ミラノがおわり次は熊本


ミラノ乳がんカンファレンスが先ほど終了しました。昨日の昼前に招待講演も無事終了したので昨日の午後と今日は演題をじっくりと聞いておりました。スタイルは、ザンクトガレンカンファレンスの最初の三日間のような感じで、「転移病巣の放射照射」とか「術後フォローアップはどうするのがよいか」とか「IV期乳がんの原発病巣手術は意味があるか」とか「サイトカインと転移」「肥満と乳がん」「糖尿病治療はがん治療、がん治療は糖尿病治療」「オンコプラスチックサージェリーの現状」いうようなテーマごとに15分ぐらい、イタリア、アメリカ、その他ヨーロッパ諸国の専門家がレビューします。レビューはもちろん、ランダマイズトトライアルなど、エビデンスレベルの高いものを中心に展開され、ASCOの発表内容になども紹介されており、また、臨床試験促進の原動力となるような話題が多いです。日本のデータというものは紹介されず、あるのに紹介されないか、というとそうではなく、とりあげられるようなデータがないのです。日本人はランダム化比較試験に向いていない国民だ、とか、日本人はボランティア意識がないから、試験は適さない、といっていたかつての大御所の悪影響がまだ残っているように感じます。大御所といえば、ご当地は、ウンベルト・ベロネジーがいます。かれはしかし、手術を引っ張り、術中照射のERIOTを引っ張りと、今回のカンファレンスでも、手術室から1時間ぐらいの手術ライブ中継がふくまれており、これも、しっかりとした背骨のある外科医が情熱を燃やして外科学の普及を図っているからだと思います。イタリアでは外科医は外科医らしく外科医の仕事をしているなと感じました。ということは、日本はどうなの、というと、外科医は乳がんの手術なんて簡単だから誰でもできるとか言いながら、乳腺科だからと検診のことばっかりやっていたり、へたくそな薬物療法をやったり、どうも、プロフェッショナリズムの線引きをし直さなくてはいけないと感じました。また、専門医の話も、一悶着ありそうな風向きですが・・・。 話をもとにもどす→ 会場は一つだけで二日間、ほぼびっしりと聴講して、討議をする。これがあるから、情報、知識、理解の共有ができるのだ、とつくづく感じました。腫瘍内科医の私でも、手術ライブ中継をみて、あそこで、つかっていた紙みたいなのは、なんなの?とか、今回、ミラノに来ていた小川朋子先生に教えてもらうことができ、これも知識の共有のひとつだと思いました。あちこちの会場に分散してしまう日本の学会の標準型がいかに不合理なもの、他国ではやっていないようなもの、であることを改めて認識し、来年の浜松乳癌学会の取り組みが、やはり、いい線いっているのだね、ということを再認識しました。また、オンコプラスチックサージェリーを浜松でも取り上げるので、小川朋子先生に、そのセッションのコーディネーションをお任せしてしましました。任せてちょうだい!!と言ってくれていますので、安心しました。また、今日の最後のセッションは、国際術中照射学会との共催でしたので、そこに来ていた澤木先生、藤澤先生、唐沢先生に、来年の浜松乳癌学会で、術中照射とか、ハイパーフラクショネーションネーションとか、強度変調照射など、新しい放射線の取り組みについて、セッションのコーディネーションをお願いしてしまいました。わっかりました。やらせてください!!というお返事でしたのでまたまた安心しました。今月は月初のASCOにはじまり今日でミラノがおわり次はくまもと~、くまもと~ です。

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ASCOのインパクト その三


ASCOの最終日の口頭発表ではNSABP-B38試験は、4894症例を対象に行われた術後抗がん剤レジメンの比較試験の結果が、来年のASCO会長である、サンドラ・スウエイン女史により発表された。

この試験は、術後の薬物療法として、①   dose dense AC→パクリタキセル、つまり、G-CSFを併用して、普通は3週間間隔で投与するAC(60/600)を2週間間隔で4サイクル、引き続き、普通は3週間間隔で投与するパクリタキセル(175mg/m2)を2週間間隔で4サイクル投与する方法1  ②   これのパクリタキセルの部分にゲムシタビンを2000mg/m2の量で上乗せする方法 ゲムシタビンの上乗せ効果については転移性乳癌で検討されて、まずまず、良い効果がでている2 ③   BCIRG001試験で、FACにくらべてPFS,OSが優れていたTAC 3

結果は、この3つの方法で、PFS, OSの全く差がなかったというもの。とくに、ゲムシタビンを追加しても、効果の増強は得られなかったということで、これは、TAGO試験、 neoTANGO試験でも観察されたことである。ゲムシタビンは、術前、術後治療では有効性が発揮されないのだろう。

