医学の歴史 消化器外科編


胃潰瘍の薬「シメチジン」商品名「タガメット」が、我が国初のH2ブロッカーとして発売されたのが1982年です。その翌年、私は国立がんセンター病院レジデントとして札幌から築地に移りました。

今ではH2ブロッカー、プロトンポンプ阻害剤、その新型であるタケキャブなど、豊富な薬剤があり、胃潰瘍は薬で治る病気です。しかしシメチジン登場前は、粘膜保護剤といわれる「胃薬」と食事療法で厳しく食事管理を行い、それでも治らない場合は、胃全摘をしたり、迷走神経遮断術などの外科的治療が行われており、胃潰瘍手術専門の病院もあったほどでした。私は札幌で研修していた時、担当患者が入院中に胃潰瘍から出血、吐血して深夜に亡くなり、悔やんでも悔やみきれない思い出があります。朝日の中で遺族に会ったときの光景が今でも目に浮かびます。その時に胃潰瘍の事をいろいろ勉強して論文、雑誌でよく見た名前が東京のK先生。外科で迷走神経切断術とかやっていて潰瘍外科の専門と紹介されていました。

その後、築地に移って、がんの勉強をやっているとき、胃がん手術の専門として、K先生の名前をよく見るようになりました。あるとき、都内の講演会を聞きにいったらK先生が胃がん手術の歴史みたいなことを話して、昔から胃がん手術に取り組んでいるようなことを言っていました。

その後、ピロリ菌感染が萎縮性胃炎をへて、胃がんの発生をもたらすということが明らかにされ、「ピロリ除菌で胃がん予防」、「胃がんは感染症」、「塩蔵から冷蔵への移行で胃がん減少」ということが常識になったころ、大教授として学会を席巻していたK先生がテレビの健康番組で、「私は長年、胃潰瘍と胃がんの関係を研究してきました」と言っておりました。定年後のK先生、最近はあまり名前を聞きませんが、門下生の教授が50人近く全国にいるそうです。

節操がないと批判するか、変わり身の早さを揶揄するか、はたまた、50人の門下生を恐れて沈黙を守るか、あるいは、数々の業績を褒め讃えるか、賢い道はどれだろうか。

 

灰色の調剤薬局?


「ジェネリックはやめて下さい」という患者がいる。レトロゾールを処方している患者や患者家族から、しかも複数の、しかも市の北の方の地域の人たちばかりから。ジェネリックにも松竹梅があって、梅(粗悪品)もあるようだ。しかし、「松」なら、問題なし、ということになっている。お上(厚労省)は医療費削減の施策としてジェネリック使用を推進している。浜松オンコロジーセンターは開院以来、院内調剤を原則としている。患者は便利だし、チーム医療の一員として薬剤師は診療の流れをきちんと把握し、医師、看護師からの説明との整合性も取らなくてはならないからだ。しかし、在庫薬剤品目数は厳しく制限しなくてはならないので、ジェネリック先発品も両方院内在庫、というわけには行かないので、全ての品目について、可能な限り「松」レベルのジェネリックを採用している。

ジェネリックはやめて下さい、という患者に理由を聞くと、ジェネリックは粗悪品、先発品が高品質、と信じているようだ。だれがそんなことを言っていますか? と聞いても、言葉を濁す患者が多いが、希望ということなら「フェマーラ」と書いて院外処方箋を発行してきた。そこで、おや? おーや〜? と、あることに気づいた。フェマーラに変更を希望した患者は、同じ地域の同じ調剤薬局に行っている。調剤薬局が先発品を推奨するのは悪いことではないけども、なにか、怪しい臭いがする。厚生省(当時)の薬剤師の牙城である医薬安全局(当時)が医師の独断・専横にはどめをかけるため、院内調剤から院外調剤薬局への移行を後押しし、ジェネリック導入を推進している。医療の透明化という点では院外調剤はいいことかもしれないが、診療所にも有能な薬剤師を配置すれば、前述のようにチーム医療の実践の下で、質の高い調剤が達成できる。院外調剤は患者には不便だし、情報提供も不十分だ。それにくわえて、灰色の調剤薬局がおかしな誘導をしているとしたら、院外調剤推進も考え直さなければいけない。また、子供医療費無料を悪用して、お兄ちゃんの薬を弟の名前で処方してもらいなさいと、親をそそのかす調剤薬局の親父もいるらしい、という話は以前、このブログで触れた。

「すべての民のうちから、有能な人で、神を恐れ、誠実で不義の利を憎む人を選び、それを民の上に立てて、千人の長、百人の長、五十人の長、十人の長としなさい。(出エジプト記18:21)」

「不誠実で不義の利を愛する」ことがあるとしたら、そこは改めなくてはいけないのだ。