発送電分離≒開発販売分離


 ある研究会でザンクトガレンなどの「最新情報」をお話ししようとしたところ、事前のうちあわせでスポンサー企業から「承認されていない用法・用量については触れてもらっては困る。削除せよ!!」とかなり高圧的な態度で内容の変更を求めてきた。最新情報を提供するということは最新のエビデンスを提示し論ずることであって、承認された用法・用量についてしか話せないのなら最新情報ではないだろう。聴衆が期待しているのは、これからどんな使い方が出来るようになりそうか、これからどんな薬が出てきそうか、どうすれば患者の役に立つような治療が組み立てられるのか、ということに関する情報である。企業の言い分は、『日本製薬工業協会が自主的に設定してる「医療用医薬品プロモーションコード」というものがあり、その3章にある、医薬情報担当者の行動基準 (3) 効能・効果、用法・用量等の情報は、医薬品としての承認を受けた範囲内のものを、有効性と安全性に偏りなく公平に提供する。』ということらしい。そりゃ、あんたたちの行動基準だろう、我々の講演内容まで、どうして規制するのか? 講演を依頼された我々の発言まで日本製薬工業協会の自主規定に縛られるのか? そんなんだったら薬剤添付文書をコピーして配ればいいじゃん、と思ってしまう。私の横に座ってじっと私の作業を監視していた若手社員に、この規定、おかしいと思わないか、と聞いたところ、「多くの先生にお叱り頂いておりますので・・」とますますふざけたことを言う。つい「多くの先生って、いったいだれがそんなばかなことをいっているのだ? 名前を言ってみなさい、名前を」と追及したらたじたじしていた。ばっかじゃなかろうか、本当に。 発電と送電を分離するという話のように、新規薬剤を開発する企業と、販売する企業を完全に分離すればこのような不合理は解消される。臨床試験までを実施し、効果と安全性が確認されたら、開発会社はその薬剤の販売にはたずさわらず、販売会社にすべてを売却し開発費を回収するのだ。現在、ジェネリック販売会社が台頭してきているが、これをもっともっと徹底し、ジェネリック販売会社がすべての販売を引き受ける。開発会社は、一切、開発後の販売にはタッチしないことにすればよい。新薬の薬価審査に携わったみてわかったことだが、新規薬剤の開発には確かに膨大な投資がなされているため、それを回収するため、製薬企業には数々の優遇措置が施されている。たとえば、販売利益率は20%が保証されていたり、10年間の特許で守られ独占販売が保証されていたり。だから、この不況でも製薬企業だけが都心の超一等地に超豪華なオフィスを移し、のうのうと利益追求に走っている。ついでにいうと、上記のプロモーションコードの同じ章にある(5) 他社および他社品を中傷・誹謗しない、という項目は全然守られていないのではないか? ん? どうよ、AZ vs. TKDとか、虫 対 G●Kとか、がん領域なんてかわいいもので、糖尿病の領域なんてもっともっとひどいものだよ。

つばめ君 入居


リフォームを完了したツバメ君夫婦 昼間はあたりをしきりと飛びまわりときどき巣を覗きに来ていたのですが、どうやら入居が完了したようです。黒くて丸い頭が見えます。これから卵を産んで抱卵しヒナがかえるという段取りになると思います。

つばめのリフォーム


2005年の開設直後、オンコロジーセンターの玄関軒下にツバメが巣をつくりヒナがかえったことを独り言した。そうしたら、「渡辺先生、自然に囲まれ故郷に帰りゆっくりと余生を過ごしてください。」と変な励ましを頂いたことがあった。その翌年もツバメがきた。しかし、ツバメの巣の下で浜松祭りの大騒ぎの接待をしたら夜通しじっと耐えていたツバメ君、ヒナが巣立つとそうそうに巣を半分壊し、家族で帰国してしまった。それからというもの、ツバメの来訪なく軒下の巣は経年変化で朽ち果てつつあった。今年は4月の中頃から市内でもツバメが飛来し始めたがオンコロには来ないと思っていた。ところが連休あたりから、東海道ぞいの電線にとまって遠くからじっと巣の方を見つめたり、時々、壊れた巣を覗きに来たりするスワローズを見かけるようになった。1週間前から2羽が交代で巣のがれきを撤去したり、かけたお椀を継ぎ合わせるように巣の壁を土で修繕しはじめた。そして、なんということでしょう、昨日、今日あたりには、ほぼリフォームが完成し巣の中で休憩するヤクルトスワローズがいるではありませんか!なぜ、5年の空白ののちに再度、営巣したのか、ツバメ~に聞いてもわからない。深く考察してみるに、①東北地方での営巣が困難になったこと、②放射能のため立ち入り禁止区域を避けたこと、③浜松祭りを市長が自粛中止したことがツバメに評価されたこと、④なにかおめでたいことが起きる前兆かもしれないこと、などが原因として考えられる。ヒナの巣立ちを心待ちに、5年間しまっておいた専用ツバ糞シート今朝、敷設した。

