暮れゆく2009年


サンアントニオから帰ってからの12月の日々はあっという間に過ぎ行き、昨日で浜松オンコロジーセンターも仕事納めでした。世の中の不況の波は医療機関にも及びましたが浜松ではホンダ、スズキ、ヤマハなど、輸出製造業の下請けがとりわけ深刻な経営危機に陥り、これ以上ホルモン療法は続けられない、通院できない、抗がん剤治療は無理、という患者さんも少なくなく当院の医療収益は今年も全然好転しませんでした。そもそも10年間も保険診療点数が減り続ける反面、医療機関には医療安全、説明責任、法令順守、チーム医療、包括医療、入院期間短縮・・など、医療の質の限りない向上が求めれれ続け、わけのわからない医療機能評価をうけることが、なぜか義務のようになっていて、そのために数カ月間の準備と数百万円と支出が科せられるなど、誰も文句を言えないままに一生懸命に取り組んでいるうちに医療体制も医療者の心も崩壊し、医療不信による社会不安が足首から膝のあたりまで押し寄せてきているように感じます。医療機関として取り組まなければいけないことは明らかであり、医療は基本的に社会活動であるので自分の都合を優先させてはいけないことも当然なのですが、どうも、自分の都合だけで動いている人々が目に付いたのも、このような世知辛いご時世を反映しているのでしょうか。「ミッション・パッション・ハイテンション」は、斎藤孝氏の受け売りですが、医療者として自分に与えられたミッションは何か、をよく考えることが大切だということを改めて思います。個人の人生を優先するか、医師として与えられた、あるいは求めれるミッションを優先させるか、これらを両立させることができればいいのでしょうけど、なかなかそうはうまくいきません。しかし私は「医師として果たすべきミッションを優先させることに自らの生きがいを感じ、それが結果として個人の人生の充実に帰結する。」というのが、納得のいく答えだと思います。そのことを家族も理解してくれないといけない、というか、そのことを同じ目線で理解してくれるようなひとと結婚しなくってはいけないということなんでしょう、大切なことは。ミッションが理解できていれば、そこからは割と簡単で、ミッション達成のためにパッション(情熱)を持てばいいのですが、ミッションが何かをわかっていない人があまりに多いのが問題です。パッションを持っていれば、医療の現場では、対同僚でも、対患者でも、ハイテンションで接するほうがよいのですが、何を考えているかわからないようなひとや、じとっと陰気なひともいて、医療の道を選んだのが間違いだったんじゃないの? と感じるような場面もよくあります。人生はなかなか目論見通りにはいきませんが、その時、その時を「ミッション・パッション・ハイテンション」で切り開いていけば、結果的に、思った通りのの人生だった、と、感じることができるのではないでしょうか。2009年は、めまぐるしく過ぎて行きましたが、2010年は一体、どんな年になるのか、先行き不透明ではありますが「ミッション・パッション・ハイテンション」の微分と積分で乗り切っていこう、と思います。

旗色悪し分子標的薬(アバスチンの巻)


分子標的薬剤として、期待されているビバシズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、モテサニブと、乳癌でも検討がすすんでいるが、いずれも旗色がわるい、という発表が相次いだ。ビバシズマブは血管新生促進物質であるVGEFに対するモノクローナル抗体である。日本では大腸癌と肺癌で承認されており次は乳癌だぞ!、と期待だけはやけに大きい。理屈通りの効果が現れて感劇を覚える人は多い。乳癌でも承認が激しく待たれるという雰囲気を虫害山蛾あたりは醸し出しているが続々発表されるデータにスティーブンボーゲルでなくても首をかしげてしまう。
AVADO試験はイギリスのマイルズが発表した。転移性乳癌で初回治療として、ドセタキセル単独 vs. ドセタキセル+アバスチン体重当たり7.5mg vs. ドセタキセル+アバスチン体重当たり15mg の盲検化ランダム化比較試験。この結果、生存期間に全く差がなかったという結果であった。大山鳴動してネズミ一匹、という感じでちょっとがっかりだ。
 
