がん医療の確かな進歩を実感した5日間


あれから、ずーっと、SERDの経口剤が開発されないかなーと、待ち望んでおりました。「ねえねえ、岡村、なんで経口剤にならないの?」とチコちゃん風に尋ねようと思っていましたが、リストライマダとなってしまいMRくんもいなくなり、声も聞こえず、姿も見えず、たまにヴァーチャルMRくんからメールが来るだけ。それはさておき、Genentechの発表に対して私が質問したのは:I understand your compound is excellent. But my concern is the method of administration. Is it oral or injection? 即座に帰ってきた答えは「ORAL」、私は思わず「Oh Its painless.」といったように覚えています。

私の質問について多くのオンコロジストが、「That’s the point! 」「That’s very good question」と反応してくれました。それほどまでに「お尻に2本の注射」は世界的にも、やりにくい治療、というわけだったのですね。それ以上に患者さんたちにとっては辛い治療だったはずです。イブランスが承認されたときに、「通常、成人には本剤2筒(フルベストラントとして500mg含有)を、初回、2週後、4週後、その後4週ごとに1回、左右の臀部に1筒ずつ筋肉内投与する。なお、閉経前乳癌に対しては、LH-RHアゴニスト投与下でCDK4/6阻害剤と併用すること。」となっています。「閉経前の患者さんは、『毎回採血され、お腹に注射され(ゾラデックス)、腕に注射され(ランマーク)、さらにお尻に2本も注射され(フェソロデックス)とてもつらいわ』と泣いてますよ」と桜井さんが言っていると聞き、そのとおりだけど本当に申し訳ないな、と思います。

いや だが しかし ところが 針をささなくても、メスで切らなくても、副作用のどぎつい薬を使わなくてもがんが治ると言う日は、思っているほど遠くはないと感じています。カドサイラの話や経口DERDの話は、まさに医学の進歩を感じさせるものでした。

サ来年もサンアントニオ乳がんシンポジウムに参加できるよう、心・技・体を日々整えていこうではあーりませんか、みなさん!

ということで、金曜日は、カピバラ・ホズミン、アイハラール皇帝、たまをくわっち、ムルアカ・はやしの4人の外国人と一緒にユーバーを使ってスパーズ対レイカーズ戦に行ってきました。地元スパーズが快勝!! 帰り道はGo Spurs Go!! の大合唱でした。これで今年のサンアントニオ報告を終わります。尚、おおたにくんの大活躍はあちこちで話題になると思いますからここには書きません。さてMission completed  !! 愛犬と愛妻が待つ我が家に帰り着きました。もういくつねると お正月・・・

待ち望んだ新薬登場か!


お尻に1本でも残酷なのに2本も毎月注射することがどうしても納得できない私には、Genentech社の社員がサンアントニオ乳がんシンポジウム2日目のセッションで「新規SERD(Selective Estrogen Receptor Down regulator: 選択的エストロゲンリセプター作動薬)を開発中で既存のSERDであるフルベストラント(商品名:フェソロデックス)と比べてよりもっとずっとがっつり優れている」というデータを発表したとき、またお尻注かと心配になり質問したところ「経口剤です。」という答を聞き胸をなで下ろす思いでした(つづく)。

 

昔の名前で出ています


私はフルベストラントの国際治験に20世紀の終わりに携わりました。タモキシフェン1錠(20mg)内服とフルベストラント1本(250mg)筋注との二重盲検試験でしたから、対照群は「タモキシフェンの本物内服とヒマシ油をフルベストラントの偽薬(プラセボ)としてお尻に注射する」、試験群は「タモキシフェンの偽薬とフルベストラントをお尻に注射する」というものでした。しかし、この試験の結果、フルベストラント(250mg)はタモキシフェンに勝てず、欧米では承認されたものの日本では承認されませんでした。欧米で承認された理由ははっきりとはわかりませんが、新しい作用機序の薬剤、という雰囲気で、一気に発売に至ってしまったのか、リストラマダカ社の影響力(注:リストラマダカ社の前身は、ICI (インペリアル・ケミカル・インダストリー)、つまり王室御用達の化学会社だったわけですから、臨床試験の成績が乏しくても権威で承認させてしまうぐらいのことはあったのかも知れません。がっかりするリストラマダカの開発担当者を(お尻に注射だけに)尻目に「やっとこれで患者を苦しめる必要がなくなった」と感じたのでした。また、当時から「お尻に筋注するというのは、薬剤として完成度が低いのではないの? 経口剤は開発できないの?」とリストラマダカの開発担当者には折々の言葉として語っておりました。しかし、その後、いつの間にか、お尻に2本の注射と1本の注射の比較で2本が勝った(COMFIRM試験)ということになり、2011年に日本でも発売されたのでした。以来、お尻の注射は複雑な思いを抱きつつ続けています。

