弱いインパクト 緩い解析 乏しい客観性


サンアントニオ乳がんシンポジウム1日目の午前中、General Sessionはタイトルにあるような印象でした。

弱いインパクト:フルベストラントにエベロリムスを加えるとどうなるか? 結果はProgression Free Survival は有意に延長するけどOverall Survival はかわらないというもの。しかも併用群では20%の症例が副作用のため、治療中止となったとのことです。会場から、John Robertsonが「Time to Treatment Failureはどうだ?」と質問した。これはいいポイントである。病状増悪で治療中止した人と副作用で治療を中止した人をあわせて治療継続期間をみれば、エベロリムスの力量がもう少しわかるだろうけど、演者は、調べていないとのことでした。エベロリムスは効かない、副作用が強い、高い、の三重苦の薬剤でそのうちあまり使われなくなるのではないでしょうか。タイケルブも同じ三重苦薬で、結局、やっぱりあまり使われなくなったのと同じです。今回のSABCSでは発表はありませんが、Palbociclibとか、MONALEESA-2トライアルのribociclibなどのCDK4/6阻害剤もPFSも劇的に延長したのですが、OSはどうでしょう、今のところ差があるという発表はありませんから、これらも三重苦薬として消え去るのでしょうか? 弱いインパクトの薬剤は一発芸の芸人と同じようなもの。

緩い解析:術後ホルモン剤の「extended use」を検討した演題が二つ、DATA studyは、タモキシフェン2−3年の後、アナストロゾールを3年内服と6年内服の比較で、adapted DFS(術後3年目以降に起きた再発、新規発症、死亡〔原因不問〕)をイベントとして検討したものです。症例数が少ない、イベントが少ない、つまり検出力が低いので、結果は、イベント発生のハザード比が0.78(78%と83%つまりたった5%の差)でP=0.00528、差がない。サブセット解析で、ER・PgR共に陽性の症例、腫瘍径が大きい症例、リンパ節転移がある症例、に加えて化学療法を併用した症例では、6年内服のほうがよかった、ということだけど、多変量解析でもないし、腫瘍径が大きい、リンパ節転移があるので、ケモを加えてという意向があって、それも丸裸で解析している、という緩い解析結果が発表された。はずかしい。NSABPB42もIDEALtrialも同様に、ホルモン剤延長効果を検討したものだが、今までの報告と比べて、新しい結果、注目すべき結果、というのは出ていない。

乏しい客観性:腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が予後におよぼす影響を検討した演題がふたつ、結果はあまりぱっとしない。というのは、TILの測定自体、はかり方がいろいろで、いわゆるanalytical validityが確立されていないのである。病理医師によって、あるいは同じ病理がカウントしても、昨日と今日では結果が異なる、というほどに、客観性は乏しくKi67よりも標準化が不可能な検査なのである。一つおもしろかったのはCLEOPATRA試験で集めた検体のTILを数えたところ、TIL陽性率はASIA人 30%、白人10%、黒人5%と、人種差があると言う結果。日本人は、免疫力が高いということだろうか? 納豆とか、寿司とか、刺身とか、の食材が免疫力を高めているのだろうか? よくわかりません。今日はこんなところです。

