まあ、いいけど・・・


NHKの7時のニュースを見ていたら、GDP(国内総生産:Gross Domestic Product)が日本は、国としてはアメリカ、中国に次いで三位、しかし、国民一人あたりのGDPは20位だそうで、過去最低、つまり、一人当たりの働き度合いは低下し続けているそうです。そのすぐあとのニュースの話題は、「今年の年末年始は、26、27,28、29、30、31、1,2,3 の「9連休」だ、というのです。9日間も休んでるから総生産が低落するんじゃあないの? まあ、いいけどね。

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新刊のお知らせ


腫瘍内科医の仲間と協力して「Expert choice 乳がんレジメン」を出版しました。

第1章「乳がん薬物療法の基本」では、編集者(渡辺亨、鶴谷純司、原文堅、安藤正志、清水千佳子、勝俣範之)がわかりやすく解説しています

第2章「具体的なレジメンとその解説」では、乳がん治療に使用される細胞毒性抗がん剤と分子標的薬剤を用いたレジメンを「初期治療」と「転移・再発後治療」とのきちんと分けて具体的に解説しています。たとえば初期治療(治癒をめざした治療)ではAC→パクリタキセルという「レジメン」がよく使用されますが、これはふたつのコンポーネント「AC」と「パクリタキセル」からできています。本書では各コンポーネントを具体的に記載、そして別のページにレジメンとして、そのエビデンスを解説しています。

第3章「適切な治療マネジメントのポイント」では、副作用、患者特性、薬剤特性を詳細緻密に解説しています

医師、薬剤師、看護師、病院・診療所事務部門のみなさん、今日からの診療、業務にお役立て下さい。
乳がん患者団体・アドボカシーの皆さん、「この薬にはどんな副作用がありますか?」と尋ねられたら、この本の第3章の128ページをご覧下さい。どこよりも詳しい副作用一覧が載っています。

先端医学社から定価4300円+税で全国の本屋さんで発売中です。

アマゾンドットコムでも入手できます。下の書籍写真をクリックして下さい。でも、ちょっと気をつけて下さい。アマゾンでは「定価 12,245円」となっています。間違って「カートに入れる」をクリックしないで下さい。アマゾンも間違えるんですね。。。

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あほか せーやくきょう


製薬業界の『不祥事」があとをたたない。というか、今まで、当たり前のようにやられてきたことが「不祥事扱い」となるといってもいいかもしれない。というか、当たり前が当たり前ではないのは以前から明らかであったけれど、それが当たり前ではない、ということにだれも気づいていなかったということなのだ。また、「製薬業界の」という表現が使われるが、実は医師、薬剤師、ときたま看護師(婦)などの医療者側も不祥事の成立には大きく関与してきたのだが、エイズ問題の時のようにどぎつくたたくときは、医師にターゲットを絞るが、その場合、対象となった医師はほぼ立ち直られなくなり、晩節を汚し、世間の目を避けるようにして医療界からフェードアウトしていく。場合によっては、その汚名は子々孫々、末代にまでおよび、75日経っても人の噂からきえない。しかし、そこそこにお灸をすえる場合には、形だけたたくふりをして75日経てば謹慎とか営業停止処分が解かれ、何事も無かったかのように会社のブランドに傷がつくこともない。問題を起こしたとされる会社は喉元過ぎて熱さを忘れるまでじっと、反省したふりをするのだ。しかし問題を起こしたとされる会社の社員は「なんで俺たちがたたかれるんだ。医者が悪いんだもの、そんなの知るか!!」。確かに、ディオバン問題なんかはそうかもしれない。「関係ないってね、ほっとけほっとけ」とか、「グローバルは関係ないっすよ。俺たち世界に目を向けているからね。」など、何事も無かったように、に、社員はにこにこと国際学会にも参加しタクシーの列に並び、夜の街に繰り出していく。当局は、国内企業には厳しいがそれが、グローバル企業の場合は、ヘッドクオーターにまでは、お仕置きが及ばない。抜け道がある、と言うよりも抜け道の方が広く、日本法人の部分だけたたいても、マスコミは攻撃の手を緩めない。そこで、代わって矢面に立って、全ての不祥事に対しての懲罰を、全ての罪を私が受けましょう、と機能しているのがせーやくきょうという業界団体である。そして、それが、また、不適切に対応するのでやっていることがばかばかしくなる。販促資料に「個別症例の事例は載せてはいかん」、それはなんでだ? 個人情報を守るため? 個人が特定できる形でもないし、対象とされた個人が不利益を被るわけでもない。それはなんでだ? エビデンスレベルが低いから? 昆虫採集みたいに「こんなに珍しいチョウチョがいました!」ではなく、どこにでもいるチョウチョでなければ、つまり、レベルの高いエビデンスで無ければ、販促資料に載せてはいけないということ? ならば聞く、わけのわからない、「基礎的実験結果から得られた推論をそのまま、臨床の現場での治療の根拠として、まるで都市伝説のような形で、不適切な治療を浸透させる手法」は、許されるのか? 一例報告同様にエビデンスレベルは「5」とされているが、そういう「にせ科学」を普及させて都市伝説を流布させてもいいのか? えー? せーやくきょうさん。せーやくきょうさんの気持ち、立場もわからないでもありません。矢面にたって、マスコミ、行政からのバッシングを一手に引き受け、じっとこらえて75日辛抱すれば、世間は、悪行を忘れ、そういえば、学会スライドのデータをごまかして、いいように営業していたたけだたけだたけだもあったねー、えっ、そんなんあったっけ?? と穏やかな日々が戻ってくる。その間、体をはって頑張っているように見せかけ、お仕置きをうけたふりをする「仕組み」「浄化装置」が、製薬企業各社からお金を出し合ってできてている、それがせーやくきょうなのだから、と考えればわかりやすい。ある高名な大学教授が言っていた、「倫理と科学?、利他の心?、そんなきれい事、本気でいってまんのか? あほちゃいまっか? 世の中は、性悪説の塊やからね・・・と。それが、道修町の倫理なのかも知れません。あほちゃいまんねん、パーでんねん、というのもありました。自虐ネタが受ける時代でもありますね・・・