1. Citron ML, J Clin Oncol 21:1431-1439, 2003

2. Albain KS, Journal of Clinical Oncology 26:3950-3957, 2008

3. Martin M,  N Engl J Med 352:2302-2313, 2005

結果はちょっとがっかり、というか、もうこういう超大規模試験でもって、雲をつかむような術後治療のレジメンを比較検討する時代はそろそろ終わりかな、という感じがする。5000症例を対象に、決定的ともいえる結果が得られた、という点は評価すべきだろうか。

ところで、今日、青森の外来が終わったら、東京に向い、夜中の787でフランクフルト経由ミラノに移動。ミラノ乳がんカンファレンスで講演して、来週戻り、乳がん学会のくまもんに向かう。台風が近づいているので気が気ではない。

NSAS 物語⑤ + Ω


様々な工夫と努力の結果、NSASBC01試験への登録症例数も安定し、1997年夏ごろには毎月20-30名の患者が参加してくれるようになりました。そんな明るい兆しが見え始めた頃、忘れもしないあのイデアフォー事件が起きたのでした。ある日、患者会イデアフォーの者と名のる方からNSASBC01試験のことを勉強したいと面会の申し込みがありました。そこで、国立がんセンター病院の医局で、1時間ぐらい話をし、試験計画書(プロトコール)も渡し、試験への協力もお願いし、患者会イデアフォーの者と名のる方2名は笑顔でお帰りになったのでした。それからしばらくして、今度は朝日新聞の記者と名乗る方から、NSASBC01試験について取材の申込みがありました。そこで、時間を設定し、その時は、確か、私一人で取材に応じたのでした。(この内容は続きがあります)。

ところで、先日、地元大学でひどい人事があったそうです。教授会の総意も無視されてワンマン学長が先代の教授への恨みをはらすごとく、自分の言うことを聞く、思い通りに動かせそうな候補を強引に裏取引で決めてしまったそうです。対立候補の先生は、学問的にも人間的にも誠実な人で、学生の評価も高く、地元の医師会にも、大変協力的でしたので、こんなやり方だと禍根が残ります。波紋が広がります。同様なことは過去に何回も何回も繰り返されているようで、実際、医師会を通じて見えてくる大学の姿は激しく劣化しています。数名の愚かな人間が権力を持つと、こんなとんでもない組織へと転落していく典型的な事例です。そのような悪行に対してはソドムとゴモラのようにやがて正しい裁定が下るでしょう。これも、利己主義 vs. 利他主義、で考えると、利己、利己、利己では、絶対にうまくは行かないはずです。この問題については続きがないようにしたいと思います。

ASCOのインパクト その二


試験の結果では、PFS,OSともに有意差が出ています。PFSのカプランマイヤー曲線では、最終症例の登録が昨年の10月で、この発表に使用されたデータの解析日が今年の1月なので、「打ち切り」を表すひげが、カーブ全体にわたって立っています。そもそも「打ち切り」とは何ぞやを知らないことには話になりませんが、がん情報局の基本講座、用語集で説明してあきますからよく勉強してみてください。それで、ひげが全域にわたっていると言っても、登録症例の50%以上が再発しているわけですから、カプランマイヤー曲線の基本の形は今後とも変わりません。この試験は、PFSイベント、すなわち増悪が認められて時点でも、クロスオーバーは認めていません。しかし、死亡割合に、ある程度以上大きい差がついた場合には、その時点で、試験中止となる、というとりきめです。今回の解析で、OSでは、ハザード比は0.621 (95% CI, 0.48, 0.81)、P=0.0005です。しかし、事前に決めた有効性の境界線は、P=0.0003 またはハザード比0.617ですから、それはこえていない、だから、まだ、試験は継続、クロスオーバーは認められていません。現時点では、死亡数は両群合わせて、
223例、登録症例の20%程度です。まだまだデータは成熟していないので、さらに追跡が必要なわけです。もし、それは、非倫理的だという主張で、この時点で、クロスオーバーを許容する、ということになったらどうでしょうか。OSの差は認められなくなり、第二のアバスチンになります。そして、TDM1不要論が出て来るでしょう。臨床試験は、微妙な状況です。もし、非倫理的というのなら、現在の患者、試験に参加した患者、将来の患者、だれからみて、非倫理的というのでしょうか? 試験に参加した患者は、私の命をどうしてくれる!と主張するかもしれません。しかし、将来の患者、不特定多数の患者、今は健康だけど、いつHER2陽性乳がんになるかわからない人たちにとっては、しっかりOSまで評価して、この薬剤の真の有益性を確認しておいてもらわなければこまる、ということが言えます。また、別の見方をすれば、利己を優先させるか、、利他を優先させるか、と考えることもできます。この世の患者の利己を優先させてデータが未熟な現時点でクロスオーバーを認めてしまうと、OSには差がなくなりTDM1が第二のアバスチンになってしまいます。世界医師会は、人間を対象とする医学研究に関わる医師に対する指針を示すための倫理原則として、1964年以降、ヘルシンキ宣言を発展させてきました。最新版(2004年改訂)の第4項には、「医学の進歩は、最終的には人間を対象とする試験に一部依存せざるをえない研究に基づく。」とあります。もし、ネズミ、モルモットなどを対象とした前臨床試験で100%薬の良し悪しが確定できれば、ヒトを対象とした臨床試験は不要で、PFSだ、OSだと、もめる必要はありません。遺伝子解析などで、個人個人の反応性が予測できるようになる、そんな時代がきっと来るでしょうが、いまはまだ、その段階には達していないのです。