RIBBON-2試験はアメリカのブラフスキーが発表した。転移性乳癌の2次初回治療として、抗がん剤単独 vs. 抗がん剤+アバスチン体重当たり5mg/週 のランダム化比較試験。抗がん剤は、タキサン(パクリタキセル週1回または3週1回、ドセタキセル、アブラキサンなど)または、ゲムシタビン、カペシタビン、ナベルビンなどOK。この結果、生存期間に全く差がなかったという結果であった。これもがっかり系結果だ。アバスチンは、この2本のほか、E2100、RIBBON-1試験があるが、いずれも生存期間に差はない、という結果である。いずれの試験も、効果持続期間には有意差あり、ということだが、薬剤としてどのような意味があるのか、ニューヨークでオンコロジークリニックを開業するスティーブンボーゲル先生も、スローンのクリフハディス先生も、生存期間延長効果のない薬剤は、意味がない、ぐらいのことを言う。私も、それに近い意見である。しかもアバスチンはべらぼうに高い。50kgの人だと、250mgを2週間に1回使用、1バイアル100mgなので、3バイアルを月に2回使用することになる。そうすると1バイアル5万円なので、1か月で30万円だ。それで生存期間延長効果がない、ということになると、どうかなあ・・。1バイアル1万円ぐらいならよいかなあ・・・。高いなあ・・・。という感じ。(以下次号)

サンアントニオケースディスカッション


今年もケースディスカッションは健在だ。司会は昨年同様ジェニーちゃん(腫瘍内科医)、パネリストにはポールゴス(腫瘍内科医、MA17などで有名)、ジョイスオショウーネッシー(腫瘍内科医、いろいろで有名)、マイケルディクソン(エジンバラの乳腺外科医だが薬物療法の発表をする)、トーマスバックホルツ(MDアンダーソンの放射線治療医)、ウォルターヨナ(キールの婦人科、ZEBRA TRIALで有名)、ウェイヤン(MDアンダーソンの画像診断医)の面々に加えて患者さんひとり。

 

今年は、プログラムにもしっかり掲載されたためか、聴取は大変多い。相変わらず音響効果の悪いBallroom Aでの開催である。

 

症例 ① 52才女性、2002年に2cmの浸潤性乳管癌(グレード2)、ER陽性、PgR 陰性、再発後の測定してHER2過剰発現あり。術後ケモはFEC→タキサンで、そのあとタモキシフェン継続していた。2005年に肝臓に12mmの転移あり、HER2 陽性だったのでハーセプチン開始しホルモン療法をアナストロゾールに変更。2年ぐらいで肝転移はCR、脳転移もなしで4年経過。さて、質問者は「この症例は治るでしょうか?」と問うた。パネリストからは、治ることを期待はしたいがわからない。アナストロゾール、ハーセプチンを継続するのがよいでしょう。ということで大体一致した。

 

私だったら肝転移が出た時点で、まず、アナストロゾールに変更しただろう。それで、効果がなければハーセプチン+化学療法を選択すると思う。タンデム試験で示されたように最初からホルモン+ハーセプチンを併用すれば腫瘍縮小効果は高く、効果持続期間は長い、ということなので、同時併用という手もあるが、どちらが効いたのかが分からなくなるから、やはり、アナストロゾールへの変更で経過を見るだろう。しかし、ER陽性、PgR陰性ということだとホルモン療法の効果の期待は低いか、すると、ハーセプチン単独で開始という手もあると思う。

 

症例 ② 27才女性

肝転移、骨転移、脳転移を伴うstage IV乳癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。抗がん剤としてアンソラサイクリン、タキサン実施てある程度病状はコントロール出来ている。局所は、皮膚変はあるが腫瘍は蝕知しない、という状況、さて、質問者は「原発病巣の手術は必要か?」と問うた。パネリストからは、局所コントロールが必要ならば手術をするがその場合には、preserve shape(形を残す)ということを考えて最小限の切除のとどめるべきであるという意見。また、ポールゴスは、ホルモン療法をしっかりとやるのがよい、ホルモン療法がunderutilizeの傾向にあるからと。また、ビスフォスフォネートを勧める意見もあった。

 

私もパネリストの意見にほぼ同感である。最近、わけのわからない外科医がほざくような、遠隔転移があっても原発病巣は切除した方がいい、という意見はでなくて、むしろ、バイアスのかかった検討結果なので、局所コントロールが必要ならば局所の切除をするのがよい、という妥当な意見であったので安心した。

