昔と同じ違和感


先週金曜日には、大阪大学の恒藤曉先生が浜松に講演に来られた。よい話半分、違和感を感じる話半分。よい話は、dignity therapyの紹介のところ。個人個人の人生において、何に最も価値をおくのか、人によって異なるのだが、それを医療者が尊重し、尊重していることを言葉、態度で表現すること、これが、死にゆく人のQOL向上に大きく寄与すると言う話。紹介してくれた2005年のJCOも読んでみた。6年前の論文、見落としていました。飽きれたはなしは、相変わらずのエビデンスなしの、薬剤さじ加減の話。15年前、阿部薫先生が、緩和の領域にはサイエンスがない、各自がかってなこと言っている、とおっしゃっていた。それが、今でもおんなじ、こんな状況では、保険はとおっていないけど、これこれが、効くような癇癪を得ています、語る演者に、一生懸命メモをとる聴衆、いまでも科学がない。聖隷の森田先生も同様のアプローチを感じるが、オンコロジーからのインプットが必要な領域である。また、緩和医療学会第三代理事長として、恒藤先生の手腕に期待するところ、いまのところは多少あり。

がんと食事


朝日新聞にこんな記事をのせました。暇つぶしにお読みください。
がんの患者さんは、食事、運動、体重、補助食品などに関して、様々な疑問を持ちます。しかし、主治医に聞いてもあまりしゃきっとした答えが返ってこない、書籍を読んでもインターネットで調べてみても情報があふれ、どれを信じていいのかわからない、そのうち、心配した親戚の人や友人が、この食品がいい、これを飲むといい、など、いろいろな事を言ってきて、益々混乱してしまいます。
状況はアメリカでも同様のようです。アメリカ対がん協会では、2-3年に一度、がん患者の食事に関するガイダンスを公表しています。患者の状況別に①抗がん剤、手術、放射線などの治療時期、②治療からの回復期、③がんの再発を予防する維持期、そして④再発がんと共存する時期にわけ、お勧めの栄養、食事について記載してあります。また、がんの種類によって必要な栄養や食事が詳しく解説されています。アメリカ人の食事内容や体格などの違いをきちんと認識しておけば、日本人にも充分に通用する記載が多いので、いくつかご紹介したいと思います。
まず、このガイダンスを読んでも、また、我々の検討でも「食事療法でがんを治す」なんてことはあり得ないということを、読者の皆さんには知っておいてもらいたいと思います。
かつては、「がん患者は、がんに栄養が行かないように飢餓にちかい状態が好ましい」という理屈で、断食療法というのが行われたことがありました。しかし、それによって栄養不良におちいり、餓死したという患者の話もありました。現在では、断食療法は、明らかに誤っているということがわかっています。しかし、先日もインターネットで調べて、玄米、みそ、茹でた野菜、小魚(じゃこ)、アーモンドと大豆数粒、1日2リットルの水だけという食事を摂り、日増しに痩せていく患者さんの家族から心配して相談を受けました。がんの患者さんでは、カロリーを充分にとることは基本中の基本であり間違った食事で命を縮めてほしくないと思います。

