乳癌学会 終了 終了


皆さんのご協力で第21回日本乳癌学会学術総会の全日程を終了することができました。厚く、熱く御礼申し上げます!!

中学や高校のころ、期末試験の前には、試験が終わったらやりたいこと、あれもこれも、あれやこれや、紙に書いて壁に貼っていましたが、結局のところ、試験が終わって暇になっても、なにもやらずに、いつの間にか、次の試験が迫っていた、ということがよくありましたね。しかーし、乳癌学会が終わっても暇になるわけではなく、未処理の仕事が山積み、で、日程も「めじろおし」。明日からの平穏な日々と、着実な業務復帰に向けて、よーそろ、よそろ。

レビューワーの実力 乳癌学会1日


今回、乳癌学会で積極的に取り組んだ「ポスター討議」。レビューワーが果たすべき仕事はかなり多いです。約10の演題をレビューする、壇上に上がってもらった演題発表者に自分の発表についてコメントしてもらう、会場、壇上からの質問を受け、質疑応答を促す、時間は30分できちっと切り上げる、ということですが、初日に担当してださったレビュワーの皆さん、どこの会場もすばらしい働きをしてくれました。とてもうれしく思います。さすがだな、と思います。始めての試みでしたし、定型とかひな形と言うのもない状況でしたが、みごとにこなして頂き、厚く、熱く御礼申し上げます。一部の会場では、聴衆の出入りに時間を要して、皆さんのご迷惑をおかけしまして、どうもすみませんでした。今日もポスター討議がありますが、演題発表者、レビューワーの皆さん、宜しくおねがしますますね。ミッション、パッション、ハイテンション! でね。

乳癌学会カウントダウン10-9-8・・


乳癌学会前最後の週末です。学会の準備はほぼ完了しているとは言うものの、完璧ってことはないと思います。学会では、初日、朝一番の術後薬物療法の治療プレナリーセッションで自分の発表があり、そのスライドは目鼻がつきました。司会をしてくれる中村清吾先生によれば、開会式直後の第1試合で、清吾先生は、その始球式を務めてくれるわけです。同じ時間に、第二会場、検診・診断プレナリーセッション「乳癌検診の意義を問う」では、EBMの立場から名郷直樹先生が、乳癌検診無意味論を展開し、山本精一郎先生が疫学の立場から、無意味という意見を、ハーム vs. ベネフィットの観点から冷静に分析します。田口哲也先生は、乳癌診療の現場からのバランスのとれた意見を主張してくれます。司会の大内憲明先生、遠藤登喜子先生がどのようにまとめるのでしょうか? ありきたりのまとめでは聴衆は黙っていないと思います。同時並行のセッションなので、検診の意義を問う、に参加できないのはきわめて残念!!

昼からの会長講演の構想は、今日明日でまとめようと思います。「他人の評価より自分の信念!!」とか、「宮仕えのばからしさ」とか、「和を以て貴いのか?」など、いろいろと頭の中には渦巻いていますので、無難な線でまとめようかと思っております。

ポスターレビューワーをお願いした皆さんは、最後の週末で、30分のレビュートークをまとめてくださっていると思います。一昨日、Web Conferenceで看護の演題のレビューをしてくださる阿部さん、早川さん、荒堀さん、大木さんとは、こんな感じでどう? と相談しました。その前に、相原先生の原案を見せてもらいました。相原先生は、アバスチンに関する10の演題のレビューですが、アバスチン無用論を展開する彼がどのようにレビューするか、ますます楽しみになってきました。基本は、よいところを見つけて褒める、こうすればもっとよくなる、みんなで多施設試験をやったら? みたいな建設的なレビューもWelcome Welcome ! 看護師の皆さんとの相談では、荒堀さんは、同じようなのを4演題づつ、3グループに分けて論じてみよう、とか、早川さんは、リンパ浮腫のセッションを、あえて、門外漢の観点から、鋭く突っ込もう、それから形成外科の演題がまぎれこんでいるが、どうしてこのような手術が普及しないのか、激しくつっこんでみたい、と言っています。いいね、いいね!! 形成外科の演題、決して紛れ込んでいるのではありません。リンパ浮腫お宅の皆さんに、そのような手術の本質的意義をいっしょに考えてもらいたいのでそのように組み合わせたわけです。大木さんは、就労支援の問題、患者団体・アドボカシーグループの実態や、そのあり方を分類してみる、というようなアイデアでまとめよう、ということです。患者団体にはI型アレルギーの私からみても、是非、そのように、まとめて頂きたい、と思います。ポスターレビューの会場には、一段高くなったところに、各ポスター発表者も聴衆の方を向いて着座しマイクも用意してあるので、レビューアー、ポスター発表者、そして聴衆の間での活発な討論も期待したいところです。
それと、先日医師会の講演会に参加したのですが、質疑応答の時間がかったるかったのです。司会者が、ながなが、ながなが、と、発表の内容をまとめました。これは無駄です。そんなことはいちいちせんでよろしい。そして、会場のみなさん、ご質門をどうぞ、と言っても数十秒の沈黙、やがて、会場から手があがり、司会者が「どうぞー」というと、おもむろに席をたち、マイクの前に行き、マイクをトントン、とんとん、とたたき、あー、あー、と言って、それから、ゴホンとマイクに向かって咳払い。やっと質問が始まる、という流れ。乳癌学会では、これはやめてもらいたい。司会者は発表内容をまとめる必要はありません、質問者は、発表が終わる頃合いを見計らってマイクの前にたち、司会者に「質問した~いぃ」サインを送り続けてください。時間がなくって切り上げられてしまう場合もありますからその場合にはご容赦を。マイクをとんとんすることや、マイクに向かっての咳払いもしないほうがエレガントね。あー、あーをやるなら、本日は晴天なり、も加えること。しかし、天気はどうも雨らしいです。そうなるとタクシーに乗る人が増えるので、タクシーの乗り場、降り場について、確認しておかなくてはいけません。あれっ? 準備できてなかったじゃん、そうそう、涙そうそう。

