当局って呼ばないで


CRCと臨床試験のあり方を考える会議というのがCRCセミナーの1週間前にありました。私はランチョンセミナーで、腫瘍内科医の立場で最近感じているCRCの働きぶりなども踏まえて、がん薬物療法の治験の問題点などを話してほしいという、司会の斎藤裕子さんから依頼されたので話してきたわけです。常々、私は「考えるCRCになってほしい」と思っているので、斎藤さんとのメールでの打ち合わせで、そのように伝えたら、是非、そのように、とのことでした。斎藤さんからは学会などでお目にかかる度に、いろいろと役に立つことを教えてもらっており、以前、CRC業務として、重箱の隅をつつくような細かいことばかりが求められ「過剰品質」が問題になっているという話を聞いたことがありました。つまり、治験の本質から見ると、全く意味のないような業務、記録、文書保存、承諾書、同意書、訂正印、訂正記録、委員会審査が求められ、その対応にCRCはてんてこ舞いになっているのだそうです。実際、治験を担当すると、やれ、文書受領のサインをしろ、訂正印を押せ、計画書の改訂を審議しろ、などなど、どうでもいいじゃん、というような些事(佐治ではない)を企業の開発担当者は求めてきます。また、試験計画書には、どうでもいいような検査が必須になっていたり、とにかく、くだらない決め事が多すぎる!! プッツン!!となって、何でこんなことが必要なの?と聞くと、「申し訳ありません、当局の指示でして」、とか、「これは、グローバル試験ですので日本だけ変えることができないんです」とか、とにかく、『当局の指示』っていうのと『グローバル試験』っていうのを盾にして、その場だけ、すまなさそうな顔をしている開発担当者が日本全国に大量発生しているようです。ひょっとしたら、そのようにマニュアルに書いてあるのかもしれません。これでは開発担当者としての説明責任を一切果たしていないのですが、とにかく、当局グローバル試験というのがくだらないことが依頼される際に、金科玉条のごとく使われており、これが、過剰品質、過剰対応、CRC消耗の元凶であるらしい、ということを突き止めたわけです。

先日、アバスチンの大腸がんの市販後調査の集まりが静岡であったのですが、そのときにも、なぜ、サードラインではアバスチンは使用してはいけないのか、たとえばFOLFIRIが終わってFOLFOXをちょっとやって手の痺れで中止した場合、その後のアバスチンはどうしてだめなのか、と聞いても、虫害の担当者は、当局の指示でしてとしかと答えません。思わず、出たーぁ、と叫びたいようなお決まりフレーズでした。担当者としての説明責任を全く果たしていないじゃないか、と指摘しても、へこへこしているだけで、その場限りの対応にむなしさを感じたものでした。

では、本当に当局はそういっているのでしょうか? そういうデータもあったほうがいいかもしれませんねー、とか、調べるに越したことはありませんね、とか、念のため、治療と治療の間に、患者の電話するというのもいいかも知れませんね、とか、当局担当者のその程度の発言が、当局の指示となってしまうこともあるのかもしれません。また、「担当官は、首を縦にはふらなかったようだ」ということで、「当局の了解が難しい」という話が伝達されたり、徳川幕府260年の頃と何も変わっていないみたいです。

新薬導入直後というのは、とかく過剰な期待があります。イレッサ(ゲフィチニブ)は、世界初の肺がんの分子標的薬剤ということで、夢の薬みたいな扱いで、行政も、医療界、患者も、熱病にかかったように暴走しました。冷静だったのは製薬企業だけだったかもしれません。それで、数々の特例