Iniparibの悲劇


ある勉強会で、「ASCOのトピックスを話しますけど、どの話題がいいですか?」と尋ねたところ、「PARP阻害剤の話は、あちこで聞いたので他の話をしてください。negative dataだし、おもしろくないから。」と言われた。Iniparibの試験は確かに、negative dataということになっているけど、なぜ、そうなったのか、本当にnegative dataなんだろうか、なにか、カラクリがあるのではないだろうか、だって、2009年のASCOで、今回と同じ、ジョイス・オショーネッシーが発表した、第II相試験の結果は、あれほど、インパクトがあり、それゆえに、NEJMにも今年の初めに掲載されたし、今回、発表された第III 試験があっという間に症例集積が進んだわけ、そのあたりのカラクリを「もういい。」と言った人たちがどのように理解しているか、を聞いてみたかったので、簡単に話しましょう、と言って話した。私の理解では、まず、①試験計画、試験実施、結果解析において、統計的考慮があまりに厳密すぎ、臨床的なあいまいさを排除しすぎた点、②第II相試験のインパクトがあまりに大きく、Iniparibはいい薬に違いない、ということから、倫理的配慮ということで、対照群でPDになった場合、クロスオーバーを許容せざるを得なかったたこと、そして実際、96%の症例がクロスオーバーしており、そのため、OSでの差が希釈されてしまった点、③統計学的考慮が厳密であった割には、抜けていたところがあり、我々が1998年のJCOで発表した再発乳がんの予後因子として重要であるDisease Free Interval(手術から再発までの期間)を層別化因子にしていなかったため、これが両群間で大きく偏った(化学療法単独群に有利に働いた)ことからOSの差がはっきりと表れなかった点、などがあげられる。また、PFSとOSを共に主たる評価項目としαエラーを、OSに0.04、PFSに0.01と振り分けたため、ふつうなら、PFSで有意差ありと判定されるような結果(P=0.02)が、有意差なしという判定になったことも、統計学的厳密さによる、何となくわかりにくい結果である。Iniparib Negative Dataをいろいろと考えていくと、そもそも、第II相試験はいったいなんだったんだろうか、というところに話が行きつく。一言で言えば、中途半端なサイズのランダマイズドフェーズII試験は、間違いのもと、第I相試験で安全が確認され、手ごろな投与量が見つかったら、一気に、第III相試験にもっていき、下手にクロスオーバーなどは許容しないこと、そうしないとOSでは絶対に差はでないだろうし、そうなるとFDAの不機嫌そうなおばちゃんは認めてくれないだろう。今回のデータで、Iniparibはどのような方法で失地回復がなされるか、見ものである、という話をしたところ、聞きあきた、と言っていた人たちが、「えー! そう言うことだったのですか! 先週聞いた話では、Iniparibは、セカンドラインで効く薬、という説明だったけど違うんでしょうか?」と言うレスポンスだった。その解釈も、臨床試験学を理解していない浅はかな解釈であることを丁寧に説明しておいた。臨床試験学を習得し、EBMを実践できていないと、なかなか、理解できない問題である。また、あまりにお作法にとらわれすぎたサノフィ・アベンティスだが、フランス的いい加減さで、どのような次の一手が打たれるか、注目していこう。

つばめ君 受難


ASCOから帰国したら妻の妙子が「悲しいお知らせがあります」と顔を曇らせた。つばめ君の巣がカラスに襲われ下に卵のかけらのようなものが落ちていた、というのだ。巣は一部が破壊されており入居者はいない。元気にヒナが巣立ったというムードとは正反対に襲撃の余韻が漂う。つばめ君入居後は、たしかに、からすの飛来を目撃していた。これが自然の摂理だからしかたない、とも思うが、からすの異常繁殖は残飯・生ゴミが原因であるので一概にそうとも言えない。BB弾ピストルでからすを狙撃しなければいけない、という意見もあり、その線で考えたい。とりあえず今年のつばめネタはこれでおわり。次回はASCOネタに戻ります。

ASCO 3日目


ASCOの3日目の月曜日には、乳癌の口演があり、今日一日を乗り越えれば日本に帰れる、と多少、ホームシック気味であるが、元気を振り絞って今日の演題をレビューしよう。最初の演題は、NCIカナダからの放射線治療に関する発表である。今回は、あちこちの領域でNCIカナダからの発表がやたらと目につく。NCC JAPANは一体どうなっているのか?
さて、この試験では、腋窩リンパ節転移1-3個陽性、または腋窩リンパ節転移陽性ハイリスク患者、約2000人を対象に、乳房温存術後(A)乳房照射単独と、(B) 乳房照射+領域リンパ節(内胸リンパ節、鎖骨上下リンパ節)照射を比較した。その結果、生存期間ではBが良好な傾向、無再発生存期間, 局所領域無再発生存期間、遠隔臓器無再発生存期間すべて、Bが有意に良好であった。しかし、肺炎、皮膚障害、リンパ浮腫、がBに高率にみられた。今後は、リンパ節転移陽性なら、陰性でもハイリスクなら、乳房のみならず、領域リンパ節へも照射が必要であるという結果で、Practice changing、つまり、日常診療のあり方を変えるほどのインパクトのある結果である。