ケモをするとき


分子標的薬剤、ホルモン剤など、非・細胞毒性薬剤が各領域で台頭してきた。でも、細胞読師絵抗がん剤(ケモ)が役立つ場合もまだまだある、という移行期を迎えているのは間違えない。乳癌ではタモキシフェンの登場により1980年代にホルモン療法が普及した。しかし、タモキシフェンは閉経後しか効かない、閉経前には効かない、というような誤解が当初あった。そのため、ホルモン療法は、若い人にはあまりきかない、とか、若年者にはケモが必須、という誤解が今でもはびこっている。ザンクトガレン2009からは、リスク評価から年令という因子が外されたにも関わらず、いまだに若い人にはケモ、という「超専門家」もいる。ザンクトガレンカンファレンスの歴史は、「ケモをしなくていいひとを見付けて無駄なケモはしないようにしよう」というのが重要なコンセプトとして底流を流れている。今回、Luminal Aには、よっぽどのことがない限り、ケモはしない、ホルモンだけでいい、というコンセンサスが得られ、ひとまず、上記の底流の完成型をみたのだ。先日の大阪での講演会、地元の中堅の精鋭が壇上に上がり、ケースカンファレンスを展開した。しかし、驚いたことに名だたる施設の中堅医師たちが、Luminal A 閉経後、腋窩転移1個症例に、ケモをやるという。その心は、1%でも2%でも再発が抑制できるのならケモを勧める、というのだ。確かにLuminalAだけを対象に、ケモ対 ケモなしの比較は行われていない。しかし、ER陽性、閉経後では、Luminal A・Bひっくるめた形での検討はたくさんやられていて、ケモの上乗せ効果は、限られている、ことがしめされており、Luminal A的なキャラクターを持った症例では、やはりケモのベネフィットは極めて乏しく、この1%、2%というのも根拠のない話だと思う。思わず、壇上の若手たちに、「では、先生たちは、ハルステッド手術をやりますか」と聞いてしまった。かつては確かに標準とされていた治療が、その後の知恵の蓄積で、もはや過去の遺物となっている例はいくらでもある。Luminal Aに対するケモも同じような認識で考えるべきではないか。反論として、2007年まではリンパ節転移が1個あればケモするのが標準だったのに、それが、急にケモ不要といわれても・・・というもの。確かにガイドラインでもそう書いてあるが、それは、知恵が蓄積する前の話しで、既に知恵が蓄積した今、昔の知恵で患者を苦しめてどうする? 菰池先生、ご意見どうでしょう?

開業は敗北と思っていましたって?


ジャパニーズサージャンを自他共に認める外科の先生から「がんセカンドオピニオン迷いのススメ」読みましたよ、分かりやすくていい本ですね」とおほめの言葉を頂きました。細かいところまでよく読まれているようでうれしく思いました。彼が特に強調したのは、今後の診療所のありかた、高機能診療所の提言のところ。「僕は今まで、開業は敗北だと思っていました。だけど、あの本を読んで、先生がやっている高機能診療所というのがものすごく重要だっていうことがわかりました。それでいままでなんとなくつかえていたものがとれてすっきりしました。」と言うのです。私は祖父、渡辺兼四郎、父、渡辺登のDNAを受け継ぎ、診療所医師としての自己実現の姿を目の当たりにして育ち、また親族にいた大学教授の姿を見て、こんなものかとも思い、今やっているような高機能診療所を目指す流れが自然にできあがったもので、開業は敗北なんていいう感覚は全くもちあわせていません。しかし、2005年に浜松オンコロジーセンターを開設したあたりに、周囲から色々言われたことを題材に、「がんセカンドオピニオン迷いのススメ」の中に記述した医療界における開業医の評価のところで、彼は痛く感銘をうけたようです。確かに彼の出身大学では、志をもって診療所を開業している先輩がいないそうで、尊敬できるワーキングモデルがいないこともあり、診療所を開業することは敗北であり、情けないこと、という認識が蔓延しているようです。とにかく、大学にしがみつきたい、大学教官としてのポジションにつけるのならやったこともない救急医学の教員として大学に残っている情けない奴もいるくらいです。そんな文化、風土のなかで育ったジャパニーズサージャンに感銘を受けた、と言われれば、思わず、♪きいろとくーろは勇気のしるし♪と謳ってしまいそうな気分でした。

コーチシンセイって何なの?


