COVID-19 の功名


怪我の功名とは、失敗や過失、あるいは何気なくしたことなどが、偶然によい結果をもたらすことのたとえです。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)もGo To トラベルや、Go To イートによる人々の移動が原因で爆発的に第三波が襲来しています。病院設備を、COVID-19感染者の入院に優先使用するため、がん患者の計画入院に支障をきたしています。とくに手術患者は待機手術を余儀なくされていますが、おかげで無駄な手術を回避できるかも、という好ましい結果もあるようです。乳がん患者に対しては待機の間、「術前薬物療法」を行い時間を稼いでほしい、という要請を外科医からうけますが、術前のつもりで治療を続けていたら、がんは消え去り、それでも一応、手術しましょう、ということで手術をすると、「がんは完全に消えていました。」という結果になることが多々あります。怪我の功名ならぬ、COVID-19の功名かな、と感じています。とくにHER2陽性乳がんでは、「手術で取ってみたらがんは完全に消えていた」つまり病理学的完全効果、英語ではPathlogical Complete Response(PCR)と言いますが、2005年に浜松オンコロジーセンター開院後、「ハーセプチンの専門の先生が浜松に帰ってきた」ということで、多くのHER2陽性の進行乳がん(肝転移、肺転移、脳転移など)の患者さんが当院に紹介され、ハーセプチンを主体に治療を行い、「がんが完全に消えた、その後、15年近く、無治療でも再発せず、完全に治った」と言える患者さんが多くいらっしゃいます。今ではHER2陽性乳がんではハーセプチンに加え、パージェタ、カドサイラなど、パワフルな薬剤を使用することで、転移があっても治る、いう時代を迎えています。そしてさらにCOVID-19で手術を待機しているうちに抗HER2治療でCTでもMRIでもがんが消えた、という情報も私の耳に入ってきています。セカンドオピニオン外来を受診する患者さんから、手術をしなくてもいいでしょうか? と問われると、「いいです」と胸を張っては言えませんが、「注意深くみていきましょう」と対応しています。COVID-19も悪いことばっかりではない、そんな思いを持つ、今日この頃です。