を設けて、市販される前に、自費で使用できるような行政の仕組みまで、つくられ、その間に、とんでもない不適切使用が横行しました。エルプラット(オキザリプラチン)も、薬の実力をはるかに超えた前評判がたち、超法規的ともいれる措置で発売が早められました。古くは、イリノテカン、イダルビシンが発売された直後に、多くの患者に使われました。中には、とても具合が悪い状況のこの薬の発売を待って、やっと間に合った、と治療されたけど、もともとの病気が悪くって不幸にして亡くなった方もいます。それが、「発売直後の副作用死亡多数」と新聞紙上でも取り上げられました。しかし、それらの薬で、病状が一気に好転した患者もいたでしょうが、そのような奏効例は報道されません。そうすると、企業も行政も事なかれ主義となります。企業は、とくに、社運をかけて開発した新薬が、悪い評判が立つのが怖い。そのため、効果よりも安全、安全よりも会社の評判を重視するのでしょう。その結果、発売直後の使用制限は異常ともいえるほど厳しくなり、治療すべき患者に使用できないという状況になってしまいます。ハーセプチンもそうでした。心毒性、インフュージョンリアクションが起きるから大変な薬剤です、専門医がいないと使えません、ICUがない病院では使ってはいけません、使用記録は逐一、すべての症例で提出しなくてはいけません、などなど、ものすごい高いハードルが設けられました。私も施設を2回異動し、その都度、虫害担当者が立ち入り調査に入りました。そして、ICUがないなど、要件を満たさないからハーセプチンの使用は許可できないといわれたことがありました。このような過剰な使用制限のおかげで、発売後、ハーセプチンは新聞沙汰になるような副作用は出なかったようですが、「ハーセプチンは、アドリアよりも危険な薬」という風評がたち、使いにくい薬剤という印象から、治療を受けるべき患者が治療されなかったという不適正使用の状況が定着してしまったのです。今だに、「ハーセプチンは、危険な薬だから、なるべく使わないで、最期までとっておく」、という間違った考えを持っている外科医は結構多いです。治療が必要な患者でも、「死んでもいいのなら使ってやるが責任はとれないぞ」と担当医に言われたという患者もいました。羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)という感じ。虫害にきくと、これも当局の指示ですので、とわれました。当局も、うまいこと利用されているのかもしれない。

では、当局っていったい誰なんでしょうか? ゾメタの外来化学療法加算の話のときには、当局の担当者の氏名年齢内線番号まで把握してやり取りしたのですが、製薬企業が間に入ると、当局くん、になってしまい、突き詰めると、担当者の顔が見えず、厚生労働省の建物が言っている、みたいな話しになってしまうのです。当局くん、さようなら。

継続の力


CSPOR CRCセミナーが昨日、終わった。関係者の皆さん、ご苦労様でした。今回で15回目、まさに継続は力なりである。CRC育成のための勉強会は、当初あちこちで開催されたが長続きしているものは少ない。CSPORでこのように継続できている理由は、その企画力であろう。ありきたりのプログラムにはならないよう内容の充実にいつも心がけている。しかし、問題も多い。

問題として一番に感じていることは、参加者からの質問がない、ということ。「学会や研究会に行ったら必ず一つは質問して来い」、これが、国立がんセンターレジデント時代、恩師、阿部薫先生から教えられた教訓だ。質問しよう、という姿勢で取り組むと、一生懸命に聞くようになる。最初から、受け身の姿勢だから質問も出ないのではないか。もちろん、講義の内容が難しすぎて、ということもあるかもしれない。そのときは、難しすぎてわかりません、と質問してもかまわない。そういえば相変わらず、居眠りしている人が多い。とくに、若いCRCは講義で居眠りする習慣が学生時代からついているようだ。今度から寝ている人はつまみ出す。質問が全くでないので、ついつい、チューターであるわれわればかりが質問することになり、そうすると、どうしても質問の内容は専門的となり、時には楽屋ねたで盛り上がることもある。せっかく時間と労力とお金を使って参加しているのだから、居眠りせず積極的に質問してもらいたい。

今回、参加者の6割は初めて参加するという人、さすがに15回すべて参加という人はいないが、それでも10回以上参加している人は20%ぐらいいる。このようなベテランリピーターは、スーパーバイザーとして、グループワークなどでの指導者としての役割を担ってもらっている。グループワークの形態も定着してきた。スーパーバイザーも、それぞれが工夫をしてうまいことやっている。CRCのひよこ組では、一日目はなかなか話が盛り上がらなかった。しかし、二日目の終盤になると、何を目指して仕事をすればいいのか、わからないときにはどのような本を読んで、どうやって勉強すればいいのか、など、CRCがこれから育っていく上で習得すべき基本的な知識や、勉強の仕方が共有されていたようで参加者(顧客)満足度点数も高い。