羽田-Chicago-SanAntonio


浜松を朝出て1時間半で羽田空港着、空港のチェックインもバッゲージチェックインもすべて機械相手で米ドル交換も自動販売機で事足る。ANA機は快適なB-777-300、機内では「君の名は」をじっくり3回観で完璧にマスターしたぞ。確かに話題になるだけのできだと思う。シカゴはこのブログのように雪が降っていて気温はマイナス2℃なり。サンアントニオのホテルもシカゴの待ち時間にオンラインチェックイン。帰りはヒューストン経由で成田着、日曜日の夕方には浜松に着く。随分と便利になったね。窓口のお姉さんは必要なくなる日も近い。高速道路もETCだし車の運転も自動運転になる。トランプが移民を排除しても、単純労働者の雇用はどんどん減っていく。しかし頭脳労働者も危うい。病院も検温から経皮的遺伝子検査、CTなんかも全て自動で放射線技師は要らない。AIが診断してインフォームドコンセントもタッチパネルで事足りる。医師も薬剤師も不要となる。看護師は最期まで残るけどロボットナースが活躍。7対1看護なんて昔の話で1対1看護。人間でないほうがかわいくて気が利いて意地悪でなくて疲れなくて休まなくて子どもも熱出さないから保育園から呼ばれることもない。サンアントニオ乗り継ぎ便まで4時間もあるのでゆっくりと思索に耽っています。シカゴ空港で早くもお土産購入。例のポップコーンです、妙子さんお楽しみに。そのうち妙子さんもAIになる。それはいいことかどうか、良く考えてみたい。

倫理三原則に照らして


岡○先生

1週間の研修は有意義でしたか?「○○さんが自分の乳がんのこと、ブログでいろいろ言っていますがあれって倫理的にどうなんですかね? でもああやって公表してくれると検診率が上がるから世の中のためになっているんでしょうね。」と先生が言っていたことをあれから少し考えてみました。

Respect to persons 隣人、友人、同僚に敬意を払うこと

Beneficence 良い行いをすること

Justice 正義、正しい事をつらぬくこと

この三つが我々が守るべき医療倫理の原則です。個人情報保護などは、すべてこれらの下に位置する概念です。守秘義務もそうです。しかし、患者が自分のこと、病気のこと、家族のこと、遺伝のことを自発的に公表すること、それは患者の自由、患者の勝手です。「他人の不幸は密の味」といいますが、芸能人が「私は病気です、苦しんでいます、もうじきこの世を去ります、家族に見守られています、残される子どもが不憫です・・・」などを公表するのは、何のためなのかわかりませんが、それがうけるのは他人の不幸だからです。自分と比べて「ああ、なんてかわいそうなんだろう、でも、自分はああならなくてよかった」と感じる心理です。けっして、心から同情したり、思いを寄せたりということはありません。所詮、他人のことなのです。だから、医療倫理とは無関係です。しかし、ワイドショーなんかで、コメントを求められてべらべらしゃべるよしもと興業みたいのは品格に欠けますね。テレビ局から電話がかかってきても「知りません、分かりません」と断るべきでしょう。

ものごと転じて「自分もああなったらどうしよう」と世間は今度は「自分」に目が行きます。ちくちくいたい、しこりが気になるなど、授乳中だろうが、小学生だろうが、芸能人のブログに触発されて受診する人々の列は途切れません。「芸能人が自分の病気をことを告白すると検診に行く人が増えてとてもいい影響をおよぼしている」ということは全くありません。受ける必要がない人が来ているだけで来るべき人は来ていないのです。芸能人もなんか勘違いしていて自分が個人情報を公開することが世の中のためになっていると、無駄な活動をしているように感じます。いずれにしても、我々は、倫理三原則に根ざして、しっかりとした冷静な診療を継続しなくてはいけません。芸能人があれこれ言おうと語ろうとどうでもいいこと、むしろ間違ったことを告白しているということは、一応は認識しておく必要はありますが、無視して知らん顔して、たんたんと、しゅくしゅくと日々の診療をこなせばいいのです。患者が「まおちゃんのようになりたくないです」とかいっても、「そうなんですか? よく知りませんが、人それぞれですからね」と答えていればいいと思いますよ。青森は寒いでしょう。もう根雪になりましたか? 12月はクリスマスイブに伺います。では、元気でご活躍ください。

 

