七対一看護の弊害


朝日新聞コラム「がん内科医の独り言」もまだ続いています。今週は、認定看護師問題で七対一看護の弊害を書きました。しかし、質より頭数を重視する、この七対一看護規準、廃止の方向らしいです。厚生労働省の行政誘導失敗作の典型、という批判は正しいと思います。

がん化学療法の副作用を過剰に強調し、治療効果を否定するような無責任な論調に対し『「抗がん剤は効かない」の罪』と題する本を日本医科大学教授の勝俣範之先生が書いています。その本には、抗がん剤治療の効果と副作用のバランスについてわかりやすく、科学的に説明してありますが、一般の方々にとっては、抗がん剤治療はやはりわかりにくいことが多いと思います。その理由は、実際に抗がん剤治療をうける立場になった患者や家族にとって、自分にはどれくらいの効果があって、どんな副作用がでるのか、毎日の生活で何に注意すればいいのか、仕事はしていいのか、旅行に行ってもいいのかというような、個別的な情報が本を読んでも得られないということではないでしょうか。最近では、抗がん剤治療は、通院で行なわれることが多いので、外来診察室での限られた時間に、患者は医師から十分な説明を受けられないということもあるでしょう。そこで、非常に重要な役割を担っているのが副作用症状を患者自身で対処する方法を患者に指導し、がん化学療法薬の安全な取り扱いや適切な投与を管理する看護師なのです。しかし、全国十一カ所で開設されてきたがん化学療法認定看護師養成コースのうち、今年は五カ所が休講となってしまい、高度な技量と知識を持つ看護師の養成が滞っているのです。その原因のひとつに、「七対一看護規準」があります。医療法では一つの病院に勤務する看護師数は、入院患者数対看護師数の比率で十五対一、十三対一、十対一、七対一と、四規準に区分されます。「七対一」は平成十八年に導入された新しい基準で、これを満たす病院では、高い入院費を請求できるため、病院管理者は看護師の数を確保するのにやっきになっています。そんな状況で「認定看護師資格を取りたいので半年間、休職させて下さい」という希望はとても認められないようです。質が大事なのに数を重視する風潮は間違っていると思います。(まだつづく)

 

 

 

 

水無月の想い(3)


でも、なぜ、聖路加国際大学の、生涯教育部の、がん化学療法認定看護師のコースが今年度で打ち止めになったのだろう。開講後7年での閉講である。担当者の説明では受講生が減ってきたこと。確かに今年は10数名と少ない。また、数ともに質の低下もあり、卒業できない受講生が増えてきてシラバスの見直しも必要だそうだ。しかし、今年も受講生はとても熱心で居眠りしていたのは三名だけ。がん化学療法は、金食い虫だからと、外来化学療法加算IIがいきなり、なんの前触れもなく削除されたり、近○大先生も寝言で言っているように、看護師を認定してまで推進する必要性がない、ということだろうか? 青森県立保健大学での、がん化学療法認定看護師コースも数年前から講義に行っているが、受講者が集まらず、開講できるのは2−3年に1度ぐらいとお寒いかぎり。担当者からの説明では、世の中のニーズが乏しいと。ニーズはあるだろうにと思っていたけど、青森だけでなく、天下の聖路加国際大学でも認定看護師コースを維持できないということは、がん化学療法に対するニーズは、今後も減って行くのだろうか? 訪問看護や認知症看護のコースは引き続き盛況とのことだから、やっぱり、ウルトラスーパー高齢化社会に突入し、がん医療にこれ以上お金をかけるよりは、現代版「楢山節考」を整備する必要があるということだろうか・・。勝俣先生、どう思う??

認定看護師養成にかげり


 