継続的な勉強と言っても個人のレベルでの継続とセミナーとしての継続は違う。初回参加者が60%となると、いつも初心者向けのプログラムも用意しつつ、上級者でも満足できる内容を提供する必要がある。ポイントは、グループワークを増やして、卵、ひよこ、アヒルの各レベルを並行して行えばいいのだろう。

今回、一番気になったのは、がん情報センターの話。あれはいったいなんなんだ、といいたいような内容である。そもそも、患者への情報提供は、医師患者関係の枠組みの中で対応すべき問題であろうに。とくにピンボケは「がんは怖いですか?」というアンケートをとりました、って、いうじゃない。 昔、スネークマンショーというパロディがあった。現場からの実況という感じで「私は、戦場に来ています。今、あちらにちょうど、たまにあたられたかたがいます。伺ってみましょう、『いたいですか?』『戦争、お好きですか?』」というのとおんなじだ。私たち、高額納税者の税金をもっと有効に使ってくれないと困るよ。

外部から来てくれた講師にいちゃもんをつける、というのも問題、という意見もあるが、なあなあで済ませていい、ということはどこにもありません。 

2009年乳癌学会地方会


第6回 日本乳癌学会中部地方会
2009年9月12日-13日(土・日)
浜松アクトシティ コングレスセンター
 
 
再来年の話ですが
役に立つ企画を考えますので
多数の皆様のご参加、ご支援
をよろしくお願い申し上げます
 
 
第6回日本乳癌学会中部地方会
世話人 渡辺 亨
 
第5回は来年、金沢で開催です。こちらも多数のご参加お願いいたします。
 
 
 

夏の雑感


ウインク 暑い暑いとうだっている間にあっという間に夏が過ぎ去りました。夏の間に某大学の研修医が外来見学にやってきました。将来、腫瘍内科になりたい、ということでしたので、熱をこめて指導、お昼にはうなぎまでご馳走しました。とても勉強になりました、といきいき帰っていきました。浜松に行くと外来見学もできるしぃうなぎも出るしぃ、という評判がたてば多くの研修医に腫瘍内科の真髄を教えてあげることができます。どうよ。
天才 小川道雄先生の本で、研修医のための早朝講義(へるす出版)は、実に面白い本だと思います。診察室においてあり、こま切れの時間があるときに読んでいます。ネクタイ締めて白衣のボタンは留めなさい、病院ではエレベーターは患者のもの、若者は歩きなさい、外科の歴史、麻酔の歴史、カルテ記載の意義など、今、読んでもなるほど~と関心します。ぜひ、ご一読をお勧めします。
ガマン 支店を結んだテレビ講演会というのが各社盛んに行われています。わざわざ遠くまで出かけなくても自分の町にある○○製薬の営業所や支店までいけばいろいろな講演会も聞ける、質問もできる、ということでとても重宝します。昨日の「よくわかるSt.Gallen2007(アストラゼネカ)」では20近くの質問がありました。学会での講演などでは、ちょっと聞くことができないような、奇抜な質問もありました。
質問その一 「開業医なんであまり勉強していないんですが、最近、治療を選ぶ際に役立つような、ミューテーションとか、ありませんかね?
回答「あほか、勉強しなくちゃだめだぞ」
質問その二 「うちの病院では、グレード1がやらと多いんで、僕の判断でケモやる患者をきめているんですが、通常、グレード1はどれぐらいの割合あるものでしょうか?」
回答「僕の判断ってなんですか。まず、病理診断医と話し合いの場をつくり、グレード診断のクオリティコントロールをしっかりやるほうがいいでしょう」
 
猫 夏の間、蓄えていたエネルギーを使って、二学期、またがんばろう~の合言葉、ミッション、パッション、ハイテンションってか。。。