今年もサンアントニオ終わります


三日目の午後の口演セッションが終わると今年のサンアントニオもバスケットボールの時間になります。スパーズがレイカーズを圧倒し楽勝におわり、それもいまいちでしたが、今日の発表もいまいち、いまに、いまさんもありました。

午後のS6-01
ドラッグハンター ホセバセルガによるピックスリーカイネース阻害剤「Buparlisib(ブパルリシブ) BKM120: ノバルティス」のエストロゲン受容体陽性乳がんを対象とした臨床第III相試験の発表です。ブパルリシブは酵素「Phosphoinositide-3-kinase」を阻害することにより、フォスファチディルイノシトール2リン酸がフォスファチディルイノシトール3リン酸に活性化され、その下流にあるmTORの働きを抑制する働きがあります。mTORは、アフィニトールが「阻害」するところですから、そのもっと上流をきちっと阻害すれば「選択的な作用」つまり、他の影響、例えば耐糖能が低下するとか、早く老いる、といったアフィニトールで見られるような副作用が軽くなるかもしれない、そして、ルミナルBのようにホルモン系統の他にPI3K –AKT-mTOR系統のシグナル伝達にすがって生きている乳がんに対して、抗エストロゲン剤などと併せて使えば、エレガントに乳がんの増殖を抑えることができるかも、PFSやOSも伸びるかも知れないということで、閉経後ER陽性乳がん患者を対象に、フルベストラント+プラセボ対フルベストラント+ブパルリシブの比較試験が行われたのであります。

また、Phosphoinositide-3-kinaseをコードする遺伝子であるPIK3CAには、乳がん組織を調べると三分の一の患者で変異がある、その結果、酵素が活性化されっぱなしになり、一生懸命ER系のホルモン刺激伝達を押さえても、別の方に増殖刺激が働いて、ホルモン剤耐性、無効となっているとも考えられるので、とりわけ、PIK3CA遺伝子に変異のある患者では良く聞くかもしれない、と言うことです。1147症例が対象、日本からも結構沢山の症例が登録されました。全症例を対象とした場合、HRは0.78、P≦0.001・・・統計学的には意味があるが臨床的には無意味という範疇の結果でした。しかし、

うーん、どうかなー、アフィニトールの二の舞かな、つまり、PFSでは、そこそこに差はあるけど、OSは変わらない、ということになるのではないかなーと懸念されます。しかし、酵素Phosphoinositide-3-kinaseをコードする遺伝子であるPIK3CAに変異のある患者200症例では、HRは0.56、P≦0.001、変異のない387症例では、HRは1.01、P=0.643と、遺伝子変異のある場合には、あきらかにPFSの改善が認められたのでした。これは期待ができるか!と思いますが、ホセバセルガの「アフィニトールの発表」が思い起こされます。PFSでHR=0.43!!!、これはきっとOSの延長が得られるに違いない、と明るいお正月を迎えたものでしたが、結果はご存じのとおり、OS変わらず、口内炎強い、お金かかるゥ〜、とあまり良い結末にはなりませんでした。でも、医学の進歩はこういうものです。人類が一生懸命智恵を絞っていると神様が自然現象を少しづつ明らかにしてくれる、光を当ててくれるということでしょう。「遺伝子変異のある患者には良く効く薬ができた」ということだけでも大きな進歩と認識するべきだと思います。