日本看護協会ホームページに認定看護師制度について「特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護実践のできる認定看護師を社会に送り出すことにより、看護現場における看護ケアの広がりと質の向上をはかることを目的とする」とあります。現在、がん関連の五分野(がん化学療法看護、がん放射線療法看護、がん性疼痛看護、乳がん看護、緩和ケア)を含め、二十一分野で認定看護師が養成されています。認定取得のためには、数年間の実務経験のある看護師が休職して半年間の座学による講義と指定された病院での実習を受け、試験に合格しなければならず、分野によって競争率は5倍を超える狭き門です。私も乳がん、がん化学療法の二分野で認定看護師養成コースの講師を十年近く担当していますが、受講生は皆熱心で、居眠りする人はいませんし、質問もたくさん出るので、医学生の講義よりよっぽど手応えがあります。がん化学療法認定看護師は、抗がん剤治療の具体的な手順を患者にわかりやすく説明し、副作用を心配する患者の話を根気よく傾聴し、こわがらなくてもいいことを納得してもらいます。点滴や採血の技術も卓越しており、老眼になりかかった医師が何回も点滴針を刺し直すよりもずっと患者に喜ばれます。認定看護師は、扇の要のように医師、一般看護師、薬剤師など多くの医療者を束ね、一人一人の患者に必要な看護、医療を調整する役回りを担い、病棟や外来で医師からも患者からも最も信頼されていると言っても過言ではありません。ところが、全国十一カ所で開設されてきたがん化学療法認定看護師養成コースのうち、今年は五カ所で休講となってしまいました。さらに今年募集した六カ所も定員割れで、来年度はさらに数カ所の休講が発表されています。がん化学療法の現場からみると、さらに多くの認定看護師が必要とされているのにどうしたことでしょう。その原因を考えてみたいと思います(つづく)。

この文章は、朝日新聞静岡版に毎週土曜日に連載している「がん内科医の独り言」今週号の原稿ですが、online firstでお送りします。

 

認定コース不人気


聖路加でがん化学療法看護認定コースが定員割れで継続できないという話を書いたら、日赤とか、神戸など、あちこちてもがん化学療法コースの中止、定員割れとの話を聞きました。がん化学療法認定看護師のニーズがなくなってきたのでしょうか? 外来化学療法が定着して、化学療法室の看護師も充足してきたからですか? そんなことはないように思いますけどね、。あちこち、未だに、医師が点滴刺入をさせられているところも多いようですし、中心静脈ポート設置がガイドライン的には強く推奨されているのに、抹消からちくちくやっていたりと、そういう話をたくさん聞きます。現状はいったいどうなっているのでしょうか?

水無月の想い(2)


一つは東京駅八重洲口でタクシー降り場が依然として整備されず、タクシーの行き交う道の真ん中で土砂降りの雨の中、おろされたこと、しかも、整備の終わりかけた東京駅外構には、中途半端な植栽が整えられていたが、タクシー降り場らしきものはやはりなく、東京オリンピックでも世界からのツーリストはやっぱり、車の行き交う道の真ん中でタクシーをおろされてしまうのだろうかと懸念される。釈然としないもう一つは、聖路加国際大学の、生涯教育部の、がん化学療法認定看護師のコースが今年度で休講になると言う話。早朝に父が亡くなった2008年7月4日、葬儀の段取りなどもそこそこに、開講初年度の聖路加看護大学(当時)がん化学療法認定看護師のコースの講義に出向いたことが思い出される。30人ぐらいの受講者で盛り上がっていた。当日は、今は縁が切れてしまったノバルティスの講演が静岡であったので、聖路加講義のあと、「はしご」には行かず、新幹線に飛び乗って静岡に移動し講演をはしごからへろへろになって帰宅したのを覚えている。(つづく)

水無月の想い(1)それなりの週末


ASCO帰りのこの週は時差の関係で深夜の活力が高い。プレナリーセッションの演題が自然と蘇ってくる。広範囲骨転移、他臓器転移のある前立腺がんでは、ホルモン療法だけよりドセタキセルを併用した方が長生きするとか、KRAS野生型の転移性大腸がんでは抗がん剤との併用はアービタックスでもアバスチンでもPFSもOSも変わらないとか、ホルモン感受性閉経前乳がんではLHRHアゴニスト+AIの方がTAMよりよかったとか、HER2陽性乳がんの術後にはラパチニブは無意味だとか、それなりにガイドラインを書き換えるぐらいのインパクトのある演題が発表されたASCOだったので、それなりに腫瘍内科プラクティスも変わって行く、という話を、今日の、聖路加国際大学の、生涯教育部の、がん化学療法認定看護師のコースで話してきた。帰りは、通いなれた「はしご」でダーロウダンダンメンを味わって来たのでそれなりに充実した一日だった。でも、なぜか釈然としない感じで、このブログを書いているのだが、その理由が二つ思い当たる(つづく)。