自助・共助・公助


薬価が高いと言っても、二重、三重の手だてで助けてくれるのが日本の国民皆保険制度ではあるわけですが、震災や若者の体たらくでだんだん日本の収入が減ってきて貧乏国になってきました。高齢化社会はまさに現実のもので、過去に日本の繁栄を築いた現在の高齢者を若者が支えなくてはならない厳しい時代です。そうすると、どんどん高くなる薬価に大しては、自助、すなわち、自分で自分を助ける、天は自ら助くる者を助く、というように、日頃からお金をためておかないといけない、あるいはお金持ちしか治療はうけられない、貧乏人は麦を食え、あるいはパンがなければケーキをたべればいいじゃない、みたいな話になるわけです。それじゃまるでアメリカじゃん、その通り、だから大きな政府をめざす民主党のオバマ大統領は国民皆保険的な政策を打ったわけです。かつては豊かだったけど今は貧乏な国、日本に生きる我々は、高価な薬価のどう対処したらいいのか、という背景を念頭に、朝日新聞に書いた800字コラムでございます。今日はこれから青森に行きます。今回から車で名古屋空港にいきFDAで青森に飛ぶという新ルート開拓です。いってきまーす。

がん細胞の増殖に関わる分子だけを狙い撃ちし、正常細胞には悪影響が軽い「分子標的薬」が時代の花形です。高性能だけに薬価も高額です。乳がん、胃がん患者の約二割に使われるハーセプチンの三週間毎の点滴薬価は一回あたり約十三万円です。昨年発売のパージェタは一回あたり二十四万円、ハーセプチンとの併用で効果は高くなりますが合わせた薬価も高く三十七万円です。そして今月発売のカドサイラは、特殊な技術でハーセプチンに抗がん剤を結合させた結果、がん細胞狙い撃ち効果を高め、ハーセプチンが無効の場合でも効果を発揮するため、一回あたりの薬価も四十七万円と決まりました。まさに天井知らず、うなぎ上りの薬価です。治療長期化の場合、患者の医療費負担は莫大になります。しかし、日本は国民皆保険の国、病院の窓口で払う自己負担額は、健康保険加入の場合は三割、高齢者は一割の場合もあります。また、月毎の医療費が一定上限額を超えると、窓口でそれ以上は支払わなくてよい高額療養費制度という仕組みもあり、日本は、とても恵まれた国です。健康保険は、加入者みんなが毎月決められた額を支払い、蓄積された基金から病気になったときに医療費として支払われる「共助」で成り立っています。自分で自分の面倒見ることが「自助」。元気なうちから自分のお金で民間生命保険に加入し、病気になった時の病院窓口支払い分や、病気で働けなくなった時の生活費をまかなうことなどが自助です。病気や失業で困った時、税金を元手として医療費から生活費まで国が面倒を見てくれるの公助です。高額薬価の話になるとすぐに公費負担を主張する意見を聞きますが、世界中見渡しても医療費の公費負担率十割の国は存在しないようです。今までは豊かだった日本も、高齢化社会で医療費が膨らみ、一方で若者が定職にもつかずぶらぶらしている現状では公助は期待できず、自助、共助で乗り切って行くしかないのでしょうか?

 

 

 

 