HER2陽性乳がんに救世主現る


サンアントニオ乳がんシンポジウムは年々、参加者数が増え新築なったHenry B. Gonnosuke Convention Centerも人で溢れかえっている。

今日の午前中はおもしろい発表がたくさんあった。朝一番の「プレナリーレクチャー」では、MDACCのニコラス・ネイビンの「がん細胞一個一個の遺伝子発現を調べると、さまざまでいろいろである。一つの乳がんでもいろいろな性格の細胞が混じっていて、しかも、転移が進むと益々、複雑になっている」ことをビジュアルにも検証した研究。すげーッ

オーラルセッション1では、HER2陽性乳がんで、術前薬物療法を行って、腫瘍が残っている患者を対象に、ハーセプチンを14回、カドサイラ(ハーセプチンに抗がん剤をくくりつけたやつ)を14回、いずれも3週毎の使用すると、カドサイラで圧倒的に遠隔転移が減る、という発表。本日、NEJMの電子版にもパブリッシュ。ディスカッションを担当したエリック・ワイナーも、これは素晴らしいデータである。HER2陽性乳がんにはアドリアマイシンも、そしてタキサンも不要であろう、とのコメントを発していた。もはや、ハーセプチン+パージェタを術前治療に使えるので、引き続き、術後にカドサイラが使用できるようになれば、脱毛のない、吐き気もない、手足も痺れない治療が出現した。救世主と言ったら言い過ぎだろうか。仏様程度にしておく。

午前中最後は、腫瘍内科医として長年の功績が認められた研究者が行う「Bill McGuire Memorial Lecture」にイギリスのローヤルマーズデン病院にイアン・スミスが選ばれた。彼もハーセプチンの臨床研究、アナストロゾールの術前治療など、かずかずの素晴らしい仕事を成し遂げてきた度量の広い先生だ。講演のなかで「外科医はもういらない」みたいなことをいった。そうだ、そうだ、と心の中で呟いていたら、となりにいたカピバラ・ホズミンが「だれかさんとおんなじこと、いってるね」と反応した。そのとおり、世の中は、よい薬が次から次に出てきて手術不要論を唱える外科医も現れている。「おじいちゃんが若い頃は、がんを治すと言って人の体を切り裂く外科医というのがいたんだよ。こわいねー、こわいねー。ずおうとひいたちみたいだね、そんな時代に生まれなくてよかったねー」とやがて来るおまごちゃんに語る日がきたようだ。

外部講師の役割について述べる!!