午前のS5-02

HERA試験でもBCIRG006でもHER2陽性乳がんで1年ぐらいトラスツズマブ治療を継続するあたりで再発のリスクが高くなる、それもリンパ節転移陽性において、という観察から、そのあたりで、Neratinib(ネラチニブ)に切り替えたらどうだろうか、というコンセプトに基づき行われた第三相比較試験です。ネラチニブは、ラパチニブ(タイケルブ)にちょっと毛の生えたような薬で下痢が95%の症例で激しい、という発表が3年前ぐらいにありました。なので、うーん、どうかな、と思って聞いた演題です。HER2陽性乳がん術後で1年未満のHER2治療歴のある2840症例を対象にネラチニブ対プラセボの比較でExtNET試験と言います。結果は、DFSでHR=0.67(95%CI: 0.50-0.91), P=0.009ということでした。0.67なら結構いいかな、と思うのですが、登録後1年の時点でのDFS率は、プラセボ群で95.6%、ネラチニブ群で97.8%、2年ではそれぞれ91.6%と93.9%と、たった2%程の差、ということで、カプランマイヤー曲線を見せられると「だめじゃん」と感じる。さらに、探索的に3年、4年と観察を続けても差は2%程度で経過したとのこと。さらにさらにgrede 3の下痢が40%に出現したっていうじゃなーい。多くは開始後1か月以内だが、1.4%が入院を必要とした・・・。VOGEL NEW YORKも「たった2%の差しか認められていないし下痢も強い。これは意味がある治療と言えるか?」みたいな質問をしていました。私もそう思いました。

午後のS6-02
アロマターゼ阻害剤耐性のメカニズムとして、ESR1遺伝子の変異によるエストロゲン受容体の失活、HER2経路の活性化、PIK3CA遺伝子の変異、MAP kinase遺伝子の変異、TP53の変異、Epithelial-Mesenchimal Transitionなど、いろいろなことが提唱されています。この発表は、AT耐性となった41症例で、治療前と耐性獲得後に、どのような遺伝子の発現が変化したかを調べたところ、ESR1の発現が変化したという症例が4例で、結局、それ以外の遺伝子の変化は前後では見られずということで、以前から知られていたESR1遺伝子発現について、ネズミを使った実験をしたり、見たこともないような実験結果の表記を見せたりして、結局、だから何なの、というものでした。しかし、このような、あまり役に立っているとは思えないようなことも、トランスレーショナルリサーチの美名の元に注目されるということでしょうか?

午後のS6-03

統計の魔術師ジャック・キュージックによるIBIS-II(DCIS)の発表です。これは、DCIS症例の温存術後に、タモキシフェンまたはアナストロゾールを内服してどちらが、局所再発、反対側乳がん予防効果が高いかを検討したものです。タモキシフェンとアナストロゾールの比較には、アストラゼネカがプラセボの在庫を沢山抱えているので二重盲検・二重偽薬方式の試験がやりやすいのかも知れません。結果は差が無し、それどくどくど、くどくど、と副作用の比較を魔術師らしくやりまくり、その点は、両薬剤の副作用の比較がきっちり出来たということで評価ができます。参考にはなるので、LANCET12月10日号に載っている論文を読むとよいと思います。

 

午後のS6-04
NSABPB35 試験、これもDCIS術後の患者で、タモキシフェンまたはアナストロゾールを内服してどちらが、局所再発、反対側乳がん予防効果が高いかを検討したものですが、結果は、わずかな結果がある、ということが、ASCO2015で発表されました。約3000症例を対象に10年フォローアップして、HR=0.73、P=0.03ですから、統計学的には有意だけど臨床的には無意味の範疇の結果でした。今回は、Patient Reported Outcome(かんじゃさまが報告される結末)ということで、細かな体調変化や、性生活に関すること、などを調べた、患者の生の声をチーム医療でくみ取ったみたいな売りでの発表でした。ところが、質疑応答になって、理性的な患者団体の女性が「一人の患者に効果を出すのに、いったい何人の治療をすればいいのでしょうか?」と、名郷先生が聞いたら涙を流しそうな、NNT(Numbers Needed to Treat)を尋ねたのです。すると演者は、「Many」つまり沢山、と答えたのです。話になりません。つまり、効果が乏しい状況で、かんじゃさまの声といったって、何になる、効果あっての薬だろうが! とそのアドボカシーの女性は言いたいのだろうと思いました。