 

症例 ③ 47才女性 高血圧症、肥満あり。右乳癌(T2N0M0)で乳房切除術、センチネルリンパ節生検実施したところ、isolated single cellあり。ER陽性、PgR陰性、HER2陰性。OncotypeDxでは中間リスク。TC4サイクル後タモキシフェン内服。2年後に腋窩リンパ節転移あり、腋窩廓清し10個以上陽性であった。今後、放射線治療を行い、AIに変更する予定。さて、質問者は「AIを開始する前に化学療法をやるかどうか?」と問うた。パネリストの意見は様々であったが、オショウネッシーは、ゼローダをやると。局所疾患であるので、治癒を目指した局所療法をきちっとやるのがよいという意見。放射線の照射野は、胸壁にもかけるか、腋窩だけにするか、鎖骨上はどうするか。反対側はMRIで診ておく必要があるか、ないか、というような議論が続いた。

 

私の意見は、ケモはやらない。AIに変更して経過を観察し、遠隔転移などで増悪してきたらMPA,に変更、その次にケモという選択になるだろう。局所については、胸壁に照射する意味はないようが、腋窩、鎖骨上への照射は必要だと思う。

 

症例 ④ 56才女性 検診で石灰化で見つかった。部分切除をおこない2.8cmの乳癌、大部分はDCISだが5か所に1mm以下の浸潤がある。triple negative、腋窩リンパ節転移陰性。さて、質問者は「ケモはやるかやらないか?」と問うた。パネリストの意見は、一致してケモはやらない、というもの。オショウネッシーは、HER2 陽性のようなaggressive biologyなら、ケモ+ハーセプチンはやる、といった。

 

私の意見としては、ケモはやらない。もし、HER2陽性の場合、これは、aggressive biologyだから、というのではなく、効果の期待できる治療があるから、という理由で、ケモ+ハーセプチンをやる。微小浸潤癌の全身治療は悩ましい。

 

症例 ⑤ 64才女性 胸壁と腋窩の腫瘤で発症。調べてみると、胸壁の腫瘤は、ectopic breast tissueで、腋窩は転移である。ステージはT4 N1M0 stage IIIBということになる。組織型は小葉癌、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性。本来の乳房には明らかな腫瘤はふれない。さて、質問者は「どのような治療がよいか?」と問うた。パネリストの意見は、TACあるいはFACweekly paclitaxelなどによる化学療法を行い、放射線照射、場合によっては、手術。局所疾患であるので、curative intentで臨むべきだ、というポールゴスの意見

 

私の意見も同じである。治療を考える際に、全体計画をたてることが大切で、基本的に、治癒をめざす治療をくみたてるのか(これをcurative intentで臨むという)、あるいは症状緩和、延命をめざすのか(これをpalliative intentで臨むという)を、しっかりと考える必要がある。多くの外科医はこのあたりの全体計画を立てるという点で弱いようだ。

 

症例⑥ 29才女性、本人はがんはない、というか発症していない。母親が51才で乳癌で死亡、BRCA はわからない。姉妹が乳癌でBRCA1変異陽性。そのため、予防的乳房切除をうけたが、乳癌はなかった。術後深部静脈血栓をおこしたり、感染をおこして右腕のリンパ浮腫になったりという状況だった。さて、質問者は問うた、「予防的卵巣摘出除術はどうするか、いつやるのがよいか?」と。パネリストの意見では、BRCA1変異陽性は、BRCA2変異陽性に比べて卵巣癌発症の頻度が高いので卵巣摘除は実施すべきだ。ガイドライン的には40才前にやるのがよいだろう。その前に妊娠出産はどうするか、卵巣摘除を行ったらホルモン補充療法をしても既に乳切してあるので問題はなかろう。

 

私の意見、このような問題はあまりつっこんで考えたことがないので、勉強になった。

 

症例⑦ 60才女性 術前化学療法、乳切後の症例。放射線照射をどこに何グレイ、どのようにかけるか、という、インド系アメリカ人の医師からの技術的質問。

 

私の意見、放射線治療の先生、よろしくお願いします。

 

