東京の超有名病院にかかっている五十才代の女性が乳がん治療に関するセカンドオピニオンを求めて受診されました。右乳房にしこりを感じたため受診した病院で、しこりに針を刺し組織の一部を採取する検査を行いその結果、ホルモン剤が効くが抗がん剤を追加した方が良さそうなタイプの乳がんとのことでした。一週間後に予定されている手術までに術後の治療を決めるよう言われたそうです。乳がんの七割はホルモン剤によって増殖が抑えられるタイプで、その半分はホルモン剤だけでよいのですが、残りの半分は抗がん剤治療を追加する必要があります。ホルモン剤だけに比べると抗がん剤治療は、脱毛、吐き気などの副作用が強く、抗がん剤治療を受けたくない、と思う人は多いと思います。「抗がん剤治療はやはり必要でしょうか?」という患者の問いに対して、「手術の前にまずホルモン剤を数ヶ月行い、しこりが小さくなれば、ホルモン療法が効くということで、抗がん剤は必要ないかも知れない」というのが私の意見でした。2ヶ月後、再びセカンドオピニオン外来を受診した患者は、予定どおり手術が行なわれており、術後に主治医から抗がん剤治が必要かどうかを調べる遺伝子検査を勧められたそうです。これは、欧米では既に数種類の検査が日常診療として行なわれていますが、日本ではまだ正式には導入されていません。実施するには五〇万円前後の自己負担が必要です。患者は勧められるままに、二つの検査を受けたところ、一つの検査では抗がん剤治療は必要、もう一つでは不要という結果だったそうです。結局、高額を負担して実施した検査はあまり役立たず、主治医からは、抗がん剤がいやならホルモン療法だけをやりましょう、と言われたそうです。これ以上、患者を混乱させてもかわいそうでしたし、絶対に正しい答えはないので、ホルモン療法だけで続けることに賛成しました。しかし、情報処理を間違った医師は患者に大きな迷惑をかけるということを痛感しました。しかも超有名ブランド病院で、患者に資金力があるからといって、あれもこれも提案するのは如何なものかと思いますね。
月: 2014年8月
X+3年8月14日はやめなさい
最近、看護師や若手医師とかの症例検討を聞いていると大変不可解なことがある。X年3月どれどれどうで、X+2年12月にああしてこうして、X+4年6月、こうしてこうなって、X+7年8月あれしてああなりました。これは今月です。なぜ、どうして、事象発生年を隠匿するのか? 個人情報保護とでも言いたいのか? これはとても煩わしく鬱陶しくわかりにくいし情報として不十分だ。たとえば、HER2陽性乳がんの場合、あるいは肺腺がんの場合、ハーセプチンとかイレッサが既に市販された後のできごとなのか、市販前の年号ならば、これらの分子標的薬剤を使用していないのもしかたないが、市販後の年号ならば、どうして使用していないのか、というあたりも論点となる。それを、訳もわからず、X年などとやるものだから、いきなり集中力が失せるのだ。昨日も多地点看護の発表がこのパターンでしかも術後薬物療法の副作用対応のために緩和病棟に入院させるとか、患者の子供の宿題の心配まで医療者がしなくてはいけないとか、内容も訳わからない甘い話で、いったいSUGARS病院のガバナンスはどうなっているのか、というようなアキレタ話であった。形だけを追い求めるのではなく、しっかりした理念に基づく発表を期待したい。