乳がんの遺伝


アメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーが、乳がんになりやすい遺伝子の検査の結果、陽性だったので、乳がん発症前に両側乳房を切除したことが報道されてから、「娘がいるのですが遺伝子検査は必要ですか。」という質問を患者から多く受けます。また、不要な乳房切除を希望する患者がいるという話も耳にします。遺伝子とは細胞の設計図のようなもの、その設計図に記載ミスがあれば、細胞の正常の働きが損なわれ、がんになる場合もあります。アンジェリーナ・ジョリーはBRCA1、2(ビーアールシーエーワンとツー)という遺伝子に変異、つまり記載ミスがある、親から子に乳がん、卵巣がんが遺伝する病気(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)だったようです。大きく報道されたので、不安になった患者も多く、診療の現場では混乱が生じました。この遺伝子異常が原因で乳がんになる人は乳がん患者全体の5-6%、つまり、乳がん患者の20人に1人程度です。20人のうち19人の乳がんは遺伝する形ではありませんから、遺伝子検査をする必要はないのです。日本では遺伝というと、あの家はがん家系だ、というような間違った考えもあり、何となくタブー視するような風潮があります。そして、今まで、BRCA1、2遺伝子検査についても、熱心に研究してきた医師や遺伝カウンセラーの人たちもいるのですが、未だに、保険が使える検査として、どこの病院でも実施できるという体制にはなっていません。欧米では、どのような乳がん、卵巣がん患者が、この遺伝子検査をうける必要があるのかというガイドラインができています。また、子孫まで伝わる可能性のある病気ですから、検査前だけでなく、検査を受けたあとも、治療の選択などについて患者をしっかりと支援するカウンセラーが多くの病院、診療所に配置されています。日本は立ち後れています。いまこそ、厚生労働省に強く働きかけ、遺伝性がんの診断、治療、そして支援体制を早急に整備しなくてはいけません。

今日の朝日新聞 国際学会のご紹介


毎年6月初めにシカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO、アスコと読みます)に今年も参加してきました。参加者は2万人を超え、その30%は米国以外からの参加者、医師、薬剤師、医学研究者、製薬企業、厚労省などの行政官も参加します。私は、25年前からほぼ毎年参加し、2-3年に一度は研究成果を発表しています。最近は、日本からの発表も増えており、今回は、日本で作られた薬剤、エスワンの膵臓がんに対する効果が注目されました。3日半の会期中は、乳がん、肺がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん、皮膚がん・・・と、様々ながんについての治療、診断に関する最新情報が報告されるため、すべてに参加することはできません。しかし毎朝8時から約1時間半、前日のハイライトとして、各がんについて15分づつ、重要な話題をその道の専門家が解説してくれるので、それは必ず聞くようにしています。どのがんにも共通している最近の傾向は、一人一人の患者のがんを最新の遺伝子検査でがんが増える原因となっている遺伝子をつきとめ、それに対応する治療薬が作られ、臨床試験で調べられた効果が発表されていることです。このような治療は個別化治療とか、オーダーメード治療と呼ばれ、薬剤の数はどんどん増えています。たとえば、乳がん患者の2割でHER2遺伝子が活発に働いていること増殖の原因であることが1987年に解明され、1998年にはその働きを抑える薬剤ハーセプチンの劇的な効果がASCOで発表されました。そして2005年ラパチニブ、2010年パージェタ、2011年カドサイラといった具合に次から次へと新薬の治療成績が発表されています。最近はが世界同時に臨床試験が行われるので、海外で使える薬が日本では使えないという状況は次第に解消されています。国際学会に参加してみると、患者に1日でも早くよい薬を届けるために、世界中の医師、製薬企業、行政が一緒になり努力しているということがよくわかります。

