縮小し、それと同時に、目には見えない微小転移をどんどん消えていく、という考えが、現在では一般的になっています。しかし、古来より、乳がんは外科医が対応する病気と位置付けられているため、今でも、しこりを見つけて外科を受診すると、すぐに切りましょう、といわれることが多いです。また、しこりを見つけた本人も、早く手術してください、と外科医を受診することが多いのですが、最近では、よく勉強している外科医も増えてきたので、腫瘍内科を紹介しますから、早期全身治療をしてもらいましょう、手術はそのあとでもいいですし、してもしなくて、全身治療で消えてしまうことも多いのです。昭和の時代はよい薬もなく、外科医の守備範囲だっった乳がんも現在では、微小転移を撲滅することを主題に考え、外科医でも薬物療法を用いて早期全身治療に取り組むことが増えています。

もし、あなたがしこりを自分で見つけて医療機関を受診して、急いで手術しましょう、といわれた、ちょっと待って、早期全身治療に取り組んでいる、腫瘍内科を受診して、よく話を聞いて、最適な治療をうけるように心がけましょう。

青森の友人への手紙


橋本直樹 先生 CC;川嶋啓明先生、大田富美子さん

浜松は3月の声を聞くと共に、だいぶ春めいてきました。青森の道路の雪も、少しは減りましたか。
さて、橋本先生が3月中旬、青森で久留米の免疫療法の演者と一緒に、市民相手に講演をするような話を聞きました。NHKの無定見な番組などが原因で世の中が、青森がやや混乱しているようですから、先生にはきちんとした話をして頂きたいと思います。先日、青森でお目にかかった患者さんも、現在の治療がとてもよく効いているにも関わらず、体に優しい免疫療法を久留米まで行って受けたいと言っていました。
ご存じのように、免疫療法は、まだまだ、未完成です。乳癌では効果があるかないか、わかりません、というよりは、現時点では、ないと断定していいと思います。効くか効かないか、まだわからない段階です。安全なのか、危険なのかもわからない段階です。しかし、臨床試験を推進することは大切ですし、現在、臨床試験の段階です。ですから、講演では、患者さんの中で将来の乳癌患者さんのために、自分の体を試験台として免疫療法の安全性、有効性を検討してほしい、というボランティア精神のある方は是非、久留米まで行って臨床試験に参加して頂きたい、という論調でアッピールして頂きたいと思います。

年頭の所感2008


今年は数年ぶりに浜松で新年を迎えました。太平洋を望む中田島海岸まで初日の出を見に行きましたが、日の出を待つ間、周りにいる若者は「あけおめことよろ」しか言わないし、地球の自転と公転も区別がつかないような会話。知性のかけらも感じません。自分の勝手、都合だけを考えて、世の中、社会にぶら下がっているようなフリーターや頻繁転職者の比率が増えている、これでは社会の力が落ちる一方である、という記事が元旦の新聞に載っていました。そのとおりだと思います。世の中の活動、構造を支えていく、さらに世の中、社会を創っていくというような気概が必要です。そういった人間を一人でも多く育てることが今年の課題です。研修医、学生、看護師、薬剤師の皆さん、今年も、浜松オンコロジーセンターの見学、研修を大歓迎いたします。もちろん、ウナギつきですし、その他、レジデントマニュアルをはじめとして、数々のお土産が付いています。ご連絡お待ちしています。今年もウナギでがんばりましょう!!
 