アバスチンの術前治療に関する演題がふたつ。一つはNSABPB-40、

化学療法は、①ドセタキセル(100mg/m2)4サイクル→AC(60/600/m2)を対照群として、②対照群のドセタキセルの部分にカペシタビンを加えるアーム、③対照群のドセタキセルの部分にゲムシタビンをを加えるアームの三通り。そしていずれの群も、半分の症例はアバスチンを3週間に1回(10mg/kg)でくわえるという、「3 x 2」のファクトリアルデザインのランダム化比較試験である。病理学的完全効果(pCR)割合を比較した。pCRの定義はNSABPの「非浸潤部に癌は残っていても浸潤部に癌がなければOK」というものである。1206症例が登録された。化学療法の比較で、①対照群 61.5%、②カペシタビンを加えた群58.3%、③ゲムシタビンを加えた群60.4%と全く差なし、温存率も差がなし。ビバシズマブを加えた場合、ビバシズマブなしが28.4%のpCRに対して35.4%(p=0.027)と有意に良好でああった。これを病型別みるとホルモン受容体陽性では、ビバシズマブなしが15.2%のpCRに対して23.3%(p=0.008)、トリプルネガティブでは、ビバシズマブなしが47.3%のpCRに対して51.9%(有意差なし)であった。本来、ビバシズマブの効果が期待されたトリネガでは、全く効果がなかったと言う結果である。まとめるとカペシタビン、ゲムシタビン、ビバシズマブの追加効果は、極めて乏しいということになる。

もうひとつのネオアジュバントの演題は、ドイツからのGEPAR QUINTである。これは、EC4サイクル→ドセタキセル4サイクルに、ビバシズマブあり/なしのランダム化比較試験である。pCRの定義は「浸潤部も非浸潤部にも癌の遺残なし」と言う厳しい基準である。全体での検討では、pCR割合は、ビバシズマブなしで15%、ビバシズマブありで17.5%で全く差はなかったが、トリプルネガティブ症例でのpCR率は、ビバシズマブなしで27.8%、ビバシズマブありが36.4%(p=0.021)で有意差あり、と言う結果である。つまり、NSABPでは、ER陽性症例でビバシズマブの追加効果があり、トリネガではなかったのに、ドイツのGeparQuintoでは、トリネガで差があり、ER陽性では差がない、全体症例では、ドイツでは差がないのに、アメリカでは差があった、というまたもや悩ましい結果である。あ~、これでは、虫害山蛾の群れは益々眠れぬ日々が続くなぁ・・・(;一_一)。

つづく PARP阻害剤のはなし、と全体の感想。

ASC0 day 2


ASCOは参加者3万人を超える巨大な学会である。関連の産業まで含めれば莫大な経済効果を生むこの学会には当然、様々な思惑で人々が参加しているし、群がってきている。金の亡者、我利我利亡者などの悪霊が会場のあちこちでうろうろしている。にこにこしてたぶらかしにかかってくる。しゃんしゃん大会や洗脳大会も学会期間中に活発に行われているが、私たちは、無配慮、盲目的にではなく、しゃんしゃんされていないか、洗脳されていないか、常にある程度の警戒心をもって臨まないといけない。具体的な問題提起は、時期がきたらしたいと思う。今年度から政府の委員の任期も終了したこともあり、いろいろなしゃんしゃん大会に自由にでて自由に発言できるためさらに見聞を広めていきたいと思う。
さて、今日、2日目は、ホルモン療法の2演題、抗HER2療法の3演題についてお伝えしよう。
Paul Goss が発表したのは、Gailモデルで乳癌発症リスクがやや高いとされる閉経後女性に対するエキセメスタンの乳癌発症予防試験である。結果は、昨日の発表に前日に、すでにNew England Journal of Medicineに掲載される、という早業で、この手順の良さにも、企業のしたたかさが感じられる。2300人対2300人の女性が、かたやプラセボ、かたやエキセメスタンを5年間内服、浸潤性乳管癌が、プラセボ群で32人に、エキセメスタン群で11人に発症した。これは、ハザード比でみると0.35になる。表立った骨粗鬆症、心血管合併症などは見られないが、ホットフラッシュとか、精神的な症状とか、性機能低下、関節痛など、日常生活を悩ませるような副作用が結構みられているようだ。発表後のDiscussionに立ったイタリアのDr.Andrea De Censi、かれもタモキシフェンなどの予防研究の専門家であるが、「予防研究の目的は、病気発症による精神的なダメージを如何に減らすことができるかであり、病気による死亡を減らすことではない。」と発言した。そうなのかな? たとえば、乳癌検診は、乳癌を見付けることが目的ではなく、乳癌による死亡を減らすこと、ということで研究が行われているが、検診(二次予防)と、エキセメスタンや、タモキシフェンなどによる乳癌発症予防(一次予防)とは違うのだろうか? いずれにしてもファイザーのしたたかな企業戦略の勝利と言える。
もうひとつ、ホルモン療法に試験であるが、昨年暮れのサンアントニオで相良のやっちゃんがポスター発表した、タモキシフェン+ゾラデックス対アリミデックス対ゾラデックスの閉経前乳癌の術前ホルモン療法の比較試験で、今回はKi67の抑制に注目した発表である。やきなおしっちゃあ、やきなおし。結果は、アリミデックスの方がよい、というものだが、国立がんセンターの木下先生の発表、頑張ったがいまいちだな~、申し訳ないけど。発表終了後に、フロアから、Dr. Mathew Ellisが質問した。「アリミデックス+ゾラデックスで、血中エストロゲン値が徐々に上昇しているが、あれは統計学的に有意な推移か?」。これに対して申し訳ないけど、う~ん、ちゃんと答えられなかったな~、う~ん・・。この現象は、しばしば指摘されていることで、タキフィラキシー、つまり、治療を続けていくとだんだん反応が衰えてくる、ということで、ホルモン刺激などは、刺激を継続しても、反応が徐々に低下することはよくあること。これがために、アロマターゼ阻害剤などは、途中で休薬をいれるような試験も行われているのである。だから、もうちょっときちんと、ぱーどん、とか言わずにこたえてほしかったな、いっしょにベルリッツに行こうかね。