電子版抄録集を読むために


「ピーディーエフして送ってね」とか、「ピーディーエフ形式でダウンロードできます」とか、パソコンを使っていると、日常会話の中にこの言葉が出てきます。それだけ便利なこのPDF、Wikipediaには、『Portable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット、略称PDF)は、アドビシステムズが開発および提唱する、電子上の文書に関するファイルフォーマットである。1993年に発売されたAdobe Acrobatで採用された。特定の環境に左右されずに全ての環境でほぼ同様の状態で文章や画像等を閲覧できる特性を持っており、2008年7月には国際標準化機構によってISO 32000-1として標準化された。なお、「PDF」自身に「フォーマット」という単語が含まれているので、「PDFフォーマット」と呼ぶのは冗長である。』とあります。

乳癌学会の抄録もホームページからPDFでダウンロードすることができます。PDFをダウンロードした場合、ウィンドウズマシン、アンドロイドスマートフォンならば、アドビ社から無料でダウンロードできる「アクロバットリーダー」を入れれば読むことができます。アップル社のMAC BOOKには、アップル社製の「プレビュー」というソフトが入っているので読むことができます。しかし、読むことはできるだけ、つまり、閲覧だけで、検索したり、索引(しおり)をつけたりすることはできません。検索とは、たとえば、渡辺亨が、抄録集のどこに登場しているかを探すこと、索引(しおり)とはbookmarkとも呼びますが、閲覧したいページに瞬時に移動するための機能です。また、メモや注釈をつけることができません。

それで、抄録集PDFをもっと使いやすくするために、PDF閲覧ソフト、あるいはPDF注釈ソフトのいくつかをご紹介しましょう。

(1) iPad
「iAnnotation」、「Sidebooks」、「Documents」などがおすすめ。
(2) Android
「ezPDF Rreader pro」なんか、いいんじゃなぁ~い
(3) MAC
「PDF reader pro」はどうでしょう?
(4) Windows
ソースネクスト社製のソフトは充実しています。

というわけで、抄録集閲覧、検索、メモ書き用ソフト豆知識でした。

がん治療中のおしゃれ


抗がん剤治療の副作用に、脱毛、肌あれ、日焼け、爪の着色など、外観に大きな変化をもたらすものがあり、女性患者にとってはきわめて深刻な問題です。ところが、髪が抜けたって命には代えられないという理屈で、外観上の副作用を軽視する意見は、かつては医師の間では一般的でした。最近は、抗がん剤治療開始前にそのような副作用が現れる割合、程度、回復時期などについて、きちんと説明する医師は多くなっていると思います。しかし、問題は、我々男性医師はカツラのこと、爪の手入れ、まゆ毛の書き方、お肌の手入れなど、医療の範囲を微妙に超えるような対応策について、十分な知識や経験を持ちあわせていないことです。皮膚に明かな病変があれば、皮膚科医に相談したり、自分で治療を習得したりすることで適切な治療を提供することができます。しかし、おしゃれの範疇はどうも苦手なので、対応を患者任せにし、看護師の積極性を当てにした結果、患者に十分な満足を提供できていないこともありました。
しかし、状況は、少しづつかわってきています。抗がん剤治療で起きる外観上の副作用への対策を専門的に支援するお店ができているのです。そこでは、大手メーカーに任せず、自らカツラの作成に関与し良心的な価格で提供する、見た目もかわいく使用感も快適な部分的なカツラのついた帽子を作成、販売する、脱毛したまゆ毛の書き方を指導する、日光に過敏になる副作用をもつ抗がん剤治療をうける患者の肌の手入れ対策を指導する、など、随所に工夫が感じられます。患者の視点にたったきめ細やかなサービスを提供するため患者が集まり、定期的にお茶飲み会を開催し、心の悩みまで解放している場合もあります。そんなお店を経営しているのは、自らが治療に苦しんだ経験をもつがん患者や、がん治療病棟の看護師としての経験から問題意識を持って企業した女性です。彼女たちは、治療中のおしゃれを積極的に楽しむこつを患者に伝えているように思います。

