オンコロジストの生い立ち(4)


呼吸器、つまり肺の病気を専門とする診療科でしたから、肺気腫、今で言うCOPD:慢性閉塞性肺疾患の患者も入院していました。夏休みは2週間あって、交代でとることができました。その間は、同期の進入医局員が休んでいる間、別のオーベンの指導をうけ、また、患者も増えます。その時に担当したCOLDの70才すぎの男性、肺炎を起こして死にそうになり入院、少し良くなると「ワシは家に帰る」と勝手に退院し、また肺炎で入院、こいずみ先生がオーベンとして指導してくれましたが、夏休みの間だけだから、と毎日の回診は、がんこなじいさんの人生訓を我慢して聞けばいいから、ということでした。

オンコロジストの生い立ち(3)


当時は、がんの患者にがんとは言わない、つまり病名告知をしない時代でした。肺の扁平上皮癌の場合は「肺アスペルギルス症です」といって、「肺にかびがはえた」と言いました。抗がん剤を「かびを抑える強い薬」と言うのです。この一連のうそのつき方をオーベンに教えてもらい、うまく言うように何度も練習しました。夕方、オーベンと私、相手は患者だけ、家族も看護婦もいない暗くなった外来でのムンテラ。緊張して汗(^0^;)びっしょり。当時はこんな絵文字はありませんでした。終わったあとで「おまえ、うまいなあ」とつねた先生に褒められました。というより、おだてられたのを今でも覚えています。

オンコロジストの生い立ち(2)


入局して最初の半年は大学病院の病棟で、10年ぐらい先輩が、医師としての技術や心構え、患者さんとの接し方など、何から何まで指導してくれます。この指導者をオーベンと呼びます。ドイツ語で上を意味する「Obere」に由来する「適当語」です。私のオーベンのつねた先生はおおらかないい人でした。また、どんな状況でも褒めてくれました。はじめて、肺がんの患者に治療のムンテラをした時のことです。ムンテラとはドイツ語で「口」を意味する「Munt」と英語の治療を意味する「Therapy」をくっつけたムントテラピーの短縮型、これも「適当語」です。

オンコロジストの生い立ち(1)


がんになる人は、二人に一人という時代、がんは特別な病気ではありません。

まだ、がんが特別な病気と考えられていた時代に私はがん治療を専門とする腫瘍内科になりました。1980年、大学を卒業して肺がんの治療、検査、診断に興味をもったので呼吸器内科に入局しました。入局というのも訳の分からない制度ですが、相撲部屋に入門するようなもので、理不尽さも同じようなものです。

浜松オンコロジーフォーラムのご案内


4月21日に開催する第22回浜松オンコロジーフォーラム 今回は、私と 國頭英夫先生が演者です。ともに「やや社会派的」ネタ、今日(こんにち)のがん医療の問題点の指摘、改善策の提言になっています。参加希望の方は添付の案内状のように、お申し込みください。主催はニュートラルなNPO法人ですので、どんなお立場の方でも講演の部、懇親の部にご参加頂き、社会派的問題について、いろいろと意見交換をしようではあーりませんか。

講演内容

高機能がん診療所のすすめ
2001年に提唱されたがん診療拠点病院は今や401病院が指定されている。その理念は質の高いがん医療、特に薬物療法の普及であった。しかし未だに多くの患者に不便を強いる状況は改善していない。一方、分子標的薬剤数の爆発的増加、副作用対策の進歩により内服治療や外来化学療法といった入院不要のがん治療が標準となった現在、チーム医療を分断する院外調剤薬局のあり方に様々な問題が露呈している。この間、がん薬物療法の担い手である腫瘍内科医の育成が進み、40歳台を迎える医師が自らの将来を模索する時期に来ている。同時にがん診療に強い関心を持つ薬剤師も増えている。私は2005年「街角がん診療」を目指し50歳で診療所を継承、外来薬物療法、がん患者の包括的内科診療、介護との連携を基盤とした終末期医療を実践し手応えを感じている。その経験からがん診療拠点病院では限界に達しているがん診療の今後のあり方として、がん患者を対象とした全人的医療を提供する高機能がん診療所を提案したい。

沈みゆく船の上で想うこと
医療費は爆発的に増加し、国家財政そのものが危機に瀕している。原因は医療の高度化(=医学の進歩)と人口の高齢化であり、誰のせいでもなく、誰にも止められない。「急性期病院」は当該疾患もしくは病態の治療に専念し、「さしあたりやることがなくなった」ら慢性施設へ転院させる。慢性施設は、「急変」したら急性期病院に戻す。我々はみな、「人間はみな、死ぬのだ」という事実を忘れているかのようだ。癌治療も例外ではない。そこにあるエンドポイントは、overall survivalのみである。その過程でかかる莫大な費用は、すべて次の世代に先送りされる。医療者はコストのことなんか、全く考えない。「人命は地球より重い」からである。政治家は、ひたすら逃げる。票を失うのが怖いからである。医学生は、このようなことに関心がない。「試験に出ない」からである。日本経済は金が底をつき、日本医療は志を見失い、滅亡は近い。希望はあるのか。一つだけ残っている。

第22回_HOF案内状_180310