外部講師として大学の授業に行く。事前の準備:出張などの予定を変更し、外来を休診あるいは調整して昼までには終わるようにして、依頼された時間帯を確保する。依頼された内容に沿った講演原稿を作成する、それに会わせてスライド原案を考え、講義時間内に収まるように時間尺を調整する、最新の情報かどうか、関連の論文などを確認し原案をまとめ、スライド枚数を調整し数回リハーサルを行う。先方の秘書から指定された期限(これがしばしば1週間前とか2週間前とか、やたら早めの指定が来ることがあるが、秘書様のお仕事の都合だから仕方ない)に合わせスライドセットを作成する。配付資料を作成し、PDF化してメールに添付して送る。当日の準備:急患が来ないように祈りつつ、30分前には大学に到着するように出発する。当日の状況:指定された講義室に行く、配布資料は講義室の最前列に置いてある(早めに行けば配付資料を持ってきた秘書様に会うことができるが会ったところで「あとは宜しくお願いします。」といって立ち去ってしまうので意味は無い。10分前位には講義室に入るが、そこがまるで駅の待合室のようなざわついた雰囲気である。パソコンをつなぐ、プロジェクターのスイッチを入れる、スライドが映るかどうか、マイクが入っているかどうか、自分でセットアップする。秘書はいないので全部自分でしなくてはならないが、最前列に座っている利発で親切な男子学生が大概、近寄ってきて手伝ってくれる。これにはいつも感謝の思いを抱く。そしてそういう学生は最後まで集中して講義を聴いていて、講義が終わった後に演壇の所にきて質問をする。全ての学生がそうだといいのだが、8割の学生はそうではない。マイク、スライドのセットアップが終わるころに学生たちが最前列に山積みされた配布資料を取りに来る。見ていると、一人で4−5部持っていく学生が少なくない。欠席する友達の分を取っていくのだろうけど、それがまず、間違った行為である。また、私に講義を依頼した大学側の教員、事務員、秘書などの関係者は、最初から最後まで、講義室には来ない、居ない。だから、学生たちのお行儀の悪さ、間違った行為を知らないし咎めない。開始時刻になっても講義室はざわついている。開始時刻にすでに机に伏して居眠りをしている学生がいる。開始時刻前後に荷物をまとめて配付資料を取って教室を立ち去っていく学生がいる。講義を開始すると、立ち上がって手ぶらで出て行こうとする学生が多い。あまりの非礼さにたまりかねて「君、君、どこへ行くんだ?」と問うと「トイレです」と平然と答える。「トイレは休み時間に行っておきなさい。君は前立腺肥大なのかい?」医学部の学生だからこれぐらいの冗談は質は悪くておもしろくはないが許容されるものだ。講義を始めて10分ぐらいたつと、講義室の前方3分の1くらいの席に座っている学生たちが、真剣に講義を聴いている、配布資料に一生懸命書き込んでいるのに気付く。同時に全体に居眠りをしている学生、スマホをいじっている学生、おしゃべりをしている学生、文庫本を堂々と読んでいる女学生、などなど、これが国立大学医学部の学生か? と思うような、非礼、無礼、不作法な者どもが目立つ。演壇からはけっこうよく見えるものだ。真剣なまなざしはとてもうれしい。将来きっとよい医師、研究者、教育者になるだろう。実際、15年近く浜松医大に講義にいっているが「先生の講義、聞きました。よく覚えています。たんぽぽの種の話、いいですね。」などと言ってくる卒業生に時々巡りあう。

講義が終わると数名の学生が演壇に来て質問をする。以前、「一度、先生の施設に見学に行っていいですか、冬休みに伺います」と言って、実際に見学に来た学生も数名いた。しかし、あきれた。初めから最後まで谷島屋のカバーを付けた文庫本を堂々と読んでいた女学生が演壇前にやってきて「あのように出て行く人に言うのはよくないと思います」とクレームを付けてきた。チコちゃんみたいに激怒寸前、「君たちは子供じゃ無いんだから、休み時間にトイレに行っておくぐらいは、当たり前のことだろう、よく考えてからモノをいいなさい、だいたい、君は最初から最後まで文庫本を読んでいただろう。そんな学生にクレームを付ける資格はないだろう!!! 名前を言いなさい、名前を!!」と、こちらも言いたいことは言わせてもらおう。それが外部講師の役割である。

私立大学には私立大学の方針がある


東京医大を落ちた女性が大学に抗議して慰謝料をとか、入試の点数を公表せよと要求している、というニュースを見ました。昔から私立は裏口から入るとか、お金を積んで入るとか、年くった浪人生は落とされるとか、そういう話はよく聞いていました。私立には私立だからできる選抜の仕方があるのでしょう。数年余分にかかっても卒業して、しっかりとした研究、診療、教育に携わっているいる先輩、同僚、後輩も沢山いるから、別に私立だから、公立だからと、医師の質、人間性、技量、などが異なるなんていうことはほとんど意識していません。私の回りでも、同じような感想を述べる人は多いです。いいじゃん、べつに、といった感じです。女性の話になると軽はずみな事をいうとヒステリックな集団に袋だたきにあいそうだけど、落とされた女性が大学に慰謝料を、自分の入試の点数を公表せよ、とかいうのも何を今さら??と感じます。過去を振り返らず、将来を見据えて、今を生きる・・・ 済んだことは済んだこと 生まれた時が悪いのか、それとも俺がわるいーのか、という割り切りも必要だと思う。つくば大学の女学生がinterviewを受けて、受験生につけをまわすな、みたいなことを言っていましたが、それもお見当違いで、自分は国立に入ったのだし、医学生としてまず自分の足下をみて、しっかり勉強していい医師になるように精進したらどうよ、と言いたくなります。世の中、差別もあれば区別もあり、完全平等なんてことはありませんし、平等が理想、というわけでもないと思います。理不尽な世の中をバランスを取りながら生きていく修練も、必要なものです。