抄録本は作らない・送らない・配らない


今年の乳癌学会では、抄録本は作らないって知ってた? の質問を10人にしたら、9人が知らないと答えました。知っていたのはホヅミン。知らなかった9人に抄録本も作らないしCDもUSBも作らない・送らない・配らない、その代わり、乳癌学会学術総会ホームページから、PDF形式の印刷可能な抄録と、ファイルメーカープロで作ってファイルメーカープロがなくても検索などが可能な「しょうろくん学会版」をダウンロードすれば、iPhone, iPhoneでもAndroidでも、もちろんパソコンでも、便利に使えることを説明したところ、7人は、OK,OK,no problemっていう反応。一人(森本卓先生)は、すぐにiPad miniを買うと言う事でした。残りのひとりは、大阪の高島勉先生は、ガラパゴス携帯しか持っていないけど、パソコンでやるから、大丈夫、大丈夫って。問題は、メールとか、Facebookとか、Twitterとか、こういうブログとか、見ない方々に、どうやってお伝えするか? です。近いうちに乳癌学会会員の方々には、QRコード付きの学会登録票を郵送するので、そこにも説明しておくことにしました。そんなわけで、学会まであと21日となりました。

チキチキマシン猛レース


がん診療の個別化をめざす動きはますます加速しています。今回のASCOでは会期前に開催された2日間のセッション「遺伝学(genetics)と遺伝子学(遺伝子学)」に参加しました。かつては、顕微鏡でみることのできる染色体異常を病気の主座と考えていた遺伝学が遺伝子の病気という認識に急速の拡大していったこと、2004年にヒトゲノムの全容が解明されるほどに遺伝子(ゲノム)の研究手段が急送に進歩しています。そして、遺伝学と遺伝子学は一つの学問体型として癒合して、がんの領域ではHuman genetics and Cancer genomics としてとらえるのがしっくりきます。メンデルとワトソン・クリックからの流れが学問として圧倒的な魅力のある領域に発展してきています。おもしろい、実におもしろい領域であり、また、大部分のがん患者の治療に関連する学問である、ということを再認識しました。個別化治療のためには、個人個人の遺伝学、ひとりひとりのがんの遺伝子学が基盤にあり、究極の個人情報である遺伝子配列にせまっていく必要があるわけです。昨日、アーマン・ブズダー先生と双璧をなすガブリエル・ホルトバジー先生が、Bolero 2試験の、後付予測因子解析の結果を発表しました。結果は、大山鳴動して鼠一匹・・・という感じでしたが、次世代シークエンサーでもって変異遺伝子を片っ端からしらべ、変異のある4つの遺伝子をとりあえず指定し、それが、どのような予後因子、予測因子としての意義を持つか、ということを、あーでもない、こーでもない、と探索した、という研究です。あくまで探索ですから、探検、冒険みたいなもので、そこに山があるから登るんじゃ、みたいな段階でしょう。これで、こっちのルートでいけそうだ、あっちを通ればオアシスに行けるかも、と言うことがわかってくると、では、そのルートがどんなもので、どれぐらい安全で、確実か、という検証的な段階に入っていくわけです。なので、今は、これをやってみました、よさそうですよ、という段階。PIK3CAの変異が半分ぐらいにあって、シグナルトランスダクションの下流には、mTORUがあるわけですから、ルートとしては間違っていないようにも感じます。お金があれば、どんどん冒険すればいいでしょう。Bolero試験のスポンサーは、日本では今、いろいろと話題になっているノバルティス社ですが、道を踏み外さず、遭難しないように進むことができるかな? 遺伝子ハンティングレースは、チキチキマシン猛レースみたいなもんですね

ビヨンドサイエンス


アーマン・ブズダー先生の久しぶりの登壇である。術前化学療法としてパクリタキセル→FECを投与するアームと、それのすべての期間にハーセプチンを加える、つまりアンソラサイクリンとも同時併用でハーセプチンを使うアームとの比較試験でpCR 65%と、驚異的な結果を報告したのが2004年のASCOであった。何かとMDアンダーソンのデータは眉唾ものという批判がある。それは私の意見ではないが、今回の発表では、それが少し裏付けられたという感じがしないでもない。それ、というのは、驚異的な結果を指すのではなく、眉の方である。ACOSOG Z1041試験は、このMDアンダーソン型の術前化学療法のFECの部分にハーセプチンを加えるか、加えないかで、pCRがどれぐらい変わるものか、を調べる試験。その結果は、ハーセプチンを加えてもpCRはかわらないというもの。また、心毒性も増強しないというものであった。それでは、ハーセプチンをアンソラサイクリンと併用で使うのか、使わないのか、会場のスティーブンボーゲル フロムニューヨークからの質問には使う必要はなかろう、との答えであった。名物おじさんふたりのやりとりはサイエンスを超越している。