救急車に関する考察


「こんなことで救急車を使うな」と中村祐輔先生(http://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2015/01/12/073436)も嘆いているように救急車をタクシー代わりに使う人、ちょっとした頭痛でもすぐに救急車を呼ぶ人、赤ちゃんが泣き止まないといってすぐに救急車を呼ぶおかあさんなど・・・ 「ただなんだから」、「俺たち税金払ってんだから」とか言ってタクシー代わりの不適切な救急車利用は一向に減りません。我々医師もなるべく救急車を呼ばないようにといろいろな局面で患者、家族に説明していますが、すぐに救急車を呼ぶ、というのが文化として定着しています。

救急隊の方々は文句一つ言わず業務を黙々と遂行しますが、きっと「やってられねーよな!」というのが本音ではないでしょうか?

こんな事例がありました。80才台の男性、痰がでる、ちょっと声が枯れると自分で運転して受診しました。診察すると口の中は異常にからから、本人は一昨日ぐらいから口内炎があちこちにできて痛い、と言っていますがかなり病的な口内所見。胸部聴診すると両側肺でばりばり音、これは大変な様相。酸素飽和度は80%ちょっと。しかし、本人は至って元気。胸部CTを取ったら両側肺に著しい肺炎像。これは入院して数日間、抗生物質の点滴が必要と判断し、農協系のいい病院の病診連携室に電話して入院を依頼、呼吸器内科での対応をお願いします、本人は歩いていけます、家族が車で送ります、と伝えて待つこと数分。農協系のE病院の病診連携室からの返答は「呼吸器内科では徒歩で来た患者を入院させることができません。救急外来を通さないと当日入院はできないので、救急車で受診させてください。」とのこと。「本人はしゃんしゃん歩けますし家族が車で送ります。」と当院担当者が説明すると「当院の規定で救急車で来た患者以外は救急外来を受診できず、当日入院もできませんのでとにかく救急車を呼んで下さい。」との説明でした。到着した救急隊員に「元気なんですけど病院が救急車でなくっちゃダメっていうものですからすみません、よろしくお願いします。」と説明、救急隊員も「わかっています、わかっています、そういう対応する病院が多いですからね。」と実に穏やかで寛大な対応。患者本人「自分でいけるけど、乗った方がいいわけね」とすたこら救急車にのりこみ、にこにこしながら穏やかに座っている。奧さんには「救急車で行くなんてちょっと大げさだけど数日で退院できるから」と説明すると「大丈夫、大丈夫、自宅からピーポーピーポーやられると、あのうちは葬式が近いなんて近所でいわれちゃうけどここからなら大丈夫。あとで車とりにくるから停めさせといてね。」と穏やか。みんな穏やかでいいのだけど農協系のE州病院の対応はほんとうにこれでいいのだろうか、院長先生に伺いたいのですが・・・

ついに当局動く


我々医療者はよりよい医薬品が早く使えるようになってほしいと毎日願っています。医薬品がよいか、よくないかを正確に把握するためにはその評価のために行われた臨床試験が、バイアス(真実からの偏り、隔たり、歪み)が十分に排除されており、観察された結果が偶然、たまたまの出来事である可能性が低く、真実を忠実にあぶり出していることが必要です。しかも、真実であったとしても意味のある真実であれば手応えのある役立ち方を実感します。また、得られた情報が正しく伝達されていることが大切です。そのようにして開発されてきた医薬品が目の前の患者に役立っている状況を実感することは医療者としての大きな大きな喜びです。エビデンスを作る(臨床試験を行う)、エビデンスを伝える(ガイドラインなどを整備する)、エビデンスを使う(日々の診療でEBMを実践する)という、エビデンス三部作の普及に心血を注いできた日々を振り返ってみて我ながらいいことができたなあ、としみじみ感じます。

エビデンス三部作の階段を正しく登ることはまさに正義(Justice)であり善行(Beneficience)であり他者に向けた尊崇(Respect to persons)であります。

