HER2 FISHは認めませんって 本当でしょうか?


公知申請が通ってハーセプチンは、HER2過剰発現が確認された乳癌なら、術前であれ、術後であれ、再発であれ、転移であれ、進行であれ、1週毎であれ3週毎であれ、使用できることになりました、と、本日中外製薬のMRクンたちがやってきました。公知の記念にコーチのボールペンをおまけにあげますと、とても愉快なだじゃれとともに、とても使えそうもないへんちくりんなボールペンを、いらないというのにおいていきました。ついこの間まで、術後には3週間おきでないとだめ、とか、再発では毎週投与でなくてはだめとか、原理主義のようなことを言っていたのに、突然、とくに新しいデータが出た、というわけでもないのに、なんでもありです、ということになり、何をいまさら、というか、今までどんなに患者に迷惑をかけていたかというか、行政のメンツ主義にひたすら追従する製薬企業の素直さに強く胸を打たれたのでした。でも、よく考えると、HER2過剰発現はタンパクの発現ということですからFISH法による遺伝子増幅では適応にならないということになります。つまり、FISHは使用する意味がないということになってしまいます。だから言わないこっちゃない、あまりにきちきちとやろうとするとこういうところにぼろが出てしまいますね。身の程知らずの規制を課すとこういうことになってしまうのです。中外日高さん、FISHは使ってはいけないということでよろしかったでしょうか? また、添付文書には、本剤を3週間に1回投与で使用する場合に、何らかの理由により予定された投与が遅れた際には、以下のとおり投与することが望ましい、とあり、以下のような細かい、テトリスアシトリスのようなことが書いてあります。
(1)  投与予定日より1週間以内の遅れで投与する際は、6mg/kgを投与する。
(2) 投与予定日より1週間を超えた後に投与する際は、改めて初回投与量の8mg/kgで投与を行う。なお、次回以降は6mg/kgを3週間間隔で投与する。  
とありますが、望ましいという、その根拠はなんでしょうか? 私の知る限り、望ましいと言えるほどの根拠はないと思いますが、どうなんでしょうか、今度は山口さん、教えてください。そもそも、体重あたりの投与や、最初に量を多く投与する、というloading doseが本当に役立っているかというと、その根拠は極めて薄弱というよりは、まったく根拠なし、と言ってもいいぐらいのものです。医療費削減の嵐の中、高い薬を根拠なく増やせというからには、それなりの自信がおありなのでしょうか? 今度は牛山さん、教えてください。
さらに、いまだに要求されるHER2検査日をレセプトに書けというやつ。あれは全く意味がないと思います。確かに、一番最初に、日付を入れるようにしたら、と提案したのは私でした。その理由は、HER2が陰性で使うやからがいるだろうから、そういうのを阻止するためにどうしたらよいでしょうか、と当時ロッシュにいた女帝が聞いてきたのでそう言ったのです。当時は、サブタイプ別治療なんていうコンセプトは一般的には浸透していなかったので、そういう間違った使い方をされる可能性もあったかもしれません。しかし、今や、患者さんでも自分のサブタイプやHER2の状況はご存じというご時世ですよ。いくら、ずるして使おうったって、患者さんの方から、私はHER2陰性なのに、どうして? という正しい疑問が投げかけられる時代ですから、そろそろ、HER2検査の日付をいれるという20世紀からの慣行、愚行はやめにして頂きたいと思います。

沖縄の息吹2011


今年も晩秋の沖縄にお邪魔した。例年、この時期の定番となっているが、さかのぼると2000年頃から毎年、宮良先生に呼ばれて、連続12年である。一番最初のこと、私は忘れてしまっていたが、いい加減な薬物療法を叱責してくれてありがとう、あれで沖縄の乳がん治療がガラッと変わった、あれ以来、参加しなくなった医師も大勢いるけど、あれでよかった、といわれた。また、Eric Winerを沖縄に連れて行き、私とセットでの講演を企画、それまそれは大成功だった。今まで沖縄に外人講師が来たことなんかなかった、アレンジしてくれてありがとう、と宮良先生に言われた。また、翌日、Ericをつれて、ひめゆりの塔、まぶにの丘などを訪問した。日本が悪い、アメリカが悪いという話は全くなく、戦争が悪い、という歴史観を共有できた。また、それは、医師が悪い、患者が悪い、という話ではなく、がんが悪いという共通に認識をもち、患者医師関係を築いて治療にあたることの重要性と同じだ。最近の沖縄講演は、若手を同行し、症例提示などをしてもらっている。これも、感性のある若手なら、とても勉強になっているが、感性のない場合は、失敗に終わる。今回は、当院薬剤師の宮本君を同行、薬剤師の役割、という話をしてもらった。これがいたく評判で、熱い話だった、薬剤師に対する考え方が変わったなど、好評で、今後、がん治療薬剤師セミナーをがん情報局と、琉球かりゆし乳腺倶楽部との共催で開催することになった。手始めに沖縄から薬剤師の山本さんを浜松がん薬剤師セミナーにお招きすることにした。いろいろなところで、コラボが発展していき、よりよいがん診療の礎が確立していくことは、とても喜ばしいことだと思います。

必ず「若手」を

認定看護師はセンター所属になると!


