月: 2009年4月
よっぽどキンテン化
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時々、診療にかんするおたずねやお問い合わせがこのブログに寄せられます。個人的な内容も含まれているのでここではお答えできませんが、info@oncoloplan.comあてにご連絡だされば、1週間ごとに確認してできる限りお答えいたします。
しゃんしゃん大会
毎年、3月から5月の学会農閑期には東京や大阪の大会場で製薬企業の一大イベント、しゃんしゃん大会が開催される。会場はだいたいプリンスホテルとか、ニューオオタニとか、ホテルオークラなどの一流の華美ホテル。参加者は全国から400名とか600名とか。そのための予算は5000万とか一億とか。コウキョウキもなんのその、それはそれは華やかな目くるめく学術大会だ。このような会はしゃんしゃん大会というのだが、学問とかサイエンスとか、エビデンスとか、そういうものを前面に出してはいけないのだ。会場からの質問も、また、壇上の縁者も、スポンサーよいしょのご祝儀相場で、目的はむしろ終了後の懇親会だったり、そのあとの六本木、銀座、新宿だったり。これについてはコウキョウキがあるのですべて水面下でのネゴシエーションとなっていてMR君と国公立病院医師とが飲み屋で同席でもしていようものなら、たちまち業界風紀委員会であるコウキョウキに違反していまう。でも、民間の大学や医療機関ならコウキョウキは関係ないので派手にやっている。これもひとつの文化であって毎年の風物詩なのでまあ、いいんじゃあないの、という感じだろうか。私は、昔からこの手のしゃんしゃん大会はばからしい、時間の無駄、ポリシーに反する、という感性から、頼まれても、出ないよ、と言ってきた。でも、どうしても、という場合もあり、今回、しぶしぶと、いやいやながら断りきれず引き受けたのが5月の23日。そのパンフレットを今日、MR君がもってきたが、これがごたいそうな装丁のもの。それでその上、ご丁寧に抄録集まで作るというからあきれたが、できた抄録集が自分のところだけ空白だとやや恥ずかしいのでとりあえず字で埋めておいてもらおうと書いたのが以下の文章である。不適切な表現もあるのでおそらく虫害から、強引な改訂依頼がくるだろうけどまずはブログでのお披露目としたいと思います。よっ、しゃん、しゃん、しゃん。
コンセンサス会議の意義の意味
–現場感覚、時代感覚、国際感覚を持って考えよう、最適な乳がん診療を –
浜松オンコロジーセンター院長 腫瘍内科 渡辺 亨
エビデンスが十分にある領域ならば専門家の間で意見が割れるということはないが、非・専門家の間ではさまざまな治療が行われてしまうこともある。非・専門家が専門的治療に従事するというのもおかしな話ではあるがしかたない、それが日本の乳がん診療の現実なのだ。エビデンスが十分にない領域は2種類に分けることができる。ひとつは、「まだ、エビデンスがそろっていない」というもの。新しい薬剤、新しい検査方法、新しい考え方などは、臨床試験が計画されていたり進捗中であったり、現在検討中の諸問題がこれに該当する。他は「エビデンスは今後も出てはこないだろう」というもの。レベルの高いエビデンスが必要ではあるが、実際、臨床試験の実現可能性が低い場合や、エビデンスはいまさら必要ないという領域もあるだろう。
1978年から始まったSt.Gallen Consensus Conferenceは、乳がんの初期治療方法の選択をめぐり最近では2年に一度開催されている。この会議は、世界の乳がん臨床試験グループの代表者が集まり、その時点でのエビデンスを整理し、エビデンスの十分に整った問題のみならず、エビデンスがそろっていない問題について、専門家の意見として、推奨される診療、許容される診療範囲を明確にしていく作業だ。
1992年から導入されたリスクカテゴリーがその後毎回改定されてきた。これは入門編としてはわかりやすいので広く使用され、2007年の第10回ではホルモン感受性、抗HER2療法感受性とリスク(低、中、高)による24病型分類は実用的価値の高いものとして広く受け入れられていきた。しかし、このリスクカテゴリーの考え方でいくと、必ずしも抗がん剤治療が必要ではない患者が抗がん剤治療の対象となる(over treatment)可能性も指摘されており、現行のカテゴリー分類に対して、なんらかのブレークスルーが求められている。近年、欧米においては、MammaPrint®やOncoType DX®などの遺伝子発現分析に基づく予後予測ツールが急速に使用されており、St.Gallen Consensus Conferenceのリスクカテゴリー分類との不一致もしきりと指摘されている。このような流れを受け2009年のSt.Gallen Conferenceでは、「治療閾値(treatment threshold)」という考え方が導入され、リスクカテゴリーというアプローチが姿を消すことになる。現場感覚、時代感覚、国際感覚を研ぎ澄ませながら、乳がん患者に対して最善の治療を提供するにはどうすればよいのだろうか、を消化器一般外科医の皆さんと一緒に考える機会として、今回のしゃんしゃん大集会を活用したいと思う。