おのやくひんの心得


薬剤は問屋から仕入れるのだけれども、その問屋が売ってくれない、ということがおきた。なぜ? と聞くと、薬屋の許可が下りない、という。おのやくひんに聞くと、「施設要件を満たさない」というのた。「どういうことですか?」と尋ねると「オプジーボはとても副作用が強い薬なので、お宅はその対応ができないということです。」とおっしゃる。「オプジーボ:Opudivo、一般名、Nivolumab」の臨床題III相試験結果はNew England Journal of Medicineだけでも、肺腺がん、肺扁平上皮がん、悪性黒色腫、腎がんなどで公表されているが、グレード3以上の副作用は10%、その中身は、疲労、倦怠感、無力症、悪心、嘔吐、皮疹、など、いずれもたいしたものはない。「お言葉ではありますが、当院は、開院以来、外来で500症例、三万回の抗がん剤点滴をしていますがね、副作用で死亡した患者は一人もいませんし、入院を要したのは二回だけ、どんな副作用でも対応してきている、という実績があります。それはご存じですか?」と伺いますと、「間質性肺炎など重篤な合併症もでています。お宅は多列CT検査が出来ない、と聞いています。」とのこと。「そうですね、海外の臨床試験の報告でも、間質性肺炎が400例中1例でていますね。たったの1/400=0.25%、しかも死亡していませんよね。実際、当院でも間質性肺炎がでたことは20例ぐらいでありますが、別にCTで調べなくても、自覚症状と、聴診と、胸部単純レントゲン写真で診断できるものです。ステロイド点滴などで、対応して問題ありませんでしたよ。CT検査、必須ですかね?」とお尋ねしましたところ「CTでないと診断できないような間質性肺炎もありますからね」というようなことをおっしゃる。「症状が無いような軽い間質性肺炎は、放っておいても大丈夫、ってことじゃあありませんか?」と控えめに伺うと、「当局からも間質性肺炎には十分に注意するようにという指示がございます。」とのこと。結局、悪いのは当局ということらしい。ならば、しかたない、別の手立てを考えようと思い、結構ですと、おのやくひんからは薬剤を供給してもらうことはあきらめた。後日、おのやくひん本社から、改めて断りにと、頭は悪いけど偉い人が浜松まできた。こちらも忙しかったのでお目に掛かることはなかったが「医学専門家の先生のご了解も頂けませんでしたので」ということを言って帰ったようだ。結局、医学専門家や厚生労働省がストップをかけて治療を求める人々に薬を届けることができない、というのが、おのやくひんの見解のようだ。ああ、そうかい、そうかい、よくわかったよ、おのやくひん!!

医療費の実際(1)


大腸がんでベクティビックスの点滴をしていたAさんと乳がんでアバスチン+パクリタキセル点滴をしていたHさんは小学校の同級生、待合室で「あらーっ久しぶり、どうしたの?」となって、それから、いつも「次もAさんと同じ日にしてください」、「Hさん、次、いつ?」 と、つるんで点滴を受けていました。二人が言うには、「渡辺先生、随分、もうけているでしょう。うはうはなんじゃない、だって、私たちの医療費、毎回、すごいわよ! でも、良く効いてるからいいけどね、じゃあ、点滴して帰ります、ありがとうございましたー」と、明るい点滴を続けていました。

たしかに、ベクティビックスは1回約23万円で2週間毎の繰り返し、アバスチンは2週間に27万円、パクリタキセルも1回4万円ぐらいで毎週の点滴。患者は3割負担で高額医療制度もあるので、実際、支払う額はもっともっともっと少ないけど、彼女らは「渡辺先生はものすごく儲けている」という印象をもったわけです。世の中、同じように思っている人は多いと思いますよ。しかしだね、薬剤は「問屋」から仕入れるのだけど、高額な薬剤などは、ほとんど値引きがない。しかも、病院が問屋から買う時には消費税をはらうけど、患者が支払う分には消費税は掛からないから、病院が消費税を丸々負担しているというのが実体であります。なので、下手すると消費税分、持ち出しになることもある。外来化学療法加算として5800円がつくけれど、ほとんど焼け石に水、状態なのです。だから、患者一人当たり、病院の収入は、血圧がたかい、コレステロールが高いなどの一般内科患者と、癌患者とでは、ほとんど変わらないのです。医師になった同級生なんかから、「おまえ、よくそんなめんどくさいこと、やってるな」とよく言われますが、がん治療が私の天職と心得、取り組んでいるのでかまいませんが、、確かに、わりはあわないかも知れません。

関東一円に展開する○○中央病院とか、国際○○福祉病院系列などの大規模病院グループでは、グループとして、問屋からとさっと仕入れるため、価格交渉でも強気で、問屋もかなりの値引きをします。ハーセプチンなどは30%近く引いていると聞いていますが、その分を問屋は我々のような弱小医療機関から搾り取っている、というのが現実なのであります。天国のAさん、Hさん、仲良くしていますか?

年頭の所感 -2016-


今日から診療開始です。今年も良い診療、良い教育、そして良い臨床研究と、良い育成ができますように。去年は腐ったタマネギにだまされひどい目にあったので今年は新鮮なタマネギを見極めるようにしたいと思います。

昨年は還暦を迎えたということで、他人の人生を勝手にカウントダウンして自分の人生の物差しにするような輩も現れ考えさせられた年でもありました。確かに、還暦を過ぎれば同級生の多くは自分の活動人生の終焉を意識してのんびりキャンピングカーでも買って奥さんと全国一周の旅をしたいが、奥さんが乗り物酔いするもんで、とか、そんな話を同窓会で聞いてきました。

ある本にこんなご教訓がありました。還暦すぎたら・・・

物事を中途半端にしておかないこと:永久に未完了のままになりかねません。今やっておけばあとあと苦労しないで済みます。卑近な例が年賀状の整理です。筆王とか宛名職人といった便利なソフトがあるので、十分に吟味もしないで「昨年発送先」には今年も発送としてしまいがち。どこの誰だったっけ、といような人や住所変更後訂正されてなく何年間も「宛先に尋ね当たりません」と返ってきたり。発信、受信をチェックする機能も筆王や宛名名人にはちゃんと備わっているので、年賀状データベースのブラッシュアップも今のうちにやっておくのがよいですね。

為すべき事を慎重に選ぶこと:あらゆる事をやる時間はないのだから本当に必要なこと、意味のあることを吟味してとりくむべきでしょう。子どもの頃から手慣れていたLEGOを、試しに買ってみたらいろいろできるできる! パーツも豊富で奥が深ーい!!しかし、こんなことはやってられない、と思い直し、教会の子ども学校に寄付しました。羽生結弦もやっていたというから、情操教育には役立つはず。

人と喧嘩や仲違いをしたまま1日を終わらないこと:仲直りせぬままこの世を去ることになっても困るし、かといって、いやなやつと無理して会って話すつもりもないし、向こうもそう思っているだろうし。まあ、喧嘩や仲違いはしないにこしたことはありません。群馬の腐ったタマネギにもう一度だまされるのはまっぴらごめんですら。