今回の青森出張は、行きの飛行機が落雷をうけ、青森市内は大雪後、水浸しでしたが、いよいよ冬の到来を実感しました。青森県立中央病院も、優れた認定看護師が多数活躍しており、チーム医療が充実しています。私は、青森の病院では、家庭教師とよばれ外科の中に所属して腫瘍内科医としてお手伝いをしておりますが、感染症認定看護師とか、WOCとかからいろいろと教えてもらうこともあり、また、手術場見学などもさせてもらってオーソドックスな病院医療の現状を学ぶという、相互学習ができています。青森県立中央病院では、認定、専門看護師は、来年から、看護部所属から、センター所属に変わり、乳がん看護認定看護師やWOCは、「がん診療センター」所属になるようです。そうすると、外来勤務、病棟勤務という従来の古臭い勤務配置にはこれでおさらばで、外来・病棟・在宅など、専門性が求められる状況に柔軟に参加できるという理想的な勤務体系になります。これは、おそらく全国初の試みであり、院長の吉田茂昭先生の卓見により実現に向けて準備が進められているようです。

逆境にまけない力


先週金曜日は、新潟の牧野春彦先生に、「逆境に負けない乳がん診療」の話をしてもらいました。牧野先生とはかれこれ20年ぐらいの付き合いになります。JCOG班会議で、彼は新潟がんセンターから、私は国立がんセンターから参加し、私は事務局という立場で全国各地の先生方に、第三相試験推進のため、時には「失礼な」ことも言いながらJCOGをまとめよう、活性化しよう、とさまざまな工夫をしていました。牧野先生がJCOGの班会議に参加し始めたのは、ちょうどそんなころで、若いのに随分と激しいことをいうのがいるな、と思ったようです。その後、私は残された生命力をNSASグループ旗揚げに費やすため、JCOG乳がんグループから離れ、国立がんセンターも退職し個人ブランドでの活動と勝負に舵を切りました。牧野先生も、出る釘は打たれる、ということわざ通り、花の新潟がんセンターから、辺境の地、新潟県立坂町病院へと飛ばされてしましました。牧野先生のすごいところは、そこからです。与えられた環境で最善を尽くす、ということができること、そして、最善とは何かを冷静に分析できること、そして、それに即したアクションプログラムを具体的に計画できること、そして、計画に基づき、周りの人々を引っ張りこんで実現させてしまうことです。坂町病院に移って間もなく、牧野先生は院内の体制を整え、NSASBC02トライアルに多くの症例を登録してくれました。そのおかげもあって、NSASBC02はよい結果(The efficacy of taxanes seems to be schedule-dependent. Docetaxel is suitable for tri-weekly schedule but paclitaxel is more efficacious when administered in weekly dose-dense schedule. Our observations in this study are in a vegood agreement with those in a report by Sparano et. al 1. (2)Eight cycles of Docetaxel at 75 mg/m2 is an alternative choice of regimen in patients who are intolerance for, or reluctance to treatment with anthracyclines because of concern of cardiac malfunction or fear of nausea and vomiting. 1. Sparano JA, Wang M, Martino S, et al. Weekly Paclitaxel in the Adjuvant Treatment of Breast Cancer. N Engl J Med 2008;358:1663-71.)が得られ、来月のサンアントニオ乳がんシンポジウムでは、ポスターディスカッションで発表してまいります。

牧野先生のパッションの根源となるのは、好奇心であろうと思いますが、どのように育てば、内部からの情熱を絶やさず燃やすことができるのか、甘松医大の若手にもぜひ、伝授してほしいものです。彼は講演のなかで、ガラス細工のようなK州がんセンターのY先生や、A県がんセンターのY先生から、関連病院に飛ばされて一般外科をやらねばならずどうしたらいいでしょうか、と相談され、ミッション、ヴィジョン、パッション、アクションが大事であること、与えられた環境で最善を尽くすことを説いたことに触れていました。なかなか印象的な講演でしたし、得難い人材で、懇親会では口癖のWant you(うぉんちゅー)を連発しておりました。翌日は、浜松オンコロジーセンター見学に来られ、当院で開発した外来化学療法オーダリングデータベース「All About Chemo!!」にいたく関心されていました。昼は、きぼりで浜松餃子を堪能されていきました。

