日本でも始まった本格的な臨床試験(1)
がんの手術後に行われる抗がん剤治療も、世界中で患者さんたちの協力を得て、臨床試験が地道に行われ続け、再発を抑制し、がんを完全に治す効果が少しずつ向上しています。向上しているということは、決して完成された治療ではないということです。一九九〇年代、乳がん手術後の抗がん剤治療として欧米で標準的治療として行われていたものにCMF(シーエムエフ)があります。これは、シクロフォスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルの三種類の抗がん剤を併せて六か月間行う治療法です。シクロフォスファミドだけは内服薬ですが、他の二剤は静脈内注射薬です。CMFを使用した場合、再発を二四%抑制できるという欧米のデータがありました。一方、日本では、テガフール・ウラシル配合薬を二年間内服する治療が広く使用されていました。この治療は、乳がんの再発を二二%抑えることができるという日本人でのデータがあり、また、飲み薬だから副作用が少ないと信じられていたことから、日本で独自に発展してきた歴史がありました。当時の厚生省もメトトレキサートを乳がん治療薬として承認していなかったため、欧米で標準とされていたCMFが日本では使えないという状況が続いていたのでした。しかし、インターネットが急速に普及するなど情報化の波は、がん治療の領域にも押し寄せていました。欧米での臨床試験で、次から次へと有効性が報告される治療薬を日本人の治療に遅滞なく導入する体制を作るには、まず、当時、欧米で標準とされていたCMFを日本に定着させなければいけないと、多くの研究者は考えました。しかし、CMFが日本人でも同じような効果があるのか、安全性はどうなのか、十分なデータがないまま、日本での乳がん術後治療に導入するわけにはいきません。そこで発案されたのが、乳がん術後抗がん剤治療として、CMFとテガフール・ウラシル配合薬のランダム化比較試験を行ってはどうだろうか、という課題でした。