午後のセッションも終盤に近づき、どんよりとした空気に包まれかけてきましたが、そこで、これはおもしろいという発表がありました。

S6-04

まずCNBで検体をとり術前にアナストロゾールを4週間内服後、2回目のCNBをして、そこでKi67などを見ておいて、1週間、アナストロゾールとパルボシクリブを内服し3回目のCNBを行い、アナストロゾール単独の時とのKi67などの変化をみて、もしKi67が10%以上ならそこで試験中止、10%未満ならばさらに28週間アナストロゾールは継続、パルボシクリブだけは1週間前に終了し手術という計画で50症例が治療をうけました。2回目と3回目のCNBでの比較で、アナストロゾール単独で十分に効果があった症例、パルボシクリブを追加したことで、アナストロゾールだけでは不十分だったKi67の押さえがぐっと追加された症例、パルボシクリブを加えてもKi67があまり下がらなかった症例などが観察されたということです。しかし、手術前の1週間のパルボシクリブ休薬でKi67が上がった、という現象も観察されたそうです。詳しい内容を、「Conference Notes」で見ようと思って、ポイントだけをメモしておいたのですが、なんと、Conference Notesから消え去れているではありませんか? 指導者がMatthew ElLiceなので、公開にこだわったのか? 理由を松沼先生、教えて下さい。

S6-05
オランダからの報告で、コホート試験でT1症例でトラスツズマブ+ケモをした患者としなかった患者、それぞれ3000人ちかいコホートを比較、そうしたら、やはりトラスツズマブ+ケモをした方が予後がよかったと言う結果。これもConference Notesから消え去っています。NEJMにAlliance Groupから、シングルアームの試験で、腫瘍が小さい場合(T1b)ではハーセプチン+ケモは要らない、という論文が出されて、それがSt.Gallen2015でも採用されたのですが、このコホート試験はその結果とは反する結果でした。なぜ、Conference Notesから消えたのか、なにやら政治的な臭いがしますが。いずれにしても、シングルアームの第二相試験だとか、コホート試験では、信頼できる、つまり、バイアスと偶然を排除できた結果は得られない、ということです。Bill McGuier賞を受賞したNSABPのDr.Norman Walmarkの言うとおり、randomized Phase III Trial をやらなければ真実はわからないのです。

今回のサンアントニオ、いろいろなことがありましたが、サイエンスの進歩と心の交流を強く感じることができました。来年のホテルも既に予約しましたよ、See you SanAntonio!! Next Year. ということで、明日、浜松に帰ります。その前にLAでおとな買い、それとも爆買いしましょうか? 1112騒動も収束し、やっと楽しいクリスマス、穏やかなお正月を迎えることが出来そうです。

 

 

暖冬のサンアントニオからこんにちは


今年のサンアントニオは、こんなに暑いのは初めて、と言うぐらい、昼間も夜も暖かいです。では、早速サンアントニオ乳がんシンポジウム初日の話題をお伝えしましょう。初日の午前中のGeneral Session1(一般演題1)は、免疫がらみの演題が続きました。

S1-01
最初の演題はアバスチンの有効性が全く認められなかったBEATRICE試験の登録症例を対象とした随伴研究です。この演題はいわゆる「 prospective –retrospective analyses」というやつで、昨年のサンアントニオで最終解析結果が発表された「乳癌術後症例を対象にした抗がん剤対抗がん剤+アバスチンの前向き(prospective)ランダム化比較試験の対象となった症例の乳がん組織検体を用いて、後付け(後ろ向き:retrospective)に各種の免疫学的指標のRNA発現を測定し、免疫学的パラメーターに着目して、予後(無再発生存期間、全生存期間)を比較して、次なる研究のヒントを得よう、という「探索的研究」結果であります。ご存じのように、アバスチン追加効果は全くなく、アバスチンの意義は全然無かったわけですが、せっかく集めた貴重な資料を最大限有効に活用するという主旨で、この研究も予めの研究計画に基づいて為されたものであるということです。しかし、そのわりには、BEATRICE試験参加2591症例のうち、この研究に参加した(検体を集めることができた)症例は1105例と半分にも満たないと言う点、やや残念に思います。