製薬企業の人たちもきっと、よりよい医薬品が早く使えるようになってほしいと、医療者と同じ思いを持って毎日の業務に臨んでいると思っている人々も多いと思いますが、実はそうではない場合がとても多いようです。手取り足取り、これはだめだ、あれはだめだ、こうしろああしろ、というような、業界(せーやくきょー、ほーほけきょー、こーきょーき、ぶっぽーそーなど)の自主規制が昔からあったにも関わらず、学会発表の内容をごまかして伝えたり(虚偽)、ほんのちょっとの効果なのにすごく効くように言ったり(誇大)、ほかの会社の薬の悪口を言って(誹謗、中傷)自社製品を優れたもののように訴えたり、病気の状況を過度に強調して不安を煽って自社製品を使いたくなるようにしむけたり他に選ぶモノはないようにつたえたりと、中にはオレオレ詐欺のようなことを平気でやっているような業界人も多くいます・いました・いたでしょう。今までは、「業界の自主的な取り組み」として自浄作用が期待されてきました。しかし、なかよしこよしの業界内部での取り決めですから、えむあーるちゃんや、ぱぶりっくりれーしょんくんたちが虚偽・誇大・誹謗・中傷・扇動を繰り返しても、今後は気をつけよう、ということで悪事の責任はうやむやになっていました。しかし、世の中は、そんなに甘くない。ついに当局が動いたのです。厚生労働省が医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインと言うモノつくり、4月1日からはこれに従え、ということになったのです。学級委員にまかせておいても一向に早弁が減らないことに業を煮やした担任教師が「これからは先生がみはっているからな」と腕組みして黒板の前で立っているみたいなものです。A4で9ページのこのガイドライン、よく読んでみても今までの業界の自主的取り決めとかわりません、と思いきや、決定的に違うのです。それは、「経営陣の責務」という項目が定められている点です。おちゃめなえむあーるちゃんや、ぱぶりっくりれーしょんくんたちが虚偽・誇大・誹謗・中傷・扇動を繰り返しても今までは、パニッシュメントはうやむやでした。しかし、2019年4月1日からは責任は「経営陣」にあり、ということになり会社のトップに厳罰が下ることになります。ということは、「社長の顔にどろを塗るな」ということで、現場にはますます圧力がかかり、学会発表速報などという危ない講演は全てNG。St.Gallen 2019なんていう速報は、タイトルから変えろ、朝まで生中継、じつはホットな話題だから皆が是非聞きたい!というような岩田先生の十八番はセピア色の記憶の彼方に葬り去られます。製薬企業はユニークな資材は一切作らず、演者として医師がスライドを自分で作ろうものなら事前に徹底的に校閲して骨抜きにしてますます杓子定規なしゃんしゃん大会的スライドにされてしまうでしょう。今でも「マックはいちおうスライドを確認させて頂きます」とか言って、北朝鮮的検閲を求めてくるシャンパンカヤックもありますね。マックだってパワーポイントはウィンドウズと完全互換だし問題はないのはわかっているのに、検閲を受けねばならず表現の自由などあったものではありません。学会発表の速報のような新しいホットな話題をいち早く視聴者に届けたい、などという危険な橋はもう誰も渡らなくなり、躍動的な討論やブレインストーミング的なディベートは消滅、立場を超えた意見交換の場や、かずさアカデミアでの一泊二日ミーティングなど、そういえば昔そんなことあったよね、ということになってしまいました。倫理なきものたちを当局がとりしまらなければいけない、寂しい時代になりました。

いかに幸いなことか 神に逆らう者の計らいに従って歩まず 罪ある者の道にとどまらず 傲慢な者と共に座らず 主の教えを愛し その教えを昼も夜も口ずさむ人。その人は流れのほとりに植えられた木。ときが巡り来れば実を結び 葉もしおれることがない。その人のすることはすべて、繁栄をもたらす。神に逆らう者はそうではない。彼は風に吹き飛ばされるもみ殻。神に逆らう者は裁きに堪えず 罪ある者は神に従う人の集いに堪えない。神に従う人の道を主は知っていてくださる。神に逆らう者の道は滅びに至る(旧約聖書 詩編1章より)