懐かしい同級生


小学校、中学校の同級生で長いあいだ音信不通だった市川くんが浜松でBIRKENSTOCK (http://www.birkenstockjpn.co.jp/)というドイツ製の靴の専門店をやっていることがわかり行ってきた。市川くんは小学生のころ、いっしょにロケットを飛ばしたり、熱帯魚や小鳥を飼ったり、すごく仲良く一緒に遊んだ友達だ。市川くんらしい芸術的、個性的な雰囲気の店。ちょっと見つけにくく、見つけてもかなり入りにくい感じの店構え。今日は自分用にチャコールグレーのフェルトの室内履き、妻の妙子用に紺色のものを購入。市川はくんはBIRKENSTOCKの店を25年近くやっていて、品揃え、知識、助言も素晴らしいかった。お店は、BIRKENSTOCKの「正規代理店」にはなっていなくて、BIRKENSTOCKのホームページにあるようなしゃれた透明感のあるお店とはぜーーーんぜん違う。場所は、昔の可美村の旧東海道沿い(北側東向き)で、カフェレストラン「ガスト」から100mぐらい西に行ったところ、紳士服の青山から東に200mぐらい行ったところだよ。写真の白い建物で、現在は、表の柱に縦に「BIRKENSTOCK」と書いてある。お店のある建物の右半分が駐車場入り口。

妊娠で降格 違法 そのとおり! しかし・・・


今日の朝日新聞朝刊にも出ていましたが、労働基準法、母体保護法、そして男女雇用機会均等法などを持ち出すまでもなく、妊娠したからといって降格させたり減給したりということは好ましいことではないでしょう。そのとおり!と「左より」の朝日新聞でなくても、賛成意見が多いとおもいます。しかし、法律で守られている「権利」だからといって、それを当然!!と振りかざすような態度もいかががなものか、という思いもあるでしょう。妊娠する以前の勤務態度が素晴らしい、ということも、権利を行使する前の必要用件、前提条件なんです。人手も不足していて疲弊している職場では、もう少し待ってくれればどうにか人員確保ができそうだからという時に、実は、私、妊娠したんです、となった場合、誰も文句は言えません。あっ、そう、おめでとう、お大事にね、無理しなくてもいいからね、と上司は言いますよ。しかし、内心は、このいそがしい時に・・・、という思いもあるでしょうね。しかし、その部下が、普段から、頑張り屋で率先して仕事を引き受け、職場の輪を重視して、みんなから愛されて、というのなら、妊娠も120%おめでとう、よかったね、無理しないで!! という気持ちが周囲から盛り上がるでしょう。頑張り屋で、コツコツと仕事をしている常日頃があったればこそ、誰からも祝福されるマタニティーになるんです。なので、法律に守られた権利だからといって、「原因と結果の法則(ジェームスアレン著)」を考えなくてもいい、って言うもんではありません、そこんとこ よろしくウ!

治療の設計図 その二


遠隔臓器に再発した場合の治療目標は、症状緩和、症状予防、延命の三つです。原発病巣からこぼれ落ちたがん細胞が血液の流れにのり、他の臓器に転移し増殖していく過程は「タンポポの種が風に吹かれて遠くの土地に飛ぶように、目に見えない形で体全身に広がっていることがある。」というたとえ話でよく説明されます。乳がん患者で腰椎(腰の骨)に遠隔転移が出た場合を考えてみましょう。乳房からがん細胞が腰椎だけを目指して一直線に流れて行くと考えるのは不自然です。血液の流れに乗った乳がん細胞が全身を巡るうちに骨に定着し、増殖の早いものが最初に転移として明らかになるであり、他部位の骨や肝臓、肺といった他臓器にも転移している事を想定し治療の設計図を描かなくてはなりません。まず、全身治療として、乳がんに効果のある治療薬を選びます。「乳がんは手術で取った、今は骨のがんなのになぜ乳がん治療をするのか?」と聞かれることがありますが、骨に転移していても、もとが乳がんなので乳がんの治療を選びます。また、骨転移の進行にブレーキをかけるデノスマブの注射も必要です。腰椎転移は腰痛を伴う事があり、弱くなった骨が体重で圧迫され壊れる恐れもあります。そのため、症状緩和、症状予防のために腰椎に放射線治療を加えます。がんの転移がタンポポの種と違うのは、転移する間にがん細胞の性格、薬剤の効き具合がどんどん変化することです。全身に様々な性格を持ったがん細胞が広がった状態では、限られた種類の薬剤で一網打尽にすることができず、完全治癒はなかなか困難なのです。そのため、遠隔再発を来した患者では、延命を努力目標に設定し、症状を和らげ毎日の生活や仕事を続けながら治療をうけるという設計図を描きます。しかし、がん内科医としての三十年の経験のなかで遠隔再発後でも薬物療法で治癒した患者もいるので、必ずしもすべて設計図どおりには行かないということもあります。