結果は結構おもしろいと思います。CD8陽性の細胞障害性T細胞で機能する遺伝子が高発現の場合、制御性T細胞で機能する遺伝子が高発現の場合、PD-L1が高発現の場合では、予後が良い、生存期間も長い、ということです。これはどういうことかと言うと、がんの周りに、がん細胞を殺してやろうと細胞障害作用を持つリンパ球が沢山集まってきているような状況は、がん細胞がそれらに苦しめられているわけです。がん細胞は生き延びるために、自分を攻撃してくるリンパ球を排除しようと、PD—L1を細胞表面に立て並べ、それをリンパ球側のPD-1に認識させて、攻撃の手を緩めさせようとする、つまり、リンパ球側にブレーキをかけさせるわけです。がん細胞表面に出されているPD-L1は、わかりやすく言えば「わいろ」みたいなもので、「どうか、これで、あっしを助けておくんなさいまし、お代官様」と障子の向こうの暗い部屋でリンパ球に渡すわけです。リンパ球にはそれを受け取る手、すなわち「PD-1」があって、「えちご屋、おまえも悪よのう」と言って受けとる。すると、制御系の仕組みが働いて、「撃ち方やめー」と、免疫反応がおさまる、という訳です。このデータはPD-L1が高発現のTNBCならば、それを受け取る手である「PD-1」に手錠をかけてしまう「抗PD-1抗体」が効く可能性があるだろうと言うことを示しているものです。同じ現象は、肺がんでも観察されています(Borghaei H et al. N Engl J Med 2015; 373: 1627-1639)。乳がんを対象としたnivolumab、pembrolizumab などの「抗PD-1抗体」の臨床試験は、対象症例の適格条件に「PD-L1高発現」が含まれている場合もありますが、それに限定しないほうがいいと思います。いずれにしても、現在、抗PD-1抗体は、悪性黒色腫とか肺がん、腎細胞がんというふうに疾患毎に適応承認されていますが「PD-L1抗原高発現の悪性腫瘍」という形でがん種を選ばずに使用する流れになるでしょう。カーター大統領の脳腫瘍が消えた、という話もこのメカニズムと関係があるらしいです。アバスチンは死んでも免疫情報を残す、という試験でした。

S1-02
浸潤性小葉がんについて腫瘍浸潤リンパ球(TIL)検討された試験です。浸潤性小葉がんは、割と広い範囲に拡がって、あるいは多中心性に発症することがよくあり、ホルモン受容体陽性の割合が90%と、かなり高いにもかかわらずホルモン療法が「ぱきっ」と効くこともあまりなく、かといって細胞毒性抗がん剤が「ざくっ」と効くかというと、そうでもなく、そうこうしている内に腹膜転移とか、胃粘膜、小腸粘膜転移といったちょっと変わった転移形式で再発してくる、といったイメージの乳がん特殊型の一つです。それなので、なにか良い効果予測因子はないものか、予後因子はないものか、といろいろな取り組みがなされています。

一方、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)については、昨年のサンアントニオでも注目演題があり(https://watanabetoru.net/2014/12/)、そしてその内容はすでに論文になっています(Perez EA et al. JAMA Oncol 2015: 1-9. Perez EA, et al. J Clin Oncol 2015; 33: 701-708.)。昨年のPerezの発表では、HER2陽性乳がんのうち、細胞毒性抗がん剤だけで治療をうけた患者では、TILが高度の場合は予後が良かったけれど、細胞毒性抗がん剤+トラスツズマブ併用治療を受けた患者では、そのような予後因子としての意義はなかった、ということで、「何かもう一つ、わからないことが残っている」というのがTILの意義であります。しかし、最初の発表(S1-01)にように、リンパ球が大騒ぎしているような乳がんは、きっと、免疫系の刺激と抑制が入り交じり、トルコ人とクルド人が渋谷で乱闘騒ぎを起こし、現場は敵味方入り交じって大混乱という状況なのではないでしょうか。それで、浸潤性小葉がんではTIL高度の場合は予後が悪い、という結果でした。しかーし、そもそもTIL高度の症例が全体の5%と少ないこと、TIL高度の症例は、グレードが高い、リンパ節転移が多い、年令が若い、など、悪い予後因子を持った症例が多いということもあるようで、これらの悪因子との交絡も否定できず、TILと免疫応答の枠組で考えて良いものか、それとも一般的な悪性度が高いもの、というとらえ方で考えたらよいのか、まだ、煮え切っていない状況です。つまり、よく学会で使われる表現「jury is still out」 (陪審員団はまだ戻っていない、決定は下されていない)という状況です。しかし、浸潤性小葉がん治療治療の鍵は「ホルモン療法+免疫療法」つまり、Immuno-endocrine therapyにあり、と私はにらんでおります。