しゃんしゃん大会の副産物


数十年ぶりでしゃんしゃん大会に参加しました。聴衆は当初250人から300人と聞いて言いましたが、どうやら200人にも達しない位だったようです。つまり出ると言って出ない人、出なくてももらったチケットを使って銀座でお買い物っていうお茶目な活躍をしている人もいたとかいないとか。それはそれでいいとしていいとして、しゃんしゃん大会の副産物はと言えばそれは乳癌学会の古手・若手・苦手・渋手・甘手に会えること、いろいろと突っ込んだ話ができること、最新の裏話を聞くことができることなどです。話題としては「専門医制度の見直し」に興味を持ちました。外科の二階建て、内科の二階建て、病理、診断は追い出して、という決まりかけた話を、不首尾に終わった専門医機構のがらがらぽんに合わせリセットして出直そうという機運がすこし盛り上がっていました。そのほうがいいと私も思います。というのは、乳がん診療は、もはや、外科も内科もないし、画像診断、病理診断も、乳がん診療に携わる医師は心得て置かなければならないし、直接関与しないまでも、深く理解しておかなければならないものです。また、HE染色とか免疫染色で病型を分類する時代はもう終わる。遺伝子発現を「毎日の診療のなかで確認して最善の治療方法を構築する」日はもうすぐそこにきています。なので、治療に直接関与していなくても重要なメンバーとして、組織遺伝子診断を担当する医師も不可欠な存在であります。画像診断担当医師も同じです。変に国民に迎合して「国民の目から見てわかりやすい専門医」と言いますが、状況を分かっていない国民に「直接治療に携わらない医師でもチームのメンバーとして重要なのです。」ということを分からせればいいのであります。教えてあげればいいのであります。乳がん診療に専門的に携わる医師は、外科の二階でも内科の二階でもない、一階から「乳腺科」としなければいけないのです。この提案に対して、崩壊した(旧)専門医機構は、「婦人科は婦人科として独立していい。その理由は、婦人科は、子宮、卵巣、など複数の臓器を対象としているから。しかし、乳腺科は乳腺ひとつの臓器しか対象としていないから認められない。」ということでした。また、「泌尿器科は泌尿器科として独立していい。その理由は泌尿器科は、腎臓、腎盂、尿管、膀胱、前立腺、精巣など複数の臓器を対象としているから。しかし、乳腺科は乳腺ひとつの臓器しか対象としていないから認められない。」ということでした。一つの臓器? ああーん?? ひとつ、二つと臓器を数えろって? そういう問題ではないのです。乳がんでも、若年者発症の場合と超高齢者の場合、ルミナルの場合とHER2の場合、終末期の対応と初期治療の取り組み、手術をする場合と薬物療法をする場合、また、オンコプラスチックサージェリーをする場合など、乳腺科医師に求められる素養は素養は間口も広く、奥行きも広いのです。ですから、国民の目から見ても「一階からの乳腺科」の位置づけが必要なのであります。

乳がん患者数は確かに急速に増えています。ついこの間まで年間3万人とか5万人とかでしたが、最近のデータは年間10万人を超えるそうです。外科の二階建てにこだわっていた間に、乳がん診療に参入する医師はどんどん減っているという現実は、結局、国民に不利益をもたらしているのであります。こんな話を、今日は、久しぶりに会った仲間と茶店(さてん)でねばって話して、See you in San Antonioといってお別れしてきました。

11月を迎えて


10月はJCOG同総会で高知四万十川ミーティングがあり楽しい時間を先輩たちと共有しました。これは公式なものではありませんし誰からもサポートされていません。企画、実行、支払い、連絡などすべて自分たちでやるものです。今回は自分で自転車をかついで出かけました。四万十川中流・下流を走破しました。

10月はうれしいニュースがありました。NSASBC02論文が「Cancer」にアクセプトされました。2000年12月から登録が始まったこの試験、16年の歳月をかけてやっと日の目を見ます。NSASBC01試験のときも「Long and Winding Road」でした。大馬鹿患者団体イデアフォーの理不尽、非常識な妨害工作がありましたが粛々と乗り越えました。02試験の場合、そのような非常識な邪魔は入りませんでした。しかし「時代の変革」が大きな壁となりました。壁の前に計画し、壁の後に出版となる、という、難しい時代でしたね。