抗HER2療法に関しては、ベイラーのジェニーチャンのトラスズズマブ+ラパチニブの併用で、充分に高い病理学的完全効果が得られるからケモはいらないよーという発表が一つ。それから、サンアントニオでクリスマスシーズンにシカや、サンタの帽子をかぶって時々質問してる、あの突拍子もないお姉ちゃんフランキーホルメスが、まともな格好して演題にたち、ケモ(FEC→Paclitaxel)に、トラスツズマブ単独、ラパチニブ単独、両者併用により、様々なバイオマーカーがどのように動くか、というUSOncologyの発表。それからイタリアのバレンシナグアネリの、CHER-LOB trial。これも、ウィークリーパクリタキセル→FECにトラスツズマブ単独、ラパチニブ単独、両者併用して病理学的完全効果がどうか、という検討である。いずれも、術前治療での検討で、しかも、アンソラサイクリンとトラスツズマブンを同時併用して、心機能問題なし!!というものである。この三つに試験から、HER2病に対しては術前治療で、しかも、トラスズズマブ+ラパチニブの併用で、さらに、トラスツズマブとラパチニブを同時併用するのがよい、ということが言える。これらの発表は、先の昨年暮れのサンアントニオで、ルカジアーニ、ホセバセルガ、マイケルウンチが発表した3試験ほどのインパクトはないが、同じような結論といえよう。GSKは、ラパチニブの使用について、いまだにゼローダとの併用の承認しか取得していない。単独でも再発乳がんでは意味があるのに、また、術前治療ではトラスツズマブとの併用が当たり前になっているのに・・である。当局が認めてくれない、浦野さんが厳しくて、などと、他人のせいにしているが、企業としてやるべきことを、きちっとやってください、品川美津子さん!