会場は一万人以上はいる広い部屋です。部屋の周が黒いカーテンで仕切られていますが、試しにそのカーテンの裏側を探したことがあります。すると何ということでしょう、カーテンの裏側には、会場の倍の空間ががっているではありませんか!! 今日は会場の裏側から「がー、がー」というドリルの音が鳴り響き、演者の声が聞き取りにくい場面が何度もありました。司会者はpalbociclibの発表をしてNEJMに論文も載せたイギリス、ロイヤルマーズデン病院の色白のお坊ちゃま、Nicholas Turner、舞台裏でがー、がーと音がしてもお坊ちゃまは、なにもリアクションをおこさない、ボクは司会をするだけだから、といった感じで、がー、がーは、その後もずっときました。

S1-03
豪州、北欧、西欧、北米の複数の研究施設の共同研究として、過去に実施された、アンソラサイクリン、アンソラサイクリン+タキサンを治療薬として検討された試験に登録された症例を対象に、規準を統一して評価したTIL(腫瘍浸潤リンパ球)の予後因子としての意義を検討した「prospective-retrospective study」であります。結果は、多変量解析で、TILは独立した予後因子で、TIL高度の症例は、生存期間が長い、という結果が得られております。これも、がんを異物と認識して攻撃を仕掛けているような癌では、細胞毒性抗がん剤もそれなりによく効く、ということで、chemo-immunotherapyということになります。最初の演題と絡めて考えると、PD-L1の発現なども検討して、高発現の場合には、細胞毒性抗がん剤も要らない、オプジーボ(novolumab)だけでもよい、ということにならないでしょうか。そうすれば、脱毛とか吐き気のない治療に移行できるわけすから。

S1-04
先ほどから、何回が登場したPD-L1、それに対する抗PD-L1抗体の話題です。
京都大学免疫学の本庶佑(ほんじょたすく)先生グループがリンパ球表面に存在するPD-1を発見しました。PD-1は、アポトーシスを引き起こす物質「Program cell Death antigen1」として発見され、がん細胞表面に存在するリガンドであるPD-L1と結合することにより、リンパ球の抗腫瘍活性が抑制される=ブレーキが掛かるということが証明されたのでした。本庶先生は、これをがん治療薬として開発しようと製薬企業各社に声をかけてそうですが、どこもとりあってくれません。最終的に開発を担当した小野薬品も最初はとてもレスポンスが悪く、話を持っていっても長いことそのまま放置されていたと本庶先生がおっしゃっておりました。海外から、開発引き受けの打診があり、その条件として小野薬品をはずせ、とのことだったそうで、それで小野があわてて、「ぼっ、ぼくがやりますから」となったそうです。それで、現在のnivolumab(商品名オプジーボ)が世に出て、注目を集めているわけです。

一方、PD-L1に対する抗体は日本では、中外/ロシュがAtezolizumabを、AZ(アスカラゼニカ)がMEDI4736を、ファイザーとMSDがAvelumabを開発中です。また、謹慎中のノバルティスも開発に関わっています。

今回、Avelumab の安全性と有効性を検討するということでphase Ib の結果が発表となりました。薬剤耐性となった168症例が対象となり、治療中止となるほどの有害事象は8例に出たそうです。自己免疫性肝炎とか、類天疱瘡とか、γGTP異常、AST異常、CPK異常、呼吸障害などが原因。効果は1例でCR、7例でPR、39例でSDだそうです。PD-L1の発現程度と効果の関連の検討については、表がわかりにくく把握できませんんでした。あしからず。

S1-05
トラスツズマブによる心筋障害の予防を検討した比較試験の発表でした。心機能評価はシネMRI。シネMRIだと評価の客観性が保たれるし、体型、体位の影響をうけないので信頼性は高い。99症例を三群にわけて、1年間のトラスツズマブ投与中に(1)プラセボ、(2)ACE阻害剤のperindopril(日本ではコバシル【協和発酵キリン】、ペリンドプリル【ジェネリック】)、(3)βブロッカーのbisoprolol(日本ではウェルビー【サンド】、ビソプロロール【ジェネリック】)を内服、心機能をシネMRIで3ヶ月、12ヶ月、そしてトラスツズマブ終了後1年目の24ヶ月の三点で経時的に評価した。