ならぬものはなりませぬ


on the job training : 仕事をしながら、苦労しながら覚えて行く、自分の得意分野、専門分野を構築して行くこと。もちろん経験だけでなく関連する論文を探して最新情報を確認するとか、権威あるテキストブックの該当箇所を読むとか、UpToDateで評価の定まった標準的な対応を確認し、自分の経験が間違いない事は確認しておかなくてはならない。ところが、最近は、未熟講師の退屈なセミナーを聞かないと認定されないとか、保険診療項目で加算が算定できないというような誤った方向が許容されているのはいかがなものか。暇があれば、三流講師の話も聞いてみてもいいけれど、これが泊まりがけのセミナーなんていうことになると時間の無駄使いはなりませぬ。

論文になったものでないと講演で話してはいけない、学会発表の内容は触れてはいけない、ということで、先日招いた講師がつまらない話をしていった。学会発表の内容を触れてはいけない、というのは、企業スポンサーのしゃんしゃん大会の話であって、独立学術団体が、学問の切磋琢磨を目標に開催するような後援会では、さまざまなレベルのエビデンスをもとに、聴衆と演者の相互討議で共通の認識を高めて行くことが大事である。それなのにおかしな業界団体の取り決めに翻弄されそれに間違って迎合して小さな話しかできない講演者はリピーターとはなり得ませぬ。

老舗(しにせ)、長年の運営の蓄積が、確実な成果として評価される意味合いのことばである。安心と信頼に基づいた重厚な価値を感じる。長年、培ったノウハウ、共有された経験など、おでんの汁のようなものである。しかしただ古ければいい、というものではない。カビがはえたような汁は廃棄処分せねばならぬ。箱物、これは形だけ作って中身がそだたないもの、行政の得意技である。行政に迎合した箱物ががん診療拠点病院である。きょとん病院ということばを好んで用いるひとも多い。何も中身が充実していないのに、きょとん病院となったといって大いばりしている箱物病院があるが、世間は、きょとん病院という看板にだまされる。古くからある病院でも、経験知の蓄積ができていなくて、内容は、ばらばら、めちゃくちゃ、昔で言うところの東横のれん街のような、俺の経験、おらいの経験が不当に尊重されつつ、昭和の時代の医療が展開されているようなきょとん病院もある。本当の意味で見直すならば、なりすまし患者を送り込んで実際の姿を見抜かなければなりませぬ。

治療の設計図 その一


抗がん剤治療では、何のために、いつ、どのような治療をするのか、という治療の設計図を描くことが大切です。がんが最初に診断された時に行なう初期治療では、完全治癒のために手術、放射線治療と合わせて抗がん剤治療を行ないます。抗がん剤が大変よく効くがん、例えば、卵巣がん、乳がん、精巣がんや肺小細胞がんでは、主役は、抗がん剤であって手術や放射線治療は脇役か登場の機会がない場合もあります。白血病やリンパ腫といった血液がんの初期治療では抗がん剤だけでも完全治癒ができる場合が多く、放射線治療を合わせることはありますが手術の出番は全くありません。一方、胆道がん、腎臓がんなどでは、これぞという抗がん剤がないので、治癒を目指す、となると手術が最も確実な治療と言う事になります。では、再発後の治療はどうでしょうか。再発は、局所再発と遠隔再発に区別します。局所とは、最初にがんができた部位、乳がんなら温存した乳房、胃がんなら切ってつないだ胃のことです。局所再発なら、もう一度そこを切除すれば治癒に持ち込むことができます。遠隔再発とは、他の臓器へ転移したということです。肺がんの脳転移、食道がんの肺転移、乳がんの骨転移、などです。骨に出たがんでも、もとが乳がんならば、乳がんであって骨のがんではありません。同様に、食道から肺に転移したがんは、あくまで食道がんで肺がんとは呼びません。その理由は治療が異なるからです。治療は、もとのがんに効果のありそうな薬剤を選んで行ないます。では、遠隔再発した場合はどのような設計図を描けばいいのでしょうか。治療の目標として治癒を前面にあげることができません。えっ? 治らないんですか?? では何のための治療なんですか? 患者にとり、この質問に対する正確な回答を聞く事はとてもつらい現実かも知れません。医師もがんばって治療しましょうと、間違った励ましでその場をごまかしてしまう事があります。(次回に続く)

 