処方箋から謎をとく薬剤師のたくましさ


先週末、第3回浜松がん薬物療法セミナー(NPO法人がん情報局主催)を浜松市薬剤師会会議室で開催しました。今回も宮本くんの企画で「ゼローダ」と「タイケルブ」に中心に、経口がん治療薬を特集しました。調剤薬局薬剤師は、あいかわらず、処方箋からの謎解き作業に翻弄される毎日、さらにそこにゼローダ、タイケルブなどの経口薬の処方が加わり、いったい、どんな患者にゼローダ、タイケルブが処方されたの? インタビューフォームには、いろいろあれこれと副作用がならんでいるけど、どれが重要なのかわからない、いっしょに処方されている保湿剤はわかるけど、セレコックスが処方されているけど、それって、いいわけ?さすが、薬剤師! ゼローダとセレコックスはともにCYP2C9で代謝されるが、相互作用とかはどうなのか? など、本質を突いた議論が次から次に展開されます。しかし、ゼローダが処方されている患者さんには、感染症予防のため、人ごみにはいかないような指導をする、なんていう、ちょっと的外れの話もでるあたりが、メリハリ欠如網羅的情報提供に陥る調剤薬局薬剤師の本質をみたような気もするね。懸案となっている、処方箋から解き明かす患者プロフィールの謎、とか、競馬より高尚な治療経過予測については、あけぼの会といっしょにつくった「わたしのカルテ」を、がん診療きょとん病院がかってにぱくって使っているので、あれを本腰入れて使えば、調剤薬局薬剤師の無駄な謎解きゲームはしなくても済むものと思います。

週末の活動(3)


昨日は福井での講演でした。金曜日の午後3時まで外来診療を行いそのあとは松沼亮一先生にお願いしまして新幹線に飛び乗り名古屋、米原経由で福井着、講演は「コメディカルの方もたくさん参加です」という事前情報も意識して、初期治療にかんする基本的な考え方を分かりやすく説明したつもりだが、例によって、例ののごとく、コメディカルという方たちの生命反応がまったく感じられません。いわゆる、うんとも、すんとも言わないっていうやつです。これでは張り合いがありません。幸い、笠原先生とか、山道昇先生とか、川水泳先生(仮名)とか、海中潜先生(仮名)など、活発なご質問を頂きまして、勉強にもなりましたので感謝しております。越前ガニをご馳走になり、夜の得内に名古屋まで移動、道中、虫害山愚痴さんから企業活動の限界の話など、最新情報を入手することができたことも収穫でした。そして、朝一番ののぞみで東京に移動中。まわりは、ディズニーランド行きのハッピーファミリーばかりです。とほほの私は、これから杏雲堂外来、そして、昼に浜松に戻り薬剤師セミナーを学び夜は吉田先生、徳永先生、浅野先生らと、情報交換にはげまなくてはいけません。

婦人科がん市民講座を終えて


○○新聞社△△様

昨日、第1回 婦人科がん市民講座を開催いたしました。貴新聞に掲載して頂いたおかげで80名強の参加者でした。厚く御礼申し上げます。子宮頸がんワクチン普及をテーマとした今回の市民講座では、中学生、高校生の性に関する倫理感の乱れや、彼らの性交渉のあきれた実態を前提として容認した上で、子宮頸がんワクチンを普及させることにより、女性(とくにセクシャル・デビュー前の若者)をパピローマウイルスの感染から守り、同時に、社会をパピローマウイルスの蔓延から守る、という二つの目的を達成しなければならない、という課題があることが浮き彫りになりました。しかし、28名の参加者から事前に寄せられた40の質問には、きわめて利己的な視点のものが目立ったような気がします。国がむりやり押し付けているのではないか、とか公費補助が出る、出ないで不安感をあおって、ワクチンの普及を促しているような気がする、とか、性に関する倫理的教育を学校でもっときちんとやってほしい、とか、自分の娘には、どのワクチンを打てばいいのか、など。医療消費者としての権利を主張するという姿勢は必ずしも間違っているとは言えません。しかし、自然科学、医学、医療の努力の結実として生まれた、がんに対する初のワクチンを、行政が補助金を出して実施してくれる、といった恵まれた環境の中にいることに対して何ら感謝の念も持たず、また、乱れるだけ乱れた若者の性行動を是正する努力もせず文句ばかりつけている次元の低い母親像を作り出してしまった、社会教育の失われた20年、といような問題も同時に明らかになったと思いました。今後とも、がん情報局として、乳がん、消化器がん、婦人科がんなど、コモンキャンサーについての市民講座を主催していく予定ですので、ご支援、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。