 

HER2-豊穣乳癌の術前、術後、再発後、いずれの状況でも週1回、または3週1回投与のすべてが承認され、日高さんの言うところの「きれいな添付文書」となったことは喜ばしいかぎりである。こうなったからくりは行政お得意のガス抜き超法規的3段飛び論法である。今回は「公知申請承認」という形の超法規的ウルトラCが使われた。公知申請(こうちしんせい)とは、適応外処方について科学的根拠に基づいて医学薬学上公知であると認められる場合に、臨床試験の全部又は一部を新たに実施することなく効能又は効果等の承認が可能となる制度である。外国において承認されていて、使用実績があるとか、一流論文に試験結果が出ているとか、日本でもその使い方で臨床研究を始めたいグループがいるとか、ちょっとやって形だけ整えたとか言う場合に公知申請ができる。公知申請が受理された適応外薬については、適応外だけど保険適応OKということになる。
あるMRくんが、「これで先生方もハーセプチン、術前治療、今までみたいにこそこそやらなくても、大手をふって使用できますから」というので、「別に今までだってどうどうと使っていたジャン」というようなやりとりがあるぐらい、何が違うわけ、どこが変わったわけというのが正直な感想である。ただ、行政的に形をつけたということなのだ。
この不可解な状況は、ハーセプチンが最初に承認されたときに、それまで、外科社会で使っていた「進行再発乳がん」という用語をあえて、内科社会の用語である「転移性乳がん」を使って適応承認したところに端を発するわけである。もし、あのとき、我々内科が変に頑張らないで、進行再発乳がんで、ハーセプチンの適応をとっていれば、その中に進行乳がんとして術前治療も当たり前の古都として実施でき、こんなややこしい公知申請の枠組みで承認を待つことはなかったのだ。進行再発乳がんという外科言葉は、手術のできない乳がんというテクニカルスタンドポイントオブビューに立った、如何にも外科的な用語で、私たちはそれを嫌っていた。それであえてメタスタティックブレストキャンサーを転移性乳がんと訳してバイオロジカルスタンドポイントオブビューにたった用語をハーセプチンの最初の適応疾患として無理やり押し込んだ、という経緯がある。その後、転移性ということばはおかしい、おかしいという、化石のような外科医もいたので、確かにおかしいかも、という話になって、最近では転移乳がんというふうに用語統一をする、という話になった。

それはおいといて、公知申請というのは、「つまり、公知 みんな知っていることジャン、海外ではばんばんつかっているじゃん、なんで日本で使えないの?」というやつを、「では、特別に認めてあげよう、特別だよ、特別だからね、臨床試験なしで認めてあげるんだからね、気をつけてね」というものである。

「なんに気をつけるわけ? 効果もあって、安全性も確認されているわけでしょ? じゃあ、ふつうの承認と同じジャン」ということで、本質的に特段、気をつけることなどなにもないのだ。ふつうに、他の薬剤に払う注意と同じように注意すればよい。しかし、なんか、行政の対応を見ていると認めたという責任を回避しているように感じるなあ。。それじゃあまるで東京電力問題や、生肉ユッケ問題とおんなじではないでしょうか? このタマムシ色、二枚舌的行政対応が我が国の様々な問題の根底にあるのではないか。HER2豊穣乳がんにはどんな状況でもハーセプチンは使用すべきであろうし、また、カルボプラチンも、同様に、公知申請が承認されたのであるから、エビデンスがある使い方を確かめて患者さんにベネフィットをもたらすような使い方を積極的に導入していきたいものだ。
MR君に聞いたところ「先生方に使ってもらってもいいんですが、お前ら、宣伝はしてはいかんとか言われているんですよ、情報提供活動もやっていいいだか、いけないんだか、わけわからないっすよね。」と。確かにそのとおりだ。行政は、行政なりに筋を通したつもりだが、そんな屁理屈は、世の中には通用しないということを、小役人は分かっていない。東京電力問題や生肉ユッケビビンバ問題と同様の火種は日本全国、あちこち、あらゆる問題でくすぶっているのだ。