症例⑧ 31才女性 右乳癌4cm大、腋窩リンパ節腫大もある。CNBER 陽性、PgR陽性、HER2陽性。妊娠7週目であることがわかったが、個人的な理由で中絶はできない。さて、質問者は問うた、「どのような治療がよいか、ケモはやってもよいか、ハーセプチンはどうするか?」と。パネリストの意見は、乳房切除術と腋窩廓清をする。センチネルリンパ節生検は、安全性が確立していない。妊娠中期になったら、ACをやる。妊娠中のタキサン、トラスツズマブの安全性は分からないので、分娩後にタキサンとトラスツズマブは行う。

 

私の意見も同じ。妊娠中のケモは、ACをひとり、実施したことがある。今後、イメンドなどがでるが、妊娠中に制吐剤の使用など、どうなんだろうか、勉強する必要があります。

 

今回はこんなところです。

12月10日(木曜日)サンアントニオ1日目


 

午前中のgeneral session1全体的な感想は、 閉経後のアロマターゼ阻害剤データの焼き直し、再解析のようなものばかりで低調である。拍手もパラパラという感じ。最後の2演題は乳癌術後にアルコール多飲は再発率が高くなる、術後の肥満も再発率が高くなる、というもの。どちらも術後の女性にとっては切ない話だ。

 

   TEAMトライアルの解析結果が発表された。TEAMトライアルはエキセメスタン5年と、タモキシフェン2.75年→エキセメスタン2.25年の途中スイッチの比較。当初は、エキセメスタン5年対タモキシフェン5年を比較する予定だったがATACBIG1-98の結果が出たので途中切り替えに変更となった。10000人近い症例を対象にしたこの試験、日本からも自治医大の穂積康夫先生が頑張って200人ぐらいの症例登録をしたグローバル試験である。それで、大きな期待を寄せたのだが・・・・、OSDFSRFSも、いずれの指標でも「差がない」、という結果だった。がっかり、というのか、なんだったのかというか、なんとなく虚無感が残る。副作用のプロフィールはAITAMのそれぞれの特徴がでているが、新しいことはなにもない。BIG1-98試験では最初2年間TAMだと再発が増えてしまうので、最初の2年はどうかひとつレトロゾールで、ということだったが、TEAMトライアルではそれが再現されていない。どちらが正しいのか? TEAMトライアルの方が症例数が多いが、BIG1-98試験ではダブルブラインドでやっている、と、試験のデザインには一長一短があるが、いずれにしても、TAMAIは、確かに差はあるが、その差は、意外と小さいということなんだと思う。

 

   IESのフォローアップ解析の結果が報告されたが、目新しいこことは何もなかった。

 

   MA17試験の閉経前症例だけについての検討。MA17試験は5187症例を対象に TAM5年の後でランダム化割り付けして、レトロゾールを5年内服する群とプラセボを5年内服する群の比較で、レトロゾールを追加した方が再発率が低下する(ハザード比0.61)という結果だった。この試験は、TAM内服開始の時点では、まだ試験の対象ではなく閉経前でも閉経後でも、とにかくタモキシフェンを飲み始めて、5年の間に閉経すれば試験の対象となる。TAM内服開始時に閉経前だった889症例を対象にサブセット解析をしたのが今回の報告。結果は、ハザード比0.2595%信頼区間0.12-0.51)と、大きな効果が得られた、というものである。内分泌学的にどんな意味付けができるのだろうか、と考えてみたが、ちょっとわからない。やはりサブセット解析だし、症例数もそれほど多くないので、この結果は、この結果として記憶にとどめておいて、おもちかえりメッセージは「タモキシフェン飲み始めのころは閉経前の患者でも5年飲んで閉経したような場合、AIを追加してもいいみたいよ。」ということでどうだろうか。

 

   MA27試験の対象患者で、関節痛などの副作用の強い患者は、とくに効果がよいということはなかった、というのが次の発表。これは、ATACトライアル参加症例について、統計家のJack Cuzickが、「関節痛、ホットフラッシュなどの副作用が強い患者は再発率が低い。」という結果をLancetに報告したものだから、副作用に苦しむ患者は、「がまんしなさい。薬が良く効く証拠だから。」と、治療継続を主治医から勧められるという根拠となっている。今回の発表の結論も、臨床医は、患者に治療の話をする際に、副作用がでるのはいいことだ、みたいなことは言わないように、というもの。