ASCO day 1


土曜日の午後、乳癌についてのポスターディスカッションセッションで、FDAの発表があった。FDAといえば、新薬の承認を管轄する連邦行政機関である。日本で言えば、医療機器医薬品機構(PMDA)と厚生労働省医薬安全局の機能を合わせて、それらを100倍ぐらい、しっかりさせたものである。日本のPMDAでの新薬承認のロジックは100%、FDAのサルまねであることからみても、FDAからの発表となると、我々ジャパニーズオンコロジストもちょっと気になる。
何の発表だったかというと、転移性乳癌治療薬としてFDAに申請された12の薬剤についてPFSとOSとの間には相関はなかった、と言うものである。考察はなく、単なるデータの提示で、質問者から、「こんな裸のデータ(naked data)を発表する意味は何なんだ」と挑戦的な質問をしたところ、逆に、「あなたはどう解釈するの? 判断はあなたに委ねるわ。」みたいなことをいって如何にも、自分の意見を言わないという、いかにも役人的な態度である。それでも、発表するだけ、また、ポスターの前に立っているだけPMDAとは違い、偉いものだ。このPFSとOSの問題はMarc Buyseらのグループが既に乳癌は大腸がんと違ってPFSが延びてもそれがOSには反映されないことを発表している{Burzykowski, 2008 #2332}。今回のFDAの発表では、二点、興味をひいた。一つは、12の試験のなかで、Triple Negativeを対象としたものが、唯一、弱いながらもPFSとOSとの間に相関があったこと、発表者の態度がいかにも不愉快そうで、人の質問を最後まで聞かないで、自分の言いたいことだけを言う、と言う二点だ。「TNBCで相関がある理由は何ですか?」と質問したところ、相関と言っても弱いものだ、とかわした。「弱いながらも他のサブタイプとは違うのは、何か理由があるのか、仮設でもいいから、何が考えられるか?」と食い下がると、さらに不機嫌となりブスがますますブスになる。Let me tell you my hypothesis といって、TNBCは、他のサブタイプと違って、有効な薬剤が少ないので、臨床試験前後の治療の影響が入りにくい、というのはどうだ?と言ったら、Possibly ふん、という感じでポスターの前を立ち去ったのである。FDAの姿勢、考え方をこのような形で発表するのはいいことだが、考察とかをもっときちんとしなければ学問とは言えないと思った。

キャンサーコンビニと薬剤師の役割


21世紀を迎えすでに10年が経過した。がん治療の主役は「外科手術」から細胞毒性抗がん剤、分子標的薬剤などによる「薬物療法」へと交代しつつある。また、がん医療も「入院医療」から「外来・在宅医療」へと急速に移行している。また、二人に一人ががんに罹患し、三人に一人の死因ががんであるという現実を冷静に考えてみると、薬剤師はこの時代の地殻変動を肌で感じ、いつまでも20世紀型の医療に拘泥していてはならない。

① 外来化学療法がデフォルトスタンダード
外来化学療法加算は2002年に新設され、2004年には診療所での加算も可能となった。日常生活、社会生活を犠牲にしないで安全に実施できるため、初回治療からの外来実施が標準である。使用薬剤も細胞毒性抗がん剤に加え分子標的薬剤が広く用いられるようになってきた。そのため、薬剤師による情報提供も、初期治療と転移・再発後治療を本質的に区別し、治療目標を正しく認識しなければならない。

② 病院医療から診療所医療への移行
外来治療の普及に並行し入院医療の必要性は低下し、四桁の病床数を誇ってきたメガホスピタルもその存在意義に疑問が投げかけられている。周術期医療や救急医療を除いては入院の必然性がほとんどないがん医療において、今後のがん医療は診療所へと、その実践の場が移行していくことは確実である。患者の生活圏の中に位置する「キャンサーコンビニ」あるいは「街角がん診療」というコンセプトで表現されるような高機能がん診療所の普及が求められている。

② 診療所薬剤師の必要性
薬剤師の診療活動の場として、かつては病院または診療所があった。しかし、調剤薬局制度の強引な導入・普及や、診療所をかかりつけ医機能に特化させた結果、診療所は弱体化した。その結果、診療所から薬剤師の姿が消えて久しく、いまや、薬剤師の診療活躍の場は、超多忙な病院薬剤師か、夫婦そろって子供の運動会に参加できる調剤薬局薬剤師か、二極化したいずれかの選択しかできない状況となっているのではないだろうか。しかし、高機能がん診療所の普及とともに、調剤能力、管理能力、情報提供能力、情勢分析能力、協調調和能力、語学力などを備えた診療所薬剤師の育成が求められるようになるだろう。

③ がんを取り巻く医療と介護の融合
「抗がん剤治療中の患者にモルヒネを点滴することは是か非か」、かつてこんな馬鹿げた議論があった。がん治療と症状緩和は不可分の関係にある。高機能がん診療所で抗がん剤治療をうけた再発がん患者は、やがて、症状緩和医療が主体となり、さらには終末期医療へと以降していく。がん医療からがん介護へは、当然のことながら連続的に移行するものであって、ここまでが医療、ここからが介護という不連続ギアチェンジはないことが望ましい。抗がん剤などを用いた抗腫瘍治療、オピオイドなどを用いた緩和治療、そして医療、介護、薬剤、医療機材、療養機材を効率的に支援する在宅療養まで、がん患者の人生を連続的に、切れ目なく支援し、誰でも最後まで安心して生活できるがん医療体制を整えることが、私たち医療者の果たすべき役回りなのだ。