10月は忙しい毎日でした。芸能人のブログに触発されて自分の手遅れの乳がんになってしまったのでは・・・と、不安渦巻く若い女性が外来に殺到し、朝から晩まで声をからして説明、説明、説明、説明・・・。説明するのが医師の仕事。説明技術は臨床試験のインフォームドコンセント取得で学んだ貴重なノウハウです。仕事の流儀は阿部薫先生、JCOGの先輩たちの学びました。説明技術はNSAS試験01・02で培いました。論文はもうすぐ掲載されますが、パブリックヘルスリサーチセンターが3500ドルを出してくれたので、だれでもフルテキストを読むことができるようになります。お世話になった一木さんにもお届けしますよ、別づりを。

今日から11月、今年もあと2ヶ月です。お正月はもうすぐ、ハロウィーン、サンクスギビング、クリスマス、そしてお正月と、楽しい毎日がやってきます。

 

個人の感想でしょ


「個人の感想です」というような注意書きがテレビショッピングなどの画面に必ず出ます。肌がきれいになる、視力が回復する、など、え、そうなの、使ってみようかな、と思わせるような巧みなコマーシャル。しかし、言い訳のように「普遍的な事実、真実ではありませんよ。あくまで出演している一個人の感想ですから、全ての人に当てはまるものではありませんよ。」と責任逃れなのか、消費者庁の指導なのか、わかりませんけどね。

一方、芸能人のがん体験、治療体験には、そのような但し書きがつきません。まるで、全ての人に当てはまるように、個人の限られた体験、感想が綴られ、語られます。ワイドショーなどがそれを究極の真実のようにあおり立てます。特に気になる、というか問題だなと思うのは、治療内容が間違っている、明らかに不適切で、いったいどこの病院? どこの医師?がこんな不適切ながん治療をしているの、感じる内容があたかも「標準的治療」として受け止められるような扱い方で報道されていることがあります。あるトークショーを聞いていたら、自分の治療は自分にあったものを自分で選びました、なんて吹聴して、ハーセプチン治療を勝手にやめたことを自慢している芸能人がいました。それはだめだよ、再発の可能性が2倍、2.5倍になっちゃうよ、という正論を語る場はなく、そうですね、それでこんなにお元気ではつらつとしていらっしゃるんですね、と変な相づちをうつ司会者。あげくの果てにそのトークショーはテレビドラマの番組宣伝(いわゆるばんせん)収録の一部だったみたいな話題作りに。芸能人ががんになることは別に珍しいことではありません。また、芸能人が不適切な病院で間違った治療を受けていることも多いです。あくまで、「これは個人の感想です」「これは個人の限られた経験です」という受け止めをしないと、不安、心配の種が増えてしまいます。

浜松オンコロジーフォーラムのご案内


講演1

「 アドバンスケアプランニングの実際 」 ~がん緩和ケアの観点から

はしづめクリニック 院長 橋爪 隆弘 先生

今まで緩和医療では、いきあたらいばったり、出たとこ勝負で、あまり事前の計画なしに診療が進められてきた、という印象があります。advance (=あらかじめ)の Care Planning (診療計画)を立てて緩和医療を進めて行く、ということの困難さと、やっぱり無計画じゃだめだよね、っていうことで、第一戦で活躍する橋爪先生のご講演をお願いしました。

 講演2

「 SPARCS(スパークス)」 ~がんの沈痛効果を調査した「ビッグデータ」から見えてきたこと

日本赤十字社医療センター 緩和ケア科 部長 的場 元弘先生

今まで緩和医療では、一例、一例の患者の主観(つまり、痛みがとれた、とれない、楽になった、ならない)を医療者が共有し、寄り添って個別的に対応することが普通のこととして進められて来たという印象があります。大規模な調査を通じて、どんなことが見えて来たのでしょうか。普遍的、客観的な緩和医療の実践にSPARCS調査が何をもたらすのか、的場先生のお話を伺います。

日 時:平成 28 年 10 月 1 日 (土) 15 時 ~ 18 時

場 所:浜松駅前 プレスタワー17 階静岡新聞ホール