青春の貴重な時間の切り売り(2)


研修医、大学院生の話を聞くと、しかし「積極的、自発的に青春の時間を切り売りしている」とも言えないような行動パターンも見えてきます。一つは所属する「医局」の「医局長」という立場の丁稚小僧が、OBなどから医局に依頼されてきたアルバイト医師派遣をまかなうために研修医・大学院生に機械的に割り振り、割り振られたら内容に関わらず、貴重な時間を費やさざるを得ないというパターン。地方の古い大医局、例えば北海道大学第一内科とか九州大学第一外科、といった看板医局では、老健施設やリハビリ病院での座っているだけバイトや、はんこ押しバイトなど、「とにかく医師の資格のある人間ならだれでもよかった」ということで、『頭も体も使わなくていいから行ってくれ、ゲシェンコ(贈り物を意味するドイツ語Geschenk (ゲシェンク)の誤用、御発音:アルバイト料のこと)は5本(5万円)だから』と口頭で言われたりメールやラインで都合のつく若手が指名され否応なしにかり出されるというパターン。しかし、最近ではこのような医局ぐるみの派遣ビジネスがすっかり様変わり、大手仲介業者がインターネットで「今週土曜日12時から日曜日午後5時まで、静岡県浜松市○○病院週末外来プラス宿直、日当12万円×2」というような勧誘広告をときどき・たまたま目にします。医療の世界でも働き方改革が叫ばれる一方で、誰にとって正義なのかもわからないような資格と時間の売買が横行しているのであります。

青春の貴重な時間の切り売り(1)


14期レジデントして国立がんセンター病院に赴いたのが1982年6月1日のことでした。10名の同期生はいまでも交流があります。開講式で阿部薫先生(当時は研究所内分泌部長でした)が「国立がんセンターに来た目的を忘れないようにしなさい。青春の貴重な時間を切り売りするようなアルバイトにうつつを抜かすことなく、寝食を忘れて勉強に励まなくてはいけません。」という訓示を話してくれた。その訓示が、いまでもずーっと耳の奥でこだましています。今、この立場になり、多くの若い研修医、大学院生と接してみて驚くことは、週末であろうが無かろうが、当直アルバイトに多くの時間と精力を費やしているということです。衣食足りて礼節を知る、といいます。大学院生は授業料を払わなくてはいけません。奨学金も、かじる親のすねも無く、収入ゼロで衣食住もままならないのならば、多少のアルバイトは必要でしょうけど、海外旅行に、高級外車にと、贅沢三昧の日々を過ごすために、青春な貴重な時間を切り売りするのは、阿部薫先生の不肖の弟子としてはやはりいかがなモノか、と眉をひそめてしまいます。