結果は、LVEFが、(1)で5%低下、(2)で3%低下、(3)で1%低下で有意差があったというもの。心不全の発症が認められた症例はいなかったというもので、結論は、心不全治療に一般的に使用されるこれらの薬剤を、トラスツズマブ使用中の患者で心機能低下の予防として使用することが出来るというものである。会場からの質問でVogel from NYが「これらの薬剤が心機能を良くしているのではないのか、飲んでいるから心機能がよくなっているのではないのか?と言う指摘があった。確かに、βブロッカーで心臓に対するアフターロードが軽減すれば、心機能は向上する可能性はある。害悪はないので、一般臨床に使用しても悪くはないが、国民医療経済学の観点からは医療費50兆円に貢献してしまいそうである。

S1-07
戸井雅和先生の発表で、術前化学療法でpCRが得られなかった症例に、ゼローダを8週間投与するとRFSもOSも延長する、しかも副作用は許容範囲、という内容である。会場からは、ゼローダの副作用に着いての指摘が随分と出た。戸井先生は上手に上品に上質に答えていました。

S1-08
Danish Breast Cancer Cooperative Group(DBCG)の発表です。DBCG77Bトライアルは、閉経前女性を対象とした術後抗がん剤治療を検討した試験であります(Ejlertsen B et al. Cancer 2010; 116(9): 2081-9.)。全症例を対象とした検討ではCMFなどの抗がん剤はDFSもOSも改善しました。今回の発表は、その試験に参加した症例のアーカイブマテリアル(つまり組織パラフィンブロック)から組織アレイを作成し、IHC染色を行い、ER陽性、PgR20%以上陽性、HER2陰性、Ki67 13%未満、CK5/6陰性、EGFR陰性をLuminal Aとして抗がん剤治療の効果を検討したのです。つまり、これもprospective/retrospective studyということになります。その結果、Luminal Aの規準に該当した165症例では、抗がん剤治療の効果は、DFSにも、OSにも認められなかった、という発表です。会場から「CMFなどの抗がん剤による卵巣機能抑制効果は働いているはずだろうが、どうして差がないのだ。抗がん剤によって閉経した症例の割合はどれぐらいだ」という質問がありましたが、演者は、やや居直り、「これは、1970年台後半に行われた試験だから、そこまでわかりません。」と答えておりました。

Luminal Aは、腋窩リンパ節転移があるとか、腫瘍径が大きいといった「解剖学的腫瘍の拡がり(anatomical tumor extent)」よりもBiologyを考慮して、術前でも、術後でも細胞毒性抗がん剤は使用しないという基本は重要だと思います。ただし、再発した場合は、いろいろな修飾が加わるため一概に細胞毒性抗がん剤は使用するのが普通です。ということで、この演題、なかなかよいと思いました。

今日は多地点グループで恒例となった「リアル多地点@トニーローマ食事会」があり、連日の肉食系生活であります。それでは今日はこの辺で終了とします。

がんのひみつ


小学生、中学生にどうやったら「がん」についての正しい情報を提供することができるか、ということが厚生行政の一つのテーマになっています。そのための研究もいろいろと行われていますが、国立がん研究センター研究所の山本精一郎先生たちの取り組みはとても興味深いのです。彼は、幼少の頃から「学研の○○○のひみつ」シリーズを読んで育ったそうです。なるほど、それであんなに探究心の強い行動力のある人間に育ったのだと推察しています。彼が研究として取り組んだのはこのシリーズでがんについて、小学生ぐらいを対象に情報発信できないか、つまり学研と協力して「がんのひみつ」を出版したのでした。これは、非売品で全国の学校図書館などには寄付されていますが、アマゾンドットコムでは買えません。それで山本精一郎先生に頼んで数冊、わがNPO法人がん情報局にも送ってもらいました。読んでみるとがんの疫学や生物学、診断、病理学、そして手術のみにフォーカスを当てた治療学、そして、サバイバーシップまで、とてもよく書かれています。抗がん剤治療はあっさり。それで当院職員や患者さんのお子さんで小学生以下の子どもたちに読んでもらい、感想文を書いてね、と伝えておきました。先日、当院の忘年会で子どもたちも沢山参加し、そのときに、依頼した子どもたち全員が、しっかりと感想文を書いてきたではありませんか!! 「がんはこわい病気だと思っていたけれどきをつければだいじょうぶだということがわかりました。」「がんがどうしてできるかということがわかりやすくかいてありました」「ぼくはおとなになってもぜったいにたばこはすいたくありません」「わたしのおとうさんはたばこをすっていますが、ぜったいにやめてもらいたいです」・・・などなど、ポイントを捉えた素晴らしい感想ばかりです。山本精一郎先生の研究としても、どのようなアウトカムが得られたか、ということは重要なエンドポイントでしょうから、子どもたち、保護者たちの感想文を送ることにします。がんについての対話、交流がとても大事なことですが、がんになってはじめてがんに関心をもち、ところが、不適切な情報に振り回されてうろたえる患者たちを見ていると、予めの基盤として、ある程度の、常識的、がんのひみつ的、ためしてガッテン的知識は、身につけておいた方がよさそうだと思いますね。近藤誠的な話は要りません。

