日々の鍛錬


小さい子供が、何かやろうとしてうまくできない時、ママが悪い、と癇癪(かんしゃく)を起こすことがよくあります。そんなとき、「ママは悪くないの!! 自分でやってごらん」と見守って自分でやらせてうまくいったときに褒めてあげると子供は成長すると思います。しかし、うまくいかない時は、何をやってもうまくいかない時がある、そんな時は、誰かをせめるのではなく、その現実を冷静に受け入れること、そんな精神構造を成長の過程で形成できたらどんなにか心の平穏が得られるものでしょう。その助けになるものとしてしばしば引用する「ラインホルド・ニーバーの祈り」があります。その原文は『God、grant me the serenity to accept the things I cannot change, the courage to change the things I can, and the wisdom to distinguish the one from the other. – Niebuhr, Reinhold』、訳は「神よ、我に与えたまえ。自分の力で変えられないものを受け入れる平静な心と、変えられるものを変える勇気と、そしてこの両者、すなわち変えられないものと変えられるものとを識別する知恵を。」というものです。

昨日開催された看護師ネットカンファレンスで、提示された症例に学んだことです。その患者さんは、うまくいかない現実に直面し、どうにもこうにもならない状況でもがき苦しみました。

どんな治療をしてもよい効果があらわれず、医師も看護師も一生懸命に誠実に説明し、時間をかけて寄り添い、支え続けても、理解してもらえず、結局、医師がまるでサンドバッグのようにぼこぼこに罵られ、蔑まれて、あげくの果てに「ひどい目にあった。どうしてあんな薬を出したのか。何回こんなことされるのか。家族に「全然よくならないし、変な薬出されるし、医者を変えたほうがいい」と言われ、法外な値段で自家ワクチンとやらをやっている医療機関に移っていった患者さん。その患者さんの精神構造に踏み込むところまでは行きませんでしたが、私たち医療者は、日々、こんな状況で悩みながらもどうにか解決策を、光明を見出したいともがいているのです。

アブラキサンの投与方法と疾患


大鵬に聞く

アブラキサンは「より安全なパクリタキセルである」ことは間違いありません。自分の姉をはじめとしてパクリタキセルのアナフィラキシー反応で厳しい局面を繰り返した経験からアブラキサンの登場は朗報でした。また、癌種に関係なくパクリタキセルもアブラキサンも週1回投与の方が3週1回投与法よりも薬剤特性を正しく引き出せる方法であることは肺がん、乳がん、卵巣がんなどで検証されています。乳がんでは「Dose Dense Chemotheray」の有用性がmeta-analysisでも検証されています(The Lancet 2019;393:1440-52)。ですから、アブラキサンの添付文書にB法として記載してある週1回の投与方法 (:通常、成人にはパクリタキセルとして、 1 日 1 回100mg/m2(体表面積)を30分かけて点滴静注し、 少な 2くとも 6 日間休薬する。週 1 回投与を 3 週間連続し、これを 1 コースとして、投与を繰り返す。なお、患者の状態により適宜減量する。)は、何も非小細胞肺がんに限定して推奨する投与方法ではないはずです。今般、乳がんを対象にテセントリクとの併用において使用されるアブラキサンはこのB法ですから、乳がんでアブラキサンを使用する場合には週1回の投与方法が既に海外では標準とされているわけです。疾患毎に認められる投与方法が異なる、ということが果たして正しいことでしょうか? また、週1回投与方法が優れているパクリタキセルを、より安全な剤形であるアブラキサンとして投与することを禁じて、パクリタキセル裸剤形で投与させる、あるいは、効果が減弱する3週1回投与方法をアブラキサンで強制することは果たしてサイエンスとしてレギュラトリーとして倫理として正しいことでしょうか。大鵬の高木さん、教えて下さい。