 

   同じくMA27試験で関節痛がでた患者、出なかった患者で、なにか遺伝子に差はないか、ということで、SNPs(単一ヌクレオチド多型:遺伝子の塩基ATGCの並びのなかで、どこか一個が別の塩基に置き換わっていること)を調べたところ、14番目の染色体に4か所のSNPsが見つかったというもの。そのうちの一つは、TCL1Aと呼ばれるもので、T cellの働きの制御に関係しているらしい。また、別のSNPsは、エストロゲン受容体の機能に関係しているものが見つかった。場所がきまれば、SNPsの検査は、数百円でできるような臨床検査になる。そうなれば、副作用の出やすい人、出にくい人、を事前に識別することができるだろう。SNPsも治療で治る人を識別できるぐらい信頼できる検査になればいいとおもう。

 

   次の演題は、BIG1-98試験の解析方法についてのもの。ご存じのように、BIG1-98 は、途中でレトロゾールの方が良く効くという結果が公表されたので、タモキシフェン群に割りつけられた被験者の25%が途中でレトロゾール内服に移った。そのため、ITT解析(言った通りの解析)と、打ち切り解析の2種類の解析方法で、二回目の検討がおこなわれた。しかし、演者は、「最近の試験では、このような変更がおきることが多いので、統計解析もITT解析から新しい解析方法へパラダイムシフトをしないといけない。」ということで、Inverse Probability of censoring weighed analysis(IPCW)という方法が紹介されて、それで解析するとこうなる、という発表。私たち臨床医は、治療をしなかった患者も含めて解析するのはしっくりこないと思いつつも、統計家の先生が、ITTじゃないとだめだ、というから、一生懸命ITTになじんできたのでが、また、わけのわからない解析方法が導入され、それになれろ、というのでしょうか?統計家の声は神の声。ときには神もへんなことを言う、という話だ。

 

   アルコールを飲むと乳癌になる、あるいは、乳癌術後のアルコールを飲む人は再発しやすい、という研究は山のようにある。今回は、どんなアルコールを飲むと、再発がふえるの、死亡率があがるの? どんな人にその影響があるの? という発表。ワイン、ビール、その他の中では、ややワインが悪いらしい。日本酒はどうか、ということはわからないので、当面は、日本酒を飲みましょう、という結論ではありません。

 

   肥満の人は、乳癌再発率が高い、というのが、次の演題。BMIBody Mass Index)が30以上のひとは25以下の人に比べて、再発のリスクは1.6倍だそうです。すると、アルコールをやめて、体重を減らす方が、アロマターゼ阻害剤を内服するよりも再発抑制効果が高い、ということになる。できるかできないかは別にして、どうでしょうか、少し頑張ってみますか。

 

 

午後 general session2

午後245分からのこのセッションは、日本時間で朝の5時ぐらい、しかも、食後なので気づくと眠りに落ちているという危険な時間帯だ。隣にいるホズミンも今のところ、覚醒しているようだ。さあ、元気出して聞こう!

 

最初の2演題では「ビスフォスフォネートを飲んでいる人は乳癌発症率が低い、という研究結果が発表された。一つは、コホート研究、他はケースコントロール研究である。ハザード比はどちらの研究も0.7ぐらい。昨年発表されたABCSG12試験は、乳癌術後に、ビスフォスフォネート(ゾメタ)を注射する人としない人をランダム化比較したところ、注射した人では乳癌再発率が低い、ということであるが、今回の二つの検討は、ビスフォスフォネートを1年以上内服している女性は、乳癌になりにくいという結果である。ABCSG12と同列に考えていいような気もするが、ちょっと違う話のような気もする。違うというのはこういうことだ。今回の発表では、「骨粗鬆症があるのでビスフォスフォネートをのんでいた」ような人は、骨粗鬆症がない人に比べて、やや、体格もかきゃしゃだろうし、痩せているだろうし、アルコールもそんなにがんがん飲まないだろうし、もともと、乳癌発症リスクが低い。そのような人が「ビスフォスフォネートを飲んでいる」ということで検討されたのかもしれない。つまり、もともとなりやすい体質という事実と、ビスフォスフォネート内服という事実との交絡の結果とも考えられる。