考え直そう 個人情報保護法への過剰対応


昨日の勉強会、「60才台女性、X年 Stage IIA乳癌で乳房切除術、組織型は髄様癌、アドリアマイシン+ドセタキセルによる術後治療実施、X+8年、反対側乳癌発症し・・・・・」というプレゼンテーションがありました。 最近、この手の発表が多く、聞いていていらいらして、頭にきて、つい手を挙げて質問 「60才台って、60才なのか、69才なのか、それによって推定する体力とか、臓器機能が異なってくる。何才なのかはっきり言って下さい。」「X年とはいつのことか、髄様癌は、トリプルネガティブだが予後はよいので、術後のケモはしなくてもいい、と2011年のSt.Gallen Conferenceで論じられているが・・?」

このような年令をぼかしたり、年月を伏せ字にしたりする曖昧なプレゼンテーション形式、最近の「スタンダード」になっていますがいつも聞いていてもどかしく、ひとこと言わずにはいられません。『40才台女性・・って、40才と49才では、閉経状況を考慮する際に全然違うだろう』、『X年って、ハーセプチン登場前なのか? イレッサが発売されていたのか? オプジーボが使えるようになってから?』 など、症例検討する際に不可欠な情報までもがマスクされてしまって、こんなんじゃあ話にならん!!と、はづきるーぺのように思わず書類を投げつけてしまいます。

この不適切なプレゼンテーションが行われる理由は、天下の悪法「個人情報保護法」に対する過剰反応であります。とくに2017年にこの悪法が改定されてからとくに不適切プレゼンが増えたようにと思います。発表者に「どうしてこんな「どうしてこんな曖昧なプレゼンをするのですか?」と聞いたら、「最近、皆さん、こういう風にしていますから・・」と、チコちゃんに叱られるよな答え。座長に尋ねたら「そのように決まっているようです」としか答えません。

たしかに個人情報保護法でマスクすべき情報は「特定の個人を識別できるもの」、「他の情報と簡単に照合できてそれによって特定の個人を識別できるもの」です。当然、昭和30年8月14日生まれ、静岡県浜松市新町112生まれ、男性、血液型AB型、浜松西高卒業、愛犬ロビン、とすれば、氏名がなくても個人を特定できるでしょう。しかし63才男性、19才で急性虫垂炎手術としたって、個人を特定できるものではありません。

また、医師, 薬剤師,製薬企業社員などは刑法 134 条で「これら の職にある者、過去にあった者が,正当な理由がないのに,その業 務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏 らしたときは,6 月以下の懲役又は 10 万円以下の罰 金に処する」とあります。また看護師、保健師、助産師の場合は、保健師助産師看護師法(いわゆる保助看法)に「正当な理由がなく,その業務上知り得た人の秘密を 漏らしてはならない。保健師,助産師、看護師又は准看護師 でなくなった後においても,同様とする」と定められ ており,この法律に違反した場合も刑法 134 条と同じ重さの 刑罰が規定されています。つまり、我々医療職従事者、製薬企業社員は職業に就いた時点から、個人情報を尊重することが義務づけられ、そのように修練を積んできているのです。ですから、勉強会に当たっては常識的、合理的な対応をすればいいのです。法規を正しく理解もせずに、ぼーっと生きてきて誤った過剰対応することは、角を矯めて牛を殺す ことになってしまいます。皆さん、30才台女性、○○年・・・というプレゼンはもうやめてしまおうではありませんか。反論があれば、匿名でもいいので、コメントお願いします。

以前に独り言した浜松医療センター病理カンファレンスの不自然な分断も個人情報保護法への過剰対応の結果で、情報の適切な共有ができなくなってしまいました。身勝手な外科医は15年前から続けている臨床症例検討会にも参加しなくなってしまい、その結果、時代遅れの薬物療法を続け診療レベルは低下するばかりであります、こまったものです。