小粒おばさん増殖中


最近、さすがにしゃんしゃん大会登場を依頼してくる企業は減ってきました。そもそもしゃんしゃん芸人に自分は向かないし、しゃんしゃん大会のくだらなさ、とりわけ、あのあきれるまでの製品持ち上げ論議にはその場にいて赤面する程です。あご足付きで全国からの参加者を集め、しかも受付で名前だけ書いて遊びに出かけるという行動をよくあることですから、と許容する姿勢は、当世「一般国民の眼からみるといかがなものか』と批判されかねないと思います。現に、ノバルティス社長交代の際のコメント「日本のノバルティスは患者よりも医師を重視している」は当を得ているものです。かわって各社で増殖しているのがコンプライアンス(法令遵守)第一主義の小粒おばさん(Compliance -directed Kotsubu Obasung :CKO)。昨日もある社がJBCSのランチョンの司会をと打診にきました。閉経前乳癌治療の歴史、Beatsonに始まり、ノーベル賞の決闘、そして、LHRHアゴニスト開発の競争など、歴史的にみても取り上げるべき重要な項目がたくさんあるので、そういうのをわかりやすく伝えるような本でもだしたらどうだろうか、などと提案してみたところ、一向に反応せず、人のことばを遮るように、「コンプライアンス重視の観点から特定の医師に利益供与することはできません」 と全く頓珍漢な反応、コンプライアンスをはき違え、コンプライアンス重視をばかみたいに錦の御旗としてふりかざし、その他、言っている事が実にみみっちく、あほらしく、事の本質が見えていない・・・、これ以上、このかわいそうなCKOの顔を見ていても、なにも実りがないだろうから、そうそうにお引き取りを願いました。ランチョンセミナーといえどもきちんと企画して、製品の正しい位置づけを厳しく評価し伝えるという演出は重要です。そのような是々非々の対応をすることでランチョンとしての高い評価が得られるものと思います(外科学会ランチョンの高得点を記念して)。小粒おばさん、コンプライアンスと自社製品の売り上げを第一に考えるなら、針をもっと細くして、絶妙なるしゃんしゃん芸人に司会、演者を依頼したらいいでしょう。

院外調剤から院内調剤へ


厚労省の医系技官と薬系技官のせめぎ合いの結果、保険薬局での院外調剤が誘導されてきました。今回の診療報酬改訂では、そのせめぎ合いのバランスオブパワーが幾分健全化、つまり医系技官の攻勢の成果がみられ、院外調剤から院内調剤へ多少流れが変わりました。数ヶ月前の新聞に、調剤薬局花盛り、という批判コラムもありました。また、6年間の高等教育を終えて、門前調剤薬局に勤務し、ロキソニン、湿布剤の調剤で一生を終わる意味が見いだせない若き薬剤師の嘆きあり、病院、診療所でのチーム医療、ことさらがん診療においては大切であることが浮かび上がってきました。そんなこんなで、先週の朝日新聞「がん内科医の独り言」ではこんな独り言、書きました。

病院、診療所で診察をうけ内服薬がでる場合、患者は会計を済ませたあと、発行された院外処方せんを持って調剤薬局に行き薬を買います。医薬分業と呼ばれるこの仕組みは、薬漬け医療からの脱却をうたい文句に厚生労働省が推進してきました。しかし支払額がかなり増えること、病院、診療所から薬局まで移動しなくてはならず、患者や家族にとっては負担となる、などの問題があり決して便利な仕組みとは言えません。内服抗がん剤の場合には、さらに問題が加わります。がん診療について調剤薬局薬剤師との連携を図るために開催した勉強会で聞きました。処方せんには、薬剤名、分量、日数しか書いてないので、患者が肺がんなのか、乳がんなのか、はたまた胃がんなのかもわかりませんし、ご病気はなんでしょう、と聞けないことも多いそうです。また、患者の白血球数や腎臓、肝臓機能の良し悪しもわかりませんし、家族が薬を取りに来た場合には患者の全身状態もわかりません。調剤薬局薬剤師は、疑義紹介といって、不明な点を病院、診療所の医師に電話などで確認することが許されていますが、見ず知らずの医師に電話をかけるのもストレスだし、通常は錠数の確認程度で、患者の状態や検査データまで事細かく尋ねることはありません。その結果、納得のいかないまま処方通りに調剤することに不安を抱く薬剤師もいます。浜松オンコロジーセンターでは開院以来、院内調剤を続けています。薬剤師が患者の病状や検査結果を把握し、時には腎機能が悪いので内服抗がん剤の量を減らしたらどうか、と医師に提言することもあります。がん治療は医師、薬剤師、看護師などによるチーム医療が不可欠、医薬分業はチーム医療分断とも言えます。来月からの診療報酬改訂では医療費高騰を押さえるため、高血圧症、糖尿病、高脂血症、認知症について院内調剤を推進する方向に転換される事になります。がん治療薬でもそのようになってもらいたいものです。