As a result of the best effort


「多くの固形がんでは他臓器に転移再発した場合の治療目標は症状緩和、症状予防、延命であり治癒は含まれない。」これは、腫瘍内科学を学ぶ研修医に、まず理解させることであり、患者、家族への情報提供や、治療計画を立てる場合には覚えていなければいけません。二十年近く前のこと、研修医が、肝転移のある乳がん患者に「治癒することは絶対にありません」と強調しすぎたため、患者は激しく落ち込み、あまりに冷たい説明だ、とご主人が私に涙ながらに訴えてきたことがありました。翌日、診療グループ全員で対応策を数時間に亘って話し合った結果、治癒しないというのは本当なのかを、過去の患者データを徹底的に調べてみよう、ということになりました。当時、勤務していた国立がんセンター中央病院の転移再発した乳がん患者カルテを徹底的に調べ、同じ抗がん剤治療を受けた患者約三百人のデータを解析しました。すると再発後十年以上経過して、がんが完全に消え、治療も必要としていない患者が八%いることがわかりました。同じ頃、米国から再発乳がん患者の五%程度は十年以上延命し、おそらく治癒したと思われるという趣旨の論文が発表されました。私の経験でも、乳がん肝転移を何回も繰り返し、ホルモン剤、抗がん剤治療を行なううちに転移が消え、仕事が忙しいので、また具合が悪くなったら来ますと言ったきり外来に来なくなった患者に二十年ぶりに東京駅で出会った、とか、骨転移で痛みが強く、抗がん剤治療を行い、後任の医師にその後を頼んだ患者さんに家電量販店で「先生、お久しぶりです。私生きています。」と声をかけられ、十五年ぶりに喜びと驚きの再会をしたなどのエピソードがあります。すべての患者に治癒を約束できれば治癒します、と言えますが、どの患者が治癒するかを治療前に言い当てる事ができません。そのため、努力目標は延命として精一杯治療すると中に治癒する患者もいるということなのです。

 

患者の誤解か、医師の誤解か


がんの標準治療とは、臨床試験で副作用と効果が確認された治療であり、現時点での最善治療を指します。遠隔転移のある患者に対して医師は「標準治療をしっかり行ない、今、得られる最善の効果をめざしましょう。」と説明し、症状緩和、症状予防、延命を目標とした治療計画を立てます。医師は「できる事は精一杯やりましょう」という気持ちを冷静に表現しているつもりで言っているのですが、患者側は「標準治療のような並の治療ではなく、上、特上の治療で、がんを完全に治してほしい」と思っているということもあるようです。

医師は、今のところ、とか、現時点では、という表現をよく使います。その理由は、世界中で行なわれている臨床試験の結果が毎月のように発表され、治療は常に進歩している、ということを念頭に置いているからです。あるとき「今のところ、ということは、すぐ悪くなるということですか」と患者から質問されたことがありました。それ以来私は、期間を限定するような表現はなるべく使わないようにしています。

抗がん剤治療により肝臓への遠隔転移がCT検査などでも見えなくなってしまう事はよくあります。がんの固まりが消えることは、延命につながることであり、患者にとっても医師にとってもうれしいことです。しかし治療経験豊富な医師は、「一時的に消えても、また、どこかにぶり返してくる。そうしたら、また治療を変更しなくてならない。」ことを踏まえて次の治療の設計図を描いています。友人医師が乳がん肝転移の患者に「標準治療を行なう、寿命は3年、治ることはない」という趣旨の説明をしたところ、父親が特上の治療で娘のがんを治してほしい、とセカンドオピニオンを求めて他のクリニックに行き、そこで7割の人でがんは消えると聞き転院したそうです。がんは消えるけどまたぶり返すということは、きっと説明されなかったのでしょう。ひょっとしたらその医師も誤解しているのかもしれません。

 

 

わからない事


医師は、患者の求めに応じて最善の診療を行なうことが義務づけられています。しかし、最善と言っても、医師の経験、能力などによりそのレベルはまちまちであることは否めませんし、医学自体もすべてのことが完璧に解明できているわけではありません。そういうわけで、医師にはわからない事が多いのです。不治の病とも言われるがんの医療ではさらにわからない事が多いのではないでしょうか。なぜ自分はがんになったのですか、と患者から尋ねられても原因はわからない場合がほとんどです。しかし、ぶっきらぼうに「わかりません」とは答えにくいものです。食生活など、今までの生活習慣が悪かったからがんになったのではないかと悔やんでいる患者の場合、そうではないことを説明することで気持ちが楽になることもあります。治療結果については、専門家と言えどもわからないことが多いです。患者は治して下さい、と訴えます。その心情は十分に理解でき共感できますが、「任せて下さい。」とは言いにくいものです。言える事は、精一杯、がんばりましょう、という最善診療の約束です。がんが転移した場合、症状緩和、症状予防、延命を目指して、山こえ谷こえ、艱難辛苦に打ち勝って治療努力を継続すること、その過程で、医療者は、難しい局面でも決して逃げず投げ出さず、常に患者、家族に寄り添い続けることが大事であることは間違いありません。そうしているうちにがんが治ってしまうということがあることも事実ですが、それは、現時点の医学では治療前に予測も約束もできない、わからない事なのです。ノーベル賞受賞者の山中伸弥先生が、細胞のしくみは神の摂理ですね、と言っていました。神様が定めた自然現象で人間にはわかっていない事がたくさんあり、研究者は最善努力を傾け研究し現象解明を目指すという過程が大切です。がん治療も同様で、医療者は最善努力をすることが大切であり、結果はあとからついてくるのです。