 

そのあと、ファスロデックスの演題が三つ発表された。この薬剤は、「pure antiestrogen」とよばれ、タモキシフェンと異なり、微妙なエストロゲン作用がなくて、100%抗エストロゲン作用なので、きっと、タモキシフェンよりもすぐれているだろう、ということで、私も国立がんセンターにいたころに、臨床開発(治験)にかなり積極的に関与した。しかし、結局、タモキシフェンとのランダム化比較で効果はタモキシフェンに劣るという結果出た(JCO 2004;22:1605)。ファスロデックスはお尻のほっぺたに月15mlのひまし油にとかした薬を5分ぐらいtかけて力をこめて注射するものだ。患者さんも痛いが打つほうも手がしびれるほど。その時に感じたことは、完成度の低い薬だなあ・・・ということ。そのファスロデックスがよみがえり、アナストロゾールとの併用、投与量の増量などが検討されたが、いずれもしょぼい結果であった。どれぐらいしょぼいかは、アストラゼネカのMRからよくよく話をお聞きになるとよいでしょう。今日はこんなところです。

サンアントニオの季節


12月中旬には毎年サンアントニオ乳癌シンポジウムが開催される。ほぼ毎年参加しているが今年も昨日から始まった。ただでさえ忙しい12月なのに今年は5日に乳癌学会関東地方会がありその翌日の6日は浜松市医師会の休日診療当番があたった。休日当番では小学生や若者のA型インフルエンザ患者が殺到した。しかし薬剤師、看護師、受付事務の手際良いさばきで滞りなくタミフル処方を中心にほとんど完璧とも言える休日診療であったと自画自賛である。それにしてもタミフルの効果はすごいと思う。日曜日に来た患者は火曜日の午前中、あるいは水曜日の午前中にフォローアップ外来で来てもらって小学生などは熱がさめてから二日たっていれば学校にいってよいという登校許可証を書いてあげる。子供たちはたいがいタミフルをのんでその日か翌日には平熱に下がり異常行動もなく、日曜日には真っ赤な顔して重篤感に満ち満ちていたのに、火曜日にはけろけろしてにたにたしている。質問してもくねくねしてお母さんの顔を見てばかりいるのは病気の時も元気な時も変わらない。それで「学校にいきたいかね?」と聞いて「はい」という子には「よし、明日から学校に行こうね。」と許可証を書く。学校に行きたいかと聞いてもくねくねしている子は「じゃあ来週からにするか?」と聞いてお母さんの顔を見ると黙っているので許可証には来週からと書く。オンコロジストのインフルエンザ診療は結構柔軟ですばらしい。で、タミフルの効果はどれぐらいなのかと思ってタミフルの添付文書を読むと、効果のところに「国内において実施されたプラセボを対照とした第III相臨床試験(JV15823)の5日間投与におけるインフルエンザ罹病期間(全ての症状が改善するまでの時間)」として、罹病期間の中央値(95%信頼区間)はプラセボ群が93.3時間(73.2-106.2)に対してタミフル治療群は70.0時間(53.8-85.9)で統計学的に有意差あり[ p=0.0216]、ということになっている。これは、治療しないと症状が消えるのに3.8日かかるのがタミフル飲むと2.9日ということだ。えっ、たった1日の差なの?、たった1日の差なら飲まなくてもいいかと思ってしまうが、あれほど、多くの患者が「タミフル飲んで夕方には熱が下がりました」とかいうのを聞くと、現場の感覚と、データの感覚が乖離(かいり)しているかのように感じる。そこにはセレクションバイアスとかもあるのでしょうけれども、インフルエンザ抗原検出キットが完全と言っていいぐらい普及しているので、タミフル市販前の頃と比べれば、対象症例の選択はよっぽど正確なのかもしれないという推測も成り立つ。これをみて思ったのは、ハーセプチンの使用経験と臨床試験データを見た時の乖離(かいり)感と似ているなということである。1995年から日本で実施したハーセプチンの第I相試験、第II相試験での数十例の治療経験から「この薬はすっげえ効くなあ」と感じていたが、2001年3月15日号のNEJMにでたデニススレイモンのデータではハーセプチンで5か月生存期間延長といいうものだった。一剤を加えることで生存期間の延長が得られた薬剤は近年他に類がなくインパクトは確かに強かった。しかし、当時これをみて、えっ、こんなものかな、とも思った。現場で感じるのと、データとしてまとめた時との印象は結構乖離(かいり)するのだ。それには、いろいろな理由があるだろうが、臨床研究者として治療研究に携わりかつEBMヲタクとしてデータをじとじととみていると、治療薬の効果をいろいろな角度から把握することができるのだ。そのような経験があったればこそ、正しい登校許可証を書ける能力につながるのだなあ、とサンアントニオの予習を終えた明け方、しみじみと思いをめぐらしているのである。それにしても、どうして関東地方会は12月の忙しい時にやるのだろうか。11月とか、少し暇なころにやればいいのに。しかも、世話人と会長がいて、まるで、いつかの自民党みたいに総理ー総裁分離みたいだ。なんでこんなになったのか、ホズミンに今日聞いてみよう。