年賀状2008

臨床EBM研究会 第12回公開セミナー


演劇部第2回公演「ある日医局で、そして外来で」から始まった臨床EBM研究会第12回公開セミナーin 浜松、劇団員の林直輝(林医師役、普段通りのそのまんま)、森玄(外科医石頭金策役、勤務先病院外科医を彷彿)、猿丸修平(60才猿丸修子役、妙にはまり役)そして、中外MR役のアストラゼネカ田村MR,アストラゼネカMR役の中外まじめMRの、よく練られたシナリオと自然な演技に、65名の参加者は一気に引き込まれました。その次は、勝俣範之先生の司会で「みんなで立てようPECO」セッション。参加者は、みじかな話題から患者の臨床的問題まで、なんでもかんでもPECOで表現することができるようになりEBMのステップ1(問題の定型化)を学びました。スポンサードセッションでは、ユサコプレゼンツ「エンドノートバージョン10」の使い方のデモ、コネクト機能を使ってPUBMEDにアクセスし、論文検索、論文抄録ダウンロード、JCOなどのホームページにとんで、PDFを取り込んだりと、EBMのステップ2「文献を検索する」が、これを使えば自由自在です。私はエンドノートマック版のバージョン2とか3ぐらいから使っているヘビーユーザーですが、引用文献が一瞬で論文の最後に現れる、あの魔法のようなフォーマットをみて感激した遠い昔の感激は今でも忘れません。途中、ジャパナイザーというのがついて、日本語が扱えた時期もありましたが、その後、ウィンドウズに乗り換えたら日本語が扱えなくなりました。マックから移したライブラリの中に、何の論文なのかもわからない化け文字で残っている日本語文献が今でもいくつかあります。バージョン10では、日本語も自由自在に扱えます。EBMerにとっては、エンドノートは必須アイテムですね。ステップ3「論文の批判的吟味、徹底的読みこなし」からは、スモールグループに分かれての勉強です。上塚芳郎先生、井上忠夫先生、中村清吾先生、矢形寛先生、猿丸修平先生、勝俣範之先生、向井博文先生、河野勤先生、林直輝先生、渡部一宏先生、そして渡辺亨がチューターとして、約10人づつの6グループで、「猿丸修子さんにアナストロールを処方するか、レトロゾールを処方するか、それともタモキシフェンでいくか」、それと「スタチンのがん予防効果をどう考えるか」をとことん学びました。うな炭亭のウナギを食べながらの二日目のランチョンディスカッションでは、6グループがそれぞれのとらわれない自由な形式で、討議内容を発表、のびのびとした雰囲気で、二日間の学びを終えたのでした。思い返せば1999年、第1回臨床EBM研究会公開セミナーを中村清吾先生と共に、聖路加国際病院、国立がんセンターのコラボで旗揚げしました。厚生省(当時)からも担当者が参加し、現在でも続いている「エビデンスを創る、伝える、使う」という観点から研究助成を始めるきっかけになったように思います。臨床EBM研究会の最初の頃は、まだ、ステップ2に力点が置かれていました。しかし、頻回に講師をお願いした名郷直樹先生の御薫陶のおかげで 「楽して学ぶ」、「二次資料を活用する」という流れが定着し、今では、PUBMEDなどの一次資料は、二次資料がそろっていない時に使用するという感じに変わってきたように思います。エビデンスをどう活用するか、患者の診療にどのように役立てるかというEBMのステップ4については、リベラルな取り組みもあれば、コンサーバティブな取り組みありますが、それはそれで、議論の争点となるので良いことだと思います。問題なのは、いつまで経ってもエビデンスに無頓着でEBMを勉強もしない人々、EBMの真髄もわからずにEBMを批判する人々、NBMをEBMの対立概念だと勘違いしてエビデンスを軽視する人々、自分で情報処理も試みず、何も考えないたたずみ型サボタージュの人々などがあまりにも多いということです。これはいけません。臨床EBM研究会は、これからも癌診療に関するEBMをとことん考え続けるでしょう。そして、たたずみ型の医療者を教育し、日本の癌診療力の総合的強化に取り組んでいきます。次回は11月16日(金曜日)、東京のほうで開催予定、多数のご参加をお待ちしています。なお、今回使用したスライドは、浜松オンコロジーセンターホームページに載せておきます。St.Gallen2007の進化をお楽しみください。最後になりましたがスポンサーのアストラゼネカ、中外製薬、ブリストルマイヤーズのご支援に心より感謝申しあげます。どうもありがとうございました。

乳癌情報局発進!


【浜松発】 2月19日(日曜日)、浜松乳癌情報局 第一回市民公開講座「乳癌、あなたの疑問に何でも答えます」(浜松乳癌情報局、ブリストルマイヤーズ株式会社共催)が開催された。会場となったアクトシティ浜松コングレスセンターには約240人が参加、3時間にわたる基調講演、パネルディスカッションに熱心に注目、傾聴した。癌医療の領域では情報の非対称、ということが問題とされている。つまり、医療従事者側の持つ情報と、患者側の持つ情報に、質、量ともに大きな差があるのが現状だ。この差を埋めるためには、あらゆる手段を駆使した情報提供が必要である、という考えに基づき計画された第一回市民公開講座は、参加者の反応も上々であり、予定される第二回市民講座についての問い合わせが早くも寄せられている。浜松乳癌情報局は、患者、家族、医療者、学生、一般市民など、さまざまな対象に、今後も効率的な情報提供を行っていく予定である。今回実施したアンケートは現在集計中であるが、「乳癌だけでなく、他のがんもとりあげてほしい」、「毎月でも開催して情報提供をしてほしい」などの要望もみうけられた。浜松乳癌情報局長の渡辺亨氏は「乳癌以外の癌についても情報提供するよう努力したい。また、浜松オンコロジーセンター二階に設置した談話室を使った小規模な公開勉強会なども、今後定期的に行っていきたい」との抱負を語った。なお、浜松乳癌情報局第二回公開市民講座は、8月20日(日曜日)、アクトシティ浜松コングレスセンターにおいて聖路加国際病院乳腺科、中村清吾氏を招いて開催される。主催は浜松乳癌情報局、共催企業は募集中である。その後、交渉の結果、今回同様、ブリストルマイヤーズ株式会社が共催することになった。