ASCOのインパクト その一


確かにすばらしい結果です。Plenary sessionの最初の演題で登場したDuke大学腫瘍内科のDr. Kiberly Blackwellは自信に満ち溢れた態度のように見えました。この試験は、HER2過剰発現を有する乳癌で、術前か術後、あるいは、再発後に必ずハーセプチンとタキサン使用済み、カペシタビンは使用していなくて、再発後の一次、二次治療まで実施している症例が適格です。対照治療としてラパチニブとゼローダの併用を置き、試験治療として、トラスツズマブエミタンシンを検討します。この薬剤は、トラスツズマブ(ハーセプチン)に、パクリタキセルの20倍強いチュブリン阻害作用をもつ抗がん剤DM-1 を結合させたもの。HER2タンパクを過剰発現しているがん細胞の表面にトラスツズマブでもってがっちり結合し、そのまま、細胞の中に取り込まれてリボゾームで分解され、放出されたDM-1が細胞分裂をG2からM期で阻害する、という仕組みで効果を発揮します。どうやら、今まで主役だったトラスツズマブは、格下げになり、付き人みたいな感じで、DM-1様を、仕事場にお届けするような役回りに配置換えになる、そんなイメージです。ちなみに、この試験のニックネーム、EMILIAは、シェークスピアの戯曲「オセロ」の女性主人公、デスデモナの下女の名前だそうです。つまり、ハーセプチンは、下女としての働きをするわけです。1990年代のはじめから、ハーセプチンを手塩にかけて育ててきた私としては、20年の後、かわいい娘を奉公にだすような気持ちです、そんなあほな。話が少し横道にそれました。この試験の、主たるエンドポイントは、無増悪生存期間と、全生存期間、事前の計算では、508人でイベントが発生し、2群間のハザード比が0.75となることを90%の検出力、両側検定で5%有意水準で検出するために、980症例症例を対象予定としました。また、無病生存期間での差が認められたら、引き続き全生存期間をエンドポイントして、ある程度以上の差がでたら中止とする有効中止基準を設定しておいた上で、合計632 人が死ぬまで、そして、ハザード比が0.80となることを80%の検出力、両側検定で5%有意水準を設定し検出することとしています。最終解析は2014年を予定しているそうです。試験に実際に登録された患者は両群合わせて、991名でした。が、今回の発表は、569人が再発したので、ほぼ、当初の計画どおりに中間解析を行ったものです。

さて、Dr. Kiberly Blackwellは、試験の骨子、どれぐらいの患者が登録されたか、両群で目立った、問題となるような差はないことを述べた後、一息ついてから、スライドが変わる前に言いました。「では、これから、結果を発表します。」、そして、無病生存期間の比較を示すカプランマイヤーカーブのスライドが提示されたとたん、会場からは、ウオーという静かなどよめきが起こったのでした。(近いうちに続きを書きます)

ASCOの初日 ポスターディスカッションの予習


ポスターディスカッションの運営についてまず予習してみました。ポスターの展示は6月2日(土曜日)の午後1時15分から5時15分までの4時間です。 当日のポスターディスカッションに採択された演題は25演題、これを4名がレビューします。一人あたりの担当は平均6.25演題、一人の持ち時間は15分ですから、1演題あたりにかけるレビュー時間は2.4分です。いくつかの演題をまとめてレビュー、コメントするようにすれば、もう少し短時間でも可能ではないか、と思います。