Ubiquitous Oncology


街角がん診療を掲げて浜松オンコロジーセンターを開設して来年の5月で5年になる。埴岡さんが日経にいた頃に、癌治療学会で会ったときに「先生の診療所が5年続いたら取材に行きますよ」と言っていた。こちらは、ぜひお越しくださいと言える状況だが、彼はマスコミから転出してしまったので、今では~、それ~も~かなわーないーことー。どこでも、いつでも、だれでもがかかることのできるがん専門診療所ということで、Ubiquitous Oncologyという言葉を思いついた。ubiquitous(ユビキタス)とは、日頃は意識しなくても、どこにでも存在して、それのおかげで助かっている人がたくさんいる、というような意味である。なので、意を決して荷物をまとめてホテルを予約して上京して8時間待たされて5分診療というような聖路加的がん診療ではなくって、エプロンしてスリッパはいて受診できるような、朝、抗がん剤の点滴してから会社にいくとか、昼間、お子たちが学校に行っている間に抗がん剤点滴してちょっと休んで夕方にはお子たちが学校から帰ってくるのをおうちで待つ、というような、便利ながん診療、それが、ubiquitous Oncology(どこでもがん診療)、しかも、診療内容は、腫瘍内科的視点から外科医ではちょっとできないようなハイレベルな薬物療法をやるよ、というものだ。あっという間の4年半で、どうにかこうにかニーズにこたえているように思う。ところが、少し前に聞いた話で、「あそこはセレブのいく診療所でしょ。」という評判が立っているというのだ。浜松にセレブなんているのか? とも思うが、浜松オンコロジーセンターの裏には、確かに、セレブの子女の通うバレエスクールがあるので、そこと勘違いしているのだろうか。敷居が高いように受け止められている原因を少し探求してみよう。こちらがめざすところと受け止める側の感じるところの違いを考えてみよう。ところで、最近、見学者が増えてきた。腫瘍内科を志して生き生きと勉強している若い医師が、大学病院の不合理さ、硬直化したシステムに疲れ果て、うんざりして、もっといいところはないだろうか、と見回してみたら、一筋の光明のように浜松で頑張っている先生の姿が見えてきた、と言われたこともあるし、前々から、渡辺先生のような生き方を目指して、自分も着々と準備しているんです、という話もきいた。いいね、いいね、いいね。確かに、大学やがんセンターなどに籍をおく人たちの学会での活躍ぶりは承知しているが、彼らの論点には、現場感覚が欠落していることを強く感じる。また、問題提起はするが、問題解決となると、「それは大変難しいはなしですね~。」といってソリューションを提示しようとしない、というかできない。自分で考え、自分で決定して、自分が行動する、という問題解決様式ができていないのだ。新しいキーワード、Ubiquitous Oncologyをぜひ、広めていきたいと思います。今日はこんなところです。実は今日は、休日診療当番で、朝から、新型インフルエンザの少年少女(見た感じ、セレブではないように感じます)が多数、お見えになっています。