体験しないとわからない


胃がんでは、胃の壁全体が厚くなり、食物の通りが悪くなるスキルス胃がんというタイプがあります。食欲はあるけど、食べるとすぐにお腹がいっぱいになる、食後すぐに嘔吐する、しだいに食欲もなくなるといった症状が現れます。六十五才の女性が、こんな症状で病院に行ったら、進行胃がんと診断され、外科医から手術不能と言われて当院を受診しました。治療希望と言う事でしたので、本人、家族に抗がん剤治療を説明しました。進行胃がんではS1(エスワン)の内服とシスプラチンの点滴を併用する治療が標準治療とされています。S1だけの場合とS1とシスプラチン併用の場合との効果、副作用を臨床試験で比較したところ、寿命はS1だけの場合の中央値は十一ヶ月、併用では十三ヶ月と二ヶ月延び、白血球減少、貧血、吐き気、食欲低下といった副作用はS1とシスプラチン併用の方が4−5倍高頻度に現れるという結果でした。2ヶ月といえども延命効果があることからS1とシスプラチンの併用が標準治療と位置づけられています。本人は「飲み薬も点滴も経験したことがないから説明を聞いただけではわからない」ということでしたので、まずS1を1サイクル(3週間)内服して、2サイクル目から点滴を加えようということになりました。そうしたところ、S1の内服だけで食事量も増え体調もよくなったところにシスプラチンの点滴で吐き気、嘔吐が強く、体調不良ということで回復後相談したところ、飲み薬だけで調子よくなったのに点滴して具合が悪くなった、点滴は二度としたくないとのお考えでした。併用で延命効果があるといっても、シスプラチンの点滴でつらい副作用を体験しS1内服だけでも効果は出ているようならば内服だけで続ける、一方点滴を体験し、副作用は問題ないという患者では併用すればいいのではないでしょうか。抗がん剤治療も、受けるか受けないかの選択ではなく、体験してから決めるという方法もあると思います。

着実なる進歩で治療の思い強く


夏にASCOに参加した時の朝日新聞投稿記事です。今月は「アーカーブシリーズ:オンコロジストの独り言」をお送りしています。

今週はシカゴで開かれた米国臨床腫瘍学会(ASCO、アスコ)に参加しました。最新の成績が発表されるため、がん医療の領域では世界で最も注目される学界です、会期は五日間で日本からも数百人の医師などが参加します。すばらしい結果の発表では会場総立ちで拍手が鳴り止まないこともあります。肺がん治療に使われているゲフィチニブも十年前にこの学会で日本から報告されました。発売後ゲフィチニブは間質性肺炎という副作用が問題となり「危険な薬」とされ、患者が製薬企業を相手取って販売中止を求める訴訟を起こしました。しかし、治療効果は確実で、研究により副作用の出にくい患者、効果の出やすい患者が明らかになってきました。そのような成果もこの学会で日本の腫瘍内科医が報告してきました。今年は、ゲフィチニブの改良型であるアフェチニブを最初に使用すると抗がん剤を使用するよりも寿命が延びるという結果が注目を集めました。前立腺がんは骨盤、脊椎などの骨に転移があっても男性ホルモンの働きを押さえる薬により、かなり長期間にわたり元気な状態を保つことができます。ホルモン剤が効かなくなった後、抗がん剤を使用する場合もありますが、生涯抗がん剤治療を受けない患者もすくなくありません。しかし、今回の発表結果でその状況が変わるかも知れません。すなわち、やや広い範囲に転移が及んでいる前立腺がんの患者では、最初から、抗がん剤「ドセタキセル」をホルモン剤と併用する方が、ホルモン剤だけで治療するよりも寿命が延びるというのです。患者にとっては、寿命が延びると言われてもできれば抗がん剤治療はしたくないという思いがあるでしょう。しかし、私たち、腫瘍内科医にとってはドセタキセルは使い慣れた薬です。今後、泌尿器科の先生から治療を依頼されることも多くなることでしょう。毎年ASCOに参加し、がん治療の確実な進歩を学ぶと患者に役立つ治療をしなければという想いを強くするのです。