六十の手習い(2)


60歳で習字を始めること。年をとってから物事を習うたとえ」。担当者が蒸発したので新規に導入したMMT eliteを私が活用することになった。針刺しはFNACにはじまりCNBと国立がんセンター病院では腫瘍内科の仕事であった。33番診察室は内科、35番診察室はFKTMらの外科、間の34番診察室は予約外や処置のため内科、外科で利用していた。我々が術前化学療法を始めたのが2000年頃だったが、CNBが必要でBARDの機械を内科で購入しCNBも34番で内科が行っていた。多い日は1日5件位はぱしっ、ぱしっとやっていた。その頃からエコーを使用してやっていたが、私が左利きのため機器の設定がそのようになっており清水先生らの右利きのCNBは配置を換えていた。元々、学生の臨床実習で一外をまわったときに手術に入って当時は学生でも皮膚を縫ったり簡単なところはやらせてもらっていた時代で、私も当時は外科に興味があったので手術をやらせてもらえるというのがうれしかったが、機械出しの看護婦のばばあが左利きの子がいるとやりにくい、とぶーぶー、のべつまくなしに、手術中に文句を言われつづけたので、それがいやで、手術にははいらなくてもいいです、とすねた。そのあたりから、外科嫌いが始まったのかもしれない。断っておくが外科は嫌いだが外科医は好きです。それで、CNBはお手の物で、当時は腋窩リンパ節でさえ恐れずにCNBでぱしっ、ぱしっやっていた。(以下次号)。

そんな針刺し技も、超音波装置の解像度向上や、MMTやVacolaといった吸引式針生検の普及で精度が向上し患者の苦痛も軽減してきたのがここ10年ぐらいの出来事。最近は、針刺し技は、若手医師やらに任せ、私は、病理診断結果の解釈、サブタイプ別治療方針の決定といった「頭脳技」をもっぱら行ってきた。しかし冒頭のような状況のため、多少錆び付いていた針刺し技を自ら行う状況となった。この機会を有り難き好機と捉え、針刺し検査室の環境整備(第三診察室を検査室とし、検査台、超音波装置の配置、配線の見直し)をやり直して、手技の確認を行った。

五郎丸選手のルーチンのように一定の手順を確立するには、何度も何度もシュミレーションを繰り返す必要がある。肉のくわばらは近所でも有名な良心的な肉屋として知られている。肉のくわばらは毎月「29日」はお買い得、その日に行って、肉の塊を買ってきた。刺入角度、深さ、針の進め方、機械の持ち方など、超音波装置で確認しながら深夜一人で何度も何度も練習し、ルーチンを確立した、肉は、お買い得国産ヒレ肉100グラム98円というのを塊で買ってきたのだが、最初にキッチンで必要な大きさにいくつかのブロックに分けてとりあえず5分の一を使って残りはあとで使おうと冷蔵庫に入れておいたのだが、結局、最初に切り出した一ブロックだけで技は完成の域に達した。妙子が冷蔵庫の肉を見つけて、どうするの、こんなに買っちゃって!! と言うので、どうしよう、と戸惑っていたらヒレカツを沢山揚げてくれた。これがまた、最高の美味、柔らかさでありがたい。ルーチンの確立は、どんな領域でも大切なことだと思う。そして、いくつになっても、新しいルーチンに挑み、自分のものにすることが大きな刺激となり、また、あたらしい目標となるのだ。我々の年代、周りを見回してみると、そろそろ人生の終焉と捉えているような人々もいる。活力、展望を無くして、これからどうしようかと、自他共に先行きが不透明な人々もいる。それはそれで、悠々自適でよいのだろう。しかし、新たなルーチンへの挑戦は私にとっては最大の活力源である。85才までの現役宣言をした以上、たゆみない挑戦、自己研鑽が続く。六十の手習いはまだまだ序章である。