バイオロジー(生物学)に基づくがん診療


「乳がん」です、と伝えると患者さんからは「手術はできますか?」と問われることが昔は多かったです。昔というのは、私が研修医の時代、つまり、今から50年ぐらい前、かな? 30年ぐらい前は、お薬による治療です、と説明すると、えっ!抗がん剤ですか? 髪の毛抜けるんですね!っという反応が普通でした。しかし現在は、髪の毛の抜ける治療ではなく、「バイオロジー(生物学)」に基づく優しい治療が主流となりつつあります。●HER2陽性乳癌の場合→ ハーセプチン+パージェタの点滴
●ホルモン受容体陽性乳癌の場合→ホルモン剤の飲み薬と注射(筋肉注射)により、治療が終了します。

がんには、乳がんに限らず、原発病巣、と転移病巣があります。原発病巣とは、乳癌なら乳房、胃がんなら胃にできた病巣を指します。乳癌の骨転移、とか、胃がんの肝臓転移とかは転移病巣と呼びます。原発病巣でも、転移病巣でも、全身に効果のおよぶ治療をしますが、原発病巣を手術してとってしまって転移病巣が、目には見えない、検査しても見つからない、微小転移(micrometastasis )だけの場合には、それこそ、雲を掴むような、効果があるのか、ないのか、判断できないので、とりあえず、治療をやっておくか、ということになります。過日、関西の病院から、一方の乳房にHER2陽性病変と同時に 同じ側の乳房にホルモン受容体陽性の病変が生じ、乳房切除をしたあとで、当院に薬物療法の依頼がまいりました。目には見えない、微小転移を、撲滅するとHER2の治療とホルモン剤の治療を開始しましたが、これらが効いているのか、いないのか、雲を掴むような状態で治療を行いました。微小転移が存在することを前提に、できることはとにかくやらなければなりません。もし、関西の外科医が見かけ通りの理性的な人で、手術しない状況で薬物療法を依頼してくれたのなら、当院での治療で、原発病巣がみるみる縮小し乳房温存ができ、目には見えないところに飛び散っていた微小転移も消滅したはずです。患者さんも薬物療法の効果が実感でき、乳房も温存され、安心した日々を過ごすことができたことでしょう。わかりますか、あ○は○くん・・

投稿者: 渡辺 亨

腫瘍内科医の第一人者と言われて久しい。一番いいがん治療を多くの人に届けるにはどうしたらいいのか。郷里浜松を拠点に、ひとり言なのか、ぼやきなのか、読んでますよと言われると肩に力が入るのでああそうですか、